勇者の俺は魔王に取り憑かれているが決して闇堕ちしてはいない   作:SK43

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第24章「まおーさまといっしょ」

「おにいさん、ええと……そちらの串をおふたつくださいませんか……?」

 

「おっ? 可愛い嬢ちゃんお使いかい? 偉いねー。そうだな……ほれ、一本はタダで持ってっていいぞ!」

 

「わぁっ……ありがとうございますっ」

 

「はっはは、いいって事よ! 気をつけて行けよ!」

 

「…………」

 

 という一幕を遠巻きに見ている俺の顔はきっと、素晴らしく祭りの空気にそぐわない渋い物となっている事だろう。

 眉間にシワは寄り、口はへの字に曲がり、目はこの世の物ではないおぞましい何かを見るような。

 そんな顔になっていると思う。

 

「……何をそんな見るに耐えない顔つきをしておるの……いるの? 兄さん?」

 

「おれは、にんげんふしんになりそうでつらい」

 

 買ったばかりの団子串を二本持ってやってくる少女は、この世に顕現した魔王、オルガニア。

 

 腰にかけてさらりと伸びる絹のような真紅の髪の毛を惜しげなくたなびかせ、幼げでも勝気な瞳ははっきりとした二重を携えてキラキラと輝いている。

 見た目はどこに出しても恥ずかしくない程度の美少女であるコイツはその姿をフル活用して祭りで屋台を出す大人達を騙くらかしていた。

 

 こいつ、そこそこ年のいったおっさんは幼女に弱いという特性を知っていやがる。

 上目遣いに加え、たどたどしい注文。口元に手を持っていき、小動物のようにちょこんと首を傾げる動作。

 そして、目的の物を手渡された時に喜んで天使のような笑顔を見せるアフターサービスも忘れない。

 

 この魔王、流石に処世術はトップクラスである。

 

「ふむ……次はあそこの遊び? でもやってくるか。魔法を使わず輪を投げるとは……中々難易度が高そうだ」

 

 オルガニア……ではなく、今この場ではニーアだったか。

 祭りの催し物がよほど物珍しいのか、団子を俺に預けて子供達が賑やかに遊んでいる輪投げ屋の中に入って行ってしまった。

 子供から大人まで楽しめる、などと看板に書いてあるが、そもそも大人は輪投げをしようという思考にすらならないのではないだろうか。

 

「やれやれ……。む、団子うまいな」

 

 オルガニア……もといニーアが買ってきた団子の一つにかぶりつき、輪投げ用の輪を受け取って怪訝そうな顔をしている可愛らしい魔王様を見ながら味の感想を呟く。

 

 活動期の終わりを告げる祭り――ソルディース祭が始まってからというものオルガニア……じゃなくて、ニーアはずっとあの調子だ。

 

 普段見ていた街とは大きく違った店、雰囲気に逐一目を輝かせ、アレはなんだ、コレはなんだと聞いてくる。

 そして顕現しているのをいい事にやってみたい食べてみたいという要求も凄まじい。

 ちょこっとだけ様子を見るだけの予定だったのだが、これは思わぬ出費だ。

 

 俺は一応まだ中身の入っている財布を見つつ、ため息をついた。

 

「おい……ではない。ねぇ、アルス兄さん」

 

「あー? なんだよ? というかその口調、めちゃくちゃ聞きなれないんだけど……げっ」

 

 どうやら輪投げから帰ってきたようで財布から目を離し、呼びかけてくるオルガニアの方へと振り向いて……俺は再度顔を引きつらせた。

 俺の目に飛び込んで来たのは小さな腕いっぱいに抱えられた大小様々な菓子の山。少し困ったようなオルガニアが俺に一歩近づくと、ポトリと菓子の袋の一つが地面に落ちた。

 

「どうしたんだよ、それ」

 

「一番遠いところに全部投げたらこうなったのだ」

 

「お前、輪投げの才能あるんじゃね?」

 

 輪投げの商品としては豪華な気もするが、5メートル程も離れた場所に全部輪をくぐらせられたら貰える特賞だという事らしく、オルガニアは他の追随を許さぬ驚異の投擲スキルで容赦なくそれを勝ち取ってきたようだ。

