勇者の俺は魔王に取り憑かれているが決して闇堕ちしてはいない   作:SK43

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第25章「都合の良いときばかり」

「なにしてるんですか……?」

 

「……見ての通り。屋台を出している」

 

 ミネルヴァさんは体裁を取り繕うように姿勢を正す。その辺りの速度は流石と言わざるを得ない。

 だがやはり突然の不意打ちに若干顔が引きつっているような気がする。

 

「これ、パワーストーン……ですよね。ぱっと見綺麗だけど、ただの石って売れるんですか?」

 

 俺は陽の光に照らされてキラキラと光る石を眺めて売れ行きを尋ねる。

 俺の素人丸出しの問いにミネルヴァさんは笑い飛ばすことで一蹴した。

 

「ふん、パワーストーンの美しく透き通るような姿には様々な意味が込められている。だからこそ、その石を身につけ、或いは渡すんだ」

 

「ああ、お土産用なんですね」

 

 なるほど、そういう話で売り出すのであれば確かに王都のお土産としては売れそうだ。パワーストーンは特別王都にしかない訳ではないが、珍しいことに変わりはない。

 それにしても何故にミネルヴァさんが、しかもこんな所で屋台など出しているのだろうか。

 光り物が好きなのであれば売る方ではなく買うほうであるはずだ。

 

「例えば。そこにあるゼオライト。これは大地の力を宿していると言われている」

 

 と、ミネルヴァさんは濁りにも似た白の色彩を持つ石を一つ手にとって語った。

 そして更に二つ、三つと挙げていきうんちくを語り続ける。

 

 この辺りで足を止めた大体の人物はこう悟るだろう。

 

 ――ああ、布教がしたいんだな。

 

 つまり、ミネルヴァさんが出店をしている理由は1つ。やはりこれはどこまでも趣味であるということだ。

 自身が好きなものを他人にも知ってもらいたい。また、共有したい思いからこういう行動に至ったのだろう。

 なんというか……流石の行動力だ。

 

「そして更にこのサファイア。成功を呼ぶと言われ宝石にも加工される。青は精霊が好む色のようで、精霊石への加工も可能だ」

 

「あー、ミネルヴァさん、もうそれくらいで大丈夫っすよ」

 

 これ以上爛々と目を光らせるミネルヴァさんのうんちくを聴き続けているわけにもいかない。

 俺は曖昧な笑みを浮かべながらミネルヴァさんの言葉を遮った。

 

「……パワーストーンに興味もないのに、何故この店に立ち寄った?」

 

「いやまぁ、1つ訊きたいことがありまして」

 

「……言ってみろ」

 

 やばい、明らかに不機嫌になっている。

 そんなに話の腰を折られたのが気に食わなかったのだろうか。

 でも考えてみてほしいのだが、商品棚に置かれている石の種類はぱっと見る限り50種以上。しかもどこかで切らねばミネルヴァさんは延々とこの石ころの説明を続けていそうなのだ。そういう目をしている。

 傷の浅いうちに遮った事はむしろ英断だったと言って然るべしだ。

 

 俺は胸中で言い訳して少しだけのしかかった罪悪感を取り除く。

 こちらを睨みつけてくるミネルヴァさんの視線を気にしていない風を気取りながら、気を取り直して尋ねる事にした。

 

「明日の宴闘……俺にハンデをくれませんか」

 

「…………」

 

 無反応。

 続けろ……という意味と捉え、俺は話を続ける。

 

「俺は……自慢ではないですけど戦いの訓練はしてきませんでした。ですがそれでも力がきちんと使えるための証明をするために。せめて何か、弱点だけでも……」

 

「こちらから与えるハンデは2つだ」

 

 俺が喋っている最中に、何故か深いため息を吐いたかと思うと、ミネルヴァさんはそんな言葉で俺の話を遮った。

 意表を突かれた俺は口の動きを止め、面食らったように固まる。

 なんだろうか、この……俺が話すことを予測されていたかのような肩透かし感は。

 

