勇者の俺は魔王に取り憑かれているが決して闇堕ちしてはいない   作:SK43

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王道物語を書きたい(書けるとは言ってない)
目を通してくれてありがとうございます。

初投稿となります。どうか可愛がってやってください(-_-)


序章「勇者(笑)アルス」

 ――ある夜に、夢を見た。

 

 それは不思議な夢だ。

 俺の視界は一面星空に包まれ、目がチカチカする程眩い光を放っている。

 

 それは美しい景色だ。

 生涯初めて見る、正に星の海と呼ぶに相応しい光景には誰であろうとも息を飲むこと必至だろう。

 

 そして、その景色に見惚れることしばし。天から聞き覚えのない声が聴こえてきた。

 

『――――……』

 

 ……聴き取れない。

 ノイズだとか何かしら別の音に遮られたわけではなく、単純に声量が小さすぎて聴き取れなかった。

 ただ、誰かの声ではあるという確信。

 

 ――誰だ?

 

 俺がそう尋ねる。

 

『――ほしい……』

 

 俺の問いかけに応じるように、声は少しだけ大きな声量を振り絞って答える。

 どうやら何かを求めているらしい。

 俺はもう一度声が聴こえてこないかと、耳をすませる。

 

『――名……せて、ほしい』

 

 先程よりもはっきりと。しかし未だに全ては聴こえない。

 俺は流石に焦ったくなって、もう一度誰だ、と空に向かって尋ねた。

 

『――名を、聞かせて……ほしい』

 

 質問を質問で返すとはこれいかに。

 誰だと聞いたら名を尋ねられた。

 どうやら声は俺の声に反応していたわけではないらしい。

 

『名を……聞かせて、ほしい』

 

 そして、再び同じ事を言う。

 明確な意思の疎通は出来ないという事が分かった。

 俺は大人しく名乗ることにする。

 

「……アルス。アルス=フォートカス」

 

 しかし名乗ったからと言ってなんなのか。そもそもからしてこの声の主は誰なのか。

 疑問だらけではあるが、俺は黙って空からの返答を待つ。

 

『――感謝する……』

 

 ……うん、お礼を言うのは大事なことだ。

 だからお前は誰なんだと聞いているんだが俺の質問に対する返答は……。

 

『我は……』

 

 空の声が何かを答えようとした時。

 

 俺の夢は、そこで途切れてしまった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「……んぁっ?」

 

 鼻提灯を弾けさせ、閉じていた瞼が開かれた。

 ぼやけていた意識と視界は徐々に鮮明になっていき、周囲の喧騒が耳に届いてくる。

 ……どうやらいつの間にか俺は寝ていたようだ。

 何か夢を見た気がするが、はっきりとは覚えていない。寝ぼけている頭を働かせて、ひとまず自分の今いる場所を再確認する。

 

 現在地はかなり広い大衆酒場のような建物。壁や床に歴史を感じるが、決して汚れているわけではなく、清掃が行き届いていてむしろ清潔感が感じられる。

 俺はちょうど中心辺りの椅子に腰掛けてうたた寝をしてしまっていたらしい。

 

 ギルドと呼ばれるこの施設では、貴族や王族に雇われている傭兵に、洞窟や迷宮を探索する冒険者といった人々が集まる。

 今も夜更けであることも御構い無しにギルドの中は武装した男女の集団が談笑したり、見目麗しい女性ウエイトレスが料理を運び、忙しなく働いている様子が見られ、非常に賑わっている。

 

 俺の目の前には冷めてしまっている紅茶が一杯。まだカップになみなみと残っていることからすると、どうやら殆ど飲む前に眠りに落ちてしまったようだ。

 

 そんな急に眠気に襲われた覚えもなく、はて、と首を傾げつつ俺は冷めた紅茶に口をつけた。

 超高級の茶葉というわけではないが、流石に巧く淹れられている。冷めても尚透き通るような香りと味は変わらない。

 

