勇者の俺は魔王に取り憑かれているが決して闇堕ちしてはいない   作:SK43

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覗いていただきありがとうございます。
そういえばこうして書いている第二幕ですが、実は第三幕の予定でした。ストーリー構成ガバガバすぎィ!
まだ見ぬ第三の物語をお楽しみに(第二幕始まったばかり)

19章です。可愛がってください。






第19章「試してください」

「……っあー」

 

『で、どうするのだ』

 

「いや、入らないに決まってるだろ……でもどうすりゃいいんだ……」

 

 送るから、と言われて待っていたところ、その役はまたしてもミネルヴァという女性騎士だった。

 この人、理由は分からないが殺意でも篭っているのかと疑うほどに強く俺を睨んでくるから、少し苦手だ。

 

「……」

 

 数歩前を歩く彼女は今も無言な上に明らかに不機嫌ですというオーラが漏れている。

 かと言って何故不機嫌なのかを問うのも違うと思うし、どうしたものやら。

 

「……貴方は、勇者なのでしたね」

 

「え? あ、ああ。まぁそうです……けど」

 

 気まずさをただ耐えていると、不意にミネルヴァさんが尋ねてきた。

 

 シルクと戦った時に調子に乗って勇者を公言してしまったため、俺の名前はそこそこ知れ渡ってしまったようだ。

 静かに暮らしたい俺にとっては人生で最大のミスと言えるだろう。

 

「あまり活動をしている様子はないと。ギルドの方で聞きましたが、事実ですか」

 

 ミネルヴァさんは淡々とした口調で俺に問う。その抑揚のなさはさながら機械のようで、謎の緊張感が俺の背筋を走る。

 

「……そう、ですね。俺は他の勇者とは違って弱いですから」

 

 俺はバツが悪そうな演技をして頬をかいた。

 悲しいかな、これは決して嘘ではない。

 まともに力を使えない事もまた事実だ。

 

「弱い、か。なら、貴方はどうして勇者を名乗る」

 

「……?」

 

 何かが彼女の琴線に触れたのか、口調がガラリと変わる。

 ローガンさんとは敬語無しで話していたし、これが彼女の素なのだろうが、突然の事で困惑は隠しきれない。

 

「勇者を名乗り、勇者として活動しない者などただの置物だ。貴方の力がどのような物なのかは知らないが――」

 

 ミネルヴァさんは一度歩みを止め、はっきりと、そしてより強い力を込めて俺のことを睨みつける。そして……。

 

「私は貴方を勇者とは認めない」

 

 静かに、言い放った。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

「……そう、言われてもな」

 

 結局断る理由が思いつけないまま、2日が過ぎた。3日後に迎えにくると言っていたから、明日にはまたミネルヴァさんが逮捕状と鋭い目つきを携えてやってくる。

 

 俺はなんとなくミネルヴァさんの絶対零度の目つきを思い出した。

 正直に言うと認められないほうがありがたいが、今の俺は世間でバッチリ認知されてしまっている勇者。そろそろ世間体を気にしなければならない頃合いだ。

 

「どうすりゃいいんだろう……」

 

 大人しく騎士団に入って穏便に話を済ませるべきか、と自問自答を繰り返すも返ってくる答えは決まってノーだ。

 

 騎士団の朝は早く、訓練も厳しい。それに俺が付いていけるとは思わない。向こうはそういう事も考慮済みなのだろうが、きつい事はしたくないというものだ。

 

『おい、アルス。この前言っていた面白い事とはなんだ?』

 

「ん……? ああ、すっかり忘れてた。明日辺りで活動期が終わるんだけどさ、冒険者とか傭兵とか騎士とか、街を守ってくれた人を労ったり終わりを祝うためにお祭りが開かれるんだよ」

 

『……マツリ』

 

「祭り。知らないか?」

 

 尋ねられたから答えたが、どうやらオルガニアは祭りを知らないようだった。

 

 この行事は毎年恒例のもので、ちなみに俺は参加した事は一度もない。

 活動期が終わってから一週間後に祭りは始まり、その日は1日街全体が賑わうので俺は宿屋にこもりっぱなしだった。

 今回はオルガニアもいるし、少しくらいは周ってみようかと思っていたのだ。

 

「出店とか催し物があったり……見るだけでも珍しくて楽しいんじゃないか?」

 

「……ふむ。なるほどな。マツリか……マツリ……」

 

