Fate/Last future of embryo 作:ビーストⅧ
燃える、燃える、燃えている。
街は燃え尽き、人は死ぬ。
地獄のちまたで彼らは脱兎の如く逃げ惑う。
「はぁ、はぁ……! なんでサーヴァントがいるのよ!?」
冬木、聖杯戦争の行われている土地。
走る彼らを影の従者は追い続ける。
サーヴァントの敵はサーヴァント。
ならば狙うは盾の英霊とそのマスター。
他など知らぬ、見えぬ、聞こえない。
『サーヴァント反応、確認! 其奴はアサシンのサーヴァントだ!』
「……! 応戦します! 先輩、わたしを使ってください……!」
盾の英霊のデミサーヴァント、マシュ=キリエライトはマスターである藤丸に指示を仰ぐ。
「マシュ……! すまない、なんとかしのいでくれ!」
しかし、マスターである藤丸立香は言うなれば一般人だ。
カルデアに所属しているものの、今まで魔術師としての経験はなく、普通の一般人だった。そこに天性の才はなく、月並みな指示しか出せない。
「ハイ! あなたに勝利を、マスター!」
だが、粗雑な指示だとしてもマシュは猛り応えてみせる。
二人はマスターとサーヴァント。
マスターを守るためにマシュは盾を振るう。
「聖杯ヲコノ手二────!」
アサシンのサーヴァントが放つ、暗剣は三つ。それはマシュの太腿、眉間、右腕目掛けて的確に飛来する。
「ヤァァァァァっ───!」
マシュは盾を手首を軸に回し、飛来する暗剣を全て叩きおとす。
そして、四肢に力を込め、大地を蹴る。
その速度たるや常人のそれを遥かに上回る。
何故なら彼女は英霊の力を持つモノ。
かつて英雄と謳われた者達、人間を超えた超越者。
英霊足らしめる膂力で瞬く間に、アサシンまで接近したマシュは盾を構え、勢いを殺さず盾を振り下ろす。
「───甘イ!!!!」
だが、敵も影、亡者なれどサーヴァント。
暗殺者たる彼の本領は正しく暗殺だ。
更に言うなら、彼の敏捷力はマシュを上回る。
アサシンはバックステップで自ら背後に跳び、ダメージを軽減、そして目にも留まらぬ速さで物陰へと消えた。
気配は完全に消され、辺りには静寂が戻る。
だが、アサシンはまだいる。
アレは確実に我らの首を狙っている。
パチパチと炎の音が鼓膜を打つ。その音がまるで死神の足音の様に聞こえて────
「オオオォォォォォオオオオ!!!!」
その静寂を打ち破る破壊者が新たに到来する。
突如、瓦礫を吹き飛ばして現れる敵影。
アサシンではない。それが意味するのは新手の到来だが、現状において想定されるモノでも最悪の展開。
『マシュ、藤丸君、新手だ! ランサーのサーヴァントだ!』
その名の示す通り、槍を構えて突貫してくるランサー。
熾烈なまでの刺突の連撃が散弾の如くマシュを襲う。
「ああ、ああああああ────!!!」
マシュは必死に盾で防ぎ続ける。
此処で負ければ、彼らが死んでしまう。
それはいけない。それは許さない。
その様な結末は認めない。
「ハハハハハハハハハハハハハハ!」
笑う、嗤う。ランサーは嗤う。
この身は亡者なれど、コレは心が踊る。
少女の身は英霊との混ざり者。だが、その武技、智恵に英雄のそれは無い。
あまりに未熟だ。
しかし目の前の少女は勇気を振り絞って、立ち向かってくる。
僥倖、僥倖、素晴らしいぞ。
だが、未熟だ。
だからこうして
「苦悶を零せ────」
背後より聞こえる声、鳴動する魔力。
それを意味しているのはただ一つ。
宝具、即ち
人間の幻想を骨子に作り上げられた、英霊達が生前に築きあげられた伝説の象徴。
伝説を形にした『物質化した奇跡』。
そして奇跡が放たれようとしている。
アサシンの布に覆われた、赤い右腕が露わになる。
「───『
赤い右腕が、悪性の精霊・シャイターンの腕がマシュ目掛けて伸びる。
この腕に触れれば最後、抵抗虚しく呪殺される。
「────マシュッ!?」
