人間だけど私は魔化魍を育て、魔化魍の王になる。   作:創夜叉

110 / 165
お待たせいたしました。
今回はオセが撤退し、その後の導の話になります。


肆 導と女

 自分をまるで親の仇というかのように睨みつける魔化魍 オセ。

 聞いたこともない魔化魍もとい妖怪の名前に私は先ずは相手を見ることにした。外見から見ると豹の姿をした等身大の魔化魍ということ。額に横一文字の傷がある風に見えるがどちらかというと眼を閉じてるようにも見える。縁が金のローブはゲームの魔法使いのような服装にも見える。

 そして、オセはゴエティアという主人が居るようだが、私の知る限りではそのような妖怪は知らない。ただ、前世の頃にいた友人の1人が言っていた知識を1つ思い出す。

 当時は妖怪のことを主に調べていた私はあまり興味を持たなかったが、その友人曰く、『妖怪が好きなら絶対、こっちにもハマるよ』と笑顔で言っていた。友人が教えてくれたのはとある魔術書の話。

 その本は5つの魔術書を合冊した魔道書で、主に悪魔などを扱っており、その中でも有名なものが古代イスラエルの王であり『魔術王』とも呼ばれる男が使役し封じ込めた72の悪魔(・・・・・)を記載した『ゴエティア』と呼ばれる魔術書である。

 

 友人の知識を思い出したという事もあり、目の前の魔化魍が元なっているのが妖怪じゃない事が分かった。だが、分かったからといって今の状況が変わるかといったら変わらない。はあ〜せっかく買った荷物が汚れてしまうのが癪だけど、今のこの状況では気にしている余裕はなさそう。

 荷物を地面に落とし、私はシュテンドウジさんが使っている瓢箪を出す。

 そして、瓢箪の中の液体を少し口に含み、そのまま液体を瓢箪に吹き掛ける。すると、瓢箪の形は柄に瓢箪の蓋が付いた巨大な太刀に姿を変える。

 魔化水晶を手に入れてから私は寝る度に魔化水晶の中にいる王と対話することが増えて、夢という精神世界で戦闘技術を教えられる事が増えた。これは、その時にシュテンドウジさんから教わった。

 

 幽冥が太刀を構えると、オセは眼を見開き、わなわなと身体を震わせて腕を突き出して狂った様な声の号令を出す。

 

【ぜ〜ん〜い〜ん、あの王を〜殺せ!!】

 

 オセの指示で、犬の頭部の人型魔化魍達は動こうとするが、その隣に立つ3人の鬼たちは微動だにせずにそのまま立ったままだった。オセは鬼達に近づき。

 

 鬼の頭に目掛けて拳を叩きつける。鬼は立ったままの体勢の為に殴られ、受け身などもせずに地面に倒れる。殴られて倒れた鬼は何事もなく立ち上がりまた同じ体勢で立っていた。

 

ボソッ【ま〜だ〜ちょう〜せいが〜足りま〜せ〜んか】

 

 ボソッと喋ったオセの声は聞こえず、幽冥は迫る魔化魍達に向けて、太刀を振るいその攻撃を防ぐ。

 

【な〜にを〜手間ど〜ってい〜るの〜で〜すか!!】

 

 オセの声に反応して、魔化魍達は散らばり、幽冥を囲うように走り始める。

 そして、一斉に飛びかかるも幽冥は太刀の峰を使って攻撃を防ぎ、そのまま薙ぎ払うように太刀を振るう。

 

【ちっ! 仕か〜たあ〜りま〜せん。引き〜あ〜げる〜ぞ〜!!】

 

 犬頭の魔化魍の攻撃を防いだのを見たオセの反応は早かった。オセの声に反応して犬頭の魔化魍達と鬼はオセの周りに集まり、オセが地面に手を付けると魔法陣が地面に描かれる。

 何をしようとしているのか気付いた幽冥は、その手に持つ太刀を離して、手をかざすと無数の氷柱が宙に浮かび、オセ目掛けて飛んでいくが、オセの魔法陣は光、そのままオセ達は消えて、オセに向かって飛んだ氷柱は標的を失くして地面に落ちていった。

 

「逃しましたか」

 

 幽冥は離した太刀を持ち上げて、元の瓢箪に戻した。

 

「大丈夫ですか王」

 

「大丈夫ですよ白。それと関係のないところを触ろうとするのはやめて下さい」

 

 白が寄ってきて、私の身体を触るが、特に問題は無いのと触る手が少し怪しくなったので白の手を止める。

 そして、幽冥たちは辺りを警戒しながら自分たちの家である妖世館に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんね幽。その魔化魍は知らないよ」

 

屍王

【ゴエティアか、いや知らんな】

 

「ごめんなさい王。私もその名は知りません」

 

古樹

【右に同じだの】

 

 妖世館に戻った幽冥は先ずは、年長ともいえる家族である美岬や屍王、緑、古樹からゴエティアという名前の魔化魍について聞いてみたが4人は知らないと答えた。

 

