今回は鹿児島支部襲撃と熊本支部襲撃の回です。
某特撮のあるキャラのような喋り方の蝕と目立つために活躍する穿殻。
では、どうぞ!!
ー追伸ー
タイトルが投稿前のものだったので直しました。
SIDE鹿児島支部襲撃メンバー
猛士九州地方鹿児島支部。
五感の優れている鬼や人間が多く所属し、その五感を駆使した電撃作戦や集団作戦を得意とする。しかし、他の九州地方支部に比べると所属する構成員の数は少なく、他の九州地方支部と組んで魔化魍と戦うことが多い。
そんな鹿児島支部。此処は襲撃されている他の支部と違い、静かだった。
壁が無駄に破壊されてる訳でも、部屋が無茶苦茶にされてる訳でも、無駄に臓物を飛び散らせて死んでる死体でも、焼け焦げてその場に転がる物体がある訳でもない。
ただただ、静かだった。
しかし、静かなのは理由がある。
1つの扉が開いてる部屋がある。そこには、ありえない向きに四肢を曲げられて、その上で紐のようなもので拘束されている人間たちがいた。声を出させない為か口に何かを詰められて喋れなくされてる。
またある部屋では、紐で拘束されている者はいないが、指先を全て切り落とされ、両腕同士と両脚同士を繋ぐように突き刺さった5寸釘によって血を流し、口元は糸で縫い付けられていた。
別の部屋には鬼がいた。しかし、どの鬼も顔の面が外れて、首筋には赤い点があり、そこからツーと少ない血が垂れている。しかも、涎を垂らしながら宙を切るように手を動かしていた。
そして、そんな多くの部屋の前にはプルンと震えながら肌色の物体が拘束している人間たちの前にあった。
肌色の物体の正体は、この鹿児島支部襲撃に参加している食香の生み出した分体だ。
分体を生み出す能力を持つ魔化魍は一部だけだが、分体と意識を繋げることが出来るのがいる。意識を繋げた分体の視界は本体に共有されて、常に分体の状況を知ることができる。
動けなくさせた人間のいる部屋の監視役として1つの分体を置いて監視しながら、食香は羅殴や蝕、縫によって動けなくさせられた猛士の人間たちの部屋に自身の新しい分体を作り監視している。
そして、鹿児島支部内を周りつくした羅殴たちは支部の外にある中庭に集まっていた。
食香
【これで、全部捕まえたはず】
縫
【それにしても、拍子抜けなくらい楽だったね】
羅殴
【まあ、蝕の作ってくれた薬のおかげだな】
羅殴の視線の先には普段の姿とは異なる蝕の姿があった。
蝕の姿は、骨をX字に組みその上に人間の頭蓋骨を乗せたマークの描かれた緑の頭巾を頭に巻き、黒糸で刺繍された網目模様の布を右斜めに身体に巻いている。尻尾も通常と異なり尾先が鋭利な針がある注射針に変わっており、その注射針の中をよく見ると薄気味悪い色の液体がたぷんと揺れている。
そして、腰には人間の拳ほどの大きさの巾着が5個。巾着の1つから何かを取り出し、手に持つ試験管に取り出した何かを放り込んで試験管を振っている蝕。
蝕のこの姿は勿論、変異した姿である。
蝕がこの姿もとい変異態の姿を手に入れたキッカケはただの偶然だ。
蝕は普段、あらゆる薬を自身に試し、その効能を調べている。一般的な人間の薬、天然物の薬、植物や生物の毒などと様々なもの配合して自身に試す。
その効能実験の際に試した薬の1つが今回のこの変異態になるキッカケになった薬だった。
この姿になった蝕は無味無臭の思考力低下と快楽物質を増加させて幻覚を見せる作用がある薬
そして、薬をばら撒いて約1時間半。
既に鹿児島支部は墜ちたと言っても過言ではない。だが–––
羅殴
【なあ、蝕。ここの人間は全部捕まえたんだからさ。早く帰ろうぜ】
羅殴はやる事がないと言っているが蝕は気にせずに試験管を振り続けている。