 

「はぁ……一旦宿に荷物置きに行こうぜ。ちょっと休みたい」

 

「相変わらず出不精な奴だ……仕方ない。10分休んだら直ぐに次だ。時は待ってはくれんのだぞ」

 

 最初は頑張っていたものの口調を飾る事など忘れ、オルガニアは食い気味に俺の前を先行する。

 菓子は半分程俺が持っている物の、小さな身体での運動はやはり未だ慣れていないらしく、いつ転ぶかといらぬ心労をかけさせられた。

 

「ただいま戻りましたっと」

 

「あっ、おかえりなさいませ、アルスさん、ニーアちゃん! お外はどうでしたか?」

 

「はい。お祭りは初めてで……とても楽しめています」

 

「ふふっ、良かった。そうだ、ソルデのお祭りではオススメの食べ物があるんですよー。後で教えてあげますね?」

 

「本当か小む……んんっ! ……ぜ、是非、お願いします」

 

 小娘、と言いかけたオルガニアは慌てて口を噤む。

 エミィはそれを特に不自然に思う事もなく、ニコニコとした顔でオルガニアに街の地図を書いて説明してくれていた。

 これにはオルガニアも少し肝を冷やしたのか、心なしか安心したような顔をしている。

 

「よっ……と」

 

 俺は少しだけ人の多い宿屋の光景を眺めながらラウンジの一角に腰掛けた。

 

 祭りの時期は様々な街や村から人が訪れるため、エミィの宿屋は多少なりとも賑わう。それでもそれを一人で切り盛りしてしまうのだからエミィはある意味での才女だ。

 

 エミィとオルガニアが楽しげに談笑するカウンターを微笑ましく眺めていると、不意に俺の真横辺りに人影が差した。

 

「よう、勇者サマ。可愛いお嬢様のお守りは一旦終了か?」

 

「……これから第二ラウンドだよ」

 

 意地の悪そうな笑みとともに俺に話しかけてきたのは王都に住まう大剣使いの狩人、ガストである。

 大剣使いとは言ってもその大剣はほぼ振るわれる事はなく、魔法の威力を強化するためのものらしい。

 

 ガストは手に持っていたジョッキをテーブルの上に置き、俺の向かい側に腰掛けた。

 

「……にしてもあの嬢ちゃん、殊の外無害だな。俺はもうちょっと警戒してたんだが」

 

「ああ……まぁ、ここにいる間は変なことはしないみたいだよ」

 

「なんだそりゃ? ……一体、あの子は何処から喚ばれてここに来たんだろうな」

 

 俺の曖昧な答えに疑問符を浮かべるものの、ガストはオルガニアを何か遠い物を見るかの様な目で眺めた。

 オルガニアの出所は俺の魂の中……更に元を辿れば異世界だ。

 しかし、今はまだガストに真実を話す気は無い。

 オルガニアが自身の身分を偽る事を保険と呼称していた事を俺は覚えている。恐らく、不用意に世間に自身の存在が知れ渡ると危険な何かが在るのだろう。

 

 俺は何度目かになる謝罪を心の中でしながら、どうだろうな、と肩をすくめてお茶を濁した。

 

「って、そういやぁ……お前、明日は宴闘だろ? こんなとこでのんびりやってていいのかよ」

 

「まぁ……一応準備はしてあるから大丈夫だよ。そういえばガストは出ないのか?」

 

「あ? んー、特別金に困っているわけでも神器に興味があるんけでもねぇしな。へっ、応援には行ってやるよ」

 

 ミネルヴァとやらの戦闘も見てみたいしな、と付け加えてガストはジョッキの中のドリンクを煽った。

 

 金に困っているわけではない……というのは、宴闘に出れば少なからず人の目に止まるので、傭兵にとっては売名の効果があるのだ。

 つまり、宴闘で力を見せれば仕事が増える。宴闘自体に賞金はかからずとも、結果的にお金に結びつくというわけである。

 

「ただ、ミネルヴァといやぁ知ってるか? あいつの剣技を」

 