藤丸の声が響く。
マシュはそれに反応し、迫り来る驚異から避けようと右に退避しようとした時、頭上より矢の嵐が吹き荒れる。
『■■■■■ッ───!!!!』
周囲を見渡せば、骸の兵団が弓を構えてそこにいる。
回避を封じられ、目の前にはランサー、迫るはアサシンの宝具。
藤丸立香は諦めない。
自分のサーヴァントが頑張っているのだ。俺も頑張らなければ、守らなければならない。
マシュ=キリエライトは諦めない。
先輩が頑張っているのだ。私も頑張らなければ、まだ戦うのだ。
オルガマリーは絶望した。
二人が頑張っても戦況が悪すぎる。
これで私達も終わり、何も成し得ず、無価値に終わる。
近くで、奇妙な笑い声が聴こえる。
まるで心の底から楽しむ様な、そんな子供の様な声が。
……
………
…………
人理は滅却される。
何処かで、獣の嗤い声が響く。
人類最後のマスターは此処に潰える。
世界は、人類は消え失せる。終末が訪れる。
だが、それを世界は、抑止力は許容するだろうか?
『アラヤ』は、『ガイア』は、許容しない。
人理の再構築を認めない。
星の新生を認めない。
されど、一瞬の内に人理を滅却された抑止力にかつての様な原因を前もって排除する事は叶わない。
ならば、ならばどうするか。
最後の力を振り絞り、人類史を復元させる。
そのために、抑止力は救世の英雄を呼び寄せた。
人類史に刻まれた、最新の英傑。
クラス・
名を───────
☆★☆★☆
地響きがなり、徐々に、いや常識外れの速度で近づいてくる。
それはアサシンの宝具がマシュに触れる前に確実に此方へ到達する、皆がそう悟った時、
「ヤハハハハハハッ!!!!」
突如、スケルトンの大軍を粉砕する突風が吹き荒れた。
更に、アサシンの赤い腕がマシュから軌道がズレ、アサシンごとビル群まで吹き飛ばさせた。
「なっ!?」
藤丸立香は呆然とした。この絶望的な状況で、一体何が起きたのか分からないからだ。
そして、一つの人影が、現れる。
皆が、確信する。
この現象はアレが起こした、否、起こしたというのは些か語弊がある。
コレはアレが駆け抜けただけである。
ただ、純粋に、まごう事なく。
「生存者、なの………?」
信じられない。
黒い、日本の学ラン。
炎のマークが刻印されたヘッドホン。
そして金色の髪。
見たところ普通の人間だ。
だけど、それが、この地獄のちまたで生きていた?
悪い冗談だ。
人間がこの地で生きている筈が無い。
ならば、答えは────
『みんな大丈夫か!? それにしてもこの魔力……!
近くに新たなサーヴァントだ! それに、凄い!!
低く見積もっても大英雄クラスの英霊がいるじゃないか!!』
つまり、サーヴァント。
しかし、妙だ。
あの格好からして近代の英雄と見て間違いないだろう。だが近代の英雄にそこまでの魔力を保有する英雄は居ない筈。
『クラスは……判別不能だって!?
既存の七つのクラス、どれにも当て嵌らない!?』
「いえ、今一番優先なのは、アレが味方か……敵かよ……!」
大英雄クラスの英霊が味方なら心強い限りだが、敵ならば最悪だ。
学ランの少年は、周囲を見渡し、
「ヤハハ、大体状況は察したんだが、とりあえず────
俺も混ぜろやゴラァァァァッ!!!!」
少年は適当な石を手にし、ランサーへと投擲した。
此処までは良い。だが、異常だ。
それは第三宇宙速度で飛来してきたのだ。
「───────ッ!!??」
あまりにも出鱈目だ。だが、亡者と言えど彼らもまた英雄。
卓越した武技で捌こうと槍を片手に持つが、それは大きな隙となる。
「これで、倒れて!」
横薙ぎに振るわれた盾が、ランサーの脇腹に減り込み、吐き出された苦悶の声は飛来する投石の破砕音が搔き消した。
近くにいたマシュは盾で衝撃を防ぎ、藤丸とオルガマリーの近くへ後退した。
「さて、そろそろ出てきたらどうだ?
