人間だけど私は魔化魍を育て、魔化魍の王になる。   作:創夜叉

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更新がかなり遅れてしまい申し訳ございません。
初めての2話連続投稿です。
今回は前後編に分かれており、前編はオセの召喚した魔化魍の正体と、野良魔化魍戦、そして、幽吾と仲間対酒呑童子となっております。



捌 安倍家VSオセ軍団 前編

SIDE白

 王の声を聞き、敵に向かおうとした時––––

 

蛇姫、跳、迷家

【【【結界、展開!!】】】

 

 3体の魔化魍は互いの手(迷家は霧で作った手)を合わせ地面に当てると、半透明に近い水色の膜が3人を中心に広がっていき、やがてオセの居る山まで広がり、この山を含めて山全体が水色の膜に覆われた空間に変わる。

 

 空間が広がり終わると蛇姫と跳は座り込み、迷家は宙からふわふわと落ちて、地面で荒い呼吸をする。

 

【はあー、はあー、どうやら成功したようでやすね】

 

「何をしたのですか?」

 

 白の質問に答えるように蛇姫が喋り始める。

 

蛇姫

【うむ………古の術の1つである結界を張ったのだ。この結界を張った場所の特定した空間を切り取り、周囲の影響をなくして敵を閉じ込めた。出るには我ら3人を殺さぬ限り出れぬ】

 

迷家

【ハアー、ハアー、もしも誤って山が崩そうが、森を切り裂きまくろうが、山を丸焼けにしようが、間違って人間が入り込もうと結界によって何の影響もなく、結界内で壊れたものは結界を解除すれば元通り、みたいな】

 

 たしかに今回の王とオセとの戦いは、確実に地形を変えるような派手な戦いになるでしょう。王と敵対しようとする魔化魍達(愚か者)と戦うたびに地形が変わり、王の居場所を猛士に大声でバラすような事は避けたい。せっかく春詠ががやってくれた偽装もバレるし、そう考えると、この結界はかなり良いものだ。

 

【ですが、なにぶん初めてやったことでやすから、今はちいーっと動けないでやす】

 

蛇姫

【おまけに結界の維持もしないといけないので、ここで待機しております】

 

迷家

【だから、頑張ってねみんな。僕たちの分も主人(あるじ)の為に頑張って】

 

【我がその結界の中心の盾となろう】

 

眠眠

【じゃあ、護衛で、ふあああ……残るよ】

 

食香

【私もお供します】

 

「では、私は眠眠の側にいます」

 

常闇

【私も今回は守りに徹させてもらう】

 

「俺たちも手伝う。ここの守りは任してくれ。なあ、みんな」

 

「「「「「「「「おお!!」」」」」」」」

 

 どうやらこの3人と崩と眠眠、食香、常闇、そして怪我が完治したが久々の戦闘のランピリス、そして客人である零士達は今回の戦いには参加せずにこの結界の維持を優先に護衛に徹するようだ。

 それにもしも敵がこの結界を消すために動こうとも術に特化した跳、多種多様な音撃武器を持つ蛇姫、有幻覚という実体を持つ幻術を使う迷家、防御に特化した崩、物量攻撃を得意とする食香、更には武闘派でもある常闇。

 彼らなら大丈夫と判断した白は他の家族に顔を向けた。すると–––

 

紫陽花

【すまぬが、私はひなを守る為に館に戻らさせてもらう」

 

【【私も紫陽花様とひな様の護衛ですので】】

 

波音

【私も、ひなが心配だから」

 

 紫陽花と波音は擬人態の姿に変わって、凍が分体で作った空中布団で寝るひなを背に乗せて波音の手を繋ぎ、凍は紫陽花の後ろに控えるように飛びながら妖世館に戻った。

 白は、身内を心配する紫陽花と友人を心配する波音の気持ちが分かるので何も言わずにそのまま見送った。

 

「じゃあ、俺は捕虜の見張りを戦闘員共としている。インセクト、レイウルス付き合え」

 

「いいわ」

 

「…………いいだろう」

 

 マシンガンスネークとインセクト眼魔、レイウルス・アクティアも戦闘員を引き連れて、突鬼と衣鬼の見張りの為に妖世館に戻った。

 

「俺たちは飯の支度をしている」

 

「とびきり美味いピザを焼いてあげるから、必ず戻ってきてくれよ」

 

ボボボ、ボボボ ビュウウウウウ

 

 そう言うと、おっちゃんは憑を茂久は乱風を撫でて、2体とも心地よさそうな声を上げる。

 そして、私は今居る家族でどこをどう守るかの位置決めを始めた。

 

SIDEOUT

 

 

SIDEオセ

 突如発生した半透明に近い水色の膜が山全体を包むように張られると、オセの仲間である野良魔化魍はこの現象が何なのか理解できないために、その膜に向けて攻撃するが、膜は何もなかったかのようになんの傷もなく、それを見ていた酒呑童子は困ったなというより野良魔化魍達の無知さに呆れていた。

 

【くそ!! 結界とは〜。ず〜いぶ〜ん古〜いも〜のを】

 

 オセは水色の膜の正体を知っていた。

 オセ………いや彼ら『ゴエティア72柱の悪魔魔化魍』は、主人であるゴエティアと共に歴代の魔化魍の王と戦ったことが何度もある。

 その時に、歴代のそばに仕えていた魔化魍達がこの術を使って、幾度も彼らを窮地に追い込んだ。

 

 だがオセは厄介に思うも、焦ることは無かった。何度も戦ったことがあり、術のことを知ってるからこそ。

 この術の対処法、そしてどうすれば解除することが出来るのかを知っている。故にオセは目の前にいる野良魔化魍以外の自分が産み出した魔化魍である一軍を見て、命令を下す。

 

【行〜け!! ブラックドッグ!! こ〜の結界を〜は〜るもの〜を〜コロ〜せ!!】

 

 ブラックドッグ。それがオセが生贄を使って産み出した犬頭の魔化魍の正体だった。

 

