勇者の俺は魔王に取り憑かれているが決して闇堕ちしてはいない   作:SK43

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第2章「お祓いに行こう」

「…………はぁ」

 

『なんだ。未練でもあったのか?』

 

 夢の中で一悶着あった後。

 あれから目覚めた俺は約束通り女神から貰った専用神器(アーティファクト)の魔力を全てオルガニアに渡したのだ。

 かくして魔力を全て吸収された剣は一般的に売られているような普通の剣へと成り下がり、俺が握っても、もうなんの反応も示さない。まぁ反応しても少し光る程度だったから、殆ど差はないのだが。

 

「……で、まだ魔力は戻りきってないのかよ?」

 

『あれ如きの魔力で足りるわけがないだろう。もっと必要だ』

 

「はぁ……そんなにホイホイと神器は見つからないっての」

 

 俺はベッドの上で肩を落とす。

 オルガニアに言い渡された俺の新たな使命は「神器集め」だった。

 神器というのは遥か昔、神が作り出した道具や装備品の事を指すのだが……滅多に見つからないらしく、生涯で1つ神器を見つけられれば運がいい方、とまで言われるほどだ。

 

 それだけ聞くと神器の数がそもそも少ないのか、という疑問が出てくるが別にそういうわけではない。

 昔は様々な物を司る神が何柱もいたらしいから、寧ろ多い方だ。

 けれども何故だか神器は人前に姿を現さないらしい。

 

 だからこそ神器を探すとなると難航する事は確実。これから先の苦労を考えると俺の口からはため息しか出ない。

 

『なに、断っても構わん。その場合お前の身体を乗っ取ってここら一帯を更地にしながら神器とやらを探すまで』

 

「それ断るなって言ってるような物だからな!?」

 

 達の悪い魔王ジョークなのかなんなのか、こいつは事あるごとにこんな風に脅してくる。あの小さな身体のこいつがそんな事を出来るかは甚だ疑問ではあるが……。

 

「なぁ、お前さ。本当に俺の身体を乗っ取るとか出来るのか? 更地とかは別として」

 

『造作もない。我の力が雀の涙以下しか残っていないとしても、お前の全てを支配するのに支障はないな』

 

「ならさ、実演してみてくれよ。出来たら俺も神器集め頑張るぜ」

 

『ほう。やれるものならやってみろ、と言うか。存外お前は度胸があるようだな』

 

 オルガニアが不敵に笑ったような気がして、俺の背中にぞくりと悪寒が走る。

 けれどもこいつの言うことが本当かどうかも分からない。もしハッタリであったら神器集めなどやらなくていいのだ。

 

『では、やってやろう』

 

 そう言うと、オルガニアは途端に静かになった。

 何かを念じているのだろうか、オルガニアは一切喋らない。

 つられて俺も黙ってしまった。

 

「…………」

 

 乗っ取る、というのは一体どういう感覚なのだろうか。今回の俺の提案はそういう怖いもの見たさから来る好奇心も理由の一つにあった。

 なにが起こるのかを少しだけ楽しみにしながら、俺は動かずにただじっと待つ。

 

 すると数分もしないうちに、俺は額に脂汗が浮かんでることに気がついた。俺は何気なくその汗を拭う。

 

 ……そういえば、なんだか身体の内側がやけに火照っている。

 いや、熱い。……いや、滅茶苦茶熱い。

 

 ちょっと待て、焦げる。

 

「って、あっつ!? あっちちちちちっちち!? なんじゃこりゃ!?」

 

『はっはっは。お前の中を暴れ回って一度お前を殺そうとしているのだが』

 

「ちょっ!? なんて事してんだお前は!? やっぱりやめろぉ!!」

 

 必死の思いでオルガニアに懇願するが、あまりの熱さで転げまわる俺を笑い者にしながらオルガニアは尚もやめてくれない。

 

『ククク……まるで音の出る玩具だな。まぁここらで止めておいてやろう。これで分かっただろう?』

 

「…………ぐふっ」

 

 痛いほどによく分かった。

 しかしそう返答しようとしても口が上手く動かず、鉄の味がする咳が漏れた。

 

 俺を一度殺して俺の肉体だけを奪う。というのが身体を乗っ取る方法らしい。

 精神だけ入れ替わる的なもっと優しい物を想像していたのだが、これは予想外だ。いくらなんでも物理的過ぎやしないだろうか。

 

「……こうなったら、ちょっと試してみるしかないな」

 

 なんとか身体が動くまで復活した俺は誰へともなくそう呟いた。

 幼女の見た目に油断したが、これ以上こいつと一緒にいたら間違いなく俺の命は文字通り灰塵と化す。

 俺は僅かな望みをかけて、ある場所へと向かう事に決めた。

 

