勇者の俺は魔王に取り憑かれているが決して闇堕ちしてはいない   作:市場龍太郎

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第二幕が始まりました。
コンゴトモヨロシク…






第二幕「勇者と騎士とお祭りと」
第18章「ソルデ騎士団」


 逮捕状。

 

 それはこの国……ソルデの騎士団が使うことのできる権利の一つだ。

 これを発行し、突きつけた場合文字通り対象を半強制的(例外は重傷人とか妊婦とか、すぐに連行できない状態の人達だ)に逮捕して拘束、連行が可能になる。

 

 ただ、逮捕状が必ずしも犯罪者に送られる物であるというわけではなく、参考人へ事情徴収や証言を貰うために逮捕状を発行する時がある。

 

 だから、一概に逮捕状がマイナスの意味を持つわけではないのだが……。

 

(め、滅茶苦茶ヤバイ雰囲気だ……。目つき怖いし、本気の声だし。俺、一体何やらかした……?)

 

 さっきから俺を見る騎士と思わしき女の人目と雰囲気が本気だ。これは本気と書いて、マジと読む。俺が抵抗なぞしようとした日には今すぐにでも彼女は剣を抜いて俺に切りかかってきそうだ。

 

 逮捕の理由はなんなのだろうか。

 街中で危険度の高すぎる力を使った事だろうか。鎮圧した魔王軍幹部の下着を剥ぎ、あまつさえそれを逃した事だろうか。それとも今まで仕事を全くしてこなかった事だろうか。

 

 ……どうしよう。割と、心当たりしかない!

 

 俺が裁判を行う立場であったとしたならば、終身刑待ったなしだ。

 

 そんな緊張感の中、ガストがおずおずといった風に口を開いた。

 

「あー……なぁ、騎士さん? なんかの間違いじゃねぇか? こいつぁ街を救いはしたけど犯罪は……あー、まぁしたのか? スレスレの事はしたのか」

 

「語尾疑問系にならないで!? そんで意見を変えるな! いや気持ちは分かるけども!」

 

「貴方方かどのような想像をしているかは計り知れませんが、説明は団長から直々に、との事です。ともかく、アルス=フォートカス殿。逮捕条約に基づき、この場で拘束いたします」

 

 ガストの必死の弁明虚しく、結局俺は名も知らぬ騎士に連れられてソルデ騎士団へと連行される事になってしまったのだった。

 

 牢や取り調べ室までの連行途中は魔法のみを封じられる。

 連行と聞けば真っ先に思いつくのは手の封印だが、何故腕を封じないかというと、そもそも腕を封じる必要などないからだ。

 

 魔法で身体能力を強化すればどんな俊足が逃げ出しても捕まえられるし、反撃されてもねじ伏せられる。

 動体視力を強化すれば人質を取る隙さえ与えない。

 

 強化魔法というのは謂わば脳のリミッターを魔力で無理やり外す魔法であるため、一度に2種類から3種類同時にかけるのが限度なのだが、説明した通り犯罪者が逃走する事に対する抑止力となるには2種類でいい。

 

 態々費用を使って拘束具、ないしに拘束の魔法を使う必要もないというのははっきり分かるだろう。

 

「あ、あのー……俺はどうして逮捕されてるんですか?」

 

「……その説明は団長がされますので」

 

 そして先程から何度か俺が逮捕された理由を聞き出そうとしているのだが、まるで機械にでもなったかのように同じ答えしか返ってこない。

 

 しかし俺のことは刺すような目で睨みつけてくるのだから堪らない。せめて何が起こっているのかを教えてもらいたいものだ。

 

「こちらへ」

 

「……うわ」

 

 やがて到着した騎士団の本部を見て俺は息を飲む。

 何時も見る街の建築物とは比べものにならないほどに無骨で厳格な石造りの建物。

 関係者以外は立ち入り禁止、という文句は何処にでも見られるが、この場所ほどそれを体現している雰囲気を持つ建物はないだろう。

 

 ソルデ騎士団。

 

 王都ソルディースに本部を置き、ソルデの各街でその治安を守っている国家公認の武装組織だ。

 時にゲリラ的な魔物の発生で討伐隊を組んだり、傭兵のような活動を行ったりもしている。

 傭兵との違いは金銭を必要としないところだろうか。その分各地域から依頼が多く集まるので回転率は良くないようだが。

 

 ともかく彼ら彼女らは皆一様に正義感に溢れ、高い志を持って日夜平民の平和を守っている。

 ソルデには無くてはならない存在だ。

 

「少しの間、ここでお待ちを」

 

 暗くとも明るくもない内装を見つつ、俺が通されたのは冷たい牢屋ではなく、応接室のような部屋だった。

 どうやら犯罪で捕まったわけではないということが分かり、一先ずは胸をなでおろす。

 

