人間だけど私は魔化魍を育て、魔化魍の王になる。   作:創夜叉

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大変遅れて申し訳ございません。
色々とどう詰め込むかと試行錯誤して気づいたらちょうど1ヶ月経っていました。
今回はこのクロス編の黒幕が登場します。


参 悪魔魔化魍襲来

SIDE◯◯

 幽冥がタクロウビについての話をしている同時刻。

 潰れて数年の時が経った廃工場の中。年数が経ち、錆びた機材が数多く並ぶ中で不自然なほどに更地の様な場所の中に赤黒い何かで描かれた途轍もなく大きな魔法陣とその中心には赤黒い肉塊があった。

 

【あ〜あ〜ダ〜メだ、ダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダ〜メ〜だ!!!】

 

 そして、その魔法陣の中心の近くに居たのは、廃工場の中でも目立つようなフードのついた縁に金のラインが入った黒いローブを身に纏ったローブの何かが喚いていた。

 

【こんなじゃああああああ、ダ〜メだ。も〜っと、純度の〜あ〜るものでは〜ないと】

 

 ローブの何かは自分のローブの裾を噛みながら、中心にある肉塊を魔法陣の外に投げる。ベチョという音が鳴り、それを見向きもせずに何かはブツブツと呟きながら、目の前の魔法陣を見ていると。

 

「それ、手伝ってやろうか?」

 

【誰〜だ!!】

 

 間延びしたような声で何かは後ろを振り向くと、そこには、赤黒の肌をして妙に露出度の高い変わった服を着ている鬼の少女がいた。

 

【き〜さま、鬼か〜?】

 

「鬼? 確かにうちは鬼やけど。あんさんの思ってるような鬼とは違うよ。うちの名は酒呑童子」

 

【シュテンドウジだ〜と!!】

 

 その名前に聞き覚えと言うより、恨みを持つように答えるローブの何か。それを見た酒呑童子は。

 

「名前が似てるだけで、あんさんの知るシュテンドウジとは違いやすし、うちはあんさんを強くしてあげようと思ってるだけや」

 

【強〜く?】

 

「そや。これを飲めばあんさんは強くなる。少なくとも簡単な事で負けはせえへんよ」

 

 そう言って酒呑童子が取り出したのは、変哲なところはひとつもないお猪口とその中でなみなみと入っている赤ワインの色に似た赤紫色の液体。

 

【本〜当に強〜くな〜れる?】

 

「そう」

 

【も〜しも〜違った〜ら、お〜まえを〜コ〜ロス】

 

「御自由に、でも強くなれるさかい」

 

 ローブの何かはそれを聞き、お猪口を受け取り、中の液体を飲み干す。

 すると、ローブの何かは全身に強い痛みを感じ、その痛みは強さを増していき、床に倒れ、ごろごろと床を転げ回る。酒呑童子はそれを見ながら先程とは別のお猪口を出して同じものを呑んでいる。やがて、ローブの何かは転げ回るのをやめた。

 

「成功や」

 

【………こ〜れは!】

 

 床から立ち上がりローブの何かは確信したかのように廃工場の奥に行き、数秒で戻ってきた。その手に猿轡をされて両手足に黒い縄のようなもので拘束して意識の無い女を連れて、魔法陣の近くに着くとローブの何かは連れてきた女を乱雑に魔法陣の上に投げる。投げられて床にぶつかった衝撃で女は目を覚まし、あたりを見て目の前のローブの何かを見つけると猿轡をされているのにも関わらずに悲鳴をあげる。

 ローブの何かは特に気にすることもなく魔法陣に手を向けると魔法陣が陣に沿って光り始めて、女はさらに悲鳴をあげる。

 

「むむうううううううぅぅぅぅ……………」

 

 女の悲鳴を気にすることなく魔法陣の輝きが増し、輝きが増すに連れて悲鳴は小さくなり、その輝きが廃工場の中全体に輝いた時には消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ど〜うだ?】

 