先程、蝕が入れたものは赤い液体に変わっており、試験管をゆらゆらと振るたびに中でちゃぷんと音が鳴る。そして、蝕は茂みに向けて口を開く。
蝕
【いるのは分かってるんだから出てきたら】
まるで誰かが茂みに隠れているかのように蝕が言う。しかし、茂みにいる誰かは答える気がないのか沈黙を保っていた。だが、蝕はその手の試験管を茂みに向かって投げると–––
「ちっ!!」
そんな舌打ちと共に1つの影が茂みから飛び出て、投げられた試験管を手で受け止めて、そのまま投げ捨てた。
捨てられた試験管が地面で割れると大きな爆炎を上げて、割れた場所を中心にデカい穴ぼこができていた。
「危ねえ変な匂いがするから捨てたけど、あれが当たってたら死んでた」
茂みから現れたのは、1人の鬼だった。
頭部が黒に近い灰色で縁取りされ、額から真っ直ぐ伸びている短い角、赤みがかった黒の鎧を纏い、従来の鬼の手甲に比べて一回り大きなものを両手に身につけた鬼だった。
彼女こそ、此処、猛士九州地方鹿児島支部最強の鬼とも言われ、鉄から警戒されていた鬼の1人である。
鹿児島支部所属の鬼だけあって五感、特に聴覚と嗅覚が優れた鬼で、猟犬のように魔化魍を清めるまで追い続け、1度匂いを覚えられたら逃れる事が不可能と言われている。鉄が逃そうとした幼体の魔化魍の一部を清めていた事もあり、鉄が『見つけたら即座に殺すまたは2度と戦えないようにしてくれ』と言っていた。
それが目の前に現れた鬼、焙鬼である。
「てめえが此処の連中をあんな目に合わせた奴か?」
蝕
【だったらどうする?】
「てめえを殺す!!」
腰にぶら下げた音撃棒 焙煎を手に持ち、焙鬼は蝕に向かって走り出す。
蝕は焦ることなく巾着からピンク色の液体が入った試験管を2つ取り出して、最初に投げた試験管の後にもう1つを時間差で焙鬼の脚に向けて投げる。
時間差で投げられた試験管を焙鬼はさっきと同じように割らないように手で掴み、そのまま蝕に投げ返す。
事前に鉄から聞いた情報の通りに僅かな物音と匂いで、焙鬼は蝕の薬を危険かどうか判断して、投げ返してきた。
だが、2つの内1つは試験管の割れることなく蝕の手元にすっぽり収まったが、もう1つは受け止めようとした瞬間、焙鬼がディスクアニマルのディスクを投げて、試験管を割った。
蝕は中のピンクの液体を右半分に浴びるも、巾着に手を伸ばして透明な水のような液体の入った試験管を取り出し、すぐに浴びてしまったピンクの液体の上に掛けると、ピンクの液体は無かったかのようにその存在を消す。
「ちっ」
それを見た焙鬼は聞こえる舌打ちをして、音撃棒 焙煎を構える。
僅かな物音でも聞き漏らさず、僅かな臭気から危険を察知する焙鬼という鬼の聴覚と嗅覚は素直に称賛に値する。だが、それ故に。
蝕
【(あと少しで攻略のピースが揃いそうです。さて、実験を始めましょう)】
蝕は普段は浮かべなさそうな嗜虐的な笑みを浮かべて、妖世館の自室にある薬倉庫から取り出した物を混ぜ、流し込んだ試験管を握りしめる。
蝕
【先ずは、
蝕は目の前の焙鬼の顔に目掛けて空間倉庫から取り出した薄気味悪い色の液体が入った試験管を投げる。
勿論、焙鬼もただ受けるはずもなく、避けようとすると–––
ウオォォォォォォォ
地を震わすような羅殴の雄叫びが焙鬼の動きを阻害するかのように響く。羅殴の雄叫びによって硬直した焙鬼の身体にチクッとした痛みを感じる。痛みの原因を見ると、小さなまち針が刺さっており、投げられたと思う場所には投擲した体勢の縫がいた。
「ちっ!! しまっ、がっ」
パリンと割れて、中の液体をもろに浴びた焙鬼、そのまま浴びた液体を拭うが、粘度があるせいで全然落ちない。
蝕
【では、乾かしてあげます】