 響きが気に入ったのだろうか、オルガニアは祭りという単語を何度も復唱する。その姿が面白くて、俺はなんとなく笑みが溢れてしまっていた。

 

「お前、なんか子供みたいだな」

 

『馬鹿にしてるのかお前は?』

 

「いやいや、違う違う。ただ微笑ましいっていうかなんつーか」

 

『……まぁいい。我の力も中々戻った、はずだ。前とは違う事を見せてやろう」

 

「ははっ、見せるってどうやってだよ。また夢の中でか?」

 

 そういえば夢のような現実ではない世界であればオルガニアの姿を見ることができたという事を思い出したが、オルガニアはちっちっちと舌打ちしながら勿体振るように笑った。

 

『楽しげな催し物ならばお前の中にずっと居るのはつまらん。顕現の魔法を使い、この世界に降臨するのだ』

 

「顕現の魔法……って、それ確か魔力を結構使うんじゃなかったのか? やめとけよ」

 

『良い。これは我が個人的にやる物だから、契約の事は気にするな。それに、我はもう少し……』

 

 オルガニアの言葉が詰まるが、流石の俺でも今回ばかりはオルガニアが何を言いかけたかは分かった。

 

 帰るまでの時間が延びる。

 この意味と、オルガニアが言わんとしていた事は結びつく。

 オルガニアは、危険な自分の世界にまだ帰りたくないのだろう。

 

 そうなのだとしたら、俺としては止める理由はない。

 

「なら一週間後に使うといいんじゃないか」

 

『そうさせてもらおう。杖もこの手で持ちたいのだ』

 

 楽しそうに言葉を弾ませるオルガニアは本当に嬉しそうだ。祭りより、そっちの理由のほうが比重が大きいのではないだろうか。

 

「にしても祭りか……祭り……あ」

 

『む?』

 

 祭りの内容を思い出す内に、俺の中に何かが降りてきた。

 これなら行けると確信にも似た感覚が込み上げ、高揚感から顔がにやける。

 

「なぁオルガニア。俺が危なくなったら、今回も助けてくれるか?」

 

『契約は継続中だ。その分の魔力さえ提供すれば、是非はない』

 

「神器には心当たりがある。そんで上手くいけばきっと……騎士団との縁もさっぱり切れる! 流石は俺だな!」

 

『自画自賛とは寒い奴だ。少しはその貧弱さを改める為に騎士になるのも良いのではないか』

 

 相変わらずオルガニアは俺に辛辣だ。

 というか、オルガニアは俺を真人間にしたいのだろうか。情けなくて見ていられないと言われたら何も言い返せない。

 

 繰り返すようだが俺は騎士にはならない。断固拒否の姿勢を貫くつもりだ。

 俺は手を叩いて立ち上がり、握りこぶしを作って気合をいれる。

 

「よし、そうと決まれば直談判だ。迎えに来るって言ってたし、なんて言うか考えておくかな」

 

『何だか知らんが無駄な事だけはするなよ』

 

 オルガニアの忠告に頷きながら、俺は明日の事に思いを馳せる。騎士団に入ることに比べれば、他の苦労などはないに等しい。

 

 俺が思いついた方法。それは活動期の終わりを祝う祭。ソルディース祭における催し物の一つにおいて頂点(1位)を取ることだった。

 

「……ん?」

 

 と、ほくそ笑んでいたところで、俺の部屋の扉から小気味いい音が聞こえた。

 誰だろうかと扉を見るも、特に何も聞こえてこない。

 

「……? はい?」

 

 昨日の今日で嫌なことに見舞われ続けているにもかかわらず、俺は何も警戒せずに扉を開ける。

 若干の後悔をしたが、どういう訳かそこには沈んだ顔で佇んでいる少女……エミィがいた。

 

「エミィ……どうしたんだ?」

 

「あの、突然、すみません……。その、わたし……アルスさんが、心配で」

 

「あ……ああ。大丈夫だよ。特に悪いことじゃなかったんだ」

 

 心配、と言われてすぐにエミィが何を思っているのかを察する。

 多分、俺が犯罪者の濡れ衣を着せられていると思っているのだろう。実際濡れ衣かどうかを議論する事は端に置いておくとして。

 

「ほ、本当ですか……? 騎士の人たちに脅されたりとかしてませんか?」

 