 何かは輝きが消えて、煙で見えない魔法陣に目を向ける。だんだんと煙は晴れていき魔法陣が見えるようになった。そこに見えたのは置かれていた女の代わりに魔法陣の上に立つ黒い何かだった。そして、魔法陣の上に立つ黒い何かを見て、ローブの何かは、フードで隠れる頭に手を当てる。

 

【こ〜れで、我〜の〜悲願が〜叶う!! ふふふふ、ははははははは!!】

 

 ローブの何かは全身から薄気味悪い黒いオーラを出しながら魔法陣の上に立つ黒い何かに歓喜の高笑いし、酒呑童子はその様子を面白そうに眺めていた。

 

SIDEOUT

 

 ひなが発見した少年と魔化魍………いや零士とその母親であるハハマナコと家族の妖怪がこの妖世館に来て既に1週間経った。

 アメフリコゾウの小雨を探しに来たタクロウビ(現在は導という名前)が幽冥の家族になると言い少し経つと、続々と零士の家族の妖怪が目を覚ましていった。

 最初に目を覚ましたのは、鯆の顔と背鰭を持ち下半身は大蛇で上半身が裸体の女性という姿をした妖怪 濡れ女の濡川 雫と溶岩や溶けた鉄を想起させる暴炎とよく似た蜥蜴の妖怪 山蜥蜴。

 彼女達は目覚めて直ぐに零士とハハマナコの側に近寄り、雫はその手に鮃と鰈を思わせるデザインの2本の刀を取り出し、山蜥蜴は喧嘩口調でこっちに挑発を掛けて、家の好戦的な家族が何人かと喧嘩になりそうになるが、幽冥と零士の説得により雫と山蜥蜴は納得して、戦うことは間逃れた。

 

 次に目を覚ましたのは、鷲の翼と鰐の尻尾を持ち鳴風に似た単眼のマンタの妖怪 一目連のひとみと江戸時代の小判に似た鱗を持ち瞳は童話に出てくるあるキャラと似た赤い宝石の竜の妖怪 金魂のこがね。

 ひとみは零士を見た瞬間に『お父さん』と言って飛びついたので、その時はまさかの子連れという零士に驚き、この光景を見た一部の妖姫と魔化魍が同じように幽冥に飛びかかろうとしたらしいが、飛びかかる前に幽冥の姉である春詠が現れ、何かを耳打ちすると飛びかかろうとした者たちは何もせずに持ち場に戻った。

 この騒ぎの後に零士とこがねがひとみは卵だった頃に零士に拾われ育てられたので、ひとみからすると零士はお父さんで、その母であるハハマナコはお婆ちゃんという感じで慕われていると知り、幽冥は安堵の息を漏らしていた。

 

 その次に目覚めたのは、法服を着た金の瞳で何か企んでいるという顔をした白狐の妖怪 白蔵主と4本の腕を持つ茶色の肌で、他の妖怪達より大きく顔を布袋で隠した妖怪 土用坊主。

 目を覚まして早々に白蔵主は幽冥に近付き、算盤を取り出して、何かの計算を幽冥に見せていたが、後ろから土用坊主が白蔵主を4本の腕で捕まえると地面を盛り上げて作った四方に覆われた土の壁の中に白蔵主を閉じ込めていた。

 

 最後に目覚めのは、大鍋を頭に被った少し古い着物を身に付けた狼の妖怪 かじかばばあの鍋婆と天狗のような鼻をもった悪鬼のような顔付きにゴリラのような身体をした妖怪 ほうこう。

 彼らは、この状況で慌てることもなく事情を聞き、それに納得して、幽冥の家族と仲良くしている。鍋婆は、古樹や緑と一緒にいることが多く、何か語り合っていて、ほうこうは自慢の漬物を家族に振る舞い、一部の家族はその味を気に入っていた。

 

 そんな感じで、新しく家族になった導を含めて、幽冥は零士たちと仲良くしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな風に過ごしている時に、幽冥は思い出したかのように唐突に言う。

 

「服を買いに行くよ!!」

 

