「誘拐事件が起きた」
検事総長が話始めた。
悲しいことに、今日日、日本という国で誘拐事件というものは決して珍しくない。
しかし、だからこその武偵制度である。
その武偵ではなく武装検事に話がくるということは、理由があるのだろう。
「誘拐された人は誰なんですか?」
六唯もそれに気づいたらしく、検事総長に尋ねる。
「
「それは誰ですか」
政府高官の息子が誘拐された事実よりも、検事総長が重大視するとは嫌な予感がする。
「
公安0課に所属する者は、武装検事と同じ
そして武装検事と比較すると、彼らは殺人を積極的に行う。
つまり、服部刀夜は本気で殺しに来た国内最強クラスの人間を仕留めたのだ。
「ヤツは武装検事を指名し、自分との一騎討ちを望んでいる。わざわざ三浦琢磨の息子を誘拐したのも、武装検事を動かすためだと宣言している」
迷惑な奴だな。しかし、武装検事と一騎討ちするためにわざわざ政府高官の息子を誘拐するとは、本格的に狂ってる。
「気を付けろ。ヤツは一対一を得意としている。そして策士だ。公安0課の者は、ヤツに巧妙な手で孤立させられ一騎討ちの結果殺害された。」
なるほど。だから六唯と二人で動く僕に白羽の矢がたったのか。
単に人手不足の可能性もあるけど。
「ヤツの指定してきた場所はどこですか?」
とにかく、早く人質を救出しなければならない。
「ジオ品川5区のリング・ビルだ」
六唯の運転する車に揺られながら、検事総長から渡された資料を読む。
人質は三浦健吾。12歳。
まだ幼い小学生だ。
そして、誘拐犯の服部刀夜。27歳。
国際指名手配犯。
暴力団などから雇われることも多く、その筋ではかなり有名なようだ。
過去に公安0課の二三式を殺害。
その他にも、武偵数名を殺害した危険人物。
かなり厄介だな。
武装検事を指名する程だ。何か策を用意している可能性もある。
「誘拐された子は小学生なんですよね。許せないです」
六唯が悲しさと怒りを込めて言う。
「そうだね。とりあえず、この子の救出を最優先に考えよう」
武装検事は通常一人で行動する。
恐らく、ヤツもそれを知っていて指名しているのだろう。
そうすると、こちらのアドバンテージは二人であり、それを知られていないということだ。
「六唯の技は忍者のものだよね。六唯は気配を消して敵に見つからないようにして。そして、タイミングを見計らって人質を救出してくれ」
いくら相手が危険人物でも、時間稼ぎに特化した戦い方をすれば一対一でも平気だろう。
僕との戦いに集中すれば、ヤツは人質に意識が向かなくなる。
その隙に六唯が人質を救出できれば、状況は一気にこちらのものだ。
「わかりました」
六唯が頼もしく答えた。
数分でリング・ビルに着いた。
資料にもあったが、もう何年も使われていないらしく、もはや廃墟だった。
ジオ品川自体の治安が悪いこともあって、まだ昼間なのにあやしい雰囲気が漂っている。
車から降り、ビルへ向かって歩く。
ビルの前までくれば監視されている可能性があるので、六唯はビルに着く少し前で降りてもらい、別のルートから侵入してもらった。
ビルのエントランスを通り、階段を上っていく。
服部刀夜が何階にいるかは教えてこなかったので、一階一階確かめていく。
そして5階に着いたとき、上の階から人の気配がした。
「どういうことだ?」
思わず呟く。
上の階には20人近く人がいる。
一騎討ちを望んでいるのではなかったのか?
しかも気配を消そうと息を潜めているが、バレバレである。
このリング・ビルは6階までしか無いので、他の階に人はいない。
罠の可能性もあるが、人質の事を考えるとぐずぐずしていられない。
階段を上ると6階は、学校の体育館のように開けた集会所だった。
天窓から光が入ってくるため、他の階より明るい。
そして、待ち構えていた男達が一斉に襲いかかってきた。
しかし事前にこっちが気づいていた上に、向こうの一人一人の力や戦闘技術は一般人に毛がはえた程度のレベルだった。
おまけにリーダー的な役割の者もいないため、連携がとれていない。まさに烏合の衆だ。
金属バットで殴りかかってくる男を投げ、振り向き様に銃をこっちに向けてくる相手にベレッタを発砲して、銃だけを破壊していく。
彼らは武装検事の相手をするためにいるはずなのに、防弾用の防具を着けていない。
それどころか、こっちが銃を持っていることに発砲するまで気づいていなかったようだ。
一人、また一人と片付けていき、ものの1分足らずで戦闘は終わった。
全員を気絶させ、数人が持っていた銃も破壊した。
正直に言って、拍子抜けだ。
しかし、このビルに他の人の気配は無い。
いや、正確にはもう一つある。
僕はとりあえずそっと舞台の方へ歩く。
そして舞台上の台の裏をそっと覗き込むと、思った通り男の子が手足を縛られて、横たわっていた。
その顔は資料にあったのと同じ、三浦健吾だった。
改めて周囲の気配を探るが、全く気配は無い。
六唯は隠れているが、忍者でもない者がここまで気配を消すことは不可能だ。
「とりあえず、この子を連れて行こう」
呟いて手を伸ばす。そして気づいた。
おかしい。
この階で不意討ちを仕掛けた男達は、服部刀夜の部下または協力者だろう。
しかし彼らは、防弾装備をしていなかったことから、相手が武装検事であることを知らせれていなかっただろう。
つまりあの男達は捨て駒同然だ。
そして、人質の場所も妙だ。
分かりやすすぎる。
隠す場所は他にもあるし、こんな目立つ舞台の上に人質を置いておく意図がわからない。
推理する。
男達は捨て駒だった。時間稼ぎをさせるならもっと装備を整えさせるはずだし、そもそももっと腕のいい者を金で雇う方が遥かに有効だ。
さらに服部刀夜は、人質も隠さなかった。
それは見つかってもいいと思ったからだ。
そこまで考えて、ヤツの狙いが読めた。
時間がゆっくり流れ始める。
あの男達は、僕の注意を引き付けるためだけの囮。
僕は男達を倒したことで、このビルの内部のみを探り、敵はもういないと錯覚した。
さらに戦闘が終わったすぐの所に人質を見つけたため、僕は警戒せずにこの舞台に上がってしまった。
ヤツはそれを狙っていた。
後ろを振り返る。
音は聞こえない。だが、ヤツはもう引き金を引いただろう。
狙撃だ。
恐らくコンマ何秒もせずに僕の体に当たる。
僕はそれを避けることができる。
しかし、僕はこの狙撃を
避ければ人質に当たってしまうからだ。
こんな一瞬では、防ぐこともできない。
ビシュッ!
鮮血が飛ぶ。
それは六唯の血だった。
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