蝕がそういうと、風の術によって生み出した風を焙鬼に当てる。液体は風でどんどん乾かされていき、焙鬼は風に耐えきれず吹き飛ばされて地面をゴロゴロと転がっていく。
そして、これが焙鬼を倒すための蝕の前準備だということを羅殴たちは知らない。
風の術で飛ばされた焙鬼が目を開けると、辺り一面が暗黒に染まったように見えなくなっていた。
「何処だ!! 魔化魍!!」
焙鬼は立ってるのか、座ってるのかも分からず、暗闇で見えなくなった辺りを探しても何も見えず、更に魔化魍の移動する音も魔化魍の匂いも消えた。何処にいるのか分からない焙鬼はとにかく音撃棒 焙煎を振り回す。
だが、焙鬼は勘違いをしている。蝕たちは消えていない。何故なら–––
縫
【何やってるのアレ?】
縫が言った先には、音撃棒を滅茶苦茶に振り回す焙鬼の姿だった。
羅殴
【何が起こってるんだ蝕?】
あまりにも滑稽、無様という焙鬼の行動に羅殴はこの状況を作り出した蝕に聞く。
蝕
【慌てない。慌てない。既に私の薬によって五感を奪ったので、あの鬼には私達の姿を見ることも聞くことも出来ません。ましてや攻撃を当てることも……そして、勝利のレシピは整いました】
蝕の放った事五苦は、人間の五感である触覚、聴覚、視覚、嗅覚、味覚の5つの感覚機能に影響を及ぼす薬を風の術で気化させて感覚機能を自覚出来なくする薬。この薬は魔化魍には影響がないが、人間には多大な影響を与える。それもその筈だ。人間は生まれてから五感と共に生きている。それが突然消えたら如何なるか?
見えているものが突然見えなくなったら、聞こえているものが突然聞こえなくなったら、感じ取れたものが突然感じ取れなくなったら。
その結果が、今の焙鬼だ。蝕の薬によって五感を奪われたとは気付かず、ただ暗闇の中に閉じ込めれたと勘違いしている。
蝕が焙鬼の五感を奪ったのは、それが次の攻撃のためには必要なことだからだ。鹿児島支部の鬼の中では特に優れている焙鬼の聴覚、嗅覚が邪魔だったからだ。
因みになのだが、蝕が薬の材料として使うのは、人間の生み出した薬品も少しはあるが、基本的には魔化魍の身体の一部(顎の蟻酸や食香の粘液、命樹の仙人掌の棘、凍の剥がれた鱗など)を蝕が加工し、薬に変えた物。
そして、これから蝕が使うのは、自身が試した中でも強力でかなり危険な薬だった。
蝕
【羅殴、縫。あの鬼の腕を使えなくして】
羅殴
【おう!!】
縫
【分かった!!】
蝕
【食香。掌サイズの分体を1つ私に渡して】
食香
【え? あ、はい】
すると食香の身体からぷつんと肉が千切れる音とともに分体が生み出される。蝕はその分体を掴み––––
蝕
【そい!!】
食香
【ええええ!!】
投げた。
「ぐふっ」
闇雲に音撃棒 焙煎を振り回している焙鬼の腹部に蝕に投げられた分体が当たると、同時に蝕から少し離れた場所にいた羅殴が焙鬼の左腕に飛びついて関節が向かない方向に折り曲げ、縫が針を右腕に向かって投げた。
「ぎゃあああああああ!!」
向かない方向に曲げられた左腕は青紫色の痣を浮かべて肘先からぶらんと揺れ、右腕は投げられた針が貫通して肩の骨に突き刺さっていた。
蝕
【
焙鬼の手が使い物にならなくなった瞬間、食香の分体を投げた直後に取り出した2つの試験管が同時に投げられ、焙鬼の顔に命中する。すると、割れた試験管から漏れた中の液体が無防備な焙鬼の顔を盛大に濡らすが、直ぐに薬は気化し始める。
そして、面の隙間から入っていく気化した薬を止める術もなく、そして薬の効果で自覚出来なくなっている嗅覚もとい鼻から大量の気化した薬が鼻腔を通じて焙鬼の身体の中に取り込まれていく。
壊楽と同時に投げられた葬嫉とは、言うならば理性によって抑えられる羞恥心という枷を壊して、人間社会の常識を狂わせる薬。