「はは、それじゃ騎士が悪者みたいだな。大丈夫。少なくとも俺に犯罪の疑いはかかってないみたいだ」

 

「はぅ……よ、良かったです……」

 

 目尻に涙を浮かべるエミィを元気付けるように努めて明るい声で話す。

 ただ宿屋にいるだけの俺を気遣ってこうして泣いてくれるとは、エミィは本当にいい子だ。エミィの前では笑っていたいと自然と思わされる。

 

「でも、じゃあ……一体どんなお話があったんですか?」

 

「ああ、それは……」

 

「あっ、ごめんなさい。聞かない方がいいでしょうか……」

 

 涙を拭ってから大きな瞳で俺を見上げたかと思うと、顔を伏せてしゅんとする。エミィは本当に表情豊かだな、と思いながら俺はエミィを部屋の中へと招いた。

 

「ま、立ち話もなんだから中に入って座ってくれよ」

 

「はい……。失礼します」

 

 エミィを椅子に座らせて、俺は扉を閉め、施錠してからベッドの端に腰掛ける。一人用の部屋だから、椅子が一つしかないのだ。

 

 俺は後頭部をかきながらどう説明しようかと思考を巡らせる。

 

「ぁ……密室……二人きり……」

 

「さて、じゃあ話すか……エミィ?」

 

 粗方まとまったところで話を始めようとしたが、肝心のエミィが心ここに在らず、といった調子だ。どうしたのだろうか。

 

「ひゃ、……こ、心の覚悟はできてますん!!」

 

「……おう」

 

 心の準備ではなく、心の覚悟と来たか。それほどまでにエミィはこれからする話を重く捉えているのだろうか。

 親身になってくれるのは嬉しいのだが、他人事なのだからもうちょっと肩の力を抜いてもいいと思う。

 

 それからその言い方は「できてます」なのか「できてません」なのか。混合していてよく分からない。

 

 取り敢えず、耳まで真っ赤なエミィが暴走しているのは確かだ。

 

「えーとな。エミィ。一旦落ち着こう」

 

「へ? あ……あぁぁぁ、ごめんなさいなんでもないですごめんなさい!」

 

 エミィが一体何を考えていたのかは不明だが、どうやら現実世界に帰ってきてくれたようだ。

 これでようやく話が始められる。

 

 俺は騎士団でされた話の殆どをエミィに話してみせた。もちろん言葉のニュアンスはなるべく優しく、あたかも強制力は全くない話のようになるよう心がけながらではあるが。

 それでも顛末は理解してくれたようで、エミィはほっと胸を撫で下ろした。

 

「そういうことでしたか……。でも、凄いですアルスさん! 騎士団に勧誘されるなんて!」

 

「お、おう……そうだな……」

 

 実際は監視のためだけに誘われたのだが。

 まぁ本当に全部教えてエミィを心配にさせる必要はない。

 

「でも……やっぱりその勧誘を受けることはないんですか?」

 

「まぁ、な。俺は一応勇者だから」

 

 勇者だからというのは言い訳。ただ大変で面倒な事から逃げたいだけだ。

 俺はそんな腹の内をしっかりと押し込み、隠しておく。

 

「とは言っても、俺は凄いやつでもなんでもないよ。他と比べて全然弱いしな」

 

 エミィが言っていた凄いという言葉を忘れずに否定しておく。俺の評価なんてのは何時でも底辺でいいのだ。そうでなければならない。

 

 しかしエミィはそんな俺の考えなど御構い無しに首を千切れんばかりに横に振った。

 

「そんな事ありません! アルスさんは凄いです!」

 

「え、エミィ?」

 

 エミィは声を大にしてそう主張する。

 突然大きな声が耳に響き、俺は面食らった顔でエミィを見た。

 

「ガストさんも他の人たちも……わたしの事も。アルスさんはみんな助けてくれたじゃないですか」

 

「あれは、まぁほら。必死だったから」

 

「必死でもなんでも。アルスさんは来てくれました。……わたしにとって紛れもなく勇者様です」

 

「あー……」

 

 屈託のない瞳を向けてくるエミィに対して申し訳なさと、嬉しさが込み上げる。

 あの事件で今まで俺がサボってきた分がチャラになるわけでもない。エミィはただ、俺が今まで何をしてきたかを知らないだけだ。

 

 具体的に言えば何をしてきたかではなく、何もしてこなかったわけだが。

 俺のことを認めてくれるその気持ちは嬉しい。けれども素直に喜んではいけないと思う自分は確かに胸の中に居た。

 