「……撃剣の事?」

 

 ガストの問いに俺は首を傾げつつ答えた。そうだ、とガストは頷き、背もたれにもたれかかった。

 

「ありゃちっと昔に俺も見たことあるんだが……えげつねぇぞ。踏み込みと初速が早い上に、重い。よしんば予備動作が分かりやすいから威圧感もある。まず回避を考えさせられちまう一撃だわな」

 

「……そう、だな」

 

 ミネルヴァさんの一撃必殺の技、撃剣。

 魔法や武器の制限はあれど、地力と技の制限は無い宴闘においては充分に懸念するべき要素の一つだ。ガストは思い出すように目を瞑りながら言葉を続ける。

 

「それに加えてあの勇者の力――アレで殆どの反撃も魔法も力押しでブチ破っちまうようだぜ」

 

「光に、質量を持たせる力……か」

 

 ガストの言う通り、ミネルヴァさんは撃剣に自身の勇者の力を併用しているように見えた。そのおかげであの超馬鹿力の技の範囲は目に見えて巨大になっている。……巨大、と言っても半径数十センチから1メートル程だが、その僅かな距離の拡大は浅ましくもカウンターを狙う愚者を容赦なく吹き飛ばす効果をもたらす。

 

本来は宴闘で使用禁止である勇者の力。

それがなんと今回は認められるらしい。

恐らく、俺が騎士団に申し出た条件が力を試すことだから裏で手を回されたのだろう。

俺はその知らせを聞いたときにローガンさんから言外に「本気でやれ」と言われているような気がした。

 

「あれの欠点とか弱いところとか……知ってんのか?」

 

「いや……それはいくら調べても出てこなかったかなぁ」

 

 弱い所を態々情報として残しておく理由は無い。俺が調べた新聞などにはそういった事はしるされていなかった。

 ミネルヴァさんが宴闘の場で撃剣を使ってくるのかどうかは知らないが、本音を言うならばそういう情報は知っておきたい。

 

「知らねぇなら聞いてみたらどうだ?」

 

「へぁ?」

 

 さもあらん、という風にガストが軽はずみでとんでもない事を提案しだした。そんなの、どう考えても教えてくれるはずがない。

 

「って、馬鹿正直に聞くんじゃねぇよ? ただ、ハンデをくれって言えばいいのさ。戦いの経験を積んだ騎士と、剣技素人の勇者……流石にガチンコ勝負をしたら勝敗は火を見るよりも明らかだ」

 

「……おっしゃる通り」

 

「だから、あんたがどんな戦い方をするのか。そして、欠点はなんなのか。それを聞くんだ。その穴を見事突くことが出来たなら……お前の勝ち。それで力の証明にはなんだろ」

 

「……なるほどなぁ」

 

 まるで思いつきもしなかった提案に俺は目を見開いた。

 今更ながら、真っ向勝負というのはいくらオルガニアの魔力があると言っても不可能だと気づく。

 

 いや、俺はオルガニアの力があると油断して真っ向勝負を仕掛けようとしていた。……本当に危ない。

 完全にオルガニアの力を妄信していた自分の思考と油断を強く、強く自覚し、自省した。

 

「ありがとな、ガスト。助かった」

 

「あ? いや別にどうってことねぇよ。お前、結構ぼけっとしたトコあるからな」

 

「……ほんと、その通りだったわ」

 

 もう一度ガストにお礼を言ってから、俺は席を立った。

 すると、エミィとの会話が終わったのか片手に地図の書かれた紙を持ったオルガニアがパタパタと元気な足音で近づいてきた。

 

「さぁ休憩は十分だな。行くぞアルス!」

 

「って、ちょっと待てよ! 早すぎ……ガスト、またな!」

 

「おう、行ってら。頑張れよアルス」

 

「いってらっしゃいませ~!」

 

 俺はオルガニアに手をつかまれ、引きずられるようにして宿屋の扉へと走る。

 まだ10分も経っていないが、オルガニアは制止の言葉を聞いてくれなさそうだ。

 俺は諦めてガストとエミィに見送られ、再び祭りの場へと繰り出すのであった。

 

