【真説】安珍・清姫伝説   作:稲荷猫

7 / 10
今回はちょい短め。

出来るだけテンポよく進みたいけど、内容とか描写とか色々考えると難しくて悩みますね。

※追記
活動報告を載せました。
気が向けば読んで頂けたらと思います。





清姫の初陣は加速する

 

 

駆け続ける中で、清姫は速度に優れた個体を倒すことを決めた。というのも、延々と付きまとわれるのが邪魔であるし、これから隠れるにしても、何処かで罠を張るにしても、その度に妨害をされたりしては堪ったものではないからだ。

 

後方の個体にも意識を割きながら、近くでうろちょろと付きまとってくる人形たちの気配を読みながら迎撃し、奇襲にも気を付けながら周囲の地形把握に努める。

 

はっきり言って、初陣の清姫には負担が大きすぎる。その才能と培った武の技術、冷静な頭脳がなければ、ここまで持つことはなかっただろう。

 

故に、その中で一番手っ取り早く潰せる案件を清姫は正確に選び抜いた。

 

「ハアッ!!!」

 

烈火の気合いを口から発し、白炎を得物に纏わせて人形たちを迎撃する。

 

清姫の武芸者としての腕は自身でも認めている通り、よくて二流程度のものだ。しかし、戦いにおいて勝敗はそれだけで決まるものではない。

 

清姫の持ち味。それは清姫の強い想いのもとに行われる行動力である。

 

この平安の時代において常識知らずの世間知らずと指を指され、白い目を向けられながら馬鹿にされるであろう、男性(安珍)への夜這い。

 

本来ならば、娼婦のようではしたないと言われる男性(安珍)への猛アピール。

 

そして、今現在においては、歴戦の武者を思わせる強大で鋭い殺気を放ち、容赦など一切なく振るわれる清姫の得物。

 

相手が技術など何もない動きしかしない人形であるのも、清姫が人形を圧倒しているように見える一因だろう。しかし、それを思わせないほどの殺気と容赦のなさ。

 

本当にこれが初陣なのかと疑われて然るべき、猛烈な攻めの姿勢。

 

腕に得物を叩きつけることで相手の凶器を取り落とさせ、圧倒的なリーチを誇る棒術でもって連撃を叩き込んでいく。

 

清姫の持つ得物には、白蛇としての力が白竜へと存在進化したことで得た、強力な白炎が高い密度で纏われている。

 

そのため、一撃打ち込むごとに人形はその部位を爆発四散させ、機能を強制停止へと追いやられていく。一体一体丁寧に、然れど激しく攻撃する。そうすれば、速度に特化した個体たちはすぐに動けなくなってしまった。

 

だが、徐々に体を修復している今、すぐにでもまた動きだし、清姫を邪悪に染まった遊び感覚で殺そうと迫るだろう。

 

故に時間はない。

 

清姫は後方の人形たちと距離があることを確認してから、すぐにその場で停止して力を溜める。時間にして5秒。両手を自身の胸を挟むように持ってくれば、瞬時に胸の前、両手の間に白く輝く炎の球が出来上がる。その拳大程の大きさの白炎球を、速度に優れた個体たちが倒れ伏す場所へ向けて撃ち出す。

 

着弾。

 

瞬間、5秒かけて内包された力が解放され、それはドーム状に広がった。そのドームは内側に存在する物質を跡形もなく焼き尽くす聖なる炎。ドームが消えてみれば、地面は球体状に抉られ、左右にところ狭しと建てられた木造家屋は言わずもがな。

 

ほぼ中心地に存在した人形たちは、勿論のこと跡形もなく焼き尽くされた。あとに残ったのは直径20メートルを越えるクレーターだけであった。

 

それを確認すれば、直ぐ様に踵を返し駆け出す。

 

これで残った人形たちが追い付くことはほぼ不可能となった。奇襲を仕掛けてきた個体がいたことから、挟み撃ちにする程度の戦略は行ってくるかもしれないが、常に身の周りではしゃぐ人形たちがいなくなったことで余裕ができ、周囲の気配を探る続ける程度のことは可能になった。故に現在は後方からしか気配を感じられないため問題はないとして、人形たちを撒くために更に速度をあげて駆け出した。

 

駆ける、駆ける、駆ける。

 

清姫はかなりの時間をかけて駆け続け、相当な距離を人形との間に作り出した。離れたことで一度物陰に潜み、気配を殺す。生まれながらの狩人である蛇としての力の賜物だろう。すんなりと実行することができた。

 

そのまま周囲の気配を探り続けながら、心身を休めるためにその場に留まった。

 

清姫がこの世界に来てからどれだけの時間が立ったのかは正確に把握していないが、それでも数時間は経っていることだろう。その時間中、清姫は初陣でありながら幾つもの事柄を同時に処理し、途中に速度の優れた個体を倒したことで少しの余裕が生まれたとはいえ、それでも今の今まで体を動かし続け、頭を働かせ続けた。いくら竜の力を手にしたとはいえ、まだ十代も前半の人生経験が浅い小娘だ。疲労を感じるなという方がどうかしている。

 

そうして一時的な休息を取っている清姫だが、一番心配なのは気の残り総量だった。炎を使って攻撃したのは僅か数回。それなのに何故そんな心配をするのか?