「……はぁ」

 

 半分ほど一気に喉に流し込んだところで俺は一息つく。

 正確には俺のすぐ横に立てかけられている剣を見て、疲労を滲ませたため息をついた。

 

 ――王都ソルディース。

 それが俺が今居る街の名にして、ソルデ王国の首都として位置付けられている。

 ソルデは近隣国との貿易、商業などで栄え、その首都であるソルディースは最も人口が多く、物の行き交う街だ。

 片田舎に住んでいた俺でさえもその名くらいは聞いたことがあるくらいには有名な巨大都市である。

 ここは国民にある程度の富を約束できる程度には裕福かつ善政をしいているが、全くの平和、というわけではない。

 

 数年ほど前……この国に、というかこの世界に魔王と名乗る者が現れた。何だよ厨二病かとか頭のネジが飛んだ奴かとか思うが、決してそんな鼻で笑って一蹴できる物じゃない。この魔王は実際に人だって羽虫のように殺すし、今まで潰されてきた街や国は一つや二つではないのだ。

 数千年前に女神との戦争で敗れた邪神だとか、魔族を統べる存在だとかいう話だが、それは今は置いておくとして。

 この国は一見平和に見えて正に現在進行形でその魔王とかいう奴に狙われている場所なのだ。

 魔王の目的はなんだか知らないが、ちょくちょくこの王都には魔物が侵攻してくる時がある。

 

 魔物と言うのは口から火を吹く竜や、動く骨などの異形の怪物。人間と共存する温厚な亜人族とは全く違って危険な魔物達を退けるために、この国にはこうして傭兵や冒険者なんかがよく集まるのである。

 ギルドはそんな環境から生まれ、傭兵やら冒険者をまとめて管理、支援する施設だ。

 

「カップ、お下げしますね」

 

「あ。ありがとうございます」

 

 ちょうど紅茶を飲み終わったところでウエイトレスが慣れた手つきで空になったカップをトレイに乗せて下げてくれる。

 ……毎度思うがあの制服。少し斜め下から覗けば下着が見えそうになるミニスカもさる事ながら肩やへそ付近など少し露出が多いのではなかろうか。彼女たちの振る舞いや肅然とした雰囲気でそれが清楚な物へと浄化されているから不思議だ。

 

 ……話を戻すと、剣を持つ俺は傭兵や冒険者なのか。そう尋ねられれば答えはNOである。

 俺の職種は言うなれば、勇者。

 ……いや、勇者とは言っても半ば強制的に任命されて勢いに流されて辺境の村からこんな王都とかいう大都会まで流れてきたただの貧弱一般人なわけだが。勇ましい者とはなんだったのかと言わんばかりの自他共に認めるヘタレ少年だ。

 

 女神に選ばれた勇者の資格を持つ者の元には専用神器(アーティファクト)と呼ばれる武器が降臨するという。

 人違いなのかなんなのか、俺の元にその専用神器(アーティファクト)が来てしまったのだ。

 勇者はその武器と、内に眠ると言われる魔力を使って魔王を打ち倒す使命を授かるのだ……が。

 俺には武器こそあるものの生まれてから18年の間で剣なんて振ったことないし、そもそも内に眠る力ってなんだよ。そんな都合よく使えるようにならないっての。

 

 勇者などという肩書きの所為で村の人々にはやけに祭り上げられるし、親は泣いて喜ぶしでもう俺の人生は散々だ。

 魔物と戦ったことなんて無いし、だいたい一国の騎士団を一晩で捻り潰せる魔王になんて勝てる気がしない。

 だから俺は村にとんぼ返りする事もできず、日がな一日中こうやって王都のギルドで一人寂しく項垂れているのだ。泣きたいのはこっちだっての。主に悲しみの涙だが。

 

「……お前が俺のとこに来なきゃ良かったんだよ、馬鹿」

 