 ブラックドッグ。

 イギリス全土に伝わる妖怪……ではなく不吉な妖精のこと。

 ヘルハウンドまたは黒妖犬とも呼ばれいる。たいていの場合は夜中に古い道や十字路に現れ、燃えるような赤い目に黒い体の大きな犬の姿をしている。

 16世紀イギリスの劇作家シェイクスピアの『マクベス』の作中で魔女が言及する、魔女の女王である地獄の女神ヘカテーの猟犬たちがそのイメージの根源と考えられている。 ヘカテーはヨーロッパでは中世以降、松明を掲げて犬を従え、夜の三叉路に現れるとされ、魔女が信仰していると考えられていたという。

 

 指示を受けたブラックドッグ達は四方に散り、その後ろに野良魔化魍達が着いて行き、その場には指示を送ったオセと呑気に欠伸をする酒呑童子、そして、オセに操られた3人の鬼が残っていた。

 

【お前〜達に〜は別の〜し〜ごとが〜あり〜ます】

 

 オセはそう言うと、1枚の写真を出す。

 そこには笑顔な女性と苦笑を浮かべる少年の写った写真だった。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE野良魔化魍(ヤマビコ)

 結界の起点ともいう中心から北の位置にある雑木林。

 そこには、樹をベキベキと折るように進むヤマビコの野良魔化魍達がいた。

 

 彼らは幽冥が魔化魍の王であること………つまり、人間が魔化魍の王になる事が気に食わない者たちであり、オセの話を聞いてこの戦いに参加したのだ。

 

【ココを進めば、結界の中心だ】

 

【ようやく、あの人間殺せる】

 

【あんな人間より我らが王に相応しい】

 

【そうだ。人間よりは我ら魔化魍が王になるべきだ】

 

 数十の数のヤマビコがそんなことを言いながら結界の中心に進む。彼らは今回の戦いに参加した目的である幽冥がそこにいるとオセに言われて行動していた。

 だがそもそも、魔化魍の王とは、150年に1度、様々な種族の魔化魍の中から産まれる特殊な力を持つ魔化魍のさらにその中から産まれる存在。絶対の証ともいう『青い龍の痣』をその身の何処かに持ち、様々な経験を経て王へと覚醒する。

 故に既に産まれて何年も経ち、王の証を持たない魔化魍がなろうと思ってなれるものでもない。単純な彼等はオセにそう言われて行動していた。だが、だからこそ彼らは気づかなかった。

 

ギリギリギリギリギリギリ シュルルルルルゥゥゥゥゥゥ

フシュルルルルル オギャァァァァァァァァ 

 

 その会話を聞き、今にも飛びかかりそうになるも。

 

カッカッカッカッカッカッ

 

 飛びかかろうとした4体を抑えて、白から軍師という役目を貰った南瓜は各々に役目を伝えた。

 

ユレレレレレレ ユラユラ、ユラユラ

 

 それを聞き、四方に散った家族を見た南瓜は、飛びかかろうとせずに待機している家族に先程の4体とは別のことを伝えて、散開させる。そして、自分の役目を果たすために行動を始めた。

 

 ヤマビコ達は歩く。王である幽冥を殺し、『魔化魍の王』になる為。

 

【みんな、止まれ】

 

 数十体もいるヤマビコの後列にいる1体が急にそんな事を言った。ヤマビコが見ていたのは、1本の樹に絡まったツタだった。

 

【今、このツタ動いた】

 

【そんな馬鹿な事があるか】

 

【【【がははははははっ!!】】】

 

 このヤマビコは一瞬、このツタが動いたと言った。それを聞き、他のヤマビコは馬鹿にしたような笑い声をあげ、そのまま歩き出した。一方、ツタが動いていたというヤマビコはそのツタを見ていた。

 すると、ツタが揺れるように動き、それを見たヤマビコは前を行こうとするヤマビコ達を呼び止めようとすると–––

 

【んんんんん、んん】

 

 ツタはヤマビコの口元に巻き付いて、喋らせないようにして、さらに全身を覆うようにツタが絡みつく。やがて全身に絡みついたツタはどんどん収縮していき、ヤマビコの身体からバキボキという音が響く。

 

シュルルルゥゥゥゥ

 

 ツタのあった樹のそばから睡樹が現れ、ヤマビコ達の姿が見えなくなる位置に行ったのを確認すると、自身の腕のツタを思いっきり引っ張りヤマビコの身体は断裂したように全身の骨を砕かれ、そのまま崩れ落ちるように倒れる。

 虫の息ともいう状態のヤマビコを睡樹はツタで何処かに引っ張り、そのまま姿を消した。

 

 ヤマビコ達が歩いていると巨大な穴が道にポツンとあった。

 ヤマビコ達は、ただの穴と言いながらその穴に沿って進んでいく。意外と大きい穴なのもあって、その穴を通り過ぎると、そのままヤマビコ達は後列を置いて歩いていく。そして、最後尾のヤマビコとそのヤマビコを待っていた2体が穴から離れようとした時。

 

ギ…ギ…ギリ…リギ…ギリ オギ……ャア…ア

 

【何か聞こえたよな?】

 

【ああ】

 

【何処から?】

 

ギリギ…ギリギ…ギリギリ オ…ギャア…アアア

 

【この穴からだ】

 

 ヤマビコの1体が穴に近づき、覗き込もうとすると穴から何かが飛び出して、ヤマビコの首に張り付く。

 

ギリギリギリギリギリギリギリギリ

 

 上顎を鳴らしながら縮小の術で身体を縮めている顎がその上顎をヤマビコの首筋に当て、切り裂いた。

 

【あががが、がはっ】

 

 首からピューーーと出る血が2体のヤマビコの隙を作った。 

 

 2体のヤマビコの顔には鍬形の大顎の様な腕が突き刺さっていた。

 そして、その腕の先には本来の大きさに戻った潜砂が穴から身を半分出すようにして現れていた。大顎による一撃は脳にまで貫通し、2体のヤマビコは即死だった。

 大顎を引き抜き、大顎についたヤマビコの血を舐めて綺麗にすると潜砂は大顎で2体の身体を掴み、顎の掘った穴の中に死体を持って消えると、何かを噛み砕き、咀嚼する音が鳴る。