簡単に言うならば、公共施設のど真ん中で唐突に全裸になって惜しげもなく、その痴態を嬉々として他人に見せつけるようになる薬。
更には追いうちを掛けるように投げられた壊楽は鹿児島支部内で薄めてばら撒いて時とは違い、原液に近いそのままの濃度で焙鬼に投げた。
本来なら壊楽は薄めて使わなければならず、本来の濃度でやった場合は薬の快楽物質が脳から身体全体に駆け回り、永遠に覚めることのない快楽地獄に陥る。
空気が触れただけで全身に言いようもない快感の波に襲われ、常にショック死するかの様な強烈な絶頂が迸る。
そんな原液と同じ濃度の壊楽と葬嫉を受けた焙鬼は–––
「あ、ああ、えっへ、あははは、あーーー」
鬼としていや、人として色々終わっていた姿を見せていた。
鹿児島支部内で蝕の壊楽を吸っていた者たちよりもさらに酷かった。
自身で解いたのか薬で解けたのかは謎だが、変身が解けたことで鎧がなくなり、俗にいう生まれたままの姿になっている焙鬼。
女性として隠すべきものを隠さずにおっ広げるように汗で濡れた肢体や玉粒のような汗がまばらにある全身を晒し、大きくだらしなく開いた口から止めどなく粘度が少しある涎が垂れ続け、充血した目は焦点が定まっておらずぐるぐるとあっちこっちと回り、羅殴に折られた左腕や縫によって突き刺された針のある右肩が原因で右腕だけ挙がっていないが宙の何かを掴もうとし、脚は幼稚園児のようにバタバタと忙しなく動いている。
焙鬼は蝕の受けた技の通りに
鹿児島支部においての最高戦力だった焙鬼が敗れ、薬を受けて2度と戻らないその痴態を食香が触手で運んで、蝕の薬の効果で薄れつつあった反抗心のあった猛士の人間に見せつけた。
その姿を最初に見た鹿児島支部の支部長の臼井 功太は、焙鬼の姿に絶望して、自分も『ああなるくらいなら』と言った直後に隠し持っていた拳銃で自分の頭を撃ち抜いて死んだ。
焙鬼と同じ鬼たちはまだ反抗心があったが縫の始めた簡素ながらえげつない拷問によって2人死に、次の鬼に手を出そうとした瞬間に鬼の1人が降伏を認め、焙鬼を含めて4人の鬼が生き残った。この拷問を始める前に何故か死んでいた鬼と拷問で死んだ鬼の死体を食香が喰らった。
そして、鬼以外の人間は鬼たちに助けの声を上げながら生きたまま羅殴や蝕、縫に喰われた。
食事を終えた羅殴たちは降伏して捕虜となった鬼と薬漬けの廃人となった焙鬼を連れて、鹿児島支部の中庭に集め、そこで術を解き、成体としての本来の大きさに戻った羅殴が鹿児島支部の建物を破壊する様を鬼たちに見せつけてた。
捕虜となった鬼たちは自身のいた支部を破壊されていく様を見せつけられ、泣きながら『やめてくれ』や『壊さないで』と言う声を無視して羅殴は鹿児島支部を破壊した。
羅殴が再び術で小さくなり、蝕の肩の上に座り込む。
蝕
【お疲れ様】
羅殴
【いやーー最後の最後で楽しかったよ】
縫
【じゃあ、戻ろう】
縫の言葉を受けて、蝕達は4人の鬼の捕虜を連れて、幽冥の定めた集合場所に戻った。
因みに鹿児島支部の建物から離れた場所にあった住宅街にいた人々は髪の毛を生やした謎の
SIDEOUT
SIDE穿殻
そのまま奥に進もうとした僕たちは結局、壁にハマった穢流を助けてから奥に進んだ。
だけどよく考えたら、穢流は身体を分裂させれば壁から出られたと思うんだけど。
「早く逃げろ」
「しかし!」
「せめて、鬼が来るまで足止–––」
敵の前で喋る2人の人間は上から落ちてきた崩に潰された。
崩
【脆いの】
崩が身体を退かすと、赤い花を咲かせたように潰れた2つの死体があった。
崩
【はぐっ。うむ、少しはマシか】
潰れた死体の1つを齧り、咀嚼する崩。
崩
【喰うか?】