「……ったく、そんじゃあ俺は俺で頼りない勇者サマの為に一肌脱いでやるかね」

 

 去り際に聞こえたガストの呟きに耳を傾ける暇もないまま。

 

 それはさて置き、外に出るなりオルガニアは目を爛々と光らせて辺りを見渡していた。

 

「小娘の話によれば少し奥に行った方に雪かきこうりとやらがあるらしい。柔らかく冷たく甘く、まるで綿のような食感らしくてな」

 

「雪かき()()()、な。そういえば人気のかき氷が毎年安く売られるって話を聞いたことがあるようなないような」

 

「我は全てを制する魔王なり。そのかきこーりとやらも我の手中に収めるぞ」

 

「かき氷な。待てって、そんな早足で行くと迷子になるだろ!」

 

「何? ……全く、仕様のないやつだ。お前は我よりここに長く暮らしているというのにこの街で迷うつもりなの……」

 

「迷子になるのはお前の方な!? 祭りの規模は街全体だぞ、探しきれねぇよ!」

 

 呆れ顔のまま素っ頓狂な事を言う魔王に俺は声を荒げてガーッとツッコミを入れる。

 オルガニアは取り敢えず冷静になってくれたようで、立ち止まって俺が一息つくのを待った。

 

「ところで、一つ聞きたいのだが」

 

「ん? なんだ?」

 

「この祭りには魔物が参加しても良いのか?」

 

「はぁ? いや、魔物なんて寄り付かないけどな。そもそも魔物が活発になる活動期が終わった事に対する祭りなわけだし……」

 

 唐突なオルガニアの問いの意味が分からず、俺は疑問符を浮かべる。

 まるで何処かで魔物を発見したかのような口調だ。

 まさか、と俺は慌てて辺りを見渡してみる。

 しかしどこを見ても視界に広がるのは祭りを楽しむ通行人と屋台を出す店主だけ。

 

「……魔物なんて居ないぞ」

 

「お前の目は節穴か? ほれ、あそこに居るではないか」

 

「はぁ? ありゃただの人間じゃないか」

 

 オルガニアが指差す方向には……それほど遠くない場所にいる人間が一人。

 がたいは良いようだが、魔物呼ばわりするのは少しどころかだいぶん失礼だ。

 

「分からんのなら、奴に近づいてみると良い」

 

「なんだそりゃ……わかったよ」

 

 どうしても自身の言葉を証明したいらしく、オルガニアは俺の背をぐいぐい押してその人の元へ行かせようとする。

 俺は止むを得ずオルガニアの言われる通りに歩いた。

 

「……なぁ、やっぱ普通のにんげ……あれ?」

 

 その人は、確かにほんの十数メートル程離れた場所に立っていたはず。……なのだが、俺はそこまで歩いてもその人の目の前にはたどり着けていない。

 目測を見誤ったか、と考えるが、どうやらそうではないようだ。

 

「……デカっ!?」

 

 そして更に近づくこと十数メートル。

 目の前にはなんと、身長3メートルは越えようという巨人が立っていた。

 俺の中でぶっちぎりのナンバーワンガチムチであるガストの記録を優に書き換える程度の筋肉を持ち合わせている巨漢で、その巨人は近づく俺たちに気がついたのか重たそうな頭をゆっくりともたげ、俺たちを見た。

 

「あれぇ。お兄さん、僕に何かごよぉ?」

 

 その巨大からは想像もつかない程不自然な間延びした声が上から降ってくる。

 

「えっ、あっ、いやっ! すみませんなんでもないで……」

 

 下手に刺激したら踏み潰されそうな体格の差に俺はたまらず首を全力で横に振り、立ち去ろうとする……が、逆にオルガニアは近づいていってしまった。

 

「こんにちは。不躾に眺めてしまって申し訳ありませんでした」

 

 華麗に一礼したオルガニアは謝罪の言葉とともににこやかな顔で巨人の顔を見た。

 俺は口角を引きつらせながらも、なんとかそれに習って謝罪する。

 

「ううんー、気にしないでよぉ。こんなおっきぃの居たら誰でも見ちゃうよねぇー」

 

