人間だけど私は魔化魍を育て、魔化魍の王になる。   作:創夜叉

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大変お待たせしました。
今回から新章、九州地方編になります。新たな魔化魍、活躍する家族達をどうぞお楽しみに!!


九州地方編
記録捌拾壱


SIDE◯◯

 人気が全くない夜のように辺りが暗い山。その山の中で駆けていく影とそれを追う4つの影。

 

【はあー、はあー。くそしつこい奴らだ!!】 

 

 駆ける影は手に持つ長斧でいくつもの樹を切り倒して、後方にいる追跡者の影たちに樹を投げつける。樹が投げられて動けなくなる影たちを見て、追いかけられていた影はその場から急いで逃げる。

 

【くそっ!! なんて今日は運がないんだ!!】

 

 影はボヤきながら、山の奥に消えるように走り去った。

 

「魔化魍め。逃げられると思うな!!」

 

「落ち着け!! まずは樹を退ける。ジッとしてろ」

 

「大丈夫さ。この山は包囲されてる。そうそう逃げられないさ」

 

 影の2人いや鬼の2人は、そのまま樹に脚が挟まった鬼を助ける為に逃げた影いや、魔化魍をもう1人の鬼に任せた。

 

SIDEOUT

 

 幽吾たちが元の世界に戻って数週間が経った。

 この世界に残った零士たちとヌリカベこと砦、ヌリカベの妖姫こと灰は問題なくこの妖世館での家族たちとの生活に馴染んでいた。

 

 零士は荒夜から剣術を指南して貰っていた。

 元々、多少の剣術を母親のハハマナコから教わり、独学で今の剣術になった零士は、閃居合流だけでなくオリジナルの剣技を使う荒夜と話が合い、更には長年、鬼と戦っていた荒夜に剣術の指南を頼み、荒夜も『磨けば強者となる』と言い、喜んでその指南の申し出を受けた。零士がこのような修行を前の世界ではしなかった。

 木端妖怪は大抵、特殊な能力を使われない限り、一刀で仕留めた。だが、この世界に来る前に戦った大妖怪やこの世界に来て戦った荒夜や劔などとの戦いで受けた敗北が彼を成長させた。前の世界でしなかったことをこの世界でする。

 そして、強くなりこの世界から元の世界に戻った(幽吾)にいつか強くなった自分を見てもらいたいと、その思いを胸に零士は今日も剣技の指南を受けていた。

 

 ハハマナコは剣技の指南をしていて荒夜に話せない狂姫の話し相手をしていた。

 初めは警戒をしていた狂姫も裏表もなく、ただ話を掛けるだけのハハマナコに警戒は馬鹿らしくなり、話し始めたら。狂姫がかつて人間だった頃の母親を思い出し、その懐かしさに普段のパニックが起きることも無く。それ以来、荒夜が零士に指南をしている時はハハマナコと話すようになった。

 最近は、どうやったら荒夜との稚児を授かれるかと零士を産んだハハマナコに質問しており、その度にハハマナコは『時が来るのを待つだけ』と優しく言っていた。

 

 白蔵主は、悪知恵を活かして家族達を利用して何かをしようとするが、その前に零士や土用坊主に捕まって、土の中に埋めれたるといった日々を過ごしている。

 だが、1度だけ零士や土用坊主の隙を突いて、擬人態の姿の羅殴と食香を連れて何処かの祭りで的屋をやったら、かなりの客が店に入ってくれたらしく、その稼いだお金の一部を白に渡し、『適正的な価格で行うのならばやっても良い』と白が許してくれたおかげで、今では、地方の祭りの前には人間向きの様々な道具を羅殴や蛇姫、美岬といった者たちに作って貰い、それを的屋で出しているようだ。因みに、羅殴は的屋の店員で、食香は客寄せ、白蔵主は店長としてやっているらしい。

 

