Fate/Last future of embryo   作:ビーストⅧ

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小さな勝利

「つまり、この現状は本来の聖杯戦争が狂ってしまった結果。そういう認識でよろしいかしら?」

 

「おう、その認識で問題ねえよ」

 

 魔術師(キャスター)の口から語られた聖杯戦争の顛末。

 街は一夜で炎に覆われ、人は居なくなり、残ったのはサーヴァントのみ。

 さらに魔術師(キャスター)以外のサーヴァントの黒化。

 そして剣士(セイバー)による大聖杯独占。

 

 オルガマリーは被害の大きさに卒倒しかけるが、十六夜という至高のサーヴァントの存在が気絶一歩手前で押し留める。

 それに幸いな事に七騎のサーヴァントの中で最も強いであろう狂戦士(バーサーカー)は無視しても問題ないと聞いた時、彼女は安堵した。

 

 だが、彼らが直面している問題は身近な所に存在した。

 

 

「なんだ嬢ちゃん、自身の宝具がなんなのか分からねえのか?」

 

「はい……それどころか、私の身に宿る英霊の力が誰のモノなのか分からなくて」

 

 それはマシュの宝具だ。

 いくら十六夜がいるからと言っても相手は英霊。油断や慢心などしては命を落とすことになる。

 故にマスター──藤丸を、オルガマリーを守る為に彼女が宝具を使うタイミングは必ず出てくる。

 だが、彼女には宝具、そして自身を助けてくれた英霊の真名を知らない。

 そんな自分を欠陥サーヴァントと呼ぶマシュ。

 

 

「マシュは欠陥なんかじゃない。無力な俺を守ってくれた自慢のサーヴァントだ」

 

 

 藤丸は励ます事しか出来ない己に腹がたつ。

 さっきだってそうだった。

 自分はマシュのマスターだ。しかし、それは名ばかりとはなっていないだろうか。

 的確な指示、活路を見出す慧眼。

 今まで一般人だった藤丸には足りない才能。

 これではマシュの負担が増えるばかり、己が力不足に歯噛みする事しか出来ない。

 

 

『ま、まあ、宝具と言えばサーヴァントの秘密兵器みたいなもんだし、一朝一夕で使われたら面目丸潰れ───』

 

 

「あ? そんな事あるかよ。サーヴァントと宝具ってのは同じもんだからな」

 

 

 ロマンのフォローを容赦なく打ち砕く魔術師(キャスター)

 そんな彼をジト目で睨む藤丸だが、彼に他意がない事は表情を見てなんとなく分かったので心の奥底に押しとどめる。

 

 

 魔術師は腕を組んで瞑目し、暫く何かを考え込み、そして何かを閃いた様に口を開く。

 

「そうだ。気合いが足りねえんじゃねえか? いや、やる気? それとも弾け具合? 兎に角、大声を上げる練習をしてねえだけだと思うぞ?」

 

「それだ!」

 

「そうなんですか!? そーなーんーでーすーかー!?」

 

「いや、マシュ、絶対違うと思うんだけど!?」

 

「いやいや気合いは大事だぞマシュマロ娘、ぐだ男」

 

「なんか渾名付けられてるし!?」

 

 魔術師の気合いが足りない発言に悪ノリする十六夜とそれに突っ込む藤丸。

 しかし、真面目で責任感が強いマシュは本気で気合いが足りないと思ったらしく。二人の言葉を間に受けていた。

 

「マシュ。少し冷静になろう。俺も冷静になるから、ね? 十六夜もキャスターもからかわないでくれよ! マシュは純真なんだ、純真なんだよ!?」

 

 必死でマシュが問題児達に毒されない様に抱き寄せる過保護なマスターを二人は快活に笑う。

 そんな漫才じみた一幕が続く中、ロマンの通信が響き渡る。

 

 

 

 

『みんな、お喋りの中悪いけどサーヴァント反応だ。この反応だと……クラス騎兵(ライダー)、もう近くまで来て───』

 