僕と穢流に潰れているもう1つの死体を進めるが––––
穿殻
【いらない】
穢流
【私も結構です。どうぞ】
崩
【ふむ。んぐ】
先程までいた人間たちは既に鬼の救援を求めてか奥にある2つの通路に逃げ、周りは僕たちが殺した人間の死体しか残っていない。
そのおかげで崩はゆっくりと食事をすることが出来た。
崩
【では、我は向こうの通路に行く。そっちの通路を頼むぞ】
そう言いながら、2つの死体を喰らった崩は食事が済むと新たな獲物を求める様に奥にある通路に向かった。
穢流
【それでは、私たちも向こうにいきましょうか】
穿殻
【ええ】
そのまま2体は崩の向かった通路の反対の方の通路に向かった。
通路を通れる様に本来の大きさの半分くらいの大きさで穿殻と穢流は歩く。
道中で見つけた人間はすぐに殺し、その死体をすぐに空間倉庫に仕舞い込む。
そうやって進んでいると通路が終わり、1つの扉に着く。
扉を壁ごと触手で砕き、中に入ると–––
穿殻
【うわ、眩しい】
正面から光が照射されて顔を照らす。
「待っていましたよ魔化魍。うちの部下をよくもやってくれましたね」
照明の発せられる部屋の奥から何かが歩いてきた。
頭部と腕が水色に近い青で縁取りされ、右側頭部に湾曲して伸びてる角、藍色の鎧を纏い、腰には弦を弾く弓の形をした刀のようなものを携え、左腕には真ん中に窪みがある三角形の音撃弦盾を身に付けた鬼が歩いてくる。
鬼はそのまま腰にある弓刀を引き抜き僕に向け、それの意図を察して僕は隣にいる穢流に話す。
穿殻
【穢流、あの鬼は僕ひとりで倒します】
穢流
【………そうですか。では、私は離れてます。気をつけてください】
そう言って、穢流は素直に離れて部屋の隅に移動する。
穢流が移動するのを見て、僕は鬼に顔を向ける。
穿殻
【これでいい?】
「はい。別に2体がかりでも構いませんが、素直に応じてくれてありがとうございます」
穿殻
【別に構わない。僕も鬼に通じるか試したいことがあったし。僕は穿殻。貴女は?】
「………予鬼です。あなたを清める名を覚えてください」
予鬼と名乗った鬼は弓刀を構え、穿殻に向かって走る。
走る予鬼に向けて触手が放たれる。
予鬼は流れるように穿殻の触手を斬り落としながら穿殻の身体に迫る。
穿殻
【ふん】
だが、穿殻が踏ん張ると殻の棘が一斉に放たれ、近付いていた予鬼は飛んでくる棘を弦盾で弾きながら避ける。
再び近付こうと予鬼が走ると今度は残った触手の口から水流が勢いよく放たれる。
予鬼は水流を弦盾で防いで、水流を防ぎながら腰に付いているディスクアニマルのディスクを2枚投げる。2枚のディスクアニマルは空中で形を変えて2匹の瑠璃狼に変わり、穿殻の触手に噛み付く。
噛みつかれて触手からの水流の勢いが弱まり、予鬼は弓刀で触手を両断し、追撃をかけようとするが、穿殻は一部残っている触手で床を叩き、その反動で遠くに逃げる。
穿殻
【イタた、容赦ない。まあ普通だけど、これ邪魔】
そう言う穿殻は触手を再生させながら、触手に噛み付いた2匹の瑠璃狼を床に叩きつけて破壊し目の前の鬼に言う。
「これが試したいこと? その割には単調」
それもそうだ。なにせ穿殻がやったのは、触手攻撃、水流攻撃、棘による遠距離攻撃というサザエオニ種の魔化魍が基本的にやる攻撃手段と同じだからだ。これが試したいことならば、戦闘に参加したこのないど素人とも言えるだろう。だが–––
穿殻
【あーー。そうだね。じゃあ試したいことを試させてもらうよ】
そう試したいというのはコレではない。
そう言うと、部屋の空気が急に重くなり穿殻の周りに変化が起きる。
人間の発音では不可能とも言うべき言葉を紡ぐ穿殻。その言葉で空気が揺らぎ、床が、地面が揺れるような感覚に予鬼は襲われる。