 山蜥蜴は、戦闘狂な家族である暴炎や拳牙、屍、世送と修行という名の喧嘩をしている。

 普段、館の防衛や戦闘がないという状況から戦えない戦闘狂達はここぞとばかりに戦い、度が過ぎた結果、白や食香、零士、ハハマナコと言ったメンバーにまとめてのされて、鎖で縛った山蜥蜴たちを白がいい笑顔で持っていき、ここ最近は山蜥蜴たちの姿を見ていない。

 ただ、唐傘、葉隠、凍といったメンバーが盆に載せた複数の料理を持ちながら何処かへと向かっていく姿が目撃されるようになった。

 

 濡れ女こと濡川 雫は、白や朧、美岬といった者たちとこそこそとどこかの部屋に向かう姿がよく目撃されており、たまたま通りがかり部屋で何を行なっているのか調べようとした戦闘員従者の群青鎧Bと黒帽子Cは、その時の記憶がなく、中で何があったのかは覚えていないらしく。

 ただ、白たちを見た際にブルブルと身体が震えている事から白たちが何かをしたのは間違いないと私は思っている。

 

 一目連ことひとみは、似た体付きをしている鳴風や兜から夜な夜な空に出ては、戦闘機のような複雑で戦闘に有効な飛び方や、上空から奇襲の仕方などを教えているらしく、『お父さんやみんなのために強くなりたい』と言って頑張っているようだ。

 それでもまだ成長途中の子供なので、キリの良いところでやめさせて、鳴風と兜が景色の良いところに連れて行き、おやっさんや茂久の作った弁当を喰べているようだ。

 

 土用坊主は、白蔵主のこと以外では、睡樹の畑の手伝いをしていることが多い。

 元々が土用(四季の終わりの18日間)の時期に現れる土の民間神で土の扱いには手慣れており、睡樹に農作物の知識を教えたり、畑の畝を作ったり、耕したりしている。布袋で隠している顔が気になって取ろうとしたものも居たが、零士やハハマナコ、ひとみにこがね、更には普段は仲の良くない白蔵主に止められて、取ろうとするものは居なくなった。

 

 金魂ことこがねは、小判の鱗や『煉獄の園(パーガトリー・エデン)』で頂いた転生者を金に変えて、それら質屋に売って、そのお金でひとみや鳴風や睡樹、波音、潜砂といった子供に近い精神の家族に色々と買ってくれたりしている。買って貰った子達が『こがねお姉ちゃん』と呼んで、『お姉ちゃんと呼ぶな』と言うも、その頬は朱色に染まっていた。

 

 かじかばばあこと鍋婆は、妖怪でありながら機械を弄ることが出来る。

 最近では、発売されて間もないデジタル機械の操作を羅殴や迷家や従者の妖姫や戦闘員従者達に指導したりしている。

 因みに似た外見をしているヤドウカイの朧を見た際に『懐かしい』といっており、その理由も朧にだけなら教えてあげると言っていた。

 

 ほうこうは、館の端に小さな木の小屋を作って、そこで漬け物を作っている。

 出来上がった物をよく、おやっさんや茂久に試食してもらっている。この館が山奥にある場所のために気温が漬け物を漬けるのに適温と言って、豪快に笑っていた記憶が新しい。

 因みに野菜は睡樹が育てた野菜を使っているらしく、『今まで漬けた野菜の中で最高の物だ』と、ほうこうは喜び、睡樹はそれを聞いて、少し照れていた。

 

 灰と砦のヌリカベ親子の2人は、灰は手の足りないところに手伝いに行き、砦は顎の手伝いをしている。

 

 そして、そんな私が今何をしているのかというと。

 

「お邪魔するよ蛇姫」

 

「お、邪魔、しま、す」

 

カッカッカッカッカ

 

 今、訪れたのは蛇姫が術を使う札の開発の為に使っている仮の部屋。ちゃんとした部屋を用意したいけどまだ出来てない為に、迷家に頼んで、妖世館の一部の空間を弄って、蛇姫の部屋を作った。

 

蛇姫

【ようこそ王。少し散らかっていますがどうぞ】

 

「まあ、そんな長居するわけじゃないし大丈夫だよ。それで、札の開発は順調?」

 

