勇者の俺は魔王に取り憑かれているが決して闇堕ちしてはいない   作:SK43

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第35章「勝負の天秤」

「そっか……そういう使い方もできるわけだ」

 

「……」

 

 ミネルヴァさんの持つ剣先に灯った光が洞窟内を照らし、足元を確かなものとしながら俺たちは進む。

 質量があろうがなかろうが光は光。闇を照らすのには申し分ない。

 照らされた洞窟の風景に目を向けてみれば、そこには苔むした石の壁がどこまでも続いているいかにもな空間が映る。地面は下を見つつ気をつけて歩かねば転んでしまいそうなほどには泥濘んでいる悪路だ。

 

「それでも視界は悪い。気を緩めるなアルス=フォートカス」

 

「気ぃ緩められるほど図太い神経してませんよ……」

 

 抑揚のないミネルヴァさんの忠告に俺は震える声で答える。心配せずとも、俺の身体はすでに絶賛緊張中でガチガチである。

 その証拠にほら、今自分の足に足を引っ掛けて転びかけた。

 

「1つ聞く」

 

「……なんすか?」

 

 足元に気をつけながら歩いていると、先導するミネルヴァさんが振り向きもせずに話を切り出した。

 前に気を取られると、今度は何かにつまずいて転びかける。

 

「貴方はやはり、魔王と手を組んでいるのか?」

 

「あー……手を組む、というか契約してるというか。なぁオルガニア……言ってもいいのか?」

 

『好きにしろ。こいつには今更隠しても致し方がない』

 

 小声で諦め半分のオルガニアに確認を取り、お許しが出たということで俺はオルガニアと出会った経緯を話す。

 そういえばこうして詳しくオルガニアの事を話すのは初めてかもしれないな。むた

 ひとしきり語り終えると、ミネルヴァさんは暫く押し黙って、そして

 

「分かってはいたが……仮にも勇者を名乗る者が魔王などとそんな関係になるとはな」

 

 吐き捨てるように言った。

 やはり生粋の勇者からすれば魔族と手を組むという発送は唾棄すべき邪悪として考えるのが当然のようだ。

 そのことを自覚している勇者の俺は肩身が狭くてたまらない。

 

『やれやれ、視野の狭い女だ』

 

「ッ! 貴方にそんな事を言われる筋合いなど!」

 

『おまけに短慮、か? クックック』

 

「くっ……」

 

 くつくつと笑うオルガニアに良いように遊ばれていると自覚したミネルヴァさんは悔しげに歯噛みするしかない。

 ミネルヴァさんはその澄んだ朱色の瞳を吊り上げながらも唇をぎゅっと噛んでから、息を吐いて肩の力を抜いた。

 

「確かに、私の視野は……狭い」

 

『ほぉ……。物分かりのいい奴だな』

 

「……アルス=フォートカス」

 

「え、俺? ですか?」

 

 オルガニアとの会話から急に名を呼ばれ、俺はびくりと肩を震わせる。

 すわ何事かと目を大きく見開いていると、ミネルヴァさんは予想外なほどに静かな声色で語り出した。

 

「いつか、聞かせてほしい。……貴方の勇者としての答えを。誇りを」

 

「え……」

 

「そして、それで私が納得できたなら、その……できたら、だがな」

 

 妙に歯切れの悪いのを珍しいと思いながら俺は口を挟まずに続きを待つ。

 やがて「ごほん」という態とらしい咳払いを前置きとして、ミネルヴァさんが口を再度開いた。

 

「その時は――……その、謝罪、させてもらう」

 

「へぁ?」

 

 交わせるとは夢にも思っていなかった約束に、俺の口から裏返った理解不能の声が飛び出る。

 何を言っているのかを理解する前に、俺の心はミネルヴァさんの言葉に含まれる感情を受け取る。

 違うかもしれない、少しだけかもしれない。けれどもその言葉に含まれていたのは確かな「期待」。

 それを感じ取った俺の胸中にはふつふつと喜びの感情が満ち始めて、自然と口角が綻び、そして――

 

「その言葉、ぜっっったいに忘れるなよ!」

 