穿殻

【あのオセっていう魔化魍は何か不気味なものを感じた】

 

 そう呟いたのは、買い物メンバーとして一緒にいた穿殻だった。

 

「不気味とは……」

 

 確かに妙な力らしきものを使っていたが、それだけで不気味というのはおかしい。

 

穿殻

【何故か分からないのですが、あのオセはそこまで強くないと思うんです。むしろ、僕や鋏刃、浮幽と組んで戦っても余裕で勝てると思うけど、何か分からないけど不気味なんです】

 

 穿殻の言葉で、オセの事を思い出す。これは幽冥の考えた確証のない予想であるが、『力ある魔化魍は、何か知らぬ気を感じる』。幽冥は今まで、力のある魔化魍を見てきた。

 自身の前の王であり自身の体の中に住まうシュテンドウジやイヌガミ、ユキジョロウ、フグルマヨウ。この4体の中では見た印象は弱そうにも見えるフグルマヨウヒもよく見れば、その印象は全く変わって見える。

 だが、オセは前者の4人とは違い、このオセはそのような気も力も無かった。あったとすれば、そのような力を感じなかったものがどうやって鬼を操り、あの謎の犬頭の魔化魍達を従えていたのかが穿殻の言っていた不気味なところだろう。

 

潜砂

【でもでも、王だったらあんなのイチコロでしょ】

 

「油断は禁物ですよ潜砂。確かに王でしたら問題は無いと思いますが、万が一もあります。これからは王の側には最低でも3人は護衛としていて貰わないと」

 

「まあ、落ち着いて白。私のことは大丈夫だよ。取り敢えずは………これをどうにかしよ」

 

 幽冥が指を指したのはオセの襲撃によって汚れてしまった衣服類の山だった。

 そして、幽冥達は汚れた衣服の洗濯を始めるのだった。

 

SIDE導

 オセの襲撃から3日経ち、王である幽冥には白の提案で家族の3人の交代交代で護衛となり、護衛では無い家族はそれぞれの時間を過ごしていた。

 

 そんな中、導は人間の姿に変わって、都会の街の中を歩いていた。歩いてる途中で、下卑た視線を送ってゲヘヘと笑う男や表情が危険な女などがいたが、導は気にせずに歩いていた。

 

 そんな風に歩いていると導はあるものに目が入る。

 そこは人の出入りが多く、子供から大人まで色んな年齢の人間が自動で開く扉から中に入っていく。カラフルな電飾の看板に描かれた文字を読もうとするも、普通の日本語しか知らず基本的には山で過ごし世俗とは離れた生活していた導はその文字を読めなかった。

 

「何て読むんだろう?」

 

 文字を何と読むのか分からないが、人間が多く出入りしているということで何かあるのだろうと思った導はそのまま、その店に入っていく。

 

 

 

 

 

 

 中に入った導は聞こえてきた大爆音に驚き、両耳に手を当てて、その音を防ごうとする。だが、それでも聞こえる音に導は耐えて、ようやく耳が慣れ始めてきたので手を耳から外し、改めて店の中を見た。

 

 透明なガラス張りの巨大な箱の中にある数多の景品を上から生えた手のような物で取ろうとするカップル。

 

 鬼の持つ音撃武器にも似た物でこれまた鬼の持つ武器と似たものを流れる音楽と共に叩く子供。

 

 横の入り口らしき場所が幕で覆われた巨大な箱の中から聞こえる少女の笑い声。

 

 巨大な箱に映し出された映像に黒い塊を向けている親子。

 

 箱が並び、ポチポチ押し、グイグイ棒を忙しなく動かし画面に映る何かを操って遊ぶ学生。

 

 歳の異なる人間がその場で何か熱中するように楽しんでいた。

 

 どのようなものがあるのかを見ながら歩いていると、最初に目に入った巨大な箱とそれに対して凝視するかのように見る女性が居た。導はどんなものかよく分からないので、近くによって見ていた。

 

「あああああ駄目だ。ううう、あともう少しなのに、はあーーー次で最後にしよう…………ね、そこの君?」

 

「?」

 

 導は女性の声を聞くも人間と関わらないようにしようと思い、そのまま立ち去ろうとしたが–––

 

「ちょっと、逃げようとしないでよ」

 

 立ち去ろうとしていたのに気付かれたのか、導を逃すまいと必死に手を掴む女性。

 

「やめて下さいよ。ていうか僕に何の用ですか?」

 

「これを君がやってみてくれないかな」

 

「はああ?!」

 

 突然、こんな事を言われたら誰でも、こんなリアクションは取るだろうが、そんな事もお構いましに女性は言葉を続ける。

 

「あともう少しでコレ取れるんだけど、私がやっても取れそうにないし、偶々目に入った君がやってくれたらなんか上手く行きそうな気がして」

 

