【真説】安珍・清姫伝説   作:稲荷猫

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感想でアドバイスを貰ったので、二話目の後書きに追記しておきました。気になる方や原作をすでに知ってる方は是非ともお読み頂ければと思います。

あと休日以外は基本的に二回更新きつい……。なので多分一回になると思います。申し訳ねぇ。


平安時代の怪奇事件

「そういや安珍殿、村に立ち寄る度に妖怪退治や怪異の解決に動いてるってのは本当か?」

 

朝食を食べ終わり、ご好意で白湯を頂いている時に、そんな言葉がお殿様から飛び出た。

 

「ええ、まあ、まだ若輩の身なれど、これでも僧侶ですので。救いを求める手を振り払ったりは致しません。」

 

「はっはっは!こりゃかなり優秀なようだ。その年で正式に僧侶となるのも、一人旅を許されるのもその証だろうに。」

 

「いえいえ。私などまだまだです。」

 

そう言って白湯を一啜りして、ふと思った疑問を口に出した。

 

「そういえば、お殿様は会う前より私のことをご存知だったので?」

 

「ああ、細々とした噂だが、民草たちが言っていたんだ。まだ若いのに腕のいい法師様がいるってな。ま、ついさっき思い出したことだが!わっはっはっは!」

 

なるほど、確かに旅をするものたちはこんな世界でも少なくないしな。武者修行や故郷を持たぬ根なし草たち、それに商人や、出稼ぎに村を出るもの、逆に買い出しに村や町を行き来する者、そしてその者たちに雇われる護衛や用心棒。いくらこの世界が人ならざる者たちの蔓延る地とはいえ、人の身は現代よりも逸脱しているし、そんな中でも強者と呼べる者は探せば存外に多い。それも生死や戦闘が身近にあるが故だろう。武士という存在はすでに生まれているし、剣術や槍術などの流派も多く、陰陽師や僧侶などといった存在も隆盛の最中だ。

 

あ、清姫殿。そのキラキラとした尊敬の眼差し止めてもらっていいですか。ちょっとその感情が反転したときが恐ろしいというかですね。

 

「そうだったのですか。それは知りませんでした。そういう評価を頂けるとは、嬉しいものです。」

 

しかし私は安定のポーカーフェイス。お殿様が言うように優秀だからね。しょうがないね。

 

「さて、安珍殿。ここからが本題なんだがな……」

 

突然に真剣な表情と雰囲気で、ずいと体制を前傾にしてお殿様が話し出した。これは何か厄介事か?

 

「貴方様、もしかしてあの事を?」

 

「ああ。この出会いも何かの縁だろう。安珍殿になら何か分かることがあるかもしれん。」

 

「父上、母上。何のお話なのですか?安珍様と清姫にも分かるよう教えて頂きたいです。」

 

「ああ。もしかすると清姫も無関係ではいられなくなるかもしれん。心して聞いておけ。」

 

こくり、と頷いた清姫を確認してから、白湯を一口分だけ口に含み、ごくりと音を立てて逞しい首を上下させるお殿様。そして視線鋭いままに私に眼を合わせて話し出した。

 

「安珍殿、じつはな、現在この村では原因不明の死者が何人も出ているんだ。」

 

「原因不明、ですか。」

 

私が呟けば、お殿様は大きく頷く。

 

「そうだ。死んだ者たちは町医者や薬師たちのもと調べることになったんだがな、可笑しいんだよ。」

 

「原因不明で死亡したなら、可笑しいところがあるのは普通のことなのではないのですか父上?」

 

清姫殿がお殿様に疑問を呈するが、恐らく清姫殿は可笑しな外傷があるのは当然なのではと、そういう疑問の持ち方をしている。彼女はその頭の良さを随所で輝かせているが、それでも箱入り娘。故にそういう疑問を持ってもしょうがないだろう。

 

だが、私には分かる。戦いと隣り合わせの生を今世では送ってきたが故。そしてこのお殿様も豊富な経験を感じさせる武芸者。戦いに身を置くものが外傷を見れば、多かれ少なかれ分かることはある。どのような凶器を使ったのか、敵の技量は、その者の体格は、性格は。それに外傷により死亡したのなら下手人が必ず存在する。これだけ大きな貴族が、多くの民草の住む、栄えている町で、原因不明と称する程に情報を集められぬものなのか?

 

否だ。お殿様の知見に人柄を見た限りは優秀な方なのだろうと判断できる。そしてこれだけ大きな屋敷を持つ貴族だ。貴族ならば必ず持っている縦の繋がり、横の繋がりがあり、これだけ大きな町を治める貴族ならそれに見合った繋がりが必ずある筈だ。それは貴族同士の繋がり、家来や町民との繋がり、陰陽師らや近くの寺の僧侶たち、大きく総称して術師と呼ばれる者達との繋がり。

 

事件が発覚してからどれ程の時間が過ぎているのか分からぬが、宿を求めて訪ねた、会ったばかりの僧侶に助力を頼もうとしている程度には行き詰まっているのだろう。

 

「清姫よ、お前の言いたいことは分かる。だがな、恐らくお前の考えている『可笑しなこと』じゃあねぇ。むしろ、一見しただけでは可笑しなところなんて何もないんだ。」

 

「それは……。では何故その者たちは死んでしまったのですか?」

 

私はそこで察して静かに目を閉じた。

 

「当然その疑問に行き当たる。俺たちもそうだった。そして気付いた。こいつらは可笑しなところなど何もないのに、何故死んでいるんだ?致死の傷があるわけでなく、病に犯されたわけでも、毒に犯されたわけでもねぇんだ。それどころか苦しんだ様子もなく、死んだ奴ら全員が、朝に家族が気付けば寝床の上で眠ったように息をしてねぇ。……つまりだ、安珍殿は既に気付いたようだが、可笑しなところなど何処にもないのが()()()()()()()。こりゃあ、確実に常人の行いじゃねぇのさ。」

 

あ、察して目を閉じたっていうのは、この事件に対してというのもあるけど、それよりもこの後の展開を察してっていう意味合いの方が強いぞ。

 

「何人かの術師に来てもらって、そっち方面で調べて貰ったんだがな、そっちもほぼ全滅だ。」

 

少しだけ目を開けて私は問う。

 

()()、ということは何か手がかりでも掴んだのでしょうか?」

 

「ああ、一つだけな。それも手がかりなんて言ってもいいのか分からんものだが。……なんでも魂の気配が微塵も感じられんらしい。死んじまったとしても、魂と肉体はどちらかが朽ちたり消滅したりしない限りは必ず縁で繋がっている。医者が診た限りじゃ、死亡したのは前夜からその日の朝にかけて。前日まで何の異常もなかった奴らが、その日の朝には苦しんだ形跡もなく死んじまってる。術師の一人が『まるで生きながらに成仏してしまったか、魂を本人が気付かぬ内に粉々にされて消滅させられたか、そうとしか考えられないような状態です。』だとよ。つまり魂に干渉してどうにかしたとしか考えられない現象だそうだ。」

 

「それはまた厄介な案件ですね。」

 

頷きを一つしてお殿様の先を促す。

 

「死亡した奴らに共通点はない。地位や年齢、老若男女の他、考えられる可能性は全て出したと言っていい。一応、いまも他の連中で捜査は進めてるんだが、まあ結果はあまり期待してねぇ。これは武芸者としての俺の勘だが、術師じゃねえとむりなんじゃねえかと思ってる。んで、一人でも腕に覚えのあるやつが必要だ。そこで、安珍殿。力を貸しちゃあくれねぇか?無論、結果次第だが報酬も用意するぜ。どうだ?」

 

ほら見てみろ。なんか不穏な話の切り出し方した時点で察してたよ。この白湯を飲んだらさっさとここを発つつもりだったというのに。あああああ!やっちゃったよ!救いを求める手を振り払ったりは致しません(キリッ)とか言っちゃったよ!これじゃあ断りたくても断れんじゃないか!しかも本当に厄介そうな案件だしな!生きたままに魂が成仏したような?もしくは魂を本人が気付かぬうちに消滅させられたような?そんな凄いこと出来るんなら真面目に働けや犯人!!たしかにそりゃレベルの高い術師が必要だわ!