蛇姫

【順調……とは言えないですね。仮で組んだ術式は出来たのですが】

 

「それって、これ」

 

 蛇姫の側にある机の上に並べられた札の1つを取って蛇姫に聞く。

 

蛇姫

【はい。そうなのですが…………王よあまり無闇に持たないでください。迂闊に触って何か事故があったら】

 

 事故があるんだと思いながら、触っている札のことで蛇姫から注意を聞いていると、あれ、意識が–––

 

【申し訳ございません。少し身体を借ります】

 

 そんな声が聞こえると、幽冥の意識は心の奥に沈んだ。

 

 

 

 

 

 

蛇姫

【王よありがとうございます。王の助言のお陰で何とか作る事ができました】

 

「………………あれ、私何をしていたの? うわ、札の文字がいつの間にか増えてる!?」

 

 急に意識を失い、目を覚ますと先程取った札には無かった術式がいくつも増えていた。

 

蛇姫

【え? その札は王の助言があって出来たのですが】

 

「私が? ……………それは多分、歴代の王様の誰かが私の身体を使ってやったんだと思う」

 

 この現象はすでに何度か経験している。『魔化水晶』の中にいた王たちは時々、私の身体を勝手に使って何かをしている。だが、王たちが何かを終えた後に意識が戻り、何処にいるのか分からない状況の上に、記憶が共有されていないので、本当に何をしているのかといつも思っている。

 今度、夢の世界で会うことがあったら聞いてみようと私は思った。

 

蛇姫

【おそらく、2代目の王であるフグルマヨウヒ様が王の身体を借りて、助言をしてくれたんだと思います】

 

「フグルマヨウヒさんが?」

 

蛇姫

【そうです。フグルマヨウヒ様は歴代の王の中で術に対しての知識が豊富で、今の時代にある幾つかの術もフグルマヨウヒ様が編み出した術もあります】

 

 私は2人のフグルマヨウヒさんの話を聞いていた。

 

 

 

 

 

 

 そうしてフグルマヨウヒさんの話を蛇姫から聞いた私は札を見ながら、蛇姫に質問した。

 

「そう言えば蛇姫。これってどうやって術が発動するの?」

 

蛇姫

【ああ、それは発動させるには、行きたい場所のイメージを持って札を地面に落とせば術が発動するのです】

 

「へええ、じゃあ私が魔化魍の居そうな場所に転移したいと思えば、そこに行けるの?」

 

 そうだとすれば、早速使って、新しい魔化魍に会いたいと思った。

 

蛇姫

【まあ、行けると思います……ただ、完成したばかりで、おまけにその札を使った実験をしてないので、まだ明確な転移が出来るのか分からないのです】

 

「そうなんだ…………あれ?」

 

蛇姫

【王、如何しました?】

 

 何も起きないなと蛇姫が言っていたが、突然、札が小刻みに震える。

 

「え?」

 

 震えた札が床に落ちると札は、落ちた場所を中心に凄まじい光が覆った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、光が治ると見えたのは、館の中ではなく何処かの森の中だった。

 

「ここ何処?!」

 

シュルゥゥゥゥ カッカッカッカッカ

 

 そんな幽冥の声を巻き込まれて一緒に転移した2人の家族は苦笑した様な鳴き声で返した。

 

SIDE蛇姫

 以前作った『転移の札』。あれの改良版を最近作ろうとしているが、なかなか上手くいかない。

 元々は転移の術式と目的とする場所を記して、それを術の素養のある者が贈る人数を囲える大きさの五芒星の陣の点の上に配置して術者が術を発動させるという割と高度な術で、それらの工程を全て札1枚に込めるのが難しい。原段階での完成率は5割くらい。これが7割くらいになれば、試作の『転移の札』が出来るだろうと私は思う。

 

 作ろうとしている理由は単純。

 王がそれを望んでいるから。

 