 しかしそうなると、本当になんの用で俺をここまで引っ張ってきたのだろうか。

 よもや感謝状が渡されるわけでもあるまい。そうであれば逮捕ではなく招待という形になるし、そもそも騎士団本部ではそんな事やらない。

 

『ここは何もなくて退屈だな』

 

 10分ほどしたところでオルガニアが痺れを切らしたかのように話しかけてきた。

 一人きりで広い応接室に取り残されて心細かったが、なんとなく孤独が安らいだ気がする。

 

 普段は面倒に感じるオルガニアとの会話もこういう時はありがたいものだ。

 姿は見えずとも、そこに話し相手がいるというだけで孤独の感じ方は全く違ってくる。

 

「帰ったら、面白いことがあるからな。なんせ活動期も終わりに差し掛かってるからそろそろ……」

 

「お待たせいたしました」

 

 と、言いかけたところで応接室の扉が静かに開き、先程の女性騎士が入ってきた。

 俺は立ち上がって再び案内されるままに施設内を歩く。

 

「……団長。お連れいたしました」

 

 歩く事数分。それほど遠くないところに一際大きな扉が佇んでおり、騎士はそれを躊躇うことなく3度、ノックした。

 

「おーう、入っとくれー」

 

「!?」

 

 そのノックに答えるように、中からやたらフランクな声が聞こえてきた。

 声がしわがれていることから年配の男性ということは分かるが、正直予想外だ。

 中にいるのは本当に団長なのだろうか。

 

「……失礼いたします」

 

 女性騎士の後ろに続いて俺も中へと入る。

 部屋の奥、俺の視線の先には……やたらふんぞり返って座っている老人の姿があった。

 

「いやー、よく来たのー。君がアルス君か。あ、そこそこ。椅子、座っちゃっていいぞい」

 

「……はぁ」

 

『偉くガタイのいいジジイだな』

 

「……そだな」

 

 俺は言われた通りに一人掛けのソファに腰掛ける。

 随分と間の抜けたような話し方のせいで、ただのお調子者の老人としか見えない。

 オルガニアの言う通り身体つきは筋肉質であるため、騎士団の人間である事は感じられる。

 

「……ローガン団長。前々からもう少し威厳を大切にと言っているはずですが」

 

「んぁ? あー、ワシそういうの苦手とも前々から言っとるじゃろ? あっるぇーー? ミネルヴァちゃん忘れちゃったんかのー?? やーい、忘れんぼ――」

 

「……貴方が何時までも、その調子だから私はぁあああああ!!!!」

 

「あっ、ちょっ、ほら! お客さんの前じゃぞ! ストップ暴力! 攻撃反対!」

 

「……えぇ」

 

 頬をツンツンと突っつかれていたミネルヴァ、と呼ばれた女性騎士は赤い目をギラギラと燃え上がらせて激昂するが、ちらりと俺を見て抜きかけた剣を震える手で押さえた。その眉間にはシワが寄り続けているが、控えめに言って怖い。折角の美人が台無しである。それとは別になんだかどっと疲れたような顔をしているが……大丈夫だろうか。

 蚊帳の外の俺はただ呆然と座っているしかない。

 

「あー、ほら! 下がっていいぞいミネルヴァ! みんなの訓練でも見てこい!」

 

「くっ……。後で覚えていろ……」

 

 ミネルヴァさんは悔しげに歯噛みしてから部屋から去る。

 

 そして一息ついてから、目の前にいる団長……と呼ばれたローガンさんは呆然としたままの俺の身体をジロジロと見始めた。

 

「さてさて……ほぉん、なるほどのぉ……」

 

「……あの、俺はどうして呼ばれたんでしょう……?」

 

「細っこいのーお前。弱そうじゃし」

 

「開口一番で罵倒!?」

 

 身も蓋もないことをいきなり言い放たれるとは流石の俺も予想外。

 俺の胸の内などいざ知らず、ローガンさんは心底残念そうにため息を吐いた。

 

「もうちょいかっこいいの期待してたんじゃがなー」

 

「えぇぇぇ……」

 

「ま、ええか。見かけじゃなにも分からんからの。いやなに、ワシゃ言いたいこと言っちゃう性分でな。君も、もちっと肩の力抜いて話していいぞい。なんじゃふざけたじーさんだなぁとか」

 

「自覚あんのかよ……」

 

「そうそう、そういう感じじゃ。ぬぁっははは!」

 

 けたけたと面白そうに一頻り笑った後、ようやく本題に入るようでローガンさんはゆっくりと椅子に腰掛け直した。

 

「ま。困惑しておるじゃろう。一から説明するわい」

 

「……お願いします」

 

 俺はどうしてこの騎士団に呼ばれたのか。知りたいのはその一点だけだ。

 俺は静かに頷いて、ローガンさんの言葉を待つ。

 

「……お前さんの使う勇者の力。見た者から話を聞く限り普通の魔法じゃない……そうじゃろ?」

 

「……っ!」

 