 ロマンが声は彼らに届かない。いや聞こえない。辺りに木霊するは鎖の擦れる金属音。

 風を切り、疾駆する一つの影が手に持つ短剣が空に二つの剣閃を描く──藤丸に向かって。的確に、迅速に、首を刈る、喉を抉るために。

 

 

「はあああああッ────!!」

 

 

 だが、そんな事を彼女は許さない

 二つの剣閃を藤丸との間に割り込み、盾を構え防ぎきる。

 さらに、そのまま盾でライダーの顔面を狙って迎撃するマシュだが、ライダーは持ち前の機動力でスルリとマシュの間合いから抜け出てしまう。

 

 

「……苦しまない様に一瞬で楽にしてあげようとしたのですが、防がれてしまいました。勇敢なのですね」

 

「先輩はやらせません……!」

 

 

 向かい合う、ライダーとマシュ。

 何故、彼女が藤丸を狙うのかは分からない。

 しかし、それでも────自分は彼のサーヴァント。守るのだ、彼の為に。

 されど、自身は宝具を使えぬ欠陥サーヴァント。此処は十六夜とクー・フーリン、あの二人を加えて万全を期して迎え撃つべきだ。

 

「十六夜さん────」

 

「俺は手を出さねえぞ?」

 

「え……?」

 

 十六夜の言葉にマシュは耳を疑った。

 先程、協力すると言っていた筈なのに、何故。彼女の頭の中では疑問符が乱立していた。

 

「ちょ、貴方自分が何を言ってるか分かって───」

 

「これは、彼奴(ライダー)が売って、マシュマロ娘が買った喧嘩だ。俺が手を出すのは無粋だろ」

 

「な……! 巫山戯ないで! キリエライトや彼が死んだら、どうするつもり───」

 

 オルガマリーの主張は悲痛だった。

 現状、藤丸とマシュを失うのは何としてでも避けたい。

 何より人の命は重い、重いのだ。たった一人が背負えるものでは断じてない。

 故に、十六夜にオルガマリーは吠える。しかし、───

 

「やめとけよ。良いじゃねえか、やらせてやれよ。それに宝具ってのは英霊の本能だ。なまじ理性があると出にくいんだよ」

 

 故に、ライダーの相手はマシュと藤丸に任せる。

 二人の真剣な声音が響く。

 それに応える様に彼女は────

 

 

 

「────マスター……下がっていてください。目標シャドウサーヴァント・ライダー、戦闘を開始します……!」

 

 

 刹那、短剣と盾が火花を散らした。

 

 

 

 

 ☆★☆★☆

 

 

 美しく、妖艶な(ライダー)は駆ける。

 その姿はまさに疾風。その速度で放たれた閃く軌跡は盾の防御をスルリと、蛇の如く掻い潜る。

 しかし、何故か当たらない。

 ライダーにとって、目の前の少女(マシュ)は酷く汎用な英霊なのだ。

 かつて自身を討った英雄には決して届かず、譽れも高き騎士の王の武功に迫るものもない。

 

「ああ、ああぁぁぁ───!!」

 

 吐き出された気合と共に、正面に迫る騎兵を迎え打つべくマシュは盾を横薙ぎに振るう。

 

(やはり、未熟ですね)

 

 横薙ぎの一撃を、騎兵はマシュの頭上を飛び越えて躱してみせる。

 騎兵の強みは機動力、そして───

 

 

「くっ───!?」

 

 

 背後から感じる悪寒。即座に盾を構え直した時、マシュは己の目を疑った。

 なんと騎兵は鎖を足場に三角飛びの要領でマシュの懐まで飛び込んでいたのだ。

 

 

 騎兵のもう一つの強みは、その機動力を活かしたトリッキーな戦い方だ。

 それは、この特異点の様なビル街ならではの強みと言えるだろう。

 三次元的に動く騎兵を捉える術をマシュは持っていない。

 カウンターを狙ったとしても、彼女の健脚の前では先程の様に躱されてしまう。

 