 我らの新たな王は人間だ。しかし、普通の人間とは違った。

 遥か昔から人を喰らい、恐れを生み出した我ら『魔化魍』を家族と言い、種族としての名前ではなく、1人1人に確固たる個としての名前を与えてくれている。歴代の王の中には家族のように接する王も居たが、それでも種族としての名前で呼ばれていた。だが、新たな王は種族の名ではなく、個としての名前で呼ぶ。それが我らは堪らなく嬉しい。

 

 そんな王が言った。

 『便利な術なのに、準備と必要な者が居なければ使えないのは勿体無い』と、確かにこの術は準備とそれを行使するのに必要な数がいる。それを簡単に誰でも使える様になれば、誰でも転移できるようになる。

 そうこう考えながら、難航している札の術式を弄っていると扉が開いた。

 

「お邪魔するよ蛇姫」

 

「お、邪魔、しま、す」

 

カッカッカッカッカ

 

 その王の後ろから続くのは今日の王の護衛として付いてる睡樹と南瓜だ。

 

蛇姫

【ようこそ王。少し散らかっていますがどうぞ】

 

「まあ、そんな長居するわけじゃないし大丈夫だよ。それで、札の開発は順調?」

 

蛇姫

【順調……とは言えないですね。仮ですが組んだ術式は出来たのですが】

 

「それって、これ」

 

蛇姫

【はい。そうなのですが…………王よあまり無闇に持たないでください。迂闊に触って何か事故があったら】

 

 蛇姫は札を持つ幽冥に注意する。しかし、幽冥は札を戻さずにそのまま札に描かれていた術式を見ていた。そして一言呟く。

 

「この札の術式を少し弄れば、『転移の札』は作れる」

 

蛇姫

【え?】

 

「先ずは、その仮の術式を消して、この札の四隅に東西南北と時計右回りに書いてください」

 

蛇姫

【は、はい!!】

 

 私は札の術式を消して、王の言う通りに札の四隅に書いた。

 

「では次に札の中央に鳥居を描き、その鳥居を一周する様に注連縄を描いてください」

 

蛇姫

【こうですか?】

 

「そうです。なかなか上手いですね。では、次からが難しいですよ」

 

蛇姫

【はい】

 

 それから私は王(?)からの助言を聞きながら札に術式を変える作業を始めた。

 

 

 

 

 

 

 そうして、王からの数々の助言を受けて、30分。札の術式を変えていったら–––

 

蛇姫

【…出来た】

 

 そうついに完成した。『転移の札』が。

 

蛇姫

【王よありがとうございます。王の助言のお陰で何とか作る事ができました】

 

「ふふふ。いいえ。私も久々に楽しまさせて貰いました。やっぱりこういうのは良い、もの、ですね………………あれ、私何をしていたの?

 うわ、札の文字がいつの間にか増えてる!?」

 

 私が感謝の言葉を述べると、完成した札を見ながら笑みを浮かべていた王は先程までしていたことをまったく覚えておらず、手にある札に描かれた術式が増えていたことに驚いていた。

 

蛇姫

【え? その札は王の助言があって出来たのですが】

 

「私が? ……………それは多分、歴代の王様の誰かが私の身体を使ってやったんだと思う」

 

 王の言っていることによると、歴代の王たちは時折、王の身体を借りて何かをしていることがあるらしくその間は、記憶がないらしい。

 

蛇姫

【おそらく、2代目の王であるフグルマヨウヒ様が王の身体を借りて、助言をしてくれたんだと思います】

 

 その話を聞いた私はおそらく王の身体を借りていた王の正体を言う。

 

「フグルマヨウヒさんが?」

 

蛇姫

【そうです。フグルマヨウヒ様は歴代の王の中で術に対しての知識が豊富で、今の時代にある幾つかの術もフグルマヨウヒ様が編み出した術もあります】

 

 私はフグルマヨウヒ様のことを王に聞かせ始めた。

 そして、この時、話をしている蛇姫も話を聞いている幽冥も術の描かれた札を眺めていた睡樹も睡樹の見る札の解説をする南瓜も幽冥が握っていた『転移の札』に、幽冥の腕から出た黒いもやを札が吸収していた光景を見ていなかった。だが、何かが起きようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう言えば蛇姫。これってどうやって術が発動するの?」

