人間だけど私は魔化魍を育て、魔化魍の王になる。   作:創夜叉

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新暦 令和おめでとうございます。
1ヶ月以上も待たせてしまい誠に申し訳ございませんでした!!

令和になってからの初投稿です。
更新は少し遅いながらもこの小説を読んでくれている読者の皆様ありがとうございます。これからも、この小説のご愛読をよろしくお願いします。


陸 赤髪の助っ人

 酒呑童子を追いかけて来たようなことを言う赤髪の男。そして、その後ろにはいくつもの異形が酒呑童子に向けて敵意を向ける。

 

「大丈夫か?」

 

 赤髪の男が私にそう質問した。

 

「だ、大丈夫です」

 

「そうか」

 

 赤髪の男はそう言うと目の前に刺さっている刀を引き抜き、刃先を酒呑童子に向けてギロリと睨みつける。

 

「さて、酒呑童子。あん時のお礼をしてやる」

 

「あああ面白いとこやったのに、本当にあんたは邪魔ばかり、ああ、そう言えばぁ〜お嫁はんは元気か?」

 

「っ!!」

 

 酒呑童子の言葉に赤髪の男はわなわなと震えながら、刀を構える。

 

「貴様のせいで、あいつは!!」

 

「落ち着け!!」

 

 酒呑童子に飛びかかりそうな赤髪の男を抑えたのは、側にいた異形だった。それは太陽のような橙色の体躯に孔雀の顔と首、鷹の翼、そしてコンドルの脚を持つ巨大な鳥の姿をした異形で、赤髪の男の身体をその脚で抑えていた。

 

「あいつのペースに乗せられたら逃げられるがオチだ。だから冷静になれ」

 

「くっ…………そうだな。すまんな片車輪」

 

 鳥の異形もとい青年の言葉から察するに片車輪の言葉を聞き、刀を下ろす青年は片車輪に感謝する。

 

「つまらんなぁ〜、まあどうでもえ、っ!! 危ないなあぁぁ」

 

 余裕そうに喋っていた酒呑童子も横から放たれた攻撃に焦りの声を上げる。

 攻撃をした方を向けば、そこには両腕が鋭利な刃物の黒衣の男とカッパのような姿だが頭がイタチの異形が腕を出していた。

 

ゲッ、ゲゲゲ

 

「俺らもお前には、お礼があるからなーー!」

 

 黒衣の男は片腕を上げて、風を集め、カッパのようなイタチの異形は手から水が溢れてくる。

 

「っ!!」

 

 それを見た酒呑童子は、苦虫を噛んだような顔をする。だが、酒呑童子は異形達のある一角を見て、ニヤリと口元が弧を描く。

 

「気をつけろ!! 何か仕掛けてくるぞ!!」

 

 青年の声で異形達は構えるが、それよりも早く酒呑童子は動き、異形の中にいた1人の女の首を絞める。そして、その女の側にいた2体の異形は酒呑童子に捕まった女を見て、酒呑童子に飛びかかるも、素早い動きで蹴りを胴に蹴り込まれ遠くに飛ばされる。

 

「酒呑童子!!」

 

「動かん方がええで、動くとこの子の首をポキッとしてしまうわ〜。さ〜あんたらには武器を捨ててもらおうかぁ〜」

 

 女の首を見せつけるように締めながら、酒呑童子は赤髪の男やその仲間の異形に向かって武器を捨てろという。

 赤髪の男は刀を捨て、武器を持ってる異形も武器を捨てる。

 

 それを見た酒呑童子はそのまま、赤髪の男に近付き、男の顔を蹴る。

 

「がはっ」

 

 顔を蹴られて、地面に横たわる赤髪の男を何度も蹴り上げ、赤髪の男が蹴られる様を見せつけられて動こうにも人質の女がいるせいで動けない異形達は、歯痒い思いしながらその様子を見せられていた。そして、酒呑童子が男にとどめを刺そうと薙刀を振り上げる。

 だが、酒呑童子は1つミスを犯していた。それは–––

 

「ぐふっ!」

 