 

 だが、現状は動かない。

 騎兵の短剣は寸前に盾で防がれ、マシュの攻撃は躱される。

 お互いの実力が拮抗している状態。

 

 しかし、それは────

 

 

「舐められたものですね」

 

「なッ……!?」

 

 

 ───騎兵がマシュの攻撃を躱すことのみを視野に入れた場合だ。

 

 打ち上げる様に放たれた一撃を、事もあろうに騎兵は片手で止めたのだ。

 それは単なるステータスの差、そして騎兵の持つスキルによるものだ。

 騎兵のサーヴァントは本来、反英雄かつ英霊に敵対する魔物に近い存在なのだ。

 英雄譚に描かれる怪物────彼女の正体は正にそれ。その怪物足らしめる剛腕をもって、盾の少女を振り回し、投げ飛ばす。

 

 そのまま廃ビルに吹き飛ばされたマシュは瓦礫の上からは瓦礫が降り注ぐ。

 英霊の身体ならば耐えられる。しかし、────

 

「マシュッ!?」

 

 大切な少女の為に彼は駆ける。

 自分は無力、この場において最弱だろう。

 だから、どうした?

 みんなで生きて帰る、帰るのだ。

 

「心優しいのですね、貴方は」

 

「ガッ───!?」

 

 生きた蛇蝎の如く蠢めく鎖が首に絡まる。

 気道が締まる、息が出来ない、目の前が暗くなる。

 脳が上手く機能しない────首の鎖は徐々に力を強め、藤丸の意識は暗闇へと落ちようとしていた。

 

 

(マシュ……!)

 

 

 自身のサーヴァントの身を案じながら、意識が遠のいて……

 

 

 

 

 

 

 

 ──いつまで経っても意識がある。

 心なしか首の鎖が緩んでいた。

 

 

「ぐっ───!?」

 

 見ればライダーの身体がくの字に折れ、たたらを踏んでいた。

 それは刹那の内に放たれた一撃、マシュの盾がライダーの横腹に突き刺さっていた。

 

「やあぁぁぁッ!」

 

 そのまま、マシュは横薙ぎの勢いを殺さず、踏み込んだ右脚を軸に回転。さらに勢い加算させ、再び放たれた横薙ぎ。

 堪らずライダーは鎖を手繰り、盾の一撃を防御する。

 

 

「マシュ、ぶちかませぇぇッ!」

 

 藤丸の身体を魔力が駆け巡る。

 魔術礼装が起動する。

 彼の経験は浅い。やった事と言えば、カルデアで受けた模擬戦闘と此処での戦闘だけだ。

 そして現在、起動したのはカルデアから支給された魔術礼装・カルデア。

 礼装が持つ効力は三つ。その内の一つである瞬間強化に魔力を廻し、マシュを強化する。

 

 一時的に強化された盾の一撃は、鎖の防御を吹き飛ばし、ライダーの肋骨を粉砕する。

 

「ガッ───!?」

 

 ライダーの口から苦悶が漏れる。

 口の端から血が滴る。

 マシュが漸く与えた有効打。ライダーが次手へと繋げる前に畳み掛けるようと、大地を蹴ったその時───

 

「────え?」

 

 足が思うように動かない。

 突如として襲いかかる倦怠感。

 重くのしかかる圧を感じながら、マシュはこの現象を引き起こしただろう騎兵に視線を向ける。

 

 ハラリ、と地面に落ちる騎兵が身につけていたバイザー。

 そして露わになる騎兵の素顔。

 美しい───その一言さえ無粋な美貌だった。淡い赤色の光を灯した眼が此方に向けられていた。

 

 

「……なるほど、運が良いですね。運が悪ければ貴女は石化していた」

 

「……石化の魔眼、ですか」

 

 

 マシュはこの現象の解答を得た。

 石化させる能力を持つサーヴァントなど限られている。各神話に綴られた石化に関する伝承の中で、石化させる魔眼を持つ存在など一柱しか存在しない。

 