 なんて吐き捨てようとも剣は喋らない。

 俺はやるせない気持ちでいっぱいになってまた机に項垂れた。はらり、と俺の茶色い髪の毛が一本机に落ちる。

 自らに課せられた使命の重さとどうにもならない絶望感で現実逃避が止まらない。

 

『……なんだ、随分と腑抜けた奴だ』

 

「ちげぇよ、俺が腑抜けなんじゃないよ……この世の中がおかしいんだって……」

 

 不意に聞こえてきた声に俺は反射でそう答える。もう罵倒に反論する元気もない。

 

 

 ……はた、と俺の思考が一瞬停止する。

 

 

『……どうした。なにをそんなに驚いている』

 

 再度聞こえてきた言葉に俺は身体を起こして慌てて辺りを見渡す。

 

 俺の周りには誰もいない。

 

 それもその筈。俺は紛う事なき生粋のぼっち。ギルドは賑わっているにも関わらず俺の周りは空席が多い。ぼっちが標準装備している能力、『俺に近づくんじゃねぇオーラ』は正常に作動しているわけだが……今の声は、ひょっとして幻聴か、他の人の会話が聞こえただけなのかもしれない。

 

「き、気のせいか。なんだ、脅かすなよ……」

 

『気のせい、とは何に対してだ?』

 

 気のせいじゃない。

 絶対気のせいじゃない。この声は間違いなく俺に話しかけている。というか、この声に痛烈なデジャヴを感じる。

 

「……な、なんだ、なんなんだ。お前は誰だ?」

 

 震える声で俺はついさっき見た夢と同じように質問する。

 

『我は……オルガニア。先程も名乗った筈だがな。アルスよ』

 

 声は今度こそ俺の質問に正確に答えた。先程も名乗った、というのは俺の記憶に無いが少なくともこいつは俺の夢に出てきたあの声だ。ひょっとして俺の精神はトチ狂ってしまったのだろうか。夢の中の出来事が現実に乗り込んでくるなんて中々終わってるとしか言いようがない。

 

「まだ夢見てんのかな」

 

 現実に戻るため、俺は自分の頬を勢いよく……は痛くて嫌だから少し抓る。

 するとピリッとした痛みが俺の頬に伝わってきた。……夢ではない。

 

『夢……? なんだ、お前はあの出来事を夢と勘違いしたか。随分と愉快な頭を持っているのだな』

 

 なんかいきなり馬鹿にしてきた。

 では聞くが普通の精神の持ち主が見えない何かが自分に語りかけてきたこの状況を夢以外の何かと捉えると思っているのだろうか。

 オルガニア……と名乗った声は俺の疑問に対して何処までも落ち着き払ったように答えた。

 

『見えない何か、か。言い得て妙だが我はお前の中にいる存在。お前は我に名を教え、依り代となる事を許可したではないか』

 

「……は?」

 

 確かに夢の中で名を教えはしたが。

 なにを言っているのか分からずに俺は図らずも頓狂な声を出してしまう。

 

『我は異界より流れてきた魔族を統べる王。……魔王、とでも言うべきか。説明はした筈だが、よもや聴こえていなかった、などという事はあるまい』

 

 聴こえていませんでした。

 だいぶ壮大な話をされていたみたいだけど、それ全部聴いてませんでした。

 

「ちょ、ちょちょちょ。俺の中ってなんだ。お前は……ま、魔王? ってあの魔王?」

 

『左様。とは言ってもこの世界にいる魔王とは別。我は異界から来たと先程も言ったが』

 

 理解が追いつかずに俺の思考回路がショートしかかる。ただ、凄く嫌な予感がする、という確信にも似た予感が俺の胸を支配していた。

 

 

『暫くの間、世話になるぞ』

 

「…………ッはぁぁぁぁぁぁぁぁ!!??」

 

 

 

 かくして、俺は異界の魔王に取り憑かれたのだった。




勇者と魔王の共同生活、始まる。
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