 そこまで聞いた所で、俺は自分が逮捕された理由をすぐに理解した。

 あそこにはガストやエミィ……それに一般人までいたんだ。得体の知れない力を使っている事がバレるのはある程度覚悟していた。

 

 それでも見て見ぬ振りしてくれないかと期待はしたが、それは置いといて。

 強力な上に不気味な力を持っている奴を野放しにはできない、と言ったところだろう。

 

「……あれは俺の勇者としての力、です」

 

 騎士団側の疑いも分からないでもない……が、ここは白を切らせてもらう。

 色々と説明してオルガニア自身を面倒に巻き込むのは悪い気がするし、何より魔王を宿してる勇者ってだけで白い目で見られそうだ。

 

「ふぅむ……ならば、今見せてくれんかの?」

 

「い!?」

 

 ローガンさんの虚をつくような要求に俺は思わず声を裏返す。

 しまったと口に手を当てるも後の祭り。俺の反応にローガンさんの目が光った。

 今の反応ではいつでも使えないと言っているようなものだ。

 

「勇者の力というのは分からないものも多いがのぅ。ただ共通するのは誰もがまるで当然の事のように使い方を知っているということじゃ。……お前さんにはそれがない、と」

 

「うぐっ……」

 

 迂闊だった。こんな事ならばもう少し真面目に嘘を考えてくるべきだった。

 専用神器(アーティファクト)も無い、才能も無いとなればいよいよもって俺の勇者人生も終わりを迎えるか。ご愛読ありがとうございました……。

 

「……ヌハハハハ!! そんな硬いツラせんでいいわい! 何も変に疑っとるわけじゃない」

 

「……え?」

 

「強大な力には例外が存在する。予測不可能じゃからな。きっとお前さんは今までの常識から逸脱した人間なんだろうのぉ」

 

 ローガンのその指摘は近からず遠からず、といった所かもしれない。

 確かに逸脱した力という点では合っているが、俺のその力は所謂貰い物だ。胸を張って言えたものではない。

 俺はなんとなく反応に困り、曖昧な顔でお茶を濁す事にした。

 

「あはは……どうでしょう」

 

「ヌハハ……まぁこちらとしてはお前さんにその力を使いこなせるようになってもらいたいわけじゃ」

 

「使いこなす、ですか」

 

「そう。本題を言うと、お前さんにゃ一時、騎士団に所属してもらいたい」

 

「へぇ……騎士団に……」

 

 早く話が終わらないかな、と頭の隅で考えていた俺の脳が殴られたかのように揺れる。

 

「……今、なんて?」

 

 俺は考えるよりもまず反射的に聞き返していた。

 ローガンさんは声のトーンも変えずに同じように復唱する。

 

「騎士団に所属してもらいたい、と言ったんじゃよ」

 

「は?」

 

 ダメだ。2度聞いても何を言っているのか分からない。

 騎士団に所属しろというのはつまり……暫く騎士団と同じ生活を送れという事だろうか?

 もしそんな頓京な話を本当に持ちかけるのならば、全力でお断りである。

 

「ここでの生活を積み重ねれば、自ずと自分の力も理解できよう」

 

「…………」

 

 俺はローガンさんから目線を外さずに、その提案の真意を考える。

 俺を騎士団に招き入れる事にメリットは存在するのだろうか。

 

 しばし思考してみるものの、その答えは全く分からない。

 騎士団に入るための門はかなり狭いというし、俺みたいなぽっと出を迎えても白い目で見られる未来しかないはずなのだが。

 

『……目的は監視と調査だろう。得体の知れない強大な力など、もし存在すれば野放しにはできないはずだからな』

 

「……なるほど」

 

『力の扱い方、というのは口実。そもそも我の力を使い熟すなど土台無理な話だ。我がさせない』

 

 お前がさせないのかよ。と喉から出かかったツッコミを寸前で飲み込んで、俺は再度ローガンさんを見た。

 

 ローガンさんはにこやかにこちらを見ている。俺の答えを待っているようだ。

 相手にどんな思惑があろうと、俺の答えは決まりきっている。

 

「……折角ですけど、お断りしま――」

 

「まぁ断ってもいいんじゃが、そうなるとお前さんの後ろを付け狙ったりする奴が出るじゃろうなぁ」

 

「ぶっ!」

 

 相も変わらず軽いノリの警告に俺はギャグのように吹き出して咳き込んだ。

 このジジイ……よりにもよってなんて事を言うんだ。隠す気が全くないところも質が悪いが無理矢理監視なんてされたのでは堪ったものではない。

 

「……少し、考えさせてください」

 

 俺は眉間にしわを寄せた。

 そこまでされては答えを変更せざるを得なくなる。何かしら別の打開策を考えねば。

 

「ヌハハ……色好い返事を期待してるぞい」

 

 先程までの軽い雰囲気とは一転。途端に悪そうな笑みを浮かべるローガンさんはさながら悪魔のように感じた。

 

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