 その音が消えるのを待っている顎は、後ろに近付く何かに気づくもあえて無視していた。その後ろには3体のヤマビコの様子を見に来たヤマビコの1体がその脚を振り上げていた。

 音が止むと、顎が仕留めた死体を穴に引き込むと同時に、顎を後ろから踏み潰そうとしたヤマビコは上空から来た何かに連れ去られ藪に消える。

 

 昇布は上空から見えるわずかな森の隙間から顎を確認すると、顎を踏み潰そうとするヤマビコに巻きつき、そのまま藪に突っ込む。

 ヤマビコは唯一動く右腕を振って暴れるが、昇布がヤマビコの顔に口を近付け、その口を開けるとぐちゃぐちゃに混ぜた絵の具のような色の不気味なガスを吹き出す。もろに受けたヤマビコはそれを大きく吸い込んでしまう。

 ガスを吸い込んだヤマビコは、昇布から離された直後に激しい痙攣を起こし、身体を掻き毟るように手を動かし、その場で暴れるが、数秒経つと、ヤマビコの穴という穴からどす黒くなった血を垂れ流し死んでいた。昇布はそれを見ると、再び空に飛んでいき、消えた。

 

 それから顎、睡樹、昇布、潜砂は変わる変わるでヤマビコ達を人知れずに暗殺する仕事人のように始末していき、ヤマビコの数を削っていた。

 

 そして、ヤマビコ達が異常に気付いたのは、11体目のヤマビコが消えてから少し歩いた後だった。

 最初のヤマビコがツタが動いたという話から仲間がどんどん消えていく。数十体という数も半分まで減れば異常と気付く。

 

 しかし、異常に気付いた時には、もう遅かった。

 

南瓜

【いやいや、まさか自分の計画がここまで上手くいくとは思わなかったよ】

 

【てめえか!!】

 

 自分に拍手をする南瓜がヤマビコ達の前に現れる。そして、仲間が消えていたのはこの魔化魍が原因と知り、ヤマビコの1体は南瓜に向かって拳を振り上げて走り出す。

 

カッカッカッカッカッカッカッ

 

【ぎゃああああああ】

 

 南瓜の口から吹き出された炎がヤマビコの全身を包み、そのまま地面に倒れる。

 

南瓜

【そろそろフィナーレだ。2人とも出番だよ!!】

 

古樹

【これを食らえ】

 

ユレレレレレレ

 

 燃えさかるヤマビコに気を取られ、南瓜の言葉で傍から飛び出した2体の魔化魍は動く。古樹の椿の花から吹き出る神経麻痺ガスを吸い込み、命樹の放った仙人掌の棘が脚を貫き、ヤマビコ達は倒れる。

 そして、そこに合流してきた顎達が倒れているヤマビコ達を攻撃する。

 

【ぎゃあああ!!】

 

【やめてくれ、やめてく、があ】

 

【んんんんんんん!!】

 

 悲鳴の中、この野良魔化魍たちの中心だったヤマビコは逃げようとしていた。

 

【お、おれはまか、もうのおうに……な、るんだ…】

 

 古樹の神経麻痺ガスを吸って、舌も身体も麻痺しているヤマビコは仲間が殺されているこの状況から逃げようと麻痺した身体を引きずるように動かす。

 

睡樹

【何処、行く、の?】

 

 そんな声が逃げようとするヤマビコの身体を硬直させる。振り向くと、自分を残すヤマビコは全て殺されていた。

 

 顔が原型を留めずに潰されているもの。

 

 上半身と下半身に泣き別れたもの。

 

 手を伸ばしたまま溶けていくもの。

 

 無理矢理に球状にされたヤマビコだったもの。

 

 全身を棘で突き刺され身体中から血を流すもの。

 

 首元を抑えながら苦悶の表情で絶命したもの。

 

 頭部を何かで貫かれグリグリとされたのか穴からピンク色の何かがはみ出てるもの。

 

 それを行なった7体の魔化魍の視線が生き残っている最後のヤマビコに向けられる。逃げようとした瞬間に四肢に命樹の頭の仙人掌の棘が突き刺さり地面に固定される。

 ヤマビコが最後に見たのは、睡樹が植物のツタが複雑に絡んだ槍を振り下ろす瞬間だった。

 王になるという欲望を持ったヤマビコ達は、南瓜の指示で動く睡樹たちの手によって、土の栄養に変えられたのだった。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE野良魔化魍(バケガニ)withブラックドッグ

 南瓜たちがヤマビコ達を片付けている北の反対である南にある川では。

 

 鋏刃、憑、舞、そして水底の4体の魔化魍は目の前の光景に苛立ちを覚えていた。

 

ンキィ、ンキィ、ンキィ、ンキィ、ンキィ、ンキィ

 

 鋏刃たちの前には、鋏刃と同じ種族であるバケガニ達が鋏を開閉しながら、特に鋏刃を睨み、怨嗟の様に声を上げる。

 

【裏切者!!】 【童子と姫の育てが悪かったのだ!!】

 

【バケガニの恥知らず!!】 【魔化魍の誇りを忘れたのか!!】

 

【その鋏は飾りか!!】

 

鋏刃

【…………】

 

 同種族であるバケガニ達に責められ、口を開かずにジッとしている鋏刃。だが、責める声が響く中でその声に反応した者がいた。

 

 雷が近くで落ちたかの様な音が響き、鋏刃を責めていたバケガニの1体に当たり、その身体は弾けた。

 音撃を通しずらい硬い甲殻に覆われたバケガニ。それが弾けた事により、弾けたバケガニの硬い甲殻は対人兵器であるフレシェット弾の様に周囲にいたバケガニにばら撒かれ、その身体に突き刺さるまたは貫通していく。

 

【んんんん】

 

【あが、が】

 

ンキィ、ん、キィ

 

【ぎべ、あ】

 

 バケガニは貫かれひび割れた身体の至る所から、血を流し、蹲るように地に伏せている。

 そして、被害を受けなかったバケガニ達はこの惨劇の元凶を睨みつける。

 

 骨の組み合わさった砲身から白い煙が吹き、その近くにいた蛸の足を生やした硨磲貝の人型は、鋏刃の前にいるバケガニ達に怒りの目を向けて睨み返す。

 