 その言葉には、幽冥の家族の魔化魍たち(一時期人間の暮らしをしていた朧や前世の記憶を持つ美岬以外)は頭に?マークを浮かべるが、人間の暮らしに理解のある零士や仲間の妖怪達はその言葉の意味を理解する。

 

 幽冥は今世の暮らしではそもそも両親(クズ)たちが幽冥に対して、必要最低限の服しか買っておらず、現在住むこの妖世館に荷物を持っていく時、服類の数が少なく日用品の方が逆に多かった。その事を姉である春詠に幽冥が言った際は、眼の光が消えて、何かをぶつぶつ言いながら消え、数分後に頭から血を流して気絶していた。

 現在着ている服は妖世館の中にあったものを着ている。ひなは紫陽花が家族になった際に服をいくつか持ってきたが、ほとんどが数年前に着ていた服だっただけにサイズが合わず、幼児の擬人態になる家族に配られた。幽冥の姉である春詠は、元々男だったということもあるせいか、服は着れれば問題無いというスタンスの為にそこまで服を持っていない。

 後は捕虜となっている突鬼の佐賀 練と衣鬼の黒風 愛衣と協力者という関係の調鬼の月村 あぐり達も最低限の服はあるが、結果的に言えば服をあまり持っていない。

 

 つまり現在、妖世館で暮らす魔化魍以外の者達の服があまりにも少なかった事から、幽冥は服を買いに行くと言った。そして、幽冥は服を買いに行くメンバーを決めて久々の買い物に出るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、選抜メンバー、もとい買い物メンバーである出掛け用の服に着替えた朧と替えの服を持たず、少し怪しく見える唐傘、食香、穿殻、昇布、三尸、潜砂、導と服に頓着しない姉の春詠、三尸の付き添いで着いてきたあぐりが買い物メンバーとなり、半日掛けて服屋を巡り歩き、今いるメンバーと家で留守番となっているメンバーの分の服をそれぞれで3セットずつ買った。

 

 最初は服を買うためのお金が無かった事に気付き、買い物は諦め掛けたが、春詠お姉ちゃんとあぐりさんがポケットマネーからお金を出してくれたおかげで、無事に買い物が終わり人の少ない夜になっていた。

 

 薄暗い夜道の中で皆、両手に大量の服を詰めた袋を持って歩いている。魔化魍の王として身体が変異しつつある幽冥は少し重いと思うが、さほど気にしていなかった。

 それに街を出て人目につかなくなったら唐傘には術で荷物を半分空間に仕舞ってもらい、潜砂には本来の姿に戻って貰ってその背中に残りの半分を乗せる予定だ。当初はその話を聞き潜砂はブーたれていたが、幽冥が『頑張ったらお菓子を作ってあげる』という話を聞き、やる気を出した。

 

「後少し歩いたら荷物をお願いね唐傘、潜砂」

 

「わ、わ、分かりました」

 

「良いよ。でも、約束はお願いね」

 

「はいはい」

 

 口元をスカーフで隠した少年の姿の唐傘が吃りながら答えて、黄色いパーカーを着た幼女の姿をした潜砂が幽冥に約束のことを再び言って、幽冥はそれに対して返答する。その様子を微笑ましく見ている他のメンバー。

 

 やがて、目的の場所に着き幽冥が荷物を唐傘と潜砂に頼もうとした瞬間。

 

 ガガガガガという音が響く。

 暫くは、聴いていなかったあの音、そう。魔化魍の敵、鬼の使う音撃管の空気の弾丸が幽冥たちに襲いかかる。

 飛んできた音撃管の弾丸を幽冥たちの前に出た朧が腕を振るうと風が起きて、空気の弾丸を消し去る。

 

【誰だ!!】

 

 弾丸を防ぎ、本来の姿に戻った朧の声に反応したかのように3つの影が近付いてくる。その影に向けて、三尸は尾の提灯から火を飛ばし導は触手から炎を放ち、その姿を確認した。

 

 1人は頭部が灰色に近い白で縁取りされていて、側頭部に後ろに沿った2本の角を生やし、こちらも灰色に近い白の体色の鎧を纏い、その手には先程攻撃したものであろう音撃管を持っており体格の細さと胸部の僅かな膨らみからおそらく女性の鬼。