 ただの剣と成り下がった専用神器(アーティファクト)を担ぎ、俺は部屋のドアを開けて廊下に出る。

 

「あっ、お出かけですか?」

 

 廊下に出るとすぐに宿屋の主人である少女に声をかけられた。どうやら掃除中らしく、彼女の手には箒とちりとりが握られている。

 本当に一人で掃除をしていた事実に改めて驚愕するが、少女の顔には疲れは見られず、穏やかな笑顔は変わらない。

 

「はい。夕食までには戻ります」

 

「分かりました。お気をつけて!」

 

 俺はそう言ってにこやかに笑う少女に癒されながら外に出た。目指す場所はただ一つ。教会である。

 

 俺が向かう場所を告げると、オルガニアはつまらなさそうに鼻を鳴らした。

 

『この世界の聖職者如きに我を祓えると思うとは、お前も中々諦めが悪いな。……まぁ、好きにしろ』

 

 などとかなり馬鹿にしているが、王都の教会はこのソルデではかなり有名だ。

 大昔、邪神との戦争から人々を護ったと伝えられている女神、セイクリアを祀り、崇める事で救いを求めるセイクリア教はソルデでは最もメジャーな宗教である。

 そして王都ソルディースのセイクリア教会といえば、そのセイクリア教の総本山。正に聖地と言われる場所だ。

 

 教会には女神の加護を受けた専用神器(アーティファクト)を持つ勇者、もとい大神官のレストという名の老人がいるらしい。

 彼の力を持ってすれば、俺に取り憑いた魔王オルガニアを追い出せるのでは無いか、と思ったのだ。

 

 聖地と呼ばれる理由は諸説あるらしい。まぁそれはセイクリア教に所属していない俺の知るところではないが。

 と、そこまで説明するとオルガニアは早速とあるワードに食いついてきた。

 

専用神器(アーティファクト)を持つ者、か。ふむ、アルスよ。中々やるではないか。早速我に神器を貢ぐとはな』

 

「いや目的はお前のお祓いだからな。間違っても神官さんの神器の魔力を根こそぎ取ったりするなよ。絶対だからな!」

 

『それは、して欲しいというフリか?』

 

「断じて違うわ!」

 

 なんでこいつは変なところで無駄に人間味を帯びているのだろうか。

 こうやって普通に話しているとこいつが魔王だという事を度々忘れてしまいそうになる。

 

 夕食まで寝れると思っていたが、オルガニアに起こされた所為で眠っていた時間はあまり長くなかったようだ。その証拠にまだ日が傾きかけていても王都の大通りは明るかった。

 一切の行動を阻害しないとか言っておきながらバリバリ阻害してるじゃねぇかと突っ込みを入れたいが、今は取り敢えず黙っておく事にする。

 

 人通りはまだまだ盛んで、俺のデカい独り言を不審に思った周囲の人間から白い目で見られる。

 今、親に手を引かれる小さな子供に指を指されたような気がするが気のせいだろう。気のせいだと思いたい。

 

「ママー、あの人なんか変ー」

 

「こ、こらっ見ちゃいけませんっ」

 

 生きているうちにそのテンプレのような会話を聞けるとは思わなかった。いやはやあれが俺に向けられた物でなかったら珍しい物を見た程度で済んだのだが。

 

 唐突に俺は、死にたくなった。

 

 少年よ、人を指差してはいけません。

 

「ああ、忘れてた……なんで普通に喋っちゃうかなぁ俺は……」

 

『ぷっ……ふふっ、中々滑稽な物を見せてもらったぞ』

 

「クソ……お前、マジ、覚えてろよ……」

 

 楽しそうにオルガニアが笑いを堪えている。こいつ、さては分かってて話してやがったな。

 俺は今は歯を食いしばって屈辱に耐える。

 大丈夫。大神官ならこの野郎を抹消させられるはずだ。

 

 見てろこの馬鹿魔王。その余裕の表情……は見えないが、余裕の態度はすぐに無くなる事になるんだぞ……。

 

 

 

 ◆

 

 

「つ、ついた……」

 

 心に深い傷を負いながらも、俺はなんとか教会にたどり着いた。

 時刻はすでに夕方。茜色の光に照らされて、神々しい外観の教会は更に神聖な雰囲気を纏っていた。

 俺は教会の戸を開き、中へと入る。

 

 教会の中はギルドよりもふた回りほど大きい。祈りを捧げる信者たちの為にいくつもの椅子が用意され、奥の高台には女神セイクリアを模した石像が厳かで優しい照明の光を浴びて鎮座している。