 

それは今まで半妖としての力を振るう機会など存在せず、半妖としての力を十全に制御するための修行なども十分に出来なかったため、必然的に起こってしまった力の制御不足に起因する。

 

例え話となるが、気を1必要とする攻撃に5も使ってしまった。初陣という場の影響もあるかもしれないが、要は必要以上の力を使ってしまっているのである。

 

まるで初心者が筆に墨汁を吸わせて紙に文字を書こうとしたとき、筆にどれだけ墨汁を吸わせればいいのか、紙にどれだけの力加減で筆を押し付ければいいのか、経験を重ねることでしか分からないことがあるのも同じように。

 

墨汁を吸わせ過ぎれば紙を汚す結果にしかならず、筆を紙に押し付ける力加減が分からなければ美しい文字を書くことが叶わぬように。

 

紙に筆に墨汁と、必要な道具は揃っている上、使い方も知っている。しかし知っているだけ。使った経験はなく、どうすれば無駄なく流麗に文字を書けるのか知らない。頭では使い方を知っていても、体が最適となる動きがどういうものなのか知らないから。理解が及んでいないから。

 

力の使い方は本能的に分かるのに、どうすれば最も効率的に行使できるのか、経験と理解が追い付いていないのだ。

 

当然のことながら、修行が出来なかったことにも理由がある。

 

まず、町の中で半妖の力を制御するための修行など出来よう筈がない。下手をすれば町中にいるかもしれない、気配探知に長けた術師に清姫の存在が見つかってしまうだろう。

 

それならば町の外に出ればよいと考えるかもしれないが、それも彼女の地位と安全を考えた時、得策とは言えない。何故なら彼女は平安時代の貴族の姫君。町の外に出るならば護衛が必要となる上、人外が跳躍跋扈するこの世界、護衛がついた程度では絶対に安全だなどと口が裂けても言えはしない。というか、夜な夜な貴族の姫様が護衛を連れて町の外に向かうなど、目撃者がいれば有らぬ誤解を与えるだけだろう。そんな事になったら、町を治める側として致命的だ。故に町の外での修行も厳しいと言わざるを得ない。

 

そしてそのまま、何か案が出る度に止めた方がいいのではないかという結論に達するのが、毎回のパターンであった。

 

だから清姫は最も効率のいい力の使い方が出来ない。故に、意図せず大きな消耗となってしまった。別に戦えないほどではない。倒れてしまうほどでもない。だが、もしかすると朝まで、百より多くの人形たちを相手に逃げ隠れしなければならないかもしれない。下手を踏んでしまえば、あの数の人形との戦いになってしまうかもしれない。

 

そのために心身を休め、気の回復させなければならない。少しでも生存率をあげるためには必要なことだ。

 

『みぃつけたぁ』

 

突然聞こえた声に顔を上げる。その人形たちは屋根の上から、すぐ近くの曲がり角から、家屋の中から。あり得ないことに、数体の人形たちが姿を唐突に現したのだ。

 

「馬鹿なっ!いつの間に!?」

 

常に周囲の気配は感じ取っていた。十メートルや二十メートルなどではない。もっと広範囲の気配を感じとっていたのだ。見逃すなどあり得ない。それもこれ程の数の人形を。

 

考えられるとすれば隠密に特化した個体だろうか?今もなお、不自然なほどに気配が感じられない。

 

またもや、かなり厄介な個体だ。

 

『みんなー!ここだよー!』

 

人形が一斉に声を上げる。

 

(まずい!)

 

清姫の思考は一瞬。

 

逃走か、撃滅か。

 

選んだのは後者。この個体たちは撃滅すべし。

 

同じような事態に何度も陥っては堪らない。

 

他の個体たちが集まるのに数分は要するだろう。

 

その間にここにいる個体たちを滅して即座に撤退。それが清姫の想い描いた思考。

 

決まれば一瞬にして行動へ移し、人形たちに攻撃を行った。

 

その想いの強さは殺気へと変換され、容赦のない攻撃を繰り出す原動力となる。

 

 

──────しかし誰が予想し得ようか。

 

 

 

ここで行動したが故に、清姫が窮地に陷ようなど。

 

 

 

清姫の初陣となる戦いは、佳境へと向かい加速する。

 

 

 

 

 

 






安珍と清姫の終わりは同じか似たものになる。って感想の返しで書いちゃったんですけど、何処が同じで、何処が似たようなものになるかは書いてない。

そうとだけ言っておこう。


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