水底

【次弾、装填。目標、正面】

 

 2つで1つという共同の身体を持つ水底は自身の半身である動物と魚の骨の艦は、新たな砲弾を詰め込み、その照準をバケガニたちに向けていた。

 そして、砲弾の装填が完了すると共に––––

 

水底

【撃て!!】

 

 砲弾は再び、バケガニに発射され、先程と同じように砕け散り、同じ様な被害を生みだす。

 だが、バケガニ達も馬鹿ではなく砲弾に命中しない様に岩場を利用して水底に近付こうとするが––––

 

【がびゃ】

 

 バケガニの身体に大量の髪の毛が巻きつきその動きを止める。

 

【水底だけ】【活躍させる訳には】【………排除】

 

 3つの首はそれぞれが喋り、髪の毛で縛ったバケガニに手鏡を咥えた舞は、鏡を太陽の反射する場所に向けると鏡から熱線が放たれて、縛られたバケガニはその熱線に呑まれ、塵に変えられた。

 

【そう。おやっさんの飯が待ってるんだ。とっとと消えろ!!】

 

 宙に浮かぶ憑がその口から炎を吹き出しバケガニを包み、その身を焼き尽くした。

 

 鋏刃を置いて暴れる3体を見て、自分も動こうとすると、背中に向かって何かが飛んでくることに気付いた鋏刃は背中にある藤壺から溶解液を吹き出して、飛んできたものを溶かす。一部が溶けてそのまま地面に落ちた。それは、中国の手裏剣の鏢だった。

 飛んできたその先には、シャーペイのブラックドッグが同じ鏢を指の隙間に挟むように持っており、次の鏢を投げていた。

 

 鋏刃は、口から泡を吹いて再び鏢を溶かす。だが、鏢は囮のようでシャーペイのブラックドッグは残った鏢を鋏刃に突き立てようと飛びかかるが。

 

【がっあ】

 

 鋏刃は冷静にシャーペイのブラックドッグの首に鋏で挟み込み、そのまま宙吊りにしていた。やがて鋏刃はシャーペイのブラックドッグの首元に挟んだ鋏を万力のように力を込めながら徐々に挟み込んでいき、その力が最大になった瞬間、シャーペイのブラックドッグの首は地面に転がり、鋏で宙吊りにされ、首と泣き別れした身体は重力に釣られてそのまま地面に落ちて、血の池を作った。

 

 シーリハムテリアのブラックドッグは苦戦していた。飛火と浮幽が放つ炎を防ぐと、大量の分体で攻撃してくる葉隠。逆に葉隠の攻撃を防ごうとすれば、飛火の火球や浮幽の触手が襲ってくる。実にやりずらい連携攻撃にシーリハムテリアのブラックドッグは苦しめられる。

 長々と戦う気がないのか、飛火たちは勝負を仕掛ける。

 

浮幽

【ルルル、ルルル】

 

 葉隠の入った竹筒を宙に投げて、浮幽はシーリハムテリアのブラックドッグの脚に触手を巻きつけてジャイアントスイングの要領で回転を掛けて宙へと投げる。

 

葉隠

【次は、僕】

 

 そう言った葉隠は竹筒から自身の分体を呼び出して。宙に投げられたシーリハムテリアのブラックドッグの周囲を球のように囲み始める。

 

飛火

【私でとどめ!!】

 

 そう言うと、葉隠で出来た球から竹筒に半身仕舞った葉隠の本体が飛び出していき、分体の球は残り、その球に向けて飛火は口から青い炎を吹き出して、球ごと中にいるシーリハムテリアのブラックドッグを燃やす。

 分体は燃えても球の形を維持するために動き続け、分体が炎で消えといくと欠けた隙間から黒い物体が降ってくる。

 それは、シーリハムテリアのブラックドッグだったものの哀れな姿だった。そして飛火と葉隠は落ちてきたそれを脚で踏み潰していく。

 

飛火

【じゃあこれは貰うね】

 

ルルル、ルルル

 

葉隠

【どうぞ//////】

 

 そう言って、嬉しそうに灰の山を吸い込む飛火を葉隠は少し顔を赤らめ、浮幽はそんな葉隠を和やかに見ていた。

 

 穿殻と灯籠はコモンドールのブラックドッグと戦っていた。

 コモンドールのブラックドッグは巨大な丸盾を持ち、その円の内側に投げナイフを仕込んでいた。コモンドールのブラックドッグはそれをちまちま投げながら隙を見て丸盾を使った体当たりを穿殻にするが相手が悪かった。

 

穿殻

【なんかした?】

 

 以前の波音を守っていた頃に比べて、栄養価の高いもの(人間)を喰べることが増えて、いくばか成長した穿殻は現在の幽冥の家族の中で5本の指に入る防御力を持つようになった。穿殻にはコモンドールのブラックドッグの攻撃は一切通じていなかった。

 

 丸盾を持ったまま怯むコモンドールのブラックドッグに灯籠が右脚を丸盾にぶつける。すると丸盾は徐々に石のような色に変わっていき、コモンドールのブラックドッグはその重さに耐えられず丸盾を落とし、丸盾は落ちた衝撃で粉々に砕けた。

 そして、蹠面から生える鯱の頭を生やした4本の触手に四肢を齧られて宙づりのように浮き、腕や脚をバタバタと動かして抵抗するコモンドールのブラックドッグ。

 

灯籠

【これでおしまいです】

 

 前右脚を地面に叩きつけると地面が石化するが、石化した地面は徐々に伸びていき1本の柱のようになる。穿殻は確認すると、コモンドールのブラックドッグをその柱の上に落とす。

 

 コモンドールのブラックドッグの身体は串焼きの肉、又は百舌の早贄のように柱に突き刺さり、刺さった場所が心臓の近くということもあり、貫通した柱の傷から血が流れ、その身体を痙攣させながらやがて、動きを止めた。そして、穿殻が石の柱の底部分を砕いて突き刺さったままのコモンドールのブラックドッグの死体を持って、灯籠と共にそのまま消えた。

 