 女性の言うものを見ると、それは2つで1つというような可愛らしくデフォルトされた犬と猫のストラップだった。だが、導はそんな事は知ったこっちゃないし、それに出来ない理由を言えば女性は諦めてくれると思った。

 

「知りませんよ。だいいち僕は、お金がありませんし、それをどうすればいいのか分かりません」

 

「え、やり方を知らないの。じゃあ、お金はこれを使ってそれにやり方を教えてあげるし。先ずは––––」

 

 そのまま女性からクレーンゲームというものの遊び方の説明を聞き、女性から無理矢理渡されたお金をゲームに入れると妙に明るい曲が流れ始める。

 何で自分はこんな事をしているんだろうと思いながら、導は目の前のクレーンゲームに集中していた。

 

「………」

 

「おお!! すごい!」

 

 女性が下手なのか導が上手いのか分からないが、導の操作するクレーンは女性の欲しがっていたものを見事に掴み、そのまま大きな穴に持って行き、穴の上に着くとクレーンは掴んだものを落とす。

 

 導は初めてやったクレーンゲームを面白いと思った。

 女性は箱の下にあるところから落ちた景品を取り、景品を眺めていた。導はどんなものかも分かり、そのまま店を出ようとするが。

 

「君、ありがとうね。いやーー欲しかったのよねこれ。ああ、私は紗由紀。君は?」

 

「導……」

 

「導か面白い名前だね。ああ、そうだ。この景品のお礼させてくれないかな」

 

 そう言うと女性もとい紗由紀は導の手を引き、側に寄せると紗由紀は辺りを見渡す。

 

「じゃあ、あそこで写真撮ろうよ」

 

「しゃしんって、ちょ、ちょっと」

 

 紗由紀に連れられて箱の中に入ると大きな画面に自分たちの姿が映っており、紗由紀は黒い穴のようなところに顔を向ける。

 

「ほらほら笑顔だよ笑顔。にいい」

 

「に、にいい」

 

 プリクラを撮り終え、横の小さな穴から出てきた物を取り出す。写真を取った紗由紀はそのまま、先程入った入り口から外に出ようと早歩きをする。

 紗由紀に引っ張られて、そのままゲーセンを出た導は紗由紀と共に色々なところに行った。流行りというカフェ店で少し甘めなカフェラテを2人で飲み。

 最近、注目されている新しいグッズを見たり。だが、そんな時間を楽しみながら導は自分の中に感じるあったかいものに戸惑いながらも紗由紀と楽しんでいた。やがて、そのあったかいものが何か気付いた導は、その気持ちをどうしようか悩んでいた。

 

 好意もとい誰かを好きになるというものを感じ、いつでも隣にいてくれると嬉しい者。それが紗由紀に対して思った導の気持ちだった。

 だが、導はその感情は感じてはいけないものと思った。紗由紀は人間で自分は魔化魍。喰う者と喰われる者。いくら好きなろうとも、超えられない壁を導は感じる。人間と恋愛をした末に孫まで産まれた紫陽花の例もあるが、それはあくまで魔化魍と鬼という敵対するもの同士という接点があったからだ。だが、紗由紀はただの人間。自分との接点はない。

 

「じゃあ、僕はこれで」

 

 導は自分の思いを胸の中に仕舞い紗由紀に別れを言い、そのまま去ろうとすると–––

 

「っ?!」

 

 頭に何かが落ちて、導は何かを取った。

 

「これは?」

 

 その手には何かを包んだ紙にがあり、振り向くとそこには笑顔で手を振る紗由紀がいた。導が紙を開くと中にはクレーンゲームの景品として手に入れたペアストラップの片割れと先程とったプリクラの写真が入っており、さらに紙に何か書かれていることに気づき、それを読む。

 

「またいつか……」

 

 ただ、短く書かれたその言葉に導は嬉しく思いながら妖世館に戻った。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE紗由紀

 導を見送った紗由紀の後ろにはいつの間にかフードで顔を隠しているオセが立っており、そのフードの下からでも分かるような邪悪な笑みを浮かべ、導の後ろ姿を見ていた。

 

【お〜も〜しろ〜いも〜のが見〜れた】

 

 そんな事を言ったオセは紗由紀の頭に手を置くと、紗由紀はガクンと頭を下げ、数秒立つと何事も無かったかのように顔を上げるが、紗由紀の眼は生気を失った人形のような眼をしていた。

 

【魔化〜魍〜のお〜う。お〜ま〜えのたい〜せつな〜もの〜をぶち〜壊してや〜る〜よ】

 

 オセは笑いながら、宙に魔法陣を描き、魔法陣が光るとともにオセと紗由紀の姿はどこにも無かった。




如何でしたでしょうか?
さて、オセは何故、紗由紀の側にいたのでしょうか?
察しのいいお方ならもう分かっちゃうかもしれませんが……さて次回は、シュテンドウジ幽冥と酒呑童子の戦いの話です。
それでは、次回をお楽しみに

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。