 

 まだ試作の段階だが完成した『転移の札』を見ながら王が私に聞く。

 

蛇姫

【ああ、それは発動させるには、行きたい場所のイメージを持って札を地面に落とせば術が発動するのです】

 

「へええ、じゃあ私が魔化魍の居そうな場所に転移したいと思えば、そこに行けるの?」

 

蛇姫

【まあ、行けると思います……ただ、完成したばかりで、おまけにその札を使った実験をしてないので、まだ明確な転移が出来るのか分からないのです】

 

「そうなんだ…………あれ?」

 

蛇姫

【王、如何しました?】

 

 何も起きないと思われていたが、突然、札がプルプルと震えて王はその振動で札を誤って地面に落とすと、札から光が溢れて王と睡眠と南瓜を包み込む。

 

「え?」

 

シュルゥゥゥゥ カッカッカッカッカ

 

 王と睡樹と南瓜のそんな声と共に試作として作った札は込められていた術が発動する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突然、術の発動した札の衝撃で発生した煙で目を塞がれて王たちの姿が確認できない。

 煙が消えると同時に蛇姫は声を上げる。

 

蛇姫

【王、王!! 睡樹! 南瓜! 無事ですか!? これは!!】

 

 蛇姫が見つけたのは、効力を失ったのかボロボロになり、半分に破けた札が幽冥たちのいた場所に落ちていた。

 

蛇姫

【ああ、どうすれば………早く転移先を……王がどこに飛んだのかを調べねば。朧と美岬、それに白と赤に何をされるか!!】

 

 それを見て、何が起きたのか理解した蛇姫は術の効果が切れて、ボロボロの破けた紙になっている札を集めて、幽冥たちが何処に飛んでいったのかを調べ始めた。

 勿論、この後に蛇姫は突然の音で部屋にやってきた白や赤たちに幽冥たちに試作の『転移の札』を見せていたら暴発してしまい行方不明になったことが知られて、ドギツいお仕置きをされるのは言うまでもない。

 

SIDEOUT

 

 森の中で響く金属同士の音。そこには追いかけられていた影こと魔化魍とそれを追いかけていた鬼が互いの長斧と普通の音撃棒よりも機械寄りな音撃棒を振るって、火花を散らせる。

 お互いの持つ長斧と音撃棒を間に挟みながら両者は互いを睨み合う。

 

【(早くこの鬼を撒かねば)】

 

 長斧を持った鰐の姿をした人型の魔化魍は、目の前の鬼を相手にする暇はない。

 彼には任務があり、その任務を果たすためには、このような場所で足止めを食らう訳にはいかない。鰐の人型魔化魍は口を閉じるとそこに何かが溜まるように口全体が膨らんでいき、口を開いた瞬間、口の中に溜め込まれた水が水流となって鬼の面目掛けて、一直線に発射される。

 

「ウオ!!」

 

 面越しとはいえ突然水が顔を覆えば、誰でも目を瞑ってしまうだろう。そんな隙をついて、鰐の人型魔化魍は長斧の柄を使って鬼を殴り飛ばす。

 

 

 鰐の人型魔化魍は殴り飛ばした鬼を一瞥した後に残りの鬼に視線を向けると、先程まで3人いた筈の鬼は2人になっていた。

 2人の鬼に警戒しながら鬼を探していると、突然目の前の地面が盛り上がり、その盛り上がった地面から勢い良く飛び出た音撃弦が鰐の人型魔化魍の腹に突き刺さる。

 

【ガフッ!】

 

 鬼の持つ音撃弦の一撃が腹に響き、自身の武器である長斧を落とし、音撃弦に貫かれた傷を抑え、そのまま地面にうつ伏せに倒れ伏す。すぐ目の前にある長斧を掴もうと、手を伸ばすが––––

 

「さっきはよくもやってくれたな!!」

 