 ウィペットのブラックドッグは拳牙と激しい近接戦闘(インファイト)を繰り広げており、相棒である大尊はいつもの拳牙に呆れながら、先程の戦闘で拾ってきた鋏刃たちにバラされたバケガニの脚をガジガジと喰らっていた。

 拳牙の戦っているウィペットのブラックドッグの得意とする武術はどうやら空手らしく、拳牙の攻撃を寸の所でずらして拳牙の身体に鋭い一撃を当てている。だが、拳牙も受けた一撃のお礼というかのように、鋭い突きを脇腹に当てる。一歩も引かない攻防は人間だったら歓声の嵐が起こっているだろうが、これは人間ではなく人外の戦い。

 そして、決着を着けるのかウィペットのブラックドッグはその手に赤いオーラを纏い、対して拳牙は水を纏わす。

 

 静寂ともいえる静かに世界で、互いを睨み合う両者は、キッカケを待った。

 

 ガリっと大尊がバケガニの脚を噛み砕くとともに両者は動く。

 ウィペットのブラックドッグは拳牙よりも速く動き、赤いオーラを拳牙の身体に当てた。だが––––

 

拳牙

【………すいません。普段は使わないのですが、今の私の身体に貴方の技は効きません】

 

 そう言った、ウィペットのブラックドッグは拳の先が拳牙の身体はまるで液体の中に手を突っ込んだ様な感覚になっており、腕を引き抜こうにもコンクリートで固定されたように動かせなかった。

 次の瞬間、水を纏った拳牙の拳の一撃は、ウィペットのブラックドッグの顔に当たり、その衝撃でスローモーションのようにゆっくりと頭が砕けていく。頭を失った身体は糸の切れた人形のように倒れ、大量の血飛沫が拳牙に降り注いだ。

 

 その後、血を拭った拳牙はウィペットのブラックドッグの死体を喰らうことなく、そのまま地面に埋めて黙祷する。その黙祷に何の意味があるのかと思う大尊だが、変わり者の何時もの相棒と思い、次のバケガニの脚を喰らい始めた。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE野良魔化魍(ツチグモ)withブラックドッグ

 東には、黒と赤、緑を中心に12体の家族が野良魔化魍とブラックドッグ達を追い込んでいた。

 

羅殴

【ウォォォォォォ!!】

 

【グルルガァ】

 

 成体となり、結界のおかげで周囲に影響が出ないと知った羅殴は普段は縮小の術で縮めていた身体を元のサイズに戻した。

 巨大な腕を振り回し、毒音波で怯ませ、近付いたツチグモを地面に埋め込む様に殴る。さらに近付いてきたツチグモを掴むと、近くの幹に叩きつけ、頭を脚で踏み潰す。

 

ウォォォォォォォォォ

 

 羅殴の雄叫びが響くと同時に上空から脚が欠損したツチグモが2体落ちてくる。すると落ちてきたツチグモを追いかける様に2つの影が飛びかかる。1つは鳴風と似た姿をした兜で、尻尾の針をツチグモの胸部に突き刺して養分を吸うように尻尾からゴキュゴキュという音が響いてどんどん干からびていき、もう1つは両翼に青い光を灯す五位で地面に落ちた瞬間にツチグモの身体にその嘴で啄む様に突き、嘴にある小ぶりなツチグモの肉を喰らう。

 

 その様子を見せつけられるように全身を糸で拘束されて頭だけ出ているツチグモは、同種族でありながら人間だったという魔化魍の王に味方する土門に聞く。

 

【貴様、わかっているのか? これは我ら魔化魍の正しい姿にするためn、んぐんぐんぐぅぅぅ!!】

 

土門

【その悪臭の漂う口を閉じてください。あの方の事を何も知らない癖に、我が王を侮辱した事を後悔するがいい】

 

 そう言うと、土門はツチグモの身体中に更に糸を巻きつけて前脚を上げると勢いよく引っ張る。

 

【んんんんんんん】

 

 糸が締められた事でバラバラになったツチグモの肉片を土門が集めていると、その肉片に炎が着火し、肉片を燃やし始める。土門は危うく火がつきそうになり、原因の家族を睨みつける。

 

土門

【危ないですよ。火がつきそうになったじゃないですか!!】

 

暴炎

【すまん。我慢ができなくて】

 

 暴炎は謝罪をしながらもツチグモの肉片に近付き、肉片に着いた火を吸い込む。そして満面の笑みを浮かべ、再び、炎を吹き付けて火を付ける。

 土門はその様子を見て、他の死体も持ってくるべきだろうと思い、他の家族と戦って死んだツチグモを集めに行った。

 

三尸

【ちっ!! 弱すぎて腕が鈍る】

 

 そう言った三尸の手にはバラされた頭や脚だけになったツチグモの死体を折った爪に刺し、地面に乱雑に突き立てていた。

 

乱風

【はあー本当です。こんなに弱いとは】

 

世送

【溜息を吐きたいのはこっちだよ乱風】

 

 仲良く並んで溜息を吐くのは、乱風と世送の2体だった。この2体の言う様に芸もなくただ糸を吐き、噛み付いてくるだけのツチグモに遅れを取るはずもない。これならば同じツチグモでありながら糸を複雑に使う土門の方が遥かに強い。2体は次々とツチグモを屠っていたが、さらにそこに三尸が加わりそれはもう、酷いというレベルで殲滅され、今は三尸が死んでいるツチグモを生え変わる爪に突き刺していつかの時のような『人間串』ならぬ『蜘蛛串』なるものを作っていた。

 

 そして、そこから少し離れた場所では数多の色の水晶で出来た複数の頭蓋骨に食い千切られるツチグモとそれを見る骸がいた。

 

【ふふふ。あともう少し。いや〜あそこから貰った頭蓋骨にこんな力(・・・・)があったなんて、良いもんを貰えて良かったぜ】

 

 骸の言った言葉の意味はまた少し後で語るとしよう。その様子を見ながら、骸は後ろから近付く音に気付き顔を向ける。

 

【それで、暴炎の欲しがる死体は後どんくらいいるんだ?】

 

 顔の先には土門がおり、暴炎の炎食用の死体を貰いに骸の所に来た。

 