 目上の人に対する敬語も忘れて、指を突きつけていた。

 

「ふ、ふん。安心しろ。……私に、二言はない」

 

 いつもの調子を保とうとしていても、歯切れが明らかに悪くなっているのがわかる。

 前を向いて先導し続けるミネルヴァさんの表情はついぞ拝むことはできなかった。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

『ミネルヴァより立案。――以上の推察により、私とアルス=フォートカスはこれより敵の拠点を奇襲、及び人質の救出に移る』

 

 そんな一報を宴闘の会場にいた騎士が俺たちに伝えてきた。アルス=フォートカス。その名を聞いた瞬間に()は自分の顔が引きつるのを感じた。

 あの馬鹿野郎、俺になんの相談もせずに一人で飛び出して言ったってぇのかよ。

 そのこと自体に苛立ちを覚えなくはないがアルスも錯乱していたのだろうし、仕方がないといえば仕方がない。

 

 俺たちが異変を感じて控室から外に飛び出した頃には、もう全てが始まっていた。

 時限式の召喚魔法、それが会場を含め街中のいたるところに設置されていたのだ。おかげさまで祭りをやっていた所に召喚された魔法人形(ゴーレム)が大量に出現し、街は少なからずの被害を被る結果となった。幸いにして外に出ていた騎士が何人かいたため、今のところ怪我人は出ていないということだ。あのお嬢ちゃんらは無事と見ていいだろう。

 

 そして宴闘の会場であるここにも当然のごとく魔法人形(ゴーレム)が湧いたのだが……

 

「クソ……ああ、邪魔だっての!」

 

 もう何度目にもなる魔法の詠唱が完了し、紫電【フォールボルト】が石造りの巨大な人形に突き刺さる。

 雷鳴が空を切り裂き、音だけは豪快に轟くものの、その実敵に与えるダメージは芳しくない。魔法人形(ゴーレム)には魔法があまり通用しないというのは勉強させられた。

 舌打ちをして大剣を背負い直していると、その隣でもう一つの激突が起こっていた。

 

「剛拳、中段――そぉりゃ!」

 

 アルスと戦った巨人、モイヤが岩のような拳を叩きつけて魔法人形(ゴーレム)を吹き飛ばす。身長と体格がほぼ同じな両者だが、武術を修めているモイヤの方が圧倒的に格上と言える。

 モイヤは確かな手応えを感じたようだったが、自身の拳を睨みつけて顔をしかめる。

 戦況は優勢。だという風に見えるだろうが、俺たちがこうして歯噛みをしているのには理由があった。

 

「こいつら……壊れねぇ」

 

「さ、さすがに頑丈すぎるよぉー」

 

 俺やモイヤ以外の傭兵たちも魔法人形(ゴーレム)の異様な耐久力に苦悶の表情を浮かべている。魔法人形(ゴーレム)の耐久力はあくまで素材に依存するはずなのだが、爆発でも本気の拳闘でも剣でも槌でも壊れない。おまけにこの木偶人形どもは召喚の魔法陣から次から次へと湧いて出てくるし、ジリ貧なんてものではない。

 どれほど雑兵だろうとも数という力を得させてしまえば俺たちはひとたまりもないだろう事実に俺は眉間に思い切りしわを寄せて脂汗を垂らした。

 魔法人形(ゴーレム)すらも壊せない自分が情けない。俺は、今まで何をやっていたんだか――

 

「……障壁」

 

「え? エコー、どしたの?」

 

 進退極まってきたというところで、俺の真後ろに控えていたエコーがポツリと言葉をこぼした。

 後ろを振り向くと無表情のエコーが魔法人形(ゴーレム)を指差しており、横でソナーが双子の妹の行動に小首を傾げている。

 エコーはそのまま姿勢を変えることなく、抑揚のない声で話し続けた。

 

「障壁が、貼られているわ……薄くて、見えにくくて……とっても、硬い」

 

「障壁……そうか、そういうことかよ! ならこのクソ硬いのも納得だわ畜生!」

 