揺らぎが強くなるにつれて景色が歪み、聞こえるはずがない空気が軋むような音が部屋中に響く。
だが周りの変化は副産物に過ぎず、変化の中心は穿殻自身だ。
いつの間にか触手は殻の中に収まり、少しずつ殻が大きくなってる風に見える。
予鬼は殻に攻撃しようと思っても攻撃出来なかった。
攻撃すれば中にいる穿殻は清められるのだろうが、それをすれば取り返しがつかない何かが起きると思ったからだ。
やがて殻の成長が止まるように動きを止め、殻の頂上からひび割れていく。
ヒビはどんどん広がり、殻全体を覆うとヒビによって殻が割れ、多量の水蒸気が殻を中心に包み込む。
水蒸気の中で割れた殻は中から現れた影に纏われていく。
床に散乱していた殻がなくなると水蒸気の中から黒い腕が飛び出し、水蒸気を払う。
そこに立つのは–––
穿殻
【これが僕の新しい姿】
大型の身体から等身大の身体へと変貌した穿殻だ。
以前、朧に教わった秘術幻魔転身によって変異した穿殻の姿は大きく変わっていた。
頭は栄螺の殻になっており、中間辺りの貝の溝に充血した山吹色の3つの目が並んでおり、身体には先程割れた殻の破片を無理矢理に繋ぎ合わせて鎧にしたようなものを纏っている。
鎧の隙間から貝特有の黒い筋肉質な身体が見え、腰付近には通常時にもあった牙を生やした触手が左右対称に3対6本生えている。膝当て辺りには人間の握り拳ほどの大きさの白い田螺と黒い田螺が引っ付いている。
その中で特に目立つのが、左手に持った円卓机のような大きさの栄螺の蓋の形をした大楯。
この姿こそ、穿殻の言った試したいこと。
鈍重な自身の身体を身軽に
仲間に対する優しさを敵である鬼の憎しみに
忘れやすい姿から覚えられやすい姿に変える。
誰も傷付かせない傷つくのは自分だけで良い。
そんな心中を形にしたのがこの姿。
影の薄かった殻の大楯は守るだけでなく敵を圧殺する凶器へと変貌する。
変異態へと変化した穿殻は、左手の大楯を水平に持ち、予鬼に向けてフリスビーのように投げる。
予鬼は弦盾で大楯を防ぎ、大楯を払おうとした瞬間–––
「っ!!」
目の前には、右手を握りしめて顔に目掛けて拳を振り上げる穿殻がいた。
予鬼は、弦盾で受け止めていた大楯を下に流し、弓刀で拳の軌道をズラして、肘を穿殻の溝に打ち込むが。
「硬い!?」
穿殻の鎧はひび割れたような外見とは思えない硬さを持ち、その硬さで肘が痺れる。
予鬼が痺れてる間に穿殻が頭に目掛けて拳を振り下ろす。
「………痛くない」
だが、もろに拳をくらった筈なのに衝撃だけでそこまで痛みはない予鬼はマスクの中で眼をパチクリさせる。
パチクリさせてる間に身体に穿殻の拳を受けるが–––
「やっぱり痛くない」
やはり衝撃だけ。そして、予鬼は予想を口にした。
「………もしかして、攻撃力がないの?」
今度は穿殻の両拳の攻撃を受けて、予想は確信に変わる。
「姿が変わったことで弱くなったな!! 魔化魍!!」
拳による攻撃に脅威はないと分かれば弓刀を使った連続攻撃で、穿殻を追い詰める。
穿殻は弓刀の攻撃を腕で防ぎながら少しずつ後ろに下がっていく。予鬼は攻撃に夢中なのかその意図に気づかずひたすら弓刀を振るう。
動くのを止めた穿殻は足元にあるモノに足を置いて、縁を思い切り踏むと、踏まれた反動でモノが宙に浮き、予鬼の攻撃を弾く、穿殻はそれに手を伸ばしてがっしりと掴む。
予鬼は大楯の戻った穿殻を脅威と見なかった。先程までの攻撃で分かる。例え、大楯を持とうが威力はたかが知れてる。そんな予鬼の心中も知らず、穿殻は大楯を振るう。
予鬼は大楯の攻撃に恐れることはないとカウンターのように弓刀を大楯に向けて突き出した。
「ぐはっ!!」
しかし、大楯は止まらず、もろに一撃を顔で受けてしまう。