「そのような話が出れば、譲歩するように……と、ローガン団長から言付かっている。ひとまずは及第点だな」

 

「…………。マジでか」

 

 あのクソジジイ……おっと、騎士団の元締め爺さんはどうやら絶好調のようだ。

 言付かっているという事は、俺がそういう行動に出ることを予測していたという事だ。

 

「隊長はお前をあらゆる方面から試験するおつもりだ。精々頭を巡らせて行動するんだな」

 

「……そ、そうですね。気をつけます」

 

 ミネルヴァさんは言いながらも腕を組んで俺を冷ややかな目で見つめ直す。

 

 ……やはり自分は幸運に、というより友の気遣いに助けられていたと認識する。俺はきっとガストに言われなければミネルヴァさんと接触することすら避けていただろう。

 自分の浅ましさで血の気が引き、背筋につつ、と冷や汗が伝う。

 

「だからこそ接触しやすいように祭りで屋台を出していろ、などと訳のわからない指令を出されているわけだ。……つまり、決して趣味を誰かと共有したいわけではない」

 

「にしてはまぁ随分と楽しそうですね」

 

「それは目の錯覚だ」

 

 こいつ、言い切りやがった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「……遅い」

 

「あははー。きっと誰かに声をかけられてるんだよー。アルスくん、ゆーめぇじんだしね」

 

「全く……」

 

 ぱくり、とモイヤの肩に乗っかったオルガニアが手に持っている雪のようなかき氷を口に運ぶ。色は赤みがかっているし、いちご味だろうか。

 そんな姿がようやく見えてきて、俺は二人に軽く手を振ってみた。

 

「あっ。アルスくんだ。ニーアちゃん、追いついたみたいだよぉ」

 

「兄さん……遅いですよ」

 

「悪いな、ちょっと野暮用があったんだ。モイヤもありがとう。助かったよ」

 

「ううん、おやすいごよぉだよー。ニーアちゃんとも話せたからね」

 

 モイヤは手のひらをひらひらと振りながら朗らかに笑う。この顔からは虫すらも殺せないように思えてしまう。本当に彼は傭兵なのだろうか。

 

「よいっしょ。それじゃあ、僕はもう行くねぇ。またねーアルスくん、ニーアちゃん」

 

「ああ。ありがとな」

 

「ありがとうございました」

 

 モイヤはゆっくりとオルガニアを降ろしてからまたにこりと笑って立ち去っていった。

 俺もオルガニアもそれぞれその背中に感謝の言葉を贈る。

 

「変わった奴にあったなぁ……あいつ、暫く王都にいるつもりなのかね」

 

「そうだな。この世界ではあのような男が魔物ではなく人間として通るのか……はむっ」

 

 未だ小さくならないモイヤの大きな背を見ながら、オルガニアが呟き……またかき氷を一口。

 気に入ったのだろうか、食べるペースが早い。

 

「なぁオルガニア。そんなに美味いなら、俺にも一口くれよ」

 

「ところで、あの騎士と話は済んだのか?」

 

「いや俺がした話じゃなくてさ、先に俺にもかき氷くれよ」

 

「自分で買え」

 

 取り付く島もなく拒絶される。

 子供のようにそっぽまで向かれてしまった。

 

「それ俺の金で買ったんだよなぁ……」

 

「これはあの巨人が買ったのだ。やはり肝心なところで財布を使う男は優秀だな」

 

「腹立つわぁ……っ。分かったよ、買ってくればいいんだろ買ってくれば」

 

 歩き回って熱くなってきたということもあって俺の喉は水分を欲している。

 俺は影でほくそ笑むオルガニアに背を向け、タイミングよく空き始めた屋台の列に並び、しばし待ってから店主に注文をした。

 

「雪かき氷……。そうだな、いちご。練乳入りで」

 

 と、そこで一つ悪戯を思いついた俺はオルガニアの持ついちごにある物を足してもらう。

 数分経たずに出来上がったそれを受け取り、俺は小走りでオルガニアの元まで戻った。

 

「んじゃ早速さっきの話だけど……」

 

「おい待て。貴様なんだその白いのは」

 

 食いつきが早すぎる。熟練釣り師もびっくりのスピードだ。

 俺の手に収まっているかき氷が自身のものと似てはいるが非なるものである事を目ざとく理解したオルガニアは白い液体……練乳をじーっと凝視し始めた。

 

「なんだよ、かけてもらわなかったのか? 濃厚になって美味しいぞ」

 

「……少し寄越せ」

 

「あっるぇ? オルガニアさんには自分の分があるじゃないっすかぁー」

 

「全てではなく少しと言っているのだぞ! 我の善意と譲歩に感銘を受けとっとと献上するべきだろう!」

 

 むきーという声が聞こえて来そうな程に噛み付いてくるオルガニアを見るのは非常に満足である。

 おっと、ちなみにあの熱を上げる術は使わないと踏んでいる。俺の体温を上げるあの術を使うと俺が持っているかき氷は熱伝導であっという間に水になってしまうのだから。

 

「きっ、きっさまぁぁぁ……! この我をここまで愚弄するとは……! 覚悟はできているんだろうな……!!」

 

「うっ……」

 

 顔を真っ赤にしたオルガニアの周りに黒い気体のような魔力がズゴゴと音を立てて沸き立つ。

 顕現している間は安全だろうとは言っても流石におちょくりすぎただろうか。

 

 かき氷のごとく粉砕される前に俺は白旗を上げることにした。

 

「悪かったって。ほら、お詫びにやるよ、これ」

 

 俺は最後に一口かき氷を口に放りこんでから、その入れ物ごとオルガニアに渡した。

 多少持ちにくそうだが、オルガニアはなんとか二つのかき氷を抱えて、魔力を鎮めてくれた。

 

「……都合のいい奴だ。面倒な」

 

「お前は直線的すぎると思うぞ」

 

 調子が狂ったように唸るオルガニアに再度背を向けて、俺はまた祭りで賑わう道を歩き始める。

 このまま逃してもらえないだろうかと内心冷や汗をかいていたら、服の裾がちょんちょんと引っ張られた。

 

「えーと、オルガニア? まだ怒ってるか……?」

 

「…………」

 

 振り返って機嫌を尋ねてみるも、オルガニアはじーっと自分の持つ二つのかき氷を眺めている。一体どうしたのだろうか。どこか具合が悪いのかを訊こうと俺が口を開いたところで、オルガニアもまた同じタイミングで口を開いた。

 

「……こんなに食えん。こっちはお前が持て」

 

 意を決したようなオルガニアの言葉に、俺は図らずも閉口してしまった。

 ちょっとだけ早口で、不器用な言葉。

 素直に物を渡されて、気まずくでもなってしまったのだろうか。全く、らしくもない。

 

「分かったよ。ただ、溶けるから半分くらい俺が食うぞ」

 

「はぁ、好きにしろ。全くそれ程食い意地をはらんでもいいだろう」

 

「それ、お前にだけは言われたくない」

 

 かき氷を片手に二人で並んで一度ベンチに落ち着きつつ、俺はオルガニアの横顔を盗み見た。

 嬉しそうな顔で未だかき氷を頬張る姿は、本当に小さな女の子のようで、ほんの少しだけ、俺の口角も綻んでしまう。

 

「それで、話を聞こうか」

 

「ああ。ミネルヴァさんの弱点……。正直弱点と呼べるかどうか分からないけど……オルガニアって、ミネルヴァさんの撃剣を見たか?」

 

「ああ。あの日、窓から見ていた」

 

 窓から見ていたのに助けに入らなかったのは、ミネルヴァさんが割って入ってくるのを見ていたからだろうか。

 あの時は本当に死ぬかと思ったんだぞと文句の一言も出て来そうになるが、俺はそれをひとまず飲み込んで話を続ける。

 

「あれって勇者の力と身体能力の他に、もう一つ身体強化の魔法も使ってるんだと。それって、弱点か?」

 

「あともう一つはなんだ」

 

「勇者の力で質量を持たせられるのは、自分が生み出した光だけ……って言ってた」

 

「だろうな。でなければ日中は奴の独壇場になりかねん」

 

 この二つが店でミネルヴァさんに聞くことができた弱点であり、俺に与えられたハンデだ。

 弱点らしからぬ話に疑問を持ち尋ねたが、自分で考えろの一点張りだったので、これ以上の情報は期待できないだろう。

 

「考えられるとするならば……この世界の身体強化の魔法にはなんらかの限界がある、といったところか」

 

「まぁ……人によるけど2つ、3つまでしかかけられない、くらいかな。身体というか脳が身体を使えなくなるんだって」

 

 言うなれば強化魔法はリミッター外し。脳が身体にかけているブレーキの何パーセントかを外し、それに耐えうる肉体の耐久力やスタミナを魔力で高めているという仕組みだ。

 だから発動に限界があるし、効果には制限時間がある。

 それ以上魔法を行使すると身体が拒絶反応を起こして気絶してしまうのだとか。

 

「でも、ミネルヴァさんは強化魔法が得意だって言ってたし、そんなのはミスらないだろ。弱点どころか長所だと思わないか?」

 

 愚痴めいた俺の問いかけにオルガニアは食べ終わったかき氷の入れ物にスプーンを入れつつ、「ふむ……」と独りごちる。

 

「はぁ、いまいちこの世界の魔法を把握していない現状、我には測りかねる。いい機会だ。今回は自分でなんとかしてみろ」

 

「おい、お前今ちょっと考えるの面倒くさいなって思ったろ!?」

 

「気のせいだ。……む。かきごーりが溶けてるぞ、勿体無い」

 

 オルガニアはぱくぱくと俺の持つ溶けかけのかき氷を食べ始めた。

 自分でなんとかしてみろ、か。……試してくださいと言ったのは俺だとはいえ、些か荷が重い気がしてならない。

 

「ほんと、ただ平和に祭りを楽しむだけならどんなに良かったか……」

 

「今回のことで更に名が知れ渡れば、よりぐーたらできなくなるだろうな」

 

「勘弁してくれぇ……」

 

 既に暗雲が立ち込めている未来に打ちのめされた俺は、だらしなくベンチの背もたれに身体を預けるしかなかった。

 

「……それを望んだのは他ならぬお前だろう」

 

「いつ俺がそんな事を望みましたかー」

 

「王都襲撃のあの日、剣を抜いた瞬間から、お前は戦う決意をしたのだ。己が使命と」

 

 綺麗にかき氷を平らげたオルガニアが、俺の目を見てそう告げる。

 それは、全くもってその通りだ。

 

「都合のいい時ばっか逃げて、都合のいい時ばっか勇んで……俺って端からみたら何してんのか分かんないだろうな」

 

「充分だ。それに文句を言う奴は、百戦を勇んだ猛者か、都合のいい時でさえ戦えない愚者に違いないからな」

 

 そう言い残してオルガニアは近くに備え付けてあったゴミ箱までかき氷の入れ物を捨てに行く。ゴミの分別もしっかりできるとは、出来た魔王だ。

 さっきのオルガニアの言葉からすると、ミネルヴァさんは前者と言ったところか。全く、とんでもない人に目をつけられてしまったものだ。

 

「…………。都合のいい時に頑張って、悪くなったら逃げる、か」

 

 もしかしたらそれが俺の根底なのかもしれない、なんて開き直ってしまいそうになる。

 それでも俺の思考は、着実にミネルヴァさんとの戦いに向かっていた。

 

 都合のいい時にしか戦えないのなら、常に都合のいい時にするしかない。

 そのためには、考えなければ。ミネルヴァさんの弱点を誰よりも、沢山。

 この足りない頭を人の倍以上使うつもりで。

 

 ベンチに項垂れていた俺の姿勢は、いつの間にか少しだけ前のめりになっていた。

 





オルガニアが渡したかき氷って、練乳入りなのか練乳無しだったのか。どっちがいいか悩んだ結果想像にお任せしますという方法を取ったのが昨日の話(唐突)
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