 なはは、とコロコロ笑うその巨漢はよくよく見ると朗らかな顔つきをしている。ただ、そのサイズは明らかに人間の域を越しているわけだが。

 

「えっと……貴方は、人間……? ですよね?」

 

「あははー、やめてよぉ敬語なんて。僕、ただの傭兵だしーもっとくだけてくだけてー勇者さまー」

 

「え……」

 

 巨漢は尚も笑いながら俺を平然と勇者と呼んだ。その呼び方はガストのようにおちょくるというよりかは、もっと尊敬の意を込めたような呼び方で……正直俺は、もの凄くこそばゆい感じがした。

 

 と、そんな事よりも聞きたい事がある。

 

「俺がなんで勇者だって……?」

 

「えぇー、知らないのぉ? んとね、君って一部の界隈ではゆーめーなんだよぉ。闇に愛された勇者様って」

 

「ちょっと待て、それマジで誰の事だ」

 

「ああ、それより僕の話だったねぇ。僕は巨人(ジャイアント)。モイヤって言うんだ。南の方の人種だからこの辺じゃ珍しいかなぁ」

 

「あの、悪いけどそれより先に俺の名誉毀損問題をだな」

 

 闇に愛された勇者というのは言い得て妙というか、核心を突いているというか。

 確かに俺の戦いは王都襲撃の際にエミィを含む何人かの一般人に見られていたが、まさかこんな短期間でそれが広がってしまうとは。

 

「えへへぇ、僕、勇者に会うのは初めてだなぁ。なんだか得しちゃった気分ー」

 

「王都に勇者はそこそこいると思うから大して珍しかないと思うけどなぁ」

 

「あはは、僕にとっては珍しさだけじゃないよぉ。後でサイン欲しいなぁ」

 

「いやいや、勘弁してくれよ」

 

 モイヤと名乗った巨人は本当に嬉しそうな顔で俺の言葉を謙遜と受け取ったようだ。

 隣ではオルガニアが興味深そうにモイヤの事を下から上まで眺め倒している。

 

「えへへ、そんな見られると照れちゃうよぉ」

 

「すみません、でも初めて見るものですから……凄く大きくて、憧れますっ」

 

 顔を紅潮させ、居心地悪そうに頬をかくモイヤを見上げながら楽しげにそんな事をのたまうオルガニア。

 よくもまぁ心にもない事をこんな明るい声で言えたものだ。

 

「そっかそっか。ありがとねぇ。この子はアルスさまのお友達ー?」

 

「よしてくれよ様付けなんて。まぁ友達っつーか……親の知り合いの子供、かな」

 

 どうやら俺が勇者である事が知られていると同時に名前も広がってしまっているようだ。

 プライバシーもひったくれもないなとは思うが、これも有名人ならではの宿命と言ったところか。

 

 何はともあれ、俺とオルガニアの関係は他の人間に伝えた物と同じ内容を説明しておく。

 

「よしよし、可愛い子だねー。肩車してあげよっか?」

 

「是非っ!」

 

 にへらっとすっかり砕けた面持ちでいるモイヤの提案にオルガニアは両手を広げ、太陽のような笑みを咲かせる。

 その仕草は完全に抱っこをせがむ子供のそれだ。正体を知っている俺でさえもちょっと眩暈を起こしそうになる愛らしさである。

 

「いいよー、じゃあじっとしててねぇ。……よいしょっとー」

 

「っ!」

 

 大きな手で優しく包まれ、3メートル地点へと持ち上げられるオルガニア。

 少しだけ目を閉じて身体を硬直させていたが、唐突な浮遊感と視界の変化に戸惑ったわけではなく、アレもまた演技だろう。

 オルガニアにとっては3メートルどころか、十数メートル上まで飛ぶ事なんて訳ないはずだ。

 

「わぁ……っ」

 

「どうかなぁ?」

 

「とっても高いです!」

 