 特にその後のお説教が非常に胸を刺す。

 

「……人のために立ち上がれる、か」

 

「え?」

 

「いや、なんでもないよ。ありがとうなエミィ。ちょっと自信ついた」

 

「い、いえ! わたしなんかが言うことではないのかもでしたけど……」

 

 マイナスの考えは一先ず断ち切り、俺は立ち上がって伸びをする。

 そして俺は精一杯明るい声でエミィに笑いかけてから、こう言った。

 

「明日から頑張るよ」

 

「……明日から、ですか」

 

 何故かエミィの声のトーンが少し落ちた。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 翌日。

 俺は前回と同じようにミネルヴァさんに連れられて騎士団本部に足を踏み入れていた。

 

「……では、失礼いたします」

 

 ミネルヴァさんが退室し、俺とローガンさんだけが団長室に残る。

 俺はゆっくりと深呼吸をしてから席に着き、ローガンさんと対面した。

 

「さて、答えを聞かせてもらおうかの」

 

 淡々と、けれど期待と楽しさが滲み出ているローガンさんの質問に、俺はすぐに答えた。

 

「……俺を試してください」

 

「……ほぉ。試す、か。その方法は?」

 

「ソルディース祭では傭兵や冒険者達が自分の力を一般人に見せたり、遊び場として設けられている決闘形式の催し物があるのはご存知ですよね」

 

「……あるのぉ。安全に戦闘が見られるってんで人気みたいじゃな」

 

 ソルディース祭においてそれは「宴闘」、と呼ばれる。

 傭兵達にとって大事な宣伝の場であり、冒険者にとっては文字通り遊び場だ。

 強い者と決闘する事を遊びとするその価値観は理解できたものではない。

 

 ローガンさんの言う通り毎年大人気のようで、そこそこの規模の会場で執り行われる。

 

「そこで俺の力をお見せして、優勝します。力が操作できれば、良いんですよね?」

 

「ほほぉん、なるほど」

 

 宴闘のルールとして、相手に著しくダメージを与える魔法、攻撃を行った場合は失格という物がある。

 

 オルガニアの魔法が何処まで強いかという懸念はあるが、波動の魔法以外は俺の世界の魔法と効果は違えど威力に大差がない。死に至らしめることはないだろう。多分。

 

「くっくっくく……ヌハハハ!! いやぁ、若いのう!」

 

「へ、へ?」

 

 暫く何かを考えていたかと思ったら、ローガンさんはいきなり意味不明なことを言い出し、部屋中に響くような大笑いを始めた。

 

「ヌハハ……考えが浅く、愚直。思いついたままじゃ。いやー実に単純! 誰もが思いつくわいそんな交渉! ヌァハハハハハ!!」

 

「は、はぁ!?」

 

 心底楽しそうに笑いながらローガンさんは罵倒の嵐を俺に浴びせる。

 オルガニアの罵り方とはまた違ったベクトルの矢が胸に刺さってくる感覚がした。

 

「えっ……と、つまり、ダメですか?」

 

「あーいやいや。誤解するんじゃあないぞ。儂はその答えを予想していただけじゃ。寧ろただ従ったり頑なに拒否するだけの阿呆でなくてなにより」

 

 予想していて敢えて俺にそれを言わせるとは、本当に捻くれたジジイだ。この時点で俺は少し試されていたという事になる。

 などと文句を垂れたかったが、俺は大人しく眉根をひそめるだけで収めた。

 

『随分と捻くれたジジイだな。おまけにうざい』

 

 どうやらこの点ではオルガニアと意見が一致したらしい。

 

「予想はしていた……じゃから、儂はそれを認める。ただし、一つだけ条件を出させてもらうぞい」

 

「はぁ、条件……ですか」

 

「まっ、そんな難しいことじゃあないわい。一つだけ、そう、一つだけじゃ」

 

 この人は何処までも胡散臭いのだろうか、言い方の一つ一つに悪意しか感じられない。

 

 どんな理不尽なことを言われるかと身構える俺をローガンさんは面白そうに眺めながら……やがて勿体ぶるように言った。

 

「宴闘でミネルヴァと戦え」

 

 脂汗を垂らして顔を引きつらせる俺を見るローガンさんは、やはり楽しそうに笑うのだった。

 

 

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