 先程殴り飛ばした鬼が長斧を遠くに蹴り飛ばし、長斧に伸ばしていた手を踏みつける。

 

【ぐうう!!】

 

 鬼達は集まって、地面に倒れる鰐の人型魔化魍に執拗な攻撃を加えた。

 

 

 

 

 

 

 それから鰐の人型魔化魍は鬼たちの攻撃を受け続け、少しずつヒビが入っていく。

 腹に受けた傷からは白い血を垂らし、鰐独特の鱗は剥がれたり、割れたりと元の姿からはかなり離れた姿に変わった鰐の人型魔化魍は、小さな呻き声を上げながら薄れそうな意識をなんとか保っていた。

 鬼たちは痛めつけるのに飽きたのか、肩で息をしながら隣にいる鬼に言う。

 

「はー、さっさと止めをさしちまえ」

 

「はー、はー、そうだな」

 

 ボロボロな姿になった鰐の人型の魔化魍の頭に足を置き、その手に持つ音撃棒を振り上げる。

 

【く、くそ。すまない】

 

「あばよ! 魔化も…なっ!!」

 

 勢いよく振り下ろそうとした音撃武器を止め、突然、鬼たちがその場を飛び離れるように離れると、数枚の札と硬球サイズの火球が飛んできてそれらが鬼達のいた場所にあたると札から炎が舞い上がり、その場所を燃やす。

 

「な、何者だ!!」

 

「何処だ!?」

 

「姿をあらわせ!!」

 

 鰐の人型の魔化魍にさそうとしたとどめを邪魔された鬼たちはあたりを見回すしてると。

 

【あ、貴女は!?】

 

 鰐の人型の魔化魍がボロボロの顔を上げて見た先には、何かを飛ばしたかのようにピンと伸ばした手を出す着物姿の少女と少女に付き従うようにツタを蠢かす植物の魔化魍と口からシューと白い煙を吹く、溶岩の魔化魍が立っていた。

 

 そう。そこに居たのは、蛇姫の試作した『転移の札』の力でこの場に転移してしまった幽冥と睡樹、南瓜の3人。その姿を見た鰐の人型魔化魍は鬼との戦闘で蓄積したダメージが原因で意識を離した。




如何でしたでしょうか?
今回は『転移の札』の事故で転移しちゃいます。
次回はいきなり戦闘からです。鰐の人型魔化魍も種族名が出てきます。


ーおまけー
迷家
【はいーはーーーい。おまけコーナー始まるよーーー!!】

水底
【迷家、何ですかコレは?】

迷家
【今回の話からおまけコーナーが始まるよー。進行は僕で、毎話ゲストとして家族を1人呼ぶっていう】

水底
【何故、そのようなものが。そして、何故最初のゲストは私なのですか?】

迷家
【なんか、変な人からこの紙もらっちゃってーーこのコーナーをお願いって頼まれちゃってさーーー。
 それと水底がゲストなのは僕たち同じタイミングで魔化魍になったから最初のゲストとしていいんじゃないかなってーー】

水底
【まあ、納得しました。それで何をするのですか?】

迷家
【うんとね。何をするかは僕に任せるって言ってたし、じゃあさ、水底ってさ、どっちが本体なの?】

水底
【どういう事ですか?】

迷家
【だってさ君の身体ってさ、骨の艦とさ蛸足の貝の2つあるじゃん。結局どっちが本体なのかなって?】

水底
【まあ、言っても問題はないですから良いですけど、私のこの身体はどちらも本体です。
 例え、片方が音撃を受けて清められようが、もう片方に何もなければ再生できます。コレでいいかしら?】

迷家
【なるほど! ありがとうね水底】

水底
【いいえ。では、私は鋏刃さんの手伝いをしています】

迷家
【まっ、こんな感じでおまけはやっていくよーー。それと、さっき変な人からこんな紙も貰ったから読むね。
 ええと、”こんな作者でごめんなさい!!”って、誰に言ってるんだろうね? 
 まっいっか。じゃあ、まったねーーーーー!!】

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