大楯を使った振り払い攻撃はさっきまでの衝撃だけだった拳と威力が違った。面越しとはいえ、顔にもろに受けた一撃は、脳を揺らし、弓刀が上手く握れず、予鬼の意識はふらふらになる。
拳による攻撃と大楯による攻撃がこうも違うのか、その理由は勿論、幻魔転身によって得た穿殻の能力が関わってくる。
その能力はズバリ、自身の力を大楯の攻撃力に転ずるというものだ。
つまり、穿殻の拳による攻撃が弱かったのは、拳の力を大楯の力に変えたことにより拳による攻撃力は低くなる。だが、大楯を用いた攻撃はその拳の力もプラスされているために攻撃力が上がっている。
勿論デメリットもある。大楯に込めた力は変異を解くまで戻らない。つまり大楯を使った攻撃でしか相手に攻撃を与えることが出来ない。だが、穿殻は防御を得意とするサザエオニ種の魔化魍。
盾ともなる殻を使った攻撃手段をいくつも持っている。つまり、この能力によるデメリットはあるが、本人はそこまで気にしていなかった。
ふらふらと動き回る予鬼にゆっくりと近づいた穿殻が予鬼の頭を掴み、部屋の壁に叩きつけ始める。
ガンガンと鎧と壁の衝突音は演奏のようにも聞こえる。
やがて、壁にヒビが入り、予鬼を叩きつけるのをやめるとヒビに向けて大楯を振るって、壁を粉砕する。粉砕された先には外の光が入り、それ確認した穿殻は予鬼を宙に向けておもいっきり投げる。
そして、投げられた鬼に続くように穿殻も壁から外に飛び出した。
穢流
【うん。崩の手伝いに向かいますか】
壁から飛び出た穿殻と予鬼を見た穢流は別の場所にいる崩の元に向かった。
ドゴンと熊本支部の壁を壊し、投げ飛ばされた予鬼とそれを追うように飛び出た穿殻は自身の腕の大楯を予鬼は弦盾を空中で構える。
穿殻の構えられた大楯の縁からにゅるりと飛び出した鋭利な牙と槍の如き突起のある触手が予鬼を絡め取る、喰い千切る、突き刺そうと真っ直ぐに伸びる。
予鬼は音撃弦盾の空洞部分に弓刀を突き刺すと空洞部分に嵌った弓刀の柄が伸び、音撃弦盾からカチッっと音が鳴ると盾の両縁から刃が出て、その形状を変える。
「ふっ!」
軽そうな声とは思えない力強い回転は自身に迫っていた触手を切り落とす。
これこそが弓刀と音撃弦盾の真の姿、音撃弦系の音撃武器の中でかなりの重量があり、その重量ゆえに扱える鬼は少ない。
だが、その攻撃力は計り知れず、かつてこの音撃武器は当時、凶悪といわれたツチグモ種の亜種であるカエングモをたった1つの音撃で清めた鬼の話がこの音撃武器の伝説と言われる。
音撃弦盾を要としているおかげで攻防一体の武器でもある。
その名も音撃
穿殻
【なんかあると思った。それがその武器の真の姿?】
「…………」
穿殻の質問に答えずに予鬼は音撃
予鬼は音撃
重量のある音撃
攻撃力はあるがその重量で連続攻撃をそこまで出来ない予鬼と連続で打てるも能力の都合で攻撃力が低く衝撃しかない拳の穿殻。
互いに決め手となるものがなくジリ貧でもあった。
予鬼の頭には、目の前の魔化魍を早く清めて、支部内に入り込んだ他の2体を清めることでいっぱいだった。兎に角、穿殻を倒す為に予鬼は鬼としての切り札である。音撃を放つために、ベルトのバックルを音撃弦盾だった窪みのある場所に嵌め込む。
バックルを嵌め込んだ瞬間に、ガシャと機械的な音が鳴り、バックルの弦がピンと張られる。音撃
しかし、予鬼の音撃はゼロ距離から放つ音撃のため、穿殻が変異してからの戦闘の中で穿殻の隙あるいは弱点になるものを探していた。
そして、見つけた。
穿殻の背中側の鎧に少し大きめな隙間があり、そこからは穿殻の身体の一部が見える。
鎧があるとはいえ、肉体に直接刃を当てられれば音撃を身体に叩き込める。
