誤字脱字、ご容赦下さい。
「疲れた…」
一通りデスクワークを終えて時計を見ると、もう夜中の1時だった。
しかし、まだイ・ウーの調査に関する資料を読んでいない。
打ち合わせは7時間後なので、1時間で読めば、1時間を支度の時間にとっても5時間程度は仮眠を取れる。
大学時代は1日8時睡眠がモットーだったのに、最近はすっかり眠らなくなった。むしろ5時間はまだ多い方だというのがつらい。
この生活の利点を無理やり挙げるなら、時間を1分単位で管理できるようになるというぐらいだ。
「さてと」
とにかく資料を読まなくては。
机の中から封筒を取り出し、資料を広げる。
目に着く名前がいくつかある。
峰理子、ジャンヌダルク、パトラ、ブラド。
しかし、イ・ウーが壊滅した今、大体のメンバーは逮捕または司法取引などで処分が決まっている。
峰理子とジャンヌダルク等は東京武偵高にいる。
ブラドは長野の留置場に入れられている。
パトラはそもそもイ・ウーを退学している。足取りを追うのは難しいな。
基本的に今回の仕事は、武偵高の生徒になっている元イ・ウーメンバーに話を聞くぐらいしか出来ることはない。
多分、検事総長もああは言っても武検補との信頼関係を結ぶための準備段階としてこの任務を命じたのだろう。
とにかく今回は命の危険にさらされることは無さそうで安心した。
あれ、追記事項がある。
『武偵 遠山金一は、イ・ウーに短期間所属していた。要調査』
遠山金一…
遠山の一族にはHSSと呼ばれる特異体質があると聞く。
詳細は不明だが、HSSとは何かのきっかけで発現し、神経系を強化するものらしい。
僕が遠山金次に目を着けていた理由もこれだ。
遠山金一と遠山金次。
武装検事であった彼らの父親、遠山金叉もそれを持っていた。
その遠山金叉も殉職した扱いになっているけれど、武装検事局が何か隠してるみたいだし。
まぁ、新人で、関係者でもない僕には何も教えてくれないんですけど。
結局あれこれ考えてたせいで、3時間半しか眠れなかった。
シャワーを浴びて軽い朝食を取って、待ち合わせ時間の10分前にカフェに来た。
しかし、そこにはすでに先客がいた。
長い黒髪の女性だった。
顔はその辺の女優が裸足で逃げ出すほどの美人だった。
一瞬ドラマか映画の撮影でもしてるのかと思ったが、彼女はスーツ姿で、襟には秋霜烈日章のバッジがある。間違いなく検事だ。
「おはようございます」
こっちが固まっていると、笑顔で挨拶をしてくる。
「お…おはようございます」
思わず言葉に詰まりながらも、何とか挨拶をかえす。
落ち着け!僕!
「私、この度甲賀詩音検事の補佐を勤めます、鵜飼六唯です。よろしくお願いいたします。」
事前にもらった資料には顔写真は載ってなかったけど、間違い無いみたいだな。
「こちらこそよろしく」
うかい むい…やっぱり珍しい名前だよな。
とりあえず、一応は僕が上司な訳だし、会話の主導権を握らないと。
「えーと、じゃあさっそくだけど、これから元イ・ウーのメンバーに会うために東京武偵高に行こう。」
「わかりました。」
うん、今の感じだと大体この流れを読んでたな。僕がそう言うのを分かっていた感じだった。
全部僕に任せるわけじゃなくて、ある程度自分でもやるべきことを考えてたのか。
さすが武装検事補佐官にスカウトされただけはあるってことか。
そもそも司法試験を通ってるわけだから、彼女も飛び抜けてエリートなのは間違いないんだけど。
東京武偵高には車で向う。
六唯が運転したいと言うので、任せることにした。
正直とてつもなく眠いが、部下に運転させて自分だけ寝るのはさすがに嫌なので気合いと根性で起きておく。
とはいえ無言は気まずいので適当に話を振っていく。
「鵜飼さんはなんで武検選抜を受けたの?」
すると六唯はちょっと恥ずかしそうにして、
「検事に不満はないんですけど、やっぱりより多くの人を救うには武装検事が一番適してると思うんです。あと、六唯でいいですよ。」
なるほど、眩しい。
日頃の業務に文句しか言わないどっかの誰かとは、志が違いすぎる!
今すぐ立場を交換した方が世のため人のためなんじゃないだろうか。運転も超丁寧だし。
「甲賀検事は武検選抜に1人だけ受かったんですよね。年齢は私と同じなのにすごいです!」
彼女の眩しさに勝手に負い目を感じていた僕は、
「いや…全然…そんなことないですよ…」
と落ち込んで敬語になる。
とはいえ、こういう話してて飽きない人は一緒に仕事しやすい。
昨日の資料を読んで知っていたけど、彼女は僕と同い年で、同じ年に武検選抜を受けていた。
話し方も、上司に話す丁寧さと同い年の友達と話す気楽さをちょうどいい比率にした感じだ。
「あと、僕も詩音でいいよ」
「わかりました。詩音さん」
と言って笑顔を浮かべてくれた。
しばらく色々話しているうちに、彼女の性格は大体わかった。
正義感が強く、社交的な性格。
おしゃべり好きで、聞き上手、話上手。
利き目は右で利き手も右、利き脚と利き耳は左。
人は話すだけでも、大量の情報を落としている。
それを見極めることで、命を拾うこともある。
だからこれは生き残るための観察です。決して彼女で目の保養をしているわけではありません。断じて。
1時間ほどかけて、東京武偵高に着いた。
そこで問題発生。
なんと今日は土曜日だった。
武装検事なんて休日もろくにない職業をやっているせいで、曜日感覚が完全に鈍っていた。
夏休みに曜日を忘れるのと同じような感じである。
人の気配もまばらな学校の前に立ち尽くす僕。
「あの…」
「はい?」
僕の絶望的な表情を見て、六唯は不思議そうな顔をする。
「今日、土曜日ですよね?」
その一言で察したのか、ちょっと得意気になって六唯は、
「学校の方には私が昨日話を通しておいたので、元イ・ウーのメンバーは二人ともきてますよ」
と言ってくる。
「なんだ…よかったー」
とあからさまにほっとした顔をする僕。
それを見て、
「詩音さんって、結構おっちょこちょいなんですね」
と意地悪な顔をして六唯が言う。
「武装検事っぽくないよね…」
実際、結構ドジだし、気分の浮き沈みが激しいし、完璧超人の代表みたいな武装検事とは程遠いと自分でも思う。
「でも、詩音さんみたいに親しみやすい武装検事もいていいと私は思います。」
六唯はそう言って笑ってくれた。
「ありがとう」
励ましてくれる気持ちは嬉しかったので、笑顔でかえす。
すると、なぜか六唯が赤面して顔を逸らした。
どうしたんだろう?
よく分からないけど、とにかくいつまでもくよくよしてても始まらない。
「じゃあ、行こうか」
と気を入れ直して声を掛ける。
「は、はい!」
六唯も返事を返す。
こうして僕たちの初仕事が始まった。
読んでくれて、ありがとうございます。