 俺の目では確認できないがエコーには確かにそれが見えているようで、魔法人形(ゴーレム)達の規格外の耐久性の正体がようやく割れた。

 贅沢を言えばもっと早く言ってほしかったが、そうやって文句を垂れると

 

「……あんまり、見えなかったの」

 

「ちょっとガストー。先にお礼でしょお礼ー」

 

 肩を落としてわかりやすく凹み、姉のソナーがかばうように立って抗議の声をあげた。

 俺はバツが悪くなり二人から目を逸らしてから「悪かったな、助かった」と簡単に礼を告げてから前に向きなおる。

 

「にしても、魔法が理由なら阻害魔法で解除できる、よな。誰か阻害魔法の使い手はいねぇか!?」

 

 声を張り上げて周囲の人間に呼びかけるが……皆一様に目を伏せておし黙る。どうやらお求めの阻害魔法を使える人間はこの場にいないらしい。これだから無学な傭兵はいけないんだと悪態をつきたくなったが、特大ブーメランになるのでやめておく。

 言ってしまえば、障壁を解除する阻害魔法を使える人間は俺の真後ろにいるわけだが大量にいる魔法人形(ゴーレム)1体1体丁寧に阻害魔法をかけてたら魔力がいくらあっても足りはしないのは明白で、それの対応策も使()()()()()()()のが事実だ。こんなに人のいるところでやってしまえば目につくなんてどころの話じゃない。

 

「……ソナーちゃん、お願い」

 

「ちょい待て、言っとくけどやめろよ? ここでやったらシャレにならんだろが」

 

「……ガスト」

 

「んな顔してもだめだ。聞きわけろよ」

 

「……ソナー、ちゃん」

 

 エコーの提案を先んじて制し、有無を言わさずに黙らせる。少し語調が強くなったかと思ったが、ここは強く言っておくべきだと考えを改める。

 俺に取り付く島もないことが分かったエコーはソナーを頼っているようだが、頼みの綱のソナーも珍しく困惑の表情を露わにしてうつむくだけだ。

 俺は二人を完全に視界から外し、顎に手を当てながら次の行動を思案する。

 魔法人形(ゴーレム)の動きは鈍いため、一度吹っ飛ばせば態勢を整えるのが遅い。そこが俺たちがなんとか戦闘を続けられている理由だ。

 障壁が敵に貼り付いているなら……

 

「障壁」

 

 その単語が不意に俺の胸中で渦巻き始めた。

 魔法をそこそこ熟練しているエコーですら明確に捉えることのできなかった障壁。

 硬く、大量に貼れて、それを一括管理できる魔法使いを俺は知っている。

 

「まさか……また来てる、のか? あいつが……!」

 

 そう結論に達した瞬間に俺の血の気がさっと引き、いても立ってもいられなくなって足は勝手に動いていた。

 アルスとあのいけすかねぇ女が向かった敵の拠点とやらに潜伏してる下手人は十中八九魔王の軍団の幹部クラス。そして、それとは別に俺たちを捕まえているのもまた幹部だ。

 俺は先ほど俺たちに指示を飛ばした騎士に詰め寄って、声をあげる。

 

「おい、あんた! 今すぐアルスとお前んとこの副団長とやらに報告しやがれ。王都に幹部が2人……ああ、いや、もしかしたら3人いるのかもしれねぇ!」

 

「なっ……3人、でありますか! それは前代未聞ですよ!?」

 

「知るか! いいから早くしろっての、こうやって俺らが馬鹿やってるうちにシルクが向こうに合流しちまったらヤベェんだよ!」

 

 騎士は俺の訴えを受けてしばし硬直する。鉄仮面のおかげで表情はわからないが、俺の言葉の真偽を疑っているのだろうことは察することはできた。

 俺はそんな煮え切らない騎士の額を指で押しながら

 

「いいか、魔法人形(ゴーレム)にゃ障壁がついてる、それも超高性能で力技じゃあブチ破れないほどのな! そんでもって召喚魔法は誰が設置した!? これ全部一人でできっかよ!」

 

そう指摘してやった。

 

「し、ししししかし、召喚魔法も障壁魔法も術師が近くにいなければまともに運用できない魔法であります。敵が移動する可能性は限りなく低いかと……」

 