 その鬼に着いてくる2人は似た姿をした鬼で、2人とも手には似た形の音撃弦を構えている。違う点を挙げるなら、右の鬼は黄色の体色で右肩に稲妻に似た肩飾りを付けており、左の鬼は緑色の体色で左肩に竜巻に似た肩飾りを付けている。体格も似ている事から何時ぞやかに戦った松竹梅兄弟のような双子の鬼なのかもしれない。

 

 鬼達はそれぞれの役割に準じた攻撃を仕掛けてくる。こちらを狙う音撃管の鬼の空気の弾を朧が風で防ぎ、迫る音撃弦の2人を食香と穿殻が身を使って防ぐ。

 

 そして残った、唐傘、昇布、三尸、潜砂、導が攻撃をするが、突如、上から複数の何かが現れて唐傘たちに何かを振り下ろす。唐傘は術を使って地面を盛り上げて攻撃を防ぎ、昇布は上からの攻撃をひらりと避け、三尸は身体を硬質化させて攻撃した何かを砕き、潜砂は両腕で防ぎ、導は炎を巧みに使って布状に変えて何かの攻撃軌道をズラした。

 

 唐傘たちを攻撃してきたものに幽冥は驚く。最初に攻撃したのが鬼だったので、猛士が何かの情報を掴み攻撃を仕掛けたのかと思ったが、唐傘たちを攻撃した存在が理由で猛士が攻撃したのではないと判断した。

 何故なら唐傘たちを攻撃したのは、直立した耳の犬の頭部をした黒い体躯の人型の魔化魍達が様々な武器を手に持ち、その場にいたのだ。

 

 幽冥は今の状況があり得ないと思っている。そもそも相容れぬ者同士である鬼と魔化魍が共同するかのように幽冥たちを襲ったこと自体が可笑しい。

 もしも猛士が魔化魍をコントロールする道具を作ったのなら分からなくもないが、魔化魍に強い恨みを持つ人間が多い猛士はそのような物を考えたとしても実行しないと考えていた。だが、次に幽冥が考えた事はあり得なくもないと思った考えだった。魔化魍に鬼が操られて(・・・・・・・・・・)いる。そう考えると幽冥は納得していた。

 

 そして、幽冥を無視するように突然現れた複数の魔化魍達は、背後の鬼の守るように立ち、攻撃をしようとした唐傘たちは幽冥のいる所にまで下がった。

 それを見た、魔化魍達は手にもつ武器を構え、3人の鬼は各々の音撃武器を構えてこちらに飛びかかろうとした瞬間。

 

【ぜ〜んた〜い、集合!】

 

 間延びしたような声が響き、声に反応して攻撃しようとしていた魔化魍達と3人の鬼は整列するように集まり、その間から黒いローブで顔を隠したものが近付いてくる。

 そして、黒い何かと鬼達はそのローブの何かの後ろで跪く。その様子を見て、ローブの何かは、顔を隠すフードに手を掛けて、その顔を出した。

 

【我〜が〜名はオセ。『偉大なる者』ゴエティア様に仕え〜るゴエティア72柱の悪魔〜魔化魍の1人で〜す!!】

 

 顔を隠すように着けていたフードを外し、その姿が露わになる。縁に金のラインが入った黒のローブを纏い額には横一文字の傷がある赤い瞳の豹の頭の魔化魍………いや、幽冥の前の代である歴代魔化魍の王とも何度も戦った魔化魍の王の座を狙う悪魔魔化魍 ゴエティアに仕える72の悪魔魔化魍の1人、順位は57、階級は総裁。オセは赤い瞳を幽冥に向けながら間延びした声で自分の名を名乗った。




如何でしたでしょうか?
黒幕の正体はオセ。
元ネタはかの有名なソロモン王の72の悪魔オセからきています。
ソロモンのオセは変身能力を持った豹の悪魔らしいですが、魔化魍のオセは能力が異なります。
次回は操られている鬼の1人と新しく家族になったタクロウビの導の話になります。

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