土門

【………理解が早くて助かります】

 

【あいつとは付き合いが長いからな】

 

土門

【それでは、2体ほどお願いします。……他の所でも貰いましたので】

 

 そう言って背中を見せる土門の背には、糸でグルグルに巻きつけたツチグモの死体と三尸の作った『蜘蛛串』があった。

 

【分かった。少し待ってろこいつらが喰い終わったら、俺も運ぶ】

 

土門

【そうですか。助かります】

 

 そして、土門は骸が頭蓋骨の食事が終わるのを待ち、終わった後に大量のツチグモを持って行き、それら全てを燃やして、炎を(しょく)せた暴炎は滅多に見れない顔を浮かべて喜んでいた。

 

 そして、土門と骸がツチグモの死体を運ぶ同時刻。蝕は鳴風と組んで、スキッパーキのブラックドッグと戦っていた。

 スキッパーキのブラックドッグはその手に鞭を持ち、縦横無尽に鞭を振るうも、空を飛ぶ鳴風とその背に乗る蝕には当たらず、逆に鳴風の羽ばたく翼から送られる強風に紛れて、蝕の粉薬が舞い、スキッパーキのブラックドッグはそれを吸い込むと、その場で静止して、そのまま足元からグズグズに溶けていく。

 蝕が使ったのは、あまり多用する事もない劇薬ともいうべき薬だった。空気中に撒かれ、それを吸った者を内部から破壊して、最後はグズグズの死体に変える薬。その様な薬を蝕が使ったのは、結界の事と組んでいた鳴風が理由だった。

 実は、この薬は空気中に撒かれてから数十秒経つと、薬の成分が徐々になくなり最後は効力を失ってただの粉になるものだったのだ。故に撒かれた薬を鳴風が羽ばたく風に数十秒乗せれば、薬は効力は失い。仲間に影響はないというわけだ。

 

 そして、そこから離れた所には、バセットハウンド、ブリアード、エアデールテリアのブラックドッグが倒れていた。ただし、ただ倒れていたのではなく、3人の妖姫従者の前で倒れていた。

 

 黒の前に倒れていたのは、バセットハウンドのブラックドッグで、頭にめり込む様に振り下ろされた斧が既に死体であるというのを物語っており、黒は斧を力任せに抜こうとしていた。

 

 赤の前に倒れていたブリアードのブラックドッグは、頭部がなく、首から下の死体の上に斬られた頭部が胸部で抱えるように置かれていた。

 

 緑の前に倒れていたエアデールテリアのブラックドッグは、内部から植物が生え、苦悶の表情を浮かべた不気味な死体で、黒い笑みを浮かべながら緑は十手を振るった。

 

 そして、3体から離れるように倒れているペキニーズのブラックドッグは誰にやられたのか不明だが、四肢が180度曲げられた状態で放置されていた。

 

「我らの王に歯向かった事を後悔しなさい犬っころ」

 

 四肢を折り曲げられて動けないペキニーズのブラックドッグは近付いてくる3人の姿が悪魔に見えたのか逃げようとするも四肢は動かせず、やがて赤に頭を掴まれると、どこかに連れていかれ、そのまま悲鳴だけが響いた。

 3人の戦った4体のブラックドッグは3人の従者達の手により解体され、その肉は12体の家族に均等に分けられた。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE幽吾

 結界を守るために行動している幽冥の家族とは別に行動する一団があった。

 

「本当に居るのか?」

 

「間違いねえ。奴はいる!」

 

 もう1組の来訪者である幽吾とその仲間たちである。彼らが探しているのは、オセに妙な力を与えた酒呑童子である。

 長きに渡るいたちごっこのように繰り返されていた戦いで、幽吾は酒呑童子の気配を感じ取ることが出来るようになっていた。その為に幽吾は白たちに別行動をすると言って、そのまま酒呑童子の気配にある場所まで移動していたのだ。

 

「おやおや、こんな所に来おったという事はうちとやり合うって事んでええんよな」

 

 木の上から聞こえてきた声の方に幽吾たちは目を向けると、お猪口の中にあるものをクイっと呑む酒呑童子がいた。

 

「うち、そろそろあんさんの顔を見るの飽きたんやぁ、ほな死んでくれさかい」

 

「ああ、いい加減てめえの顔を見るのはウンザリしてんだ。さっさと」

 

「くたばれ!!」

 

 幽吾の言葉を奪うように片車輪はその翼から熱線を放つ。

 

「ほいと」

 

「がはっ」

 

 片車輪の熱線を軽く避けると、そのまま片車輪の頭の上に飛び、体重を掛けたかかと落としで片車輪を地面に落とす。

 

「テメェ!!」

 

 片車輪が落とされたのを見て、かまいたちは両腕の刃を振るって真空の刃を酒呑童子に浴びせる。

 

「ふあああああ」

 

 何処からか出した薙刀を回転させがらあくびをしていた。それを見たかまいたちは、酒呑童子に肉薄し、腕の刃を酒呑童子に振り下ろす。

 だが、薙刀の柄で刃の腕を抑えて、そのままかまいたちの腹に横蹴りを叩き込む。

 

「ぐは!!」

 

「ああん」

 

 かまいたちは二口女のいる場所に蹴り飛ばされて2人はそのままぶつかり、地面に横たわる。

 

「これで、3………ううん?」

 

 酒呑童子は突然の揺れに驚き、あたりを見ると。

 

「「「揺らせ、揺らせ」」」

 

 小さな子供の大きさの蜥蜴の妖怪 家鳴りがいくつも集まり地面を掴んで、揺らしていた。

 酒呑童子は揺れの原因が分かると薙刀を勢いよく振るうと、地を削りながら衝撃波が家鳴りの方に向かい。

 

「「「わあああああ!!」」」

 

 地面を揺らしていた家鳴り達は1体も残らず衝撃に吹き飛ばされて、元の1体に戻る。

 

ゲゲゲ、ッゲ、ゲゲゲ

 

 酒呑童子の顔に水玉がぶつかり、水は弾ける。

 

「水遊びかいな?」

 

 水玉を撃ってきたカワウソに酒呑童子が聴くと。

 

「ゲゲゲ、これならどうだ。親分お力を」

 

「おお」

 

 側にいた大かむろがカワウソの水玉に息を吹き込むと、水玉は毒々しい赤紫色の玉に変わり、カワウソはそれを野球の投球のように投げる。

 

「勿体無いけどな………ほいと」

 

 酒呑童子はその手に持っていたお猪口を投げつけて、カワウソの投げた赤紫色の玉はお猪口に当たり、お猪口は原形を残さずに溶け、そのままお猪口だった液体がその場に残った。

 そして、酒呑童子は薙刀を地面に突き刺すと、カワウソと大かむろの側に近付くと貫手を腹に食い込ませ、カワウソと大かむろは口から血を吹き、倒れる。

 

 倒れた2体を見てると酒呑童子の背には鮫の頭をした蛇が襲いかかる。

 

「ふん!!」

 

 蛇の頭を掴むと、その先には沼御前が歯ぎしりをするように酒呑童子をにらんでいた。

 

「お前のせいで零華は!!」

 

「知らんわ。まあ向こうで寝とき!!」

 

「ああああ!!」

 

 蛇の頭を引っ張り、酒呑童子は沼御前を引き寄せるとその顔に回し蹴りを叩き込み、かまいたちと二口女のいた場所に飛ばされる。

 

「酒呑童子!!」

 

 然王は、鱗の様に重なった刀身の刀を持ち、酒呑童子に振り下ろす。

 

「ほお〜〜連刀 連鰯(つれいわし)か」

 

「あの時のと同じやつだと思わんほうがいいぞ」

 

 然王が連刀を振るうと、刀身は節々で外れ、鞭の様に変わり、酒呑童子に振られる。

 酒呑童子は少し驚いたのか、避けるのに遅れて少しだけ服の裾が切られる。

 然王はさらに激しく振るうと今度は、髪の毛が数本ハラリと切れる。だが、酒呑童子の身体には当たらず、酒呑童子は薙刀を回転すると、連刀の節々にある刀身を接続する鎖が絡め取られ、酒呑童子はそれを勢いよく引き、連刀の刀身は酒呑童子の怪力に耐えられずにそのまま引き千切られ、引き千切った刀身を然王に投げ、刀身は然王の腹に深々と刺さる。

 

「がふっ。すまんな、零華」

 

 然王はそう呟くと、そのまま膝をつき倒れる。そして、砕けた連刀の柄を蹴り、背中に足を押さえつける様に乗せて、酒呑童子は薙刀を然王の頭部に狙いを定めた。

 

「あんさんの作ったこの薙刀はすごいな。まあ、自分の作った武器で死になはれ」

 

 そう。酒呑童子が言った通り、この薙刀も実は然王が作り出した物で、かつての戦いで酒呑童子に奪われてしまった物だ。その名も衝刀 激喝発(げきかつお)

 

「これを食らえ!!」

 

 然王の頭目掛けて薙刀を突き刺そうとした酒呑童子の身体に葉っぱのカッターが飛んできて、酒呑童子はその場から、遠ざかるように跳ねる。葉っぱのカッターはその後も投げられ続けるが、酒呑童子は軽く身を逸らすだけで簡単に避ける。

 

「あんさん戦う気あるんか?」

 

 当たらないように投げてきた万年竹に酒呑童子はそう問うと、万年竹は身を震わせる。

 

「ふふふ、心配しなくても問題ない。なぜなら〜………………私の攻撃は終わっていないからだ!!」

 

 酒呑童子が振り向くと、先程万年竹が飛ばした葉っぱのカッターがブーメランのように戻ってきていた。だが、酒呑童子は背を向けたまま薙刀を振るい、葉っぱを切り落とす。

 

「うちがそんなん気づかなあと思ったか?」

 

「っ!! がふっ」

 

 万年竹は再び、自分の葉っぱを取ろうとするが、酒呑童子の薙刀の石突が万年竹の腹に当たり、口元から黄緑色の血を吹く。

 

「ほな、さいならぁ」

 

 倒れる万年竹に薙刀を振り下ろす瞬間。

 

「やらせると思うか?」

 

 白いオーラを纏って薙刀を防いだ幽吾の腕があった。

 

「ようやくあんたとか」

 

「ああ。こいつらとの戦いはおしまいだ。次は俺だ!!」

 

 そして、幽吾は腰にある1つの刀に手を掛けて、それを抜く。

 抜くと刀身が光り輝き、見るものの目を奪う美しい刀が姿をあらわす。そして、その刀の名は–––

 

「麗刀 竜宮之遣(りゅうぐうのつかい)!!」

 

 イノササオウがかつて鍛造した最高位の3振りの刀の1つである。

 

「麗刀を抜くか。なら、うちもちょっと本気出したるは」

 

 薙刀を手元に戻すと、酒呑童子の動きは変わり、薙刀の届く絶妙な中距離の攻撃が嵐の様に迫る。だが、幽吾も麗刀と己の肉体を使って防ぐ、連続の突きを放たれれば逸らす様に刀を動かし、石突きで殴られそうになれば刀の柄を石突きに叩きつけ、横払いの一撃は蹴りで軌道を逸らす。怒涛の攻撃に対処し続けるもやがて限界がくる。幽吾は頭上からくる薙刀を麗刀の峰で何とか防ぐ。

 

「どやどや、これであんさんは動けないなあ」

 

 その姿を見た酒呑童子は勝利を確信していた。今まで邪魔をしてきていた幽吾の仲間はほとんどが戦闘不能。おまけに拮抗しているかのように見える鍔迫り合いは酒呑童子が有利だった。薙刀とはいえ、振るうのは最上位妖怪でもある酒呑童子。本気の半分(・・・・・)しか出していない酒呑童子に食らいつけている幽吾に勝ち目はないと思われた。

 

 幽吾と鍔迫り合っている酒呑童子は横からくる衝撃で吹き飛ばされた。

 吹き飛ばされる最中に見たのは、先程から姿が見えず、酒呑童子が以前に殺そうとしたヌリカベの姫だった。

 

「ぐふっ」

 

 酒呑童子はヌリカベの姫の体当たりを受けて、腹の空気が押し出され、そのまま樹に叩きつけられる。

 樹にもたれてピクリともしない酒呑童子が幽吾達を確認しようと顔を上げると。

 

「あ、あれは!!」

 

 零士や幽吾、そして酒呑童子達をこの世界に落とした黒い渦が現れる。

 

「これは………ウチもついてるなあ」

 

 樹を掴みながらその身を上げて、幽吾達に告げる。

 

「そんじゃあ。また何処かでお会いしましょか。ほな、さいなら」

 

 そう言った、酒呑童子はもたれていた樹を踏み台に黒い渦の中に飛び込み、姿を消した。

 幽吾達は黒い渦の中に入った酒呑童子を追おうとするも黒い渦は何もなかったようにその場から消えた。幽吾達は黒い渦と酒呑童子が気にかかるも今の戦いのことに集中して、結界の中心に繋がるそれぞれの道に向かっていった。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE導

 屍、小雨、導の3人は道中で襲撃してきた3人の鬼と戦っていた。

 屍と小雨は音撃弦を持った黄色と緑の兄弟らしき鬼と導は音撃管を持った灰色に近い白の女性の鬼と戦う。

 

 屍の尻尾から滴る毒の血液を緑の鬼に放つが緑の鬼は音撃弦から放つかまいたちで血液は弾け、周りに飛び散るが小雨は弾けた血液を雨で防ぐが、直ぐに黄色の鬼が音撃弦から放つ雷撃を受けて感電しそうになるが、屍が尻尾を地面に突き刺して、引き抜いた時に出る土塊で防ぐ。

 

 導は、音撃管の攻撃を頭頂部の炎で防ぎ、そのまま触手を鬼に向けると触手の内側からジワっと紫色の液体が溢れ、そのまま三角錐の形になり自動小銃のように連続で発射される。

 触手から放つ毒の弾幕は鬼の体勢を崩し、その隙に導は触手に集めた炎の塊を鬼に目掛けて投げた。

 

【え?】

 

 導の放った炎の塊は狙った鬼の面に当たり、面が砕かれて、その下にあった顔に導は驚愕する。

 

「………」

 

 人間の街で出会った、明るく自分を連れ回し、人間だけど好きになってしまった人 紗由紀が立っていた。

 

【ねえ、紗由紀。紗由紀なんでしょ!!」

 

 鬼の1人が紗由紀だった事に気付き、導は擬人態の姿に変わり、紗由紀に呼び掛ける。

 

「………」

 

 擬人態の姿の導を見て、少し動きが止まるがすぐに他の鬼と戦う屍と小雨に音撃管を向けると2体を庇うように、腕を広げて導は目の前の紗由紀にさらに呼び掛ける。

 

「もうやめてよ、紗由紀!!」

 

 そう言ったと同時に導は目をつぶった。自分の好きだった者に清められた(殺された)としても、恨まないと思いながら音撃管の攻撃が来るのを待った。

 いつまでも来ない音撃管の攻撃を確認するために導が目を開けると、震えた手で音撃管を持つ紗由紀が導を見ていた。

 

「………導?」

 

 確認するかのように呟いた言葉と共に徐々に紗由紀の目に光が戻り、導に向けていた音撃管を下ろした。

 

「導なの?」

 

「そうだよ……紗由、うわ、ちょっと苦しいよ」

 

「ごめんね、ごめんね」

 

 鬼にとっての大切な武器である音撃管を地面に落として、紗由紀はそのまま導を抱きしめる。

 だが、それはすぐに終わった。

 

 導を抱きしめている紗由紀は見た。自分の抱いている導を狙った緑の鬼 風鬼が自身の持つ音撃弦から音撃を放とうとする瞬間を、そして、離れた位置で黄色い鬼 雷鬼と戦っていた小雨が石に躓いて転び、その隙に音撃を放とうとしていた。

 

音撃響 一変狂風(いっぺんきょうふう)

 

音撃波 紫電一線(しでんいっせん)

 

 風鬼の風の音撃と雷鬼の紫電の音撃が小雨と導に放たれた瞬間。紗由紀は導を抱えたまま背を向け、屍は小雨に覆いかぶさるように身体を乗っけた。

 

「あああああああああ!!」

 

【がああああああああ!!】

 

小雨

【屍!?】

 

「紗由紀!!」

 

 2人の鬼の攻撃から小雨たちを庇った、2人はそのまま倒れそうになるが、小雨たちが倒れつつある身体に手を伸ばし、そして、2人を樹に寄りかからせるよう座らせて攻撃をした下手人の2人の鬼を怒りに染まった眼で睨む。導は擬人態から本来の姿に戻って、ゆらゆらと触手を上げる。

 

小雨、導

【【お前(貴様)を許さない!!】】

 

 小雨は傘を天にかざすと晴れていた空は一気に黒く染まり、大きな雨雲が小雨の真上に出来ると雨雲から滝のような雨が降りはじめて小雨を包み、導は触手を擦り合わせ続けると摩擦の熱で着いた炎が全身を包み込み。

 

【小さ、め?】

 

「し、るべ?」

 

 小雨と導を庇った屍と紗由鬼は、目を見開きその場に立っている2体の魔化魍の名を呼ぶ。

 ひとつは、青い傘から変わった青い番傘を肩に掛け、群青のレインコートを羽織り、両翼の真ん中に青い宝石が埋め込まれている腕輪を付けたコウテイペンギン。

 

 もうひとつは、側頭部にリボン状に炎を燃やし、無数に生えた触手の中で目立つ3本の捻れた長触手、体色が全体的に朱色が変わり、身体も少し大きくなった宙に浮く鰹の烏帽子。

 

 小さな雨は自分を庇った家族のために大雨の如き斬撃の雨に、道を示す炎は惚れた者を守るためにを熱を自在に操る炎へと変わり、下手人の2人の鬼に小雨は番傘を向け、導は異常に長い捻れた長触手を向けた。




如何でしたでしょうか?
それでは、次の後編をどうぞ!!
今回の『結界』は某白い魔王少女が出てくるアニメに出てくる結界と似た様なものです。

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