 赤髪の男に振り下ろされる薙刀は宙で止まり、酒呑童子は自分の口から垂れる生暖かいものを指で拭うと、ベットリと赤い血が付いており、そのまま酒呑童子は後ろを見る。

 

「やっと、当てられたよ」

 

 そこに居たのは、フグルマヨウヒの札の力を使って気配と自身の姿を隠していた幽冥がシュテンドウジの持つ太刀を突き刺していた。

 

「くそがあああ!!」

 

 酒呑童子の激昂とともに薙刀を幽冥に振り下ろすが、振り下ろされた先にはフグルマヨウヒの札が宙を浮き、札が薙刀で切られると同時に凄まじい光を放ち、酒呑童子の動きを止める。それと同時に幽冥は人質の女の腕を掴んで、その場から離れるように跳ぶ。

 

 そして、人質だった女を助けたタイミングで妖世館の方から大きな音が響き、幽冥の側には妖世館で休んでいた家族全員と客人である零士たちもいた。そして、幽冥の姿を見た白と赤は自身の武器を持って酒呑童子にその切っ先を向ける。

 

「「王に手を出した罪をその身で贖え!!」」

 

 2人の声を皮切りに、幽冥の家族は擬人態の術を解き、本来の姿に戻り各々の武器を構え始める。その中には赤髪の男の仲間の異形達も混じっている。

 

「もう逃げられないよ!!」

 

「さあ覚悟しやがれ酒呑童子!!」

 

 そして、酒呑童子を囲むように幽冥とその家族と赤髪の男とその仲間の異形達。

 

「あ、ああ〜、ここまで、増えたら相手するのはしんどいし、うちが動きを止めたあれらも動けるようになったら面倒いしなぁ〜、今日はこの辺で帰らせてもらうは、ほなさいなら」

 

 確かに数十にも及ぶ幽冥の家族の魔化魍と僅かながら王の力を使って戦うことの出来る幽冥。

 また、酒呑童子によって動きを封じられた朧たちも徐々に動けるようになってきたのか少しずつ幽冥たちのいるところに移動している。他にも人質となっていた女が解放された事によりさらに怒りのオーラを放つ赤髪の男と異形。

 これらと相対して無事で済む筈がない。そう思った酒呑童子は口から黄緑色の煙を吹き出し、そのまま霞のように消えていた。

 

「くそ!! 逃げられたか!!」

 

 赤髪の男は刀を仕舞うと幽冥に気付き、そのまま幽冥のもとに歩いてくる。白や赤たちが私の盾になるかのように前に立つが、私は2人を後ろに下げて、同じように近付く。

 

「そういえば自己紹介がまだだったな。俺の名前は幽吾。あの酒呑童子を追っている旅人のようなもんさ」

 

「では、私も自己紹介を私はこの子達の王となる安倍 幽冥と申します」

 

 幽吾と幽冥のお互いの自己紹介が終わると、そのまま家族と幽吾の仲間の自己紹介が始まった。

 

「てめえ、強えんだってな」

 

屍王

【¥#%??】

 

「ちゃんと喋ろてめえ!!」

 

 久々に見た屍王のミイラ姿に話しかけるもとい喧嘩を売ろうとしているのは先程、幽吾を止めた片車輪。

 

蛇姫

【貴女は少し酒臭い】

 

「何、文句あるのー。酒は私の血だよー」

 

蛇姫

【それは少しおかしい!!】

 

 蛇姫が話し掛けているのは下半身は鮫の頭になっている3匹の蛇で、水色の着物を着た藍色のストレートヘアが特徴的な美女の妖怪 沼御前。酔っ払っているのかと思うが、全くの素面である。

 

三尸

【俺の尻尾に引っ付くな!!】

 

「「綺、麗。綺麗。綺麗」」

 

「確かに三尸の提灯は綺麗だよね」

 

三尸

【なあ//////// からかうな!! あぐり!!】

 

「「怒ったーーー!!」」

 

 三尸の尻尾の提灯を調鬼という名の鬼であるあぐりと一緒に揶揄っている人間の子供ほどの大きさの角を生やした蜥蜴の妖怪 家鳴り。

 