 小さな子特有の舌ったらずな感想にモイヤは満足げな顔で頷く。

 その傍ら、俺はオルガニアの行動に首を傾げていた。

 かき氷の店に行くために猛進していたはずなのに、何故急に巨人に興味を持ち、更に肩車までしてもらったのだろうか。

 周囲に溶け込むための演技にしては明らかにやり過ぎだ。

 

「あのっ、あのモイヤさん。一つお願いがあるんですっ」

 

「ん、どうしたのー?」

 

「うーんと……この辺りにかきこーりを売っている場所があるって宿屋の店主さんから聞いたんですが……見つからなくて」

 

 この魔王はつくづくセコい奴というか、目ざとい奴というか。

 まさか一々歩いて探すのが面倒だからとほぼ俯瞰視点で物を探せるモイヤにかき氷を探させようとは。

 

「任せてー。んーとねぇ……あ、あそこかなぁ。連れてってあげようかぁ?」

 

「ありがとうございますっ!」

 

 流石の視認距離と言ったところなのか、モイヤはすぐにオルガニアの求めるかき氷を出す出店を発見した。俺の視界からは見えないが、モイヤの視線的にだいぶん遠そうだ。

 

「アルスくん。そこに向かってもいいかなぁ?」

 

「ああ。連れてってくれるとありがたいよ。俺も後から追いつくからさ。それから雪かき氷な」

 

「りょうかーい。それじゃあしゅっぱーつ」

 

 モイヤもオルガニアに好感を持ってくれたようだし、折角なので俺は一旦子守から解放されるとしよう。

 オルガニアが一瞬俺の事をじろりとなじるような目線で睨んだ気がするが、俺はわざと目を逸らして無視する事にした。

 

 言われなくても帰らないっての。

 

「ふーっ、やれやれ……」

 

 モイヤに担がれたオルガニアを見送り、俺は一息つくために出店でラムネという炭酸飲料を買ってからベンチに落ち着いた。

 歩きっぱなしの足がじんわりと回復していく感覚はいつ感じても良いものだ。

 

「ほんと、この空気は久し振りだな」

 

 王都の大通りは広いため、人で賑わう今でも幾らかのゆとりがある。

 そのため窮屈さや閉鎖感はまるで無く、人々の喧騒や時々聞こえてくるイベントスペースからの楽器の音が街中に響いていて退屈を感じさせない。

 

 俺は目の前に立ち並ぶ出店を流し見しながらラムネに口をつけた。

 素朴な甘さと強目の炭酸が乾きかけの喉を走り抜けていく。

 

 そういえばエミィはまだ宿屋で仕事をしているのだろうか。休憩がてらオルガニアを連れて再び戻り、少しだけ店番を代わってあげてもいいかもしれない。

 遠慮はするだろうけども祭りの事を結構詳しいみたいだし、オルガニアと一緒に回らせたらなんやかんや楽しんでくれそうだ。

 

「ふぅ……う?」

 

 ラムネをもう一口飲もうかと考えたところで、俺は身を乗り出して目の前の出店を凝視した。

 いや、具体的にはその出店を経営している人を見た。

 

 そこにいる人物が売り出しているのは色取り取りの原石。摩訶不思議な力を持ち合わせると言われるパワーストーンという奴だろう。

 

 パワーストーンには魔法的な力もないし、俺からしたらそんな眉唾物に手を出す奴の気がしれないが、そういう物に絶対手を出さなさそうな人物がそこで座り、立ち寄る女性客に何やら説明をしていた。

 

「あのー、ミネルヴァさん?」

 

「はい、いらっしゃいま……っ!!??」

 

 なんとなくガストに言われた事を思い出した俺はミネルヴァさんとコンタクトをとることにする。

 話しかけると、ミネルヴァさんは予想外なほど無防備な声で俺の顔を見て……表情も体も硬直させた。

 

 あーそういえばこの人、光り物とか好きなんだっけ。

 俺は固まり続けるミネルヴァさんを見ながら、少し前に調べた彼女に関する情報を思い出していた。

 






誰だお前!?
と言いたくなるような怒涛の魔王様連打回でした。
圧倒的…ッ!圧倒的幼女…ッ!
というわけでお祭り初日はもうちっとだけ続くんじゃ。
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