「できるわよ。障壁魔法なら」

 

「へ、え?」

 

 こうなれば力づくで言うこと聞かせてやろうかと拳を固めたところで……鈴のような声が俺と騎士の話を遮った。

 いつもの姦しい姿は何処へやら、真剣な表情のソナーがエコーを傍に従えて立ち、騎士と対峙する。

 

「ある程度熟達した障壁魔法使いなら、障壁を設置したまま移動できる。なんならやって見せる? 私じゃなくてエコーがだけど」

 

「お前はできないんかい」

 

「そこ。口を挟まない。今私が目立てる雰囲気なんだから」

 

 思わず口をついて出たツッコミを目ざとくジト目で制される。俺は雑に平謝りをしてソナーにどうぞ続きをと話を促した。

 ソナーは「こほん」と態とらしい咳払いを前置きにして口を開く。

 

「ともかく、こんなに凄い光景を見せられてるのに議論の余地がある? それとも相手の力量すらわからないほど騎士さんって無知なのかしら」

 

「い、いやそれは。しかしでありまして……」

 

「いいからさっさとするっ!」

 

「はいぃっ!!」

 

 一見理知的に見えた話し合いも痺れを切らしたソナーの怒号で一方的な終わりを告げる。

 完全に萎縮した騎士は言われるままに通信魔法石を叩いて仲間に通信を取ろうとしている。ひとまずはこれで安心だろう。

 俺は怒ったように吐息するソナーを見て、笑みを溢してから

 

「悪りぃ。助かった」

 

「べっつにぃ? 今度デート一回ね」

 

「けっ、アホ抜かせ。てめぇの親父にぶん殴られるぜ」

 

 お互い軽口を叩き合いながら笑い合う。

 ソナーの時々見せるこういう悪戯っぽい笑みは嫌いじゃない。小さい頃から一緒にいるが、それだけは唯一変わらないこいつだけの魅力だ。

 そうして光明の見えた事態に安堵のため息をついていると……騎士の困惑したような声が聞こえて来た。

 

「あ、あれ……お、おかしい」

 

 騎士は見るからに狼狽していて、何度も何度も通信魔法石を指で叩いてはしばらく固まっている。しかしそれでもまた暫くしたら通信魔法石を叩く。その繰り返しだ。

 ちんたらと何をしてるのかと苛つきが顔を出し始めたが、どうにも様子がおかしい。終いには騎士は耳に当てた通信魔法石を捨てて別の石を取り出して叩いていた。

 

「おい、どうしたんだよ?」

 

「つ、通じないのであります。通信魔法石が。予備のも全て……!」

 

「は、はぁ? なんだそりゃ、精霊石が故障するなんてことは」

 

 転がっている精霊石に異変は見受けられない。俺はエコーに精霊石を一度見せようと地面に転がる通信魔法石をひったくるように持って立ち上がって。

 そして、見せるまでもなく通信ができない理由を察した。

 考えて見たらシルクが出張っているのであれば簡単に分かることだった。それを失念いていたのは限りなく致命的だ。俺は顔をしかめて奥歯を噛みしめる。

 

「……精霊石に異変はねぇなら理由は簡単じゃあねぇか。防壁【ミュート】だ。あれの効果が及ぶのは何も通信だって例外じゃねぇんだ」

 

「【ミュート】、でありますか!? ですがあれは、上級魔法で、そんな通信妨害のような運用方法が取れる魔法とはとても……!」

 

「なら、試して来てやるよ。この精霊石、一個借りるぜ」

 

「ちょっ、ちょっとガスト! どこに行くつもり!?」

 

 精霊石を乱雑に服のポケットに突っ込み、蠢く魔法人形(ゴーレム)の群のいる会場の出口を睨みつける。

 出口は二箇所。一番近いのは目の前の一つだ。

 ソナーが目を見開いて俺のしようとしていることを止めようとしているが、それは俺の耳には届かない。

 

「モイヤ、だっけか? なぁお前、勇者サマのために働きたいとか思わねぇ?」

 

「え? 勇者様のために……それはもちろんだよぉ! 勇者様のためならなんでも、いっくらでも!!」

 