 

「つかぬことをお聞きしますが、この町の大きさからして陰陽師などが居を構えていたりはしないのですか?彼らに依頼を出すのも手だと思いますが。」

 

「やつらは早々に手を引いていったよ。私達では奴等の根城に踏み込むことすら出来んとか言ってな。何かに勘づいたんだろうが、知っても無駄だと言って一向に話そうとしやがらねぇ。」

 

「そのようなことが……。近くの寺の者達はどうなのですか?」

 

これだけ大きな町なら近くに寺の一つや二つはあるだろう。

 

「ああ、なんでも一番頼りになる和尚殿は、直弟子を何人か連れて宗派の総本山に行ってるらしくてな。陰陽師共が手を引いたことを考えると、若ぇ奴らしかいない今の寺じゃなぁ。」

 

「ん、それはつまり、和尚様が居ないときを見計らった計画的なものとは考えられませぬか?」

 

「いや。最初の数人はまだ和尚殿がおられる時に被害にあってる。俺のとこに陳情が届いたときにはすでに和尚殿は居らず、数十人が死んでいたわけだが。」

 

うーむ、面倒な事態だか引き受けるか。断った場合に清姫殿から不義理と見なされるのが一番恐いからな。僧侶としてそんな不義理を働くのですか?みたいな。いや、今の様子を見た限りはそんなことはない筈だが、万が一ね。それに親がいるこの場面で好感度上げとけば、何かあったとき味方になってくれそうやん?それって、素敵やん?

 

「……事態は分かりました。その任、謹んでお請け致しましょう。」

 

「そうか!いや助かる!」

 

「では早速いくつか、事態の解決に向けてお殿様のお力が必要なのですが、よろしいでしょうか。」

 

「おっと、その前に」

 

お殿様は奥方様と清姫殿の方を向き一言。

 

「お前たちはもう下がってろ。」

 

それだけで意を汲んだのか、二人ともに部屋から退出していく。清姫殿はめちゃくちゃ此方を見てきたんだが。なんだ、そんなに私と離れたくなかったのか?ふむ……束縛系に成長したりしないよね?あれ、何故だか背筋が震えた。

 

まあいい。今はこの事件をさっさと解決して、この屋敷からおさらばしなければならないんだ。しっかりと気を引き締めなければな。

 

「ではお殿様、まずは────」

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

人は寝ている間、夢を見る。

 

安珍のいう現代において、人は何故夢を見るのか、どうやって夢を見ているのか、そういったものは大方解明されてしまった。だがそのような神秘の薄れ過ぎた時代の理など、この神秘が未だに色濃く残る平安の世では無意味なものだった。

 

こんな話を知っているだろうか。

 

人が夢を見ているのは、魂となってこの世を、もしくはあの世を、そしてその何処とも言えぬ世をさまよっているからなのだと。

 

その事象は確かに存在する。証拠?なるほど。嘘か真かを判断できぬ者と、嘘だと思っているものが宣う言葉だ。だがいいだろう。今回だけはその証拠とやらを示すことができる。

 

夢を見ている間、魂だけで広大な世界へさ迷い込んでしまうという証拠を。清姫という生け贄とともに、ここに知らしめよう。

 

「……ここはいったい、どこなのでしょう。」

 

さぁ、殺戮の夢が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





清姫がインしました。
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