バックルを嵌めた時点で音撃を放つことを教えてるようなもの、警戒する穿殻に向けて予鬼は地面を蹴り飛ばすと、地面が削れて粘着性の土くずが穿殻の目に降りかかる。
穿殻
【眼、眼があああああ!!】
蹴り削った土が穿殻の眼を塞ぎ、眼の痛みを訴えるように叫ぶ。目元を拭おうと必死に手を動かす隙ができた瞬間、予鬼は音撃
「音撃斬!! 裏、………嘘っ!!」
必殺の音撃を放とうとする予鬼。だが、予鬼は音撃武器から感じる手応えに違和感を覚え、刃先を見るとその光景に驚く。
土で目を塞がれた穿殻の隙を突き背後にあった鎧の隙間目掛けて放たれた攻撃を穿殻は防いでいた。しかも、ただ防いだのではない。
鎧に覆われていた上半身ごと身体を180度回して予鬼の攻撃を手に持つ大楯と脚にいた田螺が防いでおり、土で見えないはずの3つの眼とは別の眼が開いており、予鬼を睨みつけていた。
普通の鎧ならばそんなことは出来ない。が、穿殻の鎧は人間の着ていた鎧とは違う。
穿殻の鎧は硬い。それはどの鎧にも共通して言えることだが、この鎧はただ硬いだけではなく服のような柔軟性と伸縮性を持つ。
そして、穿殻の眼は3つだけではない。普段は3つの眼を使っているがそれ以外にも溝をよく見ると閉じた眼がいくつも並んでいて、その数は21個。殻の溝を1周するようにあった。つまり眼を潰しても他の眼がその眼の代わりとなり、敵の攻撃や行動を見過ごすことはない。
穿殻
【残念でした】
隙を突いたはずの予鬼は無様にも隙を見せてしまった。
その瞬間、穿殻の腰元の触手がウネり大楯と田螺たちに防がれた予鬼の音撃
「がっ!!」
噛まれ痛みで音撃武器を離しかけた予鬼は歯を食いしばって落とすまいと必死に持つが攻撃を防いでいた2匹の田螺が予鬼の右腕に移動した次の瞬間–––
「ああああアアアアア!!」
予鬼の右手から煙が噴き出る。予鬼が張り付いた2匹の田螺を見ると殻から薄紫色の粘液が溢れて、右手を覆っていた。覆われた部分は硫酸を掛けられたように溶けていき、落とすまいと持っていた音撃
音撃
穿殻は能力の都合上、力はない。だが外部からくる力は話は別だ。遠心力を使うことで足りない力を補う。おまけに骨というものが基本的に存在しない軟体動物と同じ身体の穿殻の回転は止まることもなく、回転するごとに辺りの温度は上昇していく。
予鬼の左手首と両足首からブチブチという音が耳に入った穿殻は回転速度をさらに上げる。予鬼の身体から鳴る断裂音が徐々に大きくなり、一際大きな断裂音が響いた瞬間に穿殻は回転していた向きとは逆の方向に触手をウネらせる。
「うぐっ!!」
今まで動いていた回転の向きとは違う逆方向に加える力によって予鬼の左手首と両足首は穿殻の触手に喰い千切られ、予鬼の身体は熊本支部建物の壁に叩きつけられる。
「うっ、ぐ、あ、ああ」
壁に叩きつけられた予鬼は喰い千切られた痛みと身体全体に襲う衝撃の痛みに耐えながら、地面に横たわる音撃
目の前に魔化魍がいるのなら例え、四肢がもげようと
穿殻
【残念だけど、もうおしまい】
喰い千切った予鬼の身体を喰らう触手を放置する穿殻は壁に叩きつけられて怯む予鬼に向け、自身の手元に戻ってきた白い田螺に回転した際に発生した熱を纏わせ予鬼を振り回したように田螺をぐるぐる振り回し、力が溜まったと感じた穿殻は回転から解放し、白い田螺を投げつける。
「ぐはっ」
熱を纏って放ったことによって白い田螺の殻全体に炎が生まれ、空気を燃やしながら音撃
穿殻
【ふーーー。今日は、かなり………目立て、た、よ………………すうーー」
予鬼の姿も確認せずに穿殻は壁に背中を預ける。
そして、変異態の姿から一気に通常形態に戻るが、通常状態では壁との相性が悪いので擬人態となりそのまま静かに寝息をたