勇者の俺は魔王に取り憑かれているが決して闇堕ちしてはいない   作:SK43

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第28章「何時だって何処までも」

「入場に先立ちまして、諸注意をさせていただきます」

 

集合の時間を回ったところで、女性スタッフが一枚の紙を見ながらそう宣言した。

眼鏡を押し上げ淡々とした声色でルールを読み上げていく。

俺は宴闘の会場には初めて来るのだが、スタッフさんの制服、どこか見覚えがある。

考えることしばし。俺ははっと息を飲んで気づく。そういえばあの制服、ギルドの従業員さんと同じ物だ。

 

……それはさて置き。宴闘の基本的なルールを改めて確認する。

 

1. 戦闘形式は1対1。試合前の補助行為や魔法の使用は禁止。

 

2. 戦闘領域から出るか、降参宣言、主審の判断で勝敗が決まる。

 

3. 武器は刃を持たず鋭利でない物に限る。自身の剣を使いたい場合は鞘に収めたまま使う事でその規定をクリアできる。俺の場合はそうするつもりだ。

 

4. 使用できる魔法は初級の攻撃魔法。あるいは殺傷力を持たない強化、障壁、操作、封印などの補助的な物に限る。

 

5. それ以外、主審が正当性に欠けると判断した行為をした場合は失格となる。

 

と、長々とした話を要約してみたものの、ちなみに武器を鞘に収めたまま使うというのは盲点だった。事前にそういう説明をしてくれる辺り宴闘は親切だ。

 

「それでは、皆様の健闘をお祈りしております」

 

軽く頭を下げ締めくくった後、スタッフさんは参加者の通行路から横に逸れた。

 

「さ、始まるぜ」

 

ガストの言葉が宣言であったかのように。直後、会場全体にファンファーレが鳴り響いた。

 

『ご来場の皆様ーーーー!! 大変長らくお待たせいたしましたぁーー!!! 今年も血沸き肉踊る祭典、宴闘の時期がやってまいりました!! 見事活動期を戦いきった戦士たちの勇姿! 今年もしかとその目に焼きつけろーーー!!!』

 

ファンファーレをバックに元気そうな女性の声。いわゆる実況者がいるらしい。たかが決闘の大会だというのに随分大掛かりな気がしてしまうのは俺だけだろうか。

 

『それでは参加者の入場です! 皆様、盛大な拍手でお迎えをーー!!』

 

文字通り盛大な……というよりもはや地響きでも起きそうな程の手を打ち鳴らす音に俺は肩をビクつかせる。

そして会場へと入った瞬間――まさに俺は度肝を抜かれた。

 

「え、えぇ……」

 

俺を含めた参加者はゆっくりと列のまま歩き、入場する。その間に俺は辺りをぐるりと見渡したのだが、どこを見ても人、人、人。

決闘場を円状に囲むように出来た会場はまさに闘技場と呼ぶに相応しい荘厳で荒々しいデザインであった。

 

「う、うわぁ……凄い場違い感が……」

 

「あんまビビんなって」

 

冗談交じりにガストに脇腹を肘打ちされる。その拍子で肺から一気に酸素が抜き出て咳き込む俺をガストは面白そうに笑い飛ばした。

 

『実況解説を務めさせていただきますは私達ソルディース放送事務局のエンターテイナー!』

 

観客席の更に上。観客が2階にいるとすれば実況席は3階だろうか。

窓越しで顔はよく見えないが、そこに二人の女子が座っていた。片方は身を乗り出して、もう片方は気だるそうに頭だけをマイクに向け、机に突っ伏している。

 

『ソナーでーす!!』

 

『……エコーでーす』

 

二人が交互に名乗りを上げたとほぼ同時に会場がわっと歓声に包まれた。

思わず耳を塞ぎたくなる程の割れんばかりの声。あまりのうるささに耐えかねてオルガニアが会場を吹き飛ばさないだろうか。

吹き飛んだ後の会場は静まり返ってさぞ過ごしやすい環境となることだろう。

 

「……あいつらは双子の有名なラジオパーソナリティって奴でな」

 

「え? ラジオ?」

 

「ま、あいつらを見たいがために来てるっていう連中も少なくねぇ程度には人気のようだぜ」

 

会場がなんとか治まってきたところでガストが二人を見ながら軽く説明してくれる。なるほど、彼女らはソルディースにおいて所謂アイドル的な立ち位置といったところか。

 

「やかましいソナーが喋って知識人のエコーは色々と補足……って感じでうまくやってるらしい」

 

「……ふーん」

 

『さぁて戦士諸君の顔見せはここらでいいでしょうか! それでは皆様お待ちかね、第6回ソルディース宴闘を開催いたしまぁーーーーすっ!!!』

 

ソナーの大々的な宣言に、会場はまたしても歓声に包まれた。

 

形式的な開会式が終わった後は、俺たちは数字の書かれている紙を渡された後、ひとまず控え室に通される。

壁が特に塗装されているわけでもなく鉄材剥き出しであまり綺麗とは言えないが、少しだけ静かなところでほっと一息ついていたところ、俺は見知った顔に声をかけられた。

 

「アルスくん、アルスくん、昨日ぶりー」

 

「あ……モイヤ!」

 

間延びした声を携えて手を振りながらこちらに近づいてくるのは昨日遭遇した巨人の傭兵、モイヤだ。相変わらず大きい。今も控え室の天井スレスレだ。

 

「モイヤも出場するのか」

 

「もちろんだよー。今からすっごく楽しみなんだぁ。なんたって今回の宴闘には君を含めて勇者様が二人も出るんだよ?」

 

「はは……なるほど」

 

モイヤが祭りにいた事にようやく合点がいった。考えてみたらそれ以外ありえなかったかもしれない。

モイヤは所謂生粋の勇者オタク。

サインがどうのとかも言っていたし、勇者を追いかけて宴闘に出る事に決めたらしい辺り、本当に筋金入りだ。

 

「ああ、そうだ。ガスト。こいつはモイヤっていうんだけど……あれ?」

 

「あ、隣に居た彼なら、出番だから行っちゃったんじゃないかなぁ?」

 

「……出番? 早いな」

 

控え室に通されてからまだ30分も経っていないというのに、もう準備が整ったのだろうか。

 

「ほら、あそこのモニターに番号が書かれてるんだけど……さっき数字書かれてる紙貰ったでしょ? その数字と一致した人が出番ってわけ」

 

「へぇ……そうなのか」

 

控え室に向かう際に貰ったが、なるほどこれはそういう意味だったのか。

俺は8と書かれた紙をポケットから取り出し、手に取ってみる。

 

「それでね、試合も同じモニターで観れるから……研究するもよし、準備するもよしだよ~」

 

「……そっか。わかった。ありがとうなモイヤ」

 

「そんなそんな、えへへへ」

 

俺がお礼を言っただけでふにゃりと顔を砕けさせる。俺にとってはそれがなんとなく不思議で、なんとなく微笑ましかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでは間も無く入場となります」

 

「おう」

 

戦いの場へと続く門の前に立たされる事数分。どうやら場は整ったようだ。

何も言わずにいなくなっちまったが、()()()は大丈夫だろうか。

 

静かに、扉は開かれる。

やれるだけの事はやったし、後はそれ相応に頑張って戦うだけの簡単なお仕事だ。ま、勢い余って勝っちまったらちょっと申し訳ねぇが。

 

「契約者よ。汝、かの者とは契約を果たしてはいない。その血、その刃は何のために振るわれる?」

 

「あ? あぁ……その事か」

 

普段事務的な事しか尋ねてこない精霊が久しぶりにそれ以外の事で話しかけてきたと思ったら、なんだそんな事か。

見返りもなんもないのに、どうしてアルスに手を貸すんだ、とコイツはそう訊きたいのだろう。

 

俺は言葉をまとめるために後頭部を雑にかく。

 

「理由なんか特にねぇよ。あいつの事は助けてやった方がいい……なんとなく、スゲェ奴なんじゃないかっ……て。直感だ」

 

「…………」

 

「大事だろ? そういうの」

 

あいつの人となりや過去は知らねぇし、逐一知ろうとも思わない。

ただ、俺は俺の直感を信じてあいつを……アルスを手伝ってる。

なんだかんだ理由をつけて手伝ってきたが、そろそろなんか企んでんじゃないかと疑われそうだな、なんて嘲笑しながら。

 

「……幾千もの思考を繰り返しても、汝の思考を手に取る事はできない」

 

「そーかよ、なら黙って付いて来い。今回のお相手は……気ぃ抜いたら格好つかねぇまま終わっちまうぜ」

 

精霊はそれ以降沈黙することで俺への答えとした。そんな精霊に俺は満足げに頷く。

開かれた門を潜り、そして……俺は精霊(相棒)と共に歓声の鳴り響くステージへと上がる。

 

『さぁ、それでは早速第一試合!! まずはトップバッターを任された戦士二人の名を聞こう!!』

 

「それでは、お名前と……何か言いたい事があればどうぞ」

 

ソナーの頭に響く声を聞き流しながら、俺はスタッフと思わしき人間にマイクを向けられる。

特に名乗る必要もねぇが、まぁ形式というのなら仕方ねぇ。

 

「ガスト=グラディエルス、傭兵だ。ま、てきとーに頑張るわ」

 

そして向かい側から現れた俺の対戦相手は――もちろん、思惑通り。

 

「騎士、ミネルヴァ=スカーレットだ。騎士として恥じない戦いを見せる」

 

騎士、ミネルヴァ。

たかだか宴闘に騎士団副団長が参加するなんて、本当にアルスはとんでもないバランスブレイクをしてくれたもんだ。

 

ミネルヴァが名乗ると会場は期待と困惑に騒ついた。それもそうだろう、あの女は文句なしの有名人。この場にその手のファンがいないはずがない。

やたら甲高い歓声が妙に喧しいが、こいつのファン層ってのは女が多いのだろうか。

 

『のっけからとんでもない人が出てきましたね! そんじゃエコー、二人のご説明をよろしくっ!』

 

ソナーの促しで今までほぼ沈黙を保っていたエコーがようやく口を開く。

 

『うん……と。ガストは、見た目的に肉体派だけど……実は万能型の魔法使い。使える魔法は百を超えてる……と思うわ。正に傭兵代表の魔術師……ね』

 

囁くように、というか篭ったような喋り方がエコーの特徴だ。マイクがなけりゃロクに聞き取ることもできやしない。

耳に張り付くような声と喋り方が絶妙に良いという物好きな連中もいるらしい。

 

『……ミネルヴァ、は、黄金の騎士さん。……光に質量を持たせる、勇者の力を持つわ……。後は……見かけによらず、パワータイプ』

 

『つまりはギャップ持ち同士のぶつかり合い!! こいつは楽しくなってきましたよ!! 間も無くスタートです!』

 

エコーの説明には毎度舌を巻かされるが、よくもまぁスラスラと人に関する情報が出てくるもんだ。俺やミネルヴァはまだしも、その他の殆ど活動してねぇような一般人染みた傭兵に関する話まで持っていやがるもんだから格が違う。

 

噂によりゃその手の魔法を使ってるとかなんとかだが、何れにしても眉唾だ。

 

そういえば、と剣を抜く前にある場所を見てみる。

あのお嬢ちゃん二人は無事にたどり着けたのかが気がかりだった。

いるはずの場所に視線を送ると……いた。どうやらちゃんとたどり着けたらしい。俺の目線を察したのか、ちっこい方の嬢ちゃんが手を振ってくる。

 

……やけに目がいいな。いつか何者なのかを聞いてみたいところだ。

 

「さて。あんたにとっちゃあ前哨戦だろうが……こちとらただの当て馬で終わる気はねぇぞ」

 

背中に背負う大剣を鞘ごと引き抜き、構える。鞘があるのはちと邪魔臭いが、俺は殆ど剣を振らないから我慢はできる。

ちなみに鞘と剣はしっかりと固定してある。それはミネルヴァも同じのようだ。

 

……あの剣が専用神器(アーティファクト)って奴か。

 

俺は俺の後に倣って構えるミネルヴァの剣を見る。

鞘に包まれるそれは、果たして力を発揮するのだろうか?

 

『両者、準備はよろしいでしょうか!? それでは……試合開始ーーー!!!』

 

様子を見るより、先手必勝が吉か――!

 

詠唱を始めるために口を開いた……刹那。早速その判断は間違っていたことに気づかされる。

 

「すぅ……はっ!」

 

「は……あっ!?」

 

突然の衝撃。そして視界いっぱいが白く染まり、身体が宙に浮く嫌な浮遊感が遅れてついてくる。

俺は何が起きたかを理解するのに数秒かかった。

 

『で、出たぁーー!! 速い! 光に質量を持たせる力! ちょと、これこっちも見えないけど!? どうなってる!?』

 

『……ガストが、ふっとんじゃったわ』

 

『よく見えるわねエコー! や、やはり黄金の騎士の名は伊達ではないようです! これは早速傭兵ガスト、ピンチかー!?』

 

「ご心配なく……! 普通の魔法使い舐めんなよッ!」

 

少しビビったが距離が離れたのは良い。更に数メートルの距離が出てくれたおかげで追撃の心配なく詠唱を――。

 

「遅い!」

 

「んなにぃー!!?」

 

しようと思ったところでまたしてもその隙を奪われる。

ミネルヴァは人外の速度でこちらに接近、そして構えは間違いなく……あの技!

 

「『守護神よ――』いや、『撃て』!!」

 

障壁では間に合わないと判断し、俺は急遽行使する魔法を変更。風撃【ゲイル】を足元に放つ。

地面を抉りとる風に乗って俺は思い切り地面を蹴って跳躍することで、ミネルヴァの振り下ろす剣の範囲からなんとか脱出を図った。

 

「ッ……ゃぁぁああああああ!!!」

 

光とともに重たい剣がしなる腕に合わせて振るわれる。

豪っ、とあたりの空気が斬り裂けて、土煙を上げながら剣は地面へと突き刺さった。

 

「ぐっ……どわっ!?」

 

剣はなんとか躱せたものの、剣撃の余波が俺を更に空高く打ち上げる。

……さて、これは着地をどうしたものやら。

 

「っざけんなよ、いつの間に強化魔法を使いやがった……!?」

 

空中でミネルヴァを睨み、俺は悪態を吐く。

しかし今は着地の事より次のことだ。

 

どう考えてもミネルヴァのあの動き、強化【フィジカルビルド】で身体能力を上げている。

タイミングは、光った時しか考えられないが詠唱の声は聞こえなかった。それほど小声では詠唱ができないはずだから、聴き漏らしたわけじゃないはずだ。

 

なら、何時だ……!?

 

「っぐ!!」

 

そこそこの高さから着地し、足が悲鳴をあげる。骨に異常がないことだけを祈り、俺はすぐさま距離を取るべく行動に移った。

 

「『流れよ』――『焦がせ』!」

 

詠唱を阻害される危険性もあったが、俺は二つの初級魔法を連鎖起動(チェインタスク)。同時に起動させる。

実はシルクと戦ったあの時以来少しだけ真似て練習していたのだ。

 

それほど大層な物はできなかったが、俺が使ったのは水撃【マリン】と炎撃【ティンダー】。それぞれ単体ではただ水を出す魔法と対象を発火させる魔法だが……水を発火させる事でちょっと変わった魔法になる。

 

「名づけて、煙幕【ベール】……あ、命名はウチの精霊な」

 

そこそこの量の水が一斉に発火。すると、水はみるみるうちに蒸発し、大量の湯気……もとい煙幕を場に撒き散らした。

 

「っ……!」

 

魔力をケチったか、ミネルヴァのその隙を当然見逃さない。強化【フィジカルビルド】を詠唱――は、せずに別の魔法を詠唱した。

 

「『命ず。磔に身を捧げ、罪の償いをせよ』」

 

煙幕の中、俺の大剣が怪しく黒い光を放った。

これで準備は完了。俺は力一杯剣を空に向けて放り投げる。

 

「……ハッ!」

 

ミネルヴァが放った光によって会場が再び白に包まれ、それに照らされるかのように煙幕が霧散してしまう。

なるほど、光に質量があれば霧払いも可能ってわけか。

 

だがそれはちと遅かった。ここからは攻守交代だ。

 

「……何か仕掛けてくると思ったのだがな……ッ!?」

 

「……気づくの早えな、オイ!」

 

俺の手に大剣が握られていない事に即座に見抜いたミネルヴァはすんでの所で落ちてくる大剣を躱す。

 

「ほいっとぉ!」

 

俺はすかさず指を打ち鳴らし、大剣に付与(エンチャント)した魔法を起動。

黒く光った大剣からは縄状の光が宙に展開され、徒党を組んでミネルヴァに襲いかかった。

これには流石のミネルヴァも不意を突かれたようで、後退を選ぶ。

 

「……ん? 使わねぇなって、逃すかよ!」

 

ちくり、と針に刺されたような違和感を覚えたが、今はそれを考えている暇はない。

後退するミネルヴァを追撃するように俺は駆け出す。

 

「『我が志は折れぬ鉄剣と心得よ』」

 

そして今度こそ【フィジカルビルド】をかけ――二歩目で、一気に加速。

 

「『空、仰がんとするならば――」

 

「ちっ――!」

 

流れるように剣を回収した直後、再三放たれる光に突っ込み、強化された膂力と動体視力に任せて迫り来る光を蹴る。

 

光の山を踏みしめ、瞬き程の時間もかけずに昇り、高く高く舞い上がる。正に電光石火、人外の動き。人の限界を超えた力を得るのが強化魔法だ。

 

「地に足をつけ、生きてみせよ』!」

 

そして魔法は、完成する!

 

操作【グラビティ】は自身にかかる重力を倍にする魔法だ。

俺の身体がズシリと重くなり、隕石の如き勢いを得る。

 

「『搔き消えろ』!」

 

高速落下が始まるため衝突に備えていると、俺の落下する勢いが急速に無くなった。

これは……。

 

「ディスペルか! 詠唱切り詰めてんなぁ!」

 

「少し無茶をするがな……っ!」

 

「ぬぐぅあ!」

 

空中ではまともに身動きも取れずに、剣での攻撃を防ぐ手段はこちらも剣のみ。

鞘と鞘がぶつかり合う一際重たい音が響き、俺は思い切り横に吹き飛ばされた。

 

「づっ……げぼ、ごほっ。にゃろうめ」

 

背中から叩きつけられ、俺は数回咳き込む。

手の甲で口元を拭い、追撃のために接近してくるミネルヴァを睨みつけた。

 

俺の重力を元に戻したのは阻害【マジックディスペル】。そこそこ要求魔力の多い阻害魔法だ。

それを使わざるを得なかったのなら……今のは上手く引き出せたな。

 

『おおお、両者一進一退の魔法合戦!! まさに、一瞬の油断が命取りといったところでしょう! やっぱ魔法勝負はテンション上がるわね!!』

 

『魔法使いの戦いって……実は先に魔力切れを起こした方が、負ける、地味な戦い……。でも、騎士ミネルヴァは剣士でもあるし……どうなる……かしら』

 

一連のやり取りを見てエコーがそんな事を言う。実際その通りだ。如何に相手に魔法を打たせ、こちらは少ない数でさばき切るか。その読み合いこそが魔法使いの戦闘の全てであるといえる。

その点考えると俺は一歩リードだ。

 

確かにミネルヴァは剣技も修めている騎士だが、魔法さえ通る様になっちまえば後はどうにでもできる。それが可能な程度には魔法ってのは便利で強力だ。

 

『……阻害魔法で体勢を崩して……相手の防御手段を狭めて、自分に強化も、つけられた。……これは……お見事、よ。……ぱちぱち』

 

気の抜けたような賛辞の言葉を聞く余裕も無い。ミネルヴァの剣撃をギリギリで捌きながら、ただ俺の頭は当初の目的も忘れて戦いの事だけに向かっていた。

 

「……負ける気でいたが、やってみっか」

 

飛び退く様にもう一度距離を取ってしきり直す。

アルスにゃ悪いがな、と。そう呟き……俺は剣を投げ捨てた。

 

『……? どういうことでしょう、傭兵ガスト、剣を捨てちゃいました……』

 

俺の行動に会場がどよめく。目の前で対峙するミネルヴァも警戒するかのように足を止めた。俺の力をある程度認めてもらった様で何より。

 

「実は俺って弱えんだよ。……魔法は使えても所詮凡人止まりだ。じゃあ強い奴に勝つにはどうすんのかって言ったら……」

 

動く準備を整えるため、俺は首と手を乱雑にぶん回す。

ゴキリ、バキンと嫌な音がするが、それが今の俺には心地よく響く。

 

「力の差を誤魔化すんだよ。沢山沢山、考えてな」

 

俺の戦いは、何時だって何処までも技巧派でなければならない。

我ながら似合わないな、なんて思うが、鼻で笑うことで一蹴する事にした。

 

 

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