「よぉし」

 

 予想通りのモイヤの反応に俺は満足げに鼻を鳴らす。

 何も言わずに勝手に出て行ったことをあとで耳が腐るほど説教してやることを決意しながら俺は魔法を撃つ準備を始める。

 巨人の腕力に俺の魔法があればおそらく、俺一人だけならばこの会場を抜けることは可能だ。そしてシルクの貼る【ミュート】の範囲外に出て通信魔法石を使ってアルスに危険を知らせる。たったそれだけの仕事。

 しかし、不敵に笑っていざ一歩を踏み出す俺の前に、瑠璃色の双眸が立ちはだかった。

 手を広げて立つ澄んだ瞳の少女――ソナーの姿がやけにくっきりと俺の目に映る。

 

「ガスト、また無茶するつもりでしょ」

 

「はっ。言ったろが」

 

 俺はガサツに、けれども悪意は全く込めずに笑いかけ、ソナーの頭に手を乗せる。

 そしてかつての日を想起させるように、告げた。

 

「普通の俺は、無茶をしねぇと特別に追いつけねぇんだっての」

 

「そんなの……待って!」

 

「っしゃ、行くぜモイヤさんよ! 本気で突っ込め!!」

 

 俺は結局またソナーの制止を振り切って地面を思い切り蹴る。

 後ろ髪が引かれる思いに変わりはないが、それでも俺はあいつを助けてやらなければならない。自らの直感を信じて、そして、救ってもらった借りを返すために。

 ソナーを見てモイヤは一瞬躊躇ったようだが、俺が顎をしゃくると申し訳なさそうに眉を潜めつつも黙ってついて来てくれた。

 

「ガストくん……あの子、大丈夫なのぉ?」

 

「大丈夫だよ。ま、世話のかかる勇者サマのために一肌脱いでやろうぜ」

 

「……うん。わかった。行くよッ!!」

 

 俺はモイヤの肩に乗り込み、しがみついて衝撃に備える。

 後ろでソナーはどんな顔をしているだろうか。その不安は消えることはなかったが、その思考はモイヤが走り出したと同時に降りかかった体への負荷で強制的に中断させられた。

 爆ぜるような勢いで地面がえぐれ、一足の間に俺が飛ぶ数倍は疾る。いや、疾るというよりこれはもはや飛ぶというアクションに等しい。

 モイヤが振り落とされないでねと言ってような気がするが、声は風にさらわれて俺が歯をくいしばって耐えることに全霊を割いているためその声はほぼ聞こえない。

 急速に迫る出口と俺達の距離。それを阻むように押し寄せる魔法人形(ゴーレム)の群れ。

 モイヤに身体強化の魔法をかけてしがみつくように妨害してくるそれを強引に突破するのが俺の考えた作戦とも言えないゴリ押しだ。

 祈るようにモイヤの突撃を見守り、数分にも感じる数秒を過ごした後。

 

「抜けるよ、ガストくん!!」

 

「おぉっしゃあ、行ってくれ!!」

 

 いよいよ見えた僅かな隙間を見つけて、俺は吠える。

 そして、ようやく俺とモイヤの体は会場にいる人の目には完全に映らない外へと解き放たれるのだった。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

「……馬鹿」

 

「……ソナーちゃん」

 

「ん。ごめんねエコー。だいじょぶ」

 

 魔法人形(ゴーレム)の中へと消えて行った幼馴染の後ろ姿を見送って、私は目尻に浮かびかけた涙をなんとか引っ込めた。

 背中に手を置いて心配をしてくれるのは無表情で感情豊かな妹、エコー。私は姉として、弱音なんて吐けない。けど。

 

「……怪我、しないでね」

 

 どんな相手がいるのかわからない。

 けれども驚異となっている存在は確実に強者だ。

 どこまでも自分は普通と言い張るガストの身を案ずることしかできない己の身を呪いながら、私は言葉を溢した。

 

 

 少しずつ、少しずつ。

 けれども確かに戦況は動いている。

 

 

 どちらに天秤が傾いているかは、隠されたまま。

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