「それにしてもいい鎌だ。日頃からちゃんとした手入れが出来てる証拠だ」

 

ビュウウウウウ//////

 

 乱風の持つ鎌を磨いて褒めているのは、両腕が刃物で黒服を着た男の妖怪で、名前が乱風と同じかまいたち。

 

「こちらをどうぞ」

 

「コレハ、ゴ丁寧ニ」

 

 先程から幽冥の家族にちょくちょく贈り物を配っているのは、後頭部が妙に盛り上がった黒の長髪の女性の妖怪 二口女。

 

古樹

【この筍、えぐみも臭みも無く、そしてなんと濃厚な!!】

 

命樹

【こりゃ、ただの筍じゃねえ。いったいどうやって!!】

 

「なぜなら〜それは私が独自の育成を施した特製筍だからだ。欲しいならいくつか苗をやるぞ」

 

睡樹

【ほ…んと…う!!】

 

 どこからともなく出した焼き筍を睡樹と命樹、古樹に味見させて筍の話をしているのは竹のような身体と根が集まった脚で、腕と頭が蟷螂の妖怪 万年竹。

 

「凄い大きい!!」

 

「凄い模様だよ!!」

 

「少しヌメヌメしてるけどなんか面白い」

 

「…………」

 

 上から擬人態の波音と潜砂、ひながはしゃぎながら感想を言って、乗っかっているのは舌が蛇になっていて、背中に顔のような模様がついており、ナメクジのようにヌメヌメしている巨大なガマガエルの妖怪 大かむろ。

 

 そして、異形の中にいた数人は実は妖怪ではなく魔化魍だったようだ。酒呑童子に捕まっていたのが、ヌリカベの妖姫で、側にいたのがその子ともいう魔化魍 ヌリカベ。

 ヌリカベの妖姫は先程助けてくれたことに対してのお礼を頬を赤らめながら言っており、その様子を遠くから見た白と赤は『また、ライバルが増える』と言っていたが、いったいなんのライバルなんだろう。

 

 ヌリカベ達の次に話したのは、魔化魍 カッパに似た姿をしているが、トゲの甲羅を背負い、頭が茶色いイタチのカッパ。カッパ異常種 カワウソだ。

 カワウソは幽冥が魔化魍の王と知っているのか知らずなのかは不明だが、なぜか跪いていた。その姿を見て、幽吾の仲間達に誤解されたが、なんとか理解してもらい、跪くのをやめてもらった。

 

 最後に話したのは、身体に苔が生えていて、厚い緑のコートを纏い、鉢巻きを頭に巻いた隻眼の猪の人型。イッポンダタラという鍛治を得意とする魔化魍の亜種 イノササオウの然王。

 然王を見てからしばらく黙っていた美岬が然王に自分の魚呪刀を見せると然王は眼を見開き、美岬の側によって口を開く。

 

【これを何処で?!】

 

美岬

【昔行動を共にしていた者が私にこれを含めて8振りをくれました】

 

 然王は美岬から魚呪刀を受け取り、まじまじと見ながら周りにも聞こえない声で呟く。

 

【………そうか。あの馬鹿は……………おお、すまんなこれは返す】

 

 然王は暫く魚呪刀を見ていたが、少しすると美岬に返し、礼を言った。

 

 幽吾とその仲間達の自己紹介が終わり、酒呑童子と戦闘を行ったもの以外の家族と客人でもある零士たちは妖世館に戻り、残った者達で酒呑童子の話をしていた。

 

「奴はあれで、本気を出していない。少なくても本気を出せば、あの場にいた半数は奴に殺されていた」

 

「………対策を考えた方がいいかもしれません」

 

 白の言葉に美岬は腕を組んで、呟く。

 

「そうだね。あの酒呑童子は厄介だけど、どっちかというと力を感じないのに不気味なオセの方が問題な気がするよ」

 

 美岬の言葉のいう通り、確かに酒呑童子は前回の戦いの感じからして、油断は出来ない相手だというのは分かる。だが、それよりも得体の知れないオセをどうするかと幽冥が考えてると。

 