 壁にあるいくつものステンドグラスが外の夕日を集め、暗くもなく明るくもない、幻想的な光景がそこにはあった。

 

 祈りを捧げる信者もちらほらと見られる。もう夕方だというのに殊勝な事だ。

 

『教会とやらに入るのは我は初めての経験だが……あれがこの世界の女神か?』

 

 オルガニアが尋ねてくる。

 あれ、というのは最奥にある女神の石像の事を指しているのだろう。俺は小声でそれを肯定した。

 慈愛に満ちた微笑みを携え、全てを受け入れるように差し伸べられた両手。石像なので色は分からないが、腰の辺りまで伸びている躍動感あふれる長髪が神々しさを感じさせる。

 

「ああ……そうらしい。女神セイクリア。俺の専用神器(アーティファクト)もあの女神から貰ったものだよ」

 

『なら、さしずめ人間はあの女神の下僕とでも言ったところか』

 

「言い方を変えろ言い方を」

 

 聞かれれば信者たちに囲まれてボッコボコに殴られそうな台詞だ。

 女神は自身の力を大昔の邪神との戦いで使い果たし、今ではそのなけなしの力を魔王に襲撃されている人間達の為に使ってくれている……らしい。人のために身を削って力を貸してくれているのだから下僕、という表現は正しくないだろう。

 

 勇者にのみ渡される専用神器(アーティファクト)も女神の力添えの1つだ。他の八百万の神が作り出した神器とは違い、女神セイクリアの力が多く込められている。俺のは既にその力を無くしているが。

 

「……さて、と」

 

 話はそれくらいに切り上げて、俺は教会の奥の方、女神像の元へと歩く。

 

 教会が開かれている時間では神父かシスターが一人は必ず常駐していて、呪いのお祓いや入信の依頼が出来るのだ。

 だから俺は静かに佇んでいるシスターさんに話しかけ、依頼を持ちかける。

 

 ちなみに信者でなくとも利用は可能だ。来る人拒まず。但し、お祓いには寄付金という名の料金がかかる。

 

「あの、すみません。お祓いをお願いしたいんですが」

 

「お祓い、ですか? かしこまりました。ではこちらの手帳にお名前をお願い致します」

 

 シスターさんに言われた通り、手帳にペンで名を記す。

 お祓いはそれほど複雑な事は無い。

 聖職者が持つ魔力を対象に送り込んで除霊、あるいは呪いを身体から追い出すだけ。

 

「では……寄付金として3銀を頂きますが、よろしいですか?」

 

「はいはいっと」

 

 俺は腰につけていた麻袋から銀貨を3枚取り出してシスターさんに手渡す。金に関しては勇者には国が支援金という名である程度の補償をしてくれるので問題はない。国民の税金で成り立っているのであまり無駄遣いはできないが。

 

 この世界の通貨は金貨、銀貨、銅貨と3種類存在し、金貨が最も価値が高い。銅貨10枚で銀貨一枚分。銀貨10枚で金貨一枚分といった単純な仕組みだ。

 

 パン一つが銅貨3枚から5枚程度だから、銀貨3枚というのは少しばかり高値と言えるだろう。お祓いというのは簡単に見えて意外と危険性を孕んでいるというのがお高い理由の一つらしいのだが。

 

「それでは、始めます。目を閉じて、精神を統一してください」

 

 シスターさんが優しい声でそう促してくる。シスターさんが魔王を祓えるかどうかは分からないが、取り敢えず試しにやってみてもらおう。

 俺は言われた通りに目を瞑って心を落ち着ける。

 

「…………」

 

 沈黙が辺りを包む。

 

 しかし暫く続くかと思った沈黙は、直ぐにシスターさんによって破られることとなった。

 

「きゃあっ!?」

 

 シスターさんの悲鳴が静かな教会に木霊する。

 何事かと俺は目を開いた。

 

「こ、これは……。ちょっ、ちょっとお待ちください!」

 

 数歩後ろによろめいたシスターさんは見るからに狼狽えて、即座に奥の部屋へと駆け出していなくなってしまった。

 ……お祓いをしようとはしてくれてたみたいだが、やはり無理だったか。

 

『なんだあの粉のようなスカスカ魔力は。相手にならん。次』

 

 そして案の定シスターさんの力を弾いた俺の中にいる呪い……ではなく魔王はつまらなさそうに鼻を鳴らす。

 

 本当にお祓いは上手くいくのだろうかと、俺は一抹どころではない不安を抱いた。




読んでくださりありがとうございます。
なるべくテキパキと更新を続けていきたいと思っていますのでおヒマな時にでもまたお立ち寄りをノシ

取り敢えず手っ取り早く魔王の凄さを最初に見せておきたいところです。
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