骸骨野郎。生憎、俺は隠れんぼは負けなしなんだ」
少年が虚空に向かって呟いた言の葉の返答は、五つの暗剣。
彼はアサシン。態々同じ土俵で戦う訳もない。
それに対して、彼は溜息を吐く。
まるで残念だと言わんばかりに。
「じゃ、この辺り一帯吹き飛ばすか」
『はぁ?』
三人が素っ頓狂な声を上げる。
今、何と言った?
「マシュ、聞き違いかな? 聞き間違いだと言ってくれないかな」
「すいません、先輩。聞き間違いだと言ってくれませんか?」
「ちょっ、貴方達!
惚けてないで、退避か防御を!!!!」
そう言っている間にも、彼は拳を構える。
マシュは藤丸とオルガマリーを背後に庇い、盾を構える。
そして────
「オラァァァァァアッ!!!!」
秒間数百発は優に超えるだろう、拳打が放たれる。その威力たるや地殻変動に比する。
徐々に大地は窪み、沈下していく中、少年は隠れていた暗殺者を炙り出す。
「そこだッ!」
少年は四肢に力を込め、第三宇宙速度でアサシン目掛けて跳躍する。
アサシンは、迎え撃とうと再度、宝具が開帳される。
「『妄想心音』!!」
再び伸びる呪殺の右腕。
触れれば、触れさえすれば、呪殺の準備が整うのだ。
負けぬ、負けぬ、負けられぬのだ。
チッ、と何かが掠れる音がした。
「私ノ勝チダ───ッ!」
作成される二重存在。
この心臓を潰せば殺せる。
早く、速く、疾く───
グチャリ、と音がする。
鏡面の心臓を潰した。やった、勝ったぞ。
アサシンは勝利を確信する。
「余所見してんな!!!!」
「なっ!?」
それが虚構だと、一秒経たずに理解させられる。眼前に少年の拳が迫る。
馬鹿な。心臓は潰した、呪殺は成立した筈なのに。
「まあ、見所あったぜ。お前」
拳がアサシンの顔面に突き刺さった。
この絶望的な状況を、アサシンとランサー、スケルトンの軍団を正体不明の少年が、数分の内に砕いてしまった。
「さて、お前か? 人類最後のマスターは」
そして少年の視線が、好奇心の宿った視線が藤丸へと向けられる。
彼が敵なのか味方なのかで対応は大いに変わる。
藤丸は意を決して口を開く。
「人類継続保障機関カルデア所属の魔術師、藤丸立香………多分、人類最後のマスターだと思う」
「私は同じくカルデア所属、マシュ・キリエライトです。えっと、貴方は一体………」
「ああ、俺がまだ名乗ってなかったな」
少年は凶悪な笑みを浮かべて、自らの名を明かす。
「クラス
粗野で凶悪で快楽主義と三拍子揃った駄目人間なので用法と用量を守った上で適切な態度で接してくれよ。人類最後のマスター様」
これこそ運命だろう。
彼の参戦により、物語は大きく動き出す。
さあ、
救世主の到来を、蒼穹の空の元でソレは感じ取った。
救世主、確かにこのタイミングで召喚されるのも道理だろう。今や世界は終わる。
獣の大偉業の前に、旧世界は灰燼に帰す。
故に、救世主の到来を些事だと切り捨てる。
魔術王の亡骸に住まうソレは、己の偉業成就を待ち望む。
その姿を、戦火を待ち望む、紅く煌めく三つの双眸が見つめていた。
感想、アドバイスなど待ってます!