「力を感じないの不気味に感じた、だと………幽冥。それについて詳しく教えてくれ」

 

 オセの不気味さについて、何かが思い当たる幽吾は幽冥にそのオセについて教えてくれと頼まれて、前回の時のオセの事を説明し、その話を聞いた幽吾は難しい顔をしながら言った。

 

「………そのオセという奴の力の感じない不気味な力にはあいつが間違いなく絡んでいる筈だ。そして、力を得たオセは王だというお前を確実に狙う。やばい戦いはもう、迫ってるのかもしれない」

 

 幽吾があいつと言うのは、おそらく酒呑童子のことだろう。そして、その酒呑童子を追ってこの世界に来た幽吾は酒呑童子との戦いの経験を語る。そして、その話を聞いて改めてオセとの戦いは激化するだろうと幽冥は確信に似た何かを確かに感じていた。

 

SIDE酒呑童子

 幽冥の住まう妖世館に襲撃を掛けた酒呑童子が幽吾に邪魔されて、一時的な世話になっているオセの隠れ家に戻って3日経った。何もすることがなく、暇だったので、オセの呼び出した魔化魍達を鍛えていた。

 

「ほらほら、こっちやこっち」

 

 手拍子をしながら酒呑童子の前にいるオセの呼び出した犬頭の魔化魍達を煽り、煽って直情的になり読みやすくなった攻撃を避ける。そんなことを繰り返しながら、酒呑童子は犬頭の魔化魍で鍛えて(遊んで)いた。

 様子を見にきたオセが酒呑童子に向かって喋る。

 

【お〜前の〜お陰〜でさ〜らに力を〜得〜た。さ〜らにお前が〜そいつらを〜鍛え〜てくれ〜た。こ〜れで〜あ〜いつらに勝〜てる。だ〜から感〜謝す〜る】

 

「まあ、暇だったし、別にええよ」

 

 オセの感謝を表面的には聞いてるが、その心の中では別のこと酒呑童子は考えていた。それはいつ元の世界に帰るかということ。酒呑童子はこの世界に飽きて(・・・)きていた。

 神秘や怪異が薄まり、科学という神秘の力を模倣する技術によって成り立つ世界に酒呑童子のいた世界とさほど変わらないこの世界に酒呑童子は飽きていた。自身を脅かすほどの強者も、自身が興味も唆らせる弱者も、自身が敬愛する存在もいない世界に飽きていた。

 この世界で興味を持った『魔化魍の王』という存在もいたが、あれは確認する前に幽吾に邪魔されたこととちょっかいを掛けようと機会を伺っているが、幽吾が必ず邪魔するという事で魔化魍の王の事は諦めた。

 それがキッカケなのかは本人しか分からないが、酒呑童子はこの世界から自分のいた世界に帰ろうとしていた。だが、その為には自身をここに送ったあの黒い渦を探さなければならないが……しかし、この酒呑童子はその気になれば、単体で世界線の壁を越えることが出来る。後は帰る為のタイミングを考えていた。

 

 酒呑童子がそのようなことを考えている一方、オセは自分の視線の先にいるものを見ていた。それは幽冥を襲撃した際に出した犬の魔化魍と同じく、その時に出した3人の鬼。

 あの戦いの後に戦力の少なさと鬼の完全な洗脳の為に、以前、酒呑童子から貰い、自身の強化になった液体を再び酒呑童子に頼み、それを飲んだ後に魔法陣を使って、戦力となる魔化魍を増やし、洗脳している3人の鬼へ対しての洗脳の術を再び掛けていた。

 

「(お馬鹿な奴やな。あれは確かに強化する事は出来るけど、ウチとあのお方(・・・・)以外が飲めば寿命を削って力を得るもの。ほんと、こっちの魔化魍ちゅうもんは、ウチの世界の馬鹿妖怪のように扱いやすいわ)」

 

 酒呑童子はそんな事を心の中で言い、オセの姿を三日月のように歪んだ笑みを浮かべながらながら眺めていた。




如何でしたでしょうか?
次回は戦闘回が始まる前に少しだけ、異世界から来たもの達の話になります。
次回もお楽しみに!!


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