「なるほど、あのライダー……メドゥーサか」

 

 十六夜の呟きを否定する者は一人もいなかった。

 ギリシャ神話の英雄、ペルセウスに討伐された怪物。メドゥーサという名には“支配する女”、“守護する女”という意味が存在している。そして、彼女は怪物と語られる一方で、地母神としての側面を持つ神霊だ。

 ふと、■■で仲間と共に挑んだ■■■■■■の相手が脳裏に浮かぶ。彼らは共に、あのライダーと関係のある逸話を持っていたなと思い出す。

 だが、あの元■■の彼女は星霊にして悪魔。目の前のライダーは神霊と怪物としての己を英霊に押し込められ劣化している。それに伴い“ライダー”としての逸話が存在している筈だ。ならば彼女の宝具は────

 

 

 

 そして────ライダーはマシュから数十mほど距離を取った。

 単に危険を感じたからではない。

 目の前の少女を傑物と認めた上で、一息で命を刈り取る為。その為の助走距離は十分取った。

 

「────宝具!!」

 

 マシュの声が響く。

 来る。ライダーの誇る最大の攻撃が、自身とマスターを殺すために放たれる。

 ────ライダーの姿勢が落ちる。

 赤い血で結ばれた眼が騎兵の眼前に現れる。

 

「────“騎英の手綱(ベルレフォーン)”!!!!」

 

 真名が(めい)じられる。

 ライダーの姿は一瞬で白色に包まれ、一条の彗星の如く放たれる破壊の光。

 

 あの一撃は、確実にマシュと藤丸を砕くだろう。迫る致命の一撃を前にマシュは思う。

 

(守らないと、使わないと……先輩が死んでしまう……!)

 

 自分の後ろにいる、守りたいと心の底から思える人が後ろに居るから────

 

(偽物でもいい)

 

 ────魔力が体内を駆け巡る。

 

(今だけでもいい、だから───)

 

 ────守りたい人の為に振るう力を私に下さい。

 その願いと覚悟が、()の魂に響いたのか、此処に奇跡が具象する。

 

「あああぁぁぁぁ────!!!!」

 

 正面で構えられた盾は、まるで城壁だった。

 顕現するは盾を模した光の結界。

 宝具の、英霊の真名を知り得ないマシュが顕現させられたのは、あくまで擬似的なモノ。

 されど、守りたいという一心で顕現した宝具に隙はなく────

 

 

 光と光が鬩ぎ合い、自身以外の光は要らぬと喰らい合う。

 片や極光の彗星。片や光の結界。

 されど、そこに込められた彼女の思いに敵は無い。

 勇気と覚悟に呼応するように展開された守護防壁は、あろうことかライダーの宝具を()()()()()()()

 

「ガッ────!?」

 

 砕ける極光の彗星。

 弾かれるように宙を舞う、女の肢体。

 

「まだ、まだ……!」

 

 大地を蹴り、疾走するマシュ。

 振りかぶる盾は覚悟の一撃。この一撃はただの一撃にあらず。

 これは、始まりだ。自身と、そして(マスター)との旅の始まり───マスターとサーヴァントとしての最初の誓い。

 

(先輩───私、未熟なサーヴァントですが必ず貴方を────)

 

(マシュ、俺は至らないマスターだけど……俺は必ず君を────)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(────守ってみせますから!)

(────守ってみせるから!)

 

 

 

 覚悟の一撃は、騎兵の身体を横一文字に振るわれた。この一撃を以って、騎兵の身体が崩れだす。

 

 

「マシュ……」

 

 

「先輩、やりました……!」

 

 

 紛れもなく、彼らは勝利したのだ。

 大局的に見れば、ほんの小さな一歩。

 だが、これは彼ら二人にとって大きな一歩なのだ。

 二人の勝利を──十六夜は、笑みを浮かべて見つめいた。

 

 







やはり、クロスオーバーは難しい……
そして、今回も難産であった──さらに言うと、中途半端に終わった感じが否めねぇ……

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