勇者の俺は魔王に取り憑かれているが決して闇堕ちしてはいない   作:SK43

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第11章「その線から一歩踏み出して」

「シルクの言ってた仲間ってのは……ガストの事だったのか」

 

「仲間……仲間って程じゃねぇよ? 俺は今回付き添いで来ただけだぜ」

 

「……え?」

 

 さらりと放たれたガストの言葉に俺は首をかしげる。

 シルクの心配っぷりはそんな出会って数日の人間に対する物ではなかったし、昔馴染みの友人なのかなと勝手に勘ぐってしまっていたが……ガストが言うにはそんな事は全くないらしい。

 

「俺はちょいと前に、村から出て来たって言うからあいつに街を案内してやったぐらいだ。誘われたから一回くらい付き合ってやるとは言ったが」

 

「あ、ああ……そうなのか。浅いなぁ、関係」

 

 蓋を開けてみたらとんだ肩透かしである。俺はひょっとして人違いをしていてシルクの仲間は別にいるのではないかと本気で考え始めた時、ガストがため息をついて仕切り直した。

 

「なんにせよ心配かけてんのなら悪りぃ事したな。とっとと帰るとしようぜ、勇者サマ」

 

「……アルスだよ。その呼び方やめてくれ」

 

「いいじゃねぇか。誇っていい事なんだろ?」

 

「……諸事情がありましてね」

 

 あんまり働かなくて済むように勇者の肩書きを隠したいという事情を懇切丁寧に説明するわけにもいかないが、取り敢えず勇者サマという呼び方は非常によろしくない。やっぱり勇者名乗ったのは失敗だったようだ。

 ガストとの行動は今回限りだろうが、2度と会わない保証もない。

 

「とは言ったものの……出口が分からないんだよな」

 

 辺りを見渡してみるも、森は似たような風景が多くて分からない。

 けれどオルガニアの言った事が正しければ、確かに道は変わってしまったという事になり、それは同時に出口までの道も変わった事になる。

 

「あ? そういやそうだったな。出口探すのが早えか……それとも弄ってる術師を探して絞めた方が早えか、だな」

 

「術師を絞める、か……」

 

 俺1人では出来ない事だが、今はグランウルフを複数相手取っても勝つ事ができるガストがいる。それもあながち不可能な話ではないだろう。……と、考えるのが普通だがそれではダメだ。

 

 もし仮に。この森を操作している術師がオルガニアの世界の誰かだとしたら。

 その可能性は十分にあり得る。空間を弄る魔法はオルガニアの世界独自の物だし、現にオルガニア自身もこの世界に来ている事から向こうには異世界に渡る魔法も存在するのだ。

 

 俺の憶測が的外れという事はないと思われる。

 

 そして俺の憶測が当たった場合、オルガニアの世界の住民に喧嘩を売ったらほぼ間違いなく勝てないわけで、相手が友好的な生物でなかったら詰みである。

 

「……オルガニア。どうするべきだと思う」

 

『二択だ。戦って勝つか、運任せで逃げるか。術師の場所は我が探せるぞ』

 

「よし、運任せで逃げよう」

 

『お前という奴は……』

 

 即答。迷う余地はない、逃げよう。

 さっきも出口には運任せで辿り着いたわけだし、今回もきっと大丈夫。大丈夫だと思おう。

 

「いやだって、無理だろ。お前の世界の力がこっちに比べてチートなのはもう分かってんだよ。逆に聞くけどお前は勝てると思うの?」

 

『無論だ。見込みがないなら逃げろと言う』

 

「……え、勝てんのか?」

 

『我の世界の力は確かに、この世界と比べ強大だ。だから、前にも言った通り我の力を使ってお前が戦えば勝てる見込みは充分に……』

 

「逃げる。ぜっっったい逃げる。超逃げる」

 

『……もういい、勝手にしろ』

 

 逃げ腰丸出しの俺に呆れたのかオルガニアはそっぽを向くようにしてそう言い捨てた。

 勝手にしろと言われれば勝手にさせてもらおう。天がひっくり返ろうとも俺が戦うという事は反対である。

 

「おーい、何ブツブツ言ってんだ。取り敢えず移動しようぜ!」

 

「あ、わ、分かった!」

 

 既にだいぶ遠くに離れていたガストに呼びかけられ、俺は一度オルガニアとの会話をやめる。

 この状況で置いていかれる事はないだろうが、いつ空間が変わるのかと気が気でない。目の前にいた仲間がいきなりいなくなる、なんて事もありえないわけではないだろう。

 

「何話してたんだ?」

 

「え? あ、いや別に……」

 

「んだよ恥ずかしがんなよ。契約した精霊と話してたんだろ?」

 

「……あー、ああ、うん。やっぱちょっと恥ずかしいからな」

 

 口が動いていたのが隠せなかったようで、どう誤魔化そうかと考えていたらガストは勝手に解釈をしてくれていたようだ。

 

 それにしても精霊との会話と来たか。

 人それぞれ、捉え方が全く違う物だと不思議に思うと同時に、ガストという男に疑問を持つ。

 解釈をできる、という事はつまり価値観や常識がその方面に偏っているという事だ。

 

 ガストが背負っているのは身の丈ほどの大剣。そしてその野性的な肉体に髪型からして重戦士型で剣を振るう傭兵か何かなのかと完全に思い込んでいたが、そういえばガストは先程魔法を行使していた。

 となれば導き出される答えはひとつ。

 

「ガストはさ、魔法使いなのか?」

 

「あー? ああそうだぜ。攻撃も治療も補助もなんでもござれの万能魔法使いサマだよ」

 

「やっぱりか……というよりその見た目で魔法使いなんだな」

 

「はっ。よく言われる。つか俺も自分で自分が可笑しいっての」

 

 自嘲気味なガストの言葉には、それでも今の状況を楽しんでいるかのような雰囲気を感じられた。

 しかしそれならば、背中に背負われている大剣はなんのためにあるのだろうか。まさか殺した獣の皮や肉を剥ぐだけにあるのではあるまい。

 

 俺がその事を訊くとガストは大剣の腹を優しく撫でて、少しだけ目を細めた。

 

「……これは魔法の威力を増幅させる大剣ってところだ。適当に杖持つより遥かに強えってんで使ってる」

 

「へえ……あ、神器とかか?」

 

 何気なく質問してしまったが、俺はすぐにしまった、と慌てて口を押さえた。

 もし仮にガストの持つ大剣が神器であった場合。

 ほぼ間違いなくうちの食いしん坊魔王は喜々としてその魔力を空になるまで奪う事だろう。

 

 どうか神器ではありませんように、と心の底から祈りながらガストの返答を待つ。

 

「神器ではねぇな。魔力を与えてくれるってーよりか元々の魔力に倍率かけてるっつーか……まぁ俺もよく分かんねぇわ」

 

「……ほっ」

 

 よかった、と俺は一先ず胸をなでおろす。

 考えてみたらオルガニアは魔力を探って神器を見つける事が出来るのだから、俺の心配は杞憂だった。

 

「なんだよ、貸さねぇぞ? そもそも勇者サマにゃ専用神器(アーティファクト)ってのがあんだろ?」

 

「え? あ、あー、あはは。そうだな……」

 

 久し振りに専用神器(アーティファクト)という単語を聞いた気がするが、それを言われると辛い物がある。何故なら俺の持つ専用神器(アーティファクト)はもうないのだから。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 森を歩いて、数時間が経過した――と思われる。

 空が徐々に茜色に染まり、気温が下がってきたのが肌で感じられる。

 森が変化していなかったとしても、夜の探索は非常に危ない。

 

「本当に道が滅茶苦茶なんだな。こりゃ今夜は野宿か?」

 

「こんな森で野宿とか死ねる……それは絶対に回避したいな全力で」

 

 その危機感を背負ってはいるが、案の定俺達の森の探索は難航していた。

 襲いかかってくる敵はガストがなんとか撃退してくれるものの、肝心の探し物が見つからなければ意味がない。

 

「なぁオルガニア、どうだ?」

 

『無理だ。ただの人間が持つ小さい魔力……魔物や森全体と似たり寄ったりで区別がつかん』

 

 最初は面倒臭がって渋っていたオルガニアをなんとか宥め、消えた少年の魔力を探らせようとしたが……その結果は芳しくない物だった。

 

 オルガニアの魔力探知はそれほど正確では無いらしく、漠然とそこに小さい魔力、或いは大きい魔力があるというのが分かる程度のようで探し物の持つ魔力が周囲と明確な格差を持たなければ発見は不可能だという。

 

「参ったなぁ。向こうもじっとはしてないだろうし」

 

『戦わないのならとっとと諦めるのが賢明だと思うが』

 

「帰り道が分かったのなら俺は諦めてたよ……はぁ」

 

 シルクの仲間……というか知り合いのガストを見つけた時点で俺の目的は達成されているのだ。これ以上ここにいる理由はないが、出れない理由は知っての通り。

 それに、このまま見てしまった人を見殺しにしていいものかと俺の中の中途半端な正義感野郎が囁いている。

 

 俺は肩を落として自身の不運を再度嘆いた。

 

「お前んとこの精霊って結構お喋りなんだな」

 

「って、へ?」

 

 かなり小声で喋っていたはずだが、少し距離の離れているガストがそんな事を言ってきた。聞かれているとは思っていなかったので正直予想外の耳の良さだ。

 

「あー、はは。そうだな。やたら話しかけてくるよ」

 

「いいねぇ旅が退屈しなさそうだ。俺のなんか事務的な事しか喋りゃしねぇからな」

 

『おい。我を有象無象の精霊如きと同程度に扱うな』

 

 適当に誤魔化しているとオルガニアが口を尖らせて分かりやすく不貞腐れた。

 言いたいことは分かるが、身体の中に魔王を宿しているなんて言えるはずもなし。分かっていただきたい。

 

『ん……アルス。また森が変わったぞ』

 

「は? またかよ!?」

 

「ああ? どうしたいきなり怒鳴って」

 

 オルガニアとの会話をコソコソやる意味もなくなったので俺はいい加減溜まった疲労と鬱憤を晴らすようにして怒鳴った。

 

『タイミングも空間の動かし方も滅茶苦茶だ。どう考えても相手はこちらの位置を把握できてないどころか原初魔法を巧く扱えてない。――その証拠に、後ろを見てみろ』

 

「後ろ……? あ」

 

 言われてすぐに首を回して後ろを見ると、そこは見覚えのある光差す道だった。

 木が生い茂りアーチのような形を作っている見紛うことの無い王都の森の入り口。

 

「ああ? ありゃ帰り道か……罠か?」

 

 また崖でもあるのかと疑心暗鬼になりながら俺は近づいてみるも、道が途切れている事はないし何かが出てくる様子もない。

 

「帰れる……のか」

 

『…………』

 

 俺はそのまま森の外まで歩き、もう殆ど暗くなりつつある舗装された道を見渡す。特に偽物という事もなさそうだ。

 暫く呆然としていると、ガストが後ろからついてきた。

 

「もう日暮れだ。一旦王都に戻ろうぜ勇者サマ。夜の探索はこっちが危ねぇ」

 

「……そう、だな」

 

 ガストは消えた少年の話をしているのだろうが、俺の頭の中は別の事を考えていた。

 

 ――下手人の目的が分からない。

 何を意図してこの森を操作して、中にいる人間を殺そうとしたのだろう。

 ただのイタズラで片付けるには余りにも大掛かり過ぎる。これがただのイタズラだったのなら俺は何としても犯人を見つけてぶん殴ってから更にぶん殴りたい。

 取り敢えず生かしては返すまい。

 イタズラしてた奴が強かったら逆に俺が生かされないのだろうが、まぁぶん殴る云々は妄想の話だ。

 頭の中でボッコボコにする。現実で逃げる。これ即ちこの上ない大勝利である。

 

『アルス』

 

「……ん? どした?」

 

 森を出てからというもの黙りだったオルガニアがふと俺の名を呼んだ。

 オルガニアは少し悩んだかと思うと、すぐに次の言葉を紡ぐ。

 

『我はお前の非力さと貧弱さと愚鈍さとヘタレっぷりと世間知らずさと中途半端さはよく知っている。――その上で頼みがあるのだ』

 

「うん、お前はさ、頼みごとしたいの? 俺のメンタルぶち壊したいの?」

 

 一息でそこまで悪口が出るとは恐れ入った。人の貶し方も魔王級と言ったところだろう。

 メンタルがスライムどころかクッタクタに煮込んだうどん並の硬度しかない俺からしたら堪ったものではない。

 

『この一件。更に首を突っ込んでみてはくれないか』

 

「…………。嫌だけど」

 

 オルガニアの頼みとは、後日森の探索をもう一度行え、というのと同義だった。

 

 少しだけ。本当に少しだけ迷った。

 ちょっと前の俺ならば間違いなく即答で断っていただろうが、消えたあの少年の事が少し気掛かりではあったからだ。

 それでもやはり、俺が森に入っても足は引っ張っても役には立たない。

 

 少年を助けたいのならば俺が行くのではなく、強い人に頼むべきだろう。少しもどかしい気がするがそれが最善というものだ。

 

「俺は二度と森には入らない。このまま王都に戻ったら活動期が終わるまでは引きこもってやる……」

 

 理屈染みた理由で言い訳するのも格好悪い気がするので俺はいつもの如く絶対引きこもり宣言でオルガニアを諦めさせようとした……が。

 

『――――頼む』

 

「…………え」

 

 呆れられるか身体を焦がされるかの二択かと思ったのだが、オルガニアはまるで頭を垂れるかのように神妙な空気で俺に頼み込んできた。

 

 やはり、オルガニアの様子がおかしい。

 なんだろう。オルガニアは何を考えているんだろう。

 戦い慣れた察しのいい勇者や冒険者なら、オルガニアの意図を察する事が出来るのだろうか。

 

 ただ、俺でも分かることは――ここで頷いたら、()()に踏み込んでしまうという予感。

 引き返す事は許されなくなるであろうという確信。

 

『……アルス』

 

「わ、分かった。分かったよ。そんな声出すなっての……」

 

 初めてのオルガニアの切なる願いに、俺はいよいよ根負けし、受諾した。

 どんな目で俺を見ているのかは分からないが、そんなすがるような声で俺の事を呼ばないで欲しい。

 

『そうか。よし、では明日早速向かうとしよう。いやなに、森の何処かに大きな魔力を感じてな。もしや神器かと楽しみで仕方ないのだ』

 

「……は?」

 

 俺が首を縦にふるのと同時に、一転。オルガニアは唐突に饒舌になった。

 先程の今にも泣きが入りそうな儚げな少女の空気なんて一瞬で消し飛び、いつもの悠々とした態度が取り戻される。

 

「おい……コラ……」

 

『お前は本当に御しやすいな。付き合いの短い我でさえも手綱を握れるとは。その分ではいつか碌でもない人間に騙され……』

 

「ッざけんなコラぁ!? 無効だ無効! 今の俺のシマじゃノーカンだから!? つかふざけんなよてめぇやり口が汚過ぎんだろが!」

 

『ふはは。中々可憐な少女だったろう。声だけで表現するというのは難しいものだぞ。もっと褒めろ』

 

「褒めてねぇよ、馬鹿ァ!!」

 

 街近くだというのも忘れて俺は感情のままに怒鳴り散らす。このクソ魔王は本当にやってくれる。頼む女神よ。今この瞬間俺に世界最強の力をください。この邪悪な魔王を捻り潰したいんです。

 

「おーい。あんまデケェ声で喋ってんなよ。それ端から見たらただの独り言だぜ?」

 

「…………悪い」

 

 街が近づいてきた事もあってか、ガストから注意が入る。

 俺は苦虫を噛み潰したかのように顔を歪めて歯をくいしばる事で文句を飲み込んだ。

 

 オルガニアに笑われながらガストと共に並んで歩く道を月明かりが照らす。

 王都の電灯の明かりが徐々に大きくなってきて、平穏な場所に帰ってきたという事を告げるように街の生活音が耳に響く。

 

 けれど確かにそこにある平和はきっと明日にはまたなくなってしまうんだろうな、と俺は思わずにはいられなかった。





ここまで読んでいただきどうもありがとうございます(-_-)
魔王に振り回される勇者の様子。2人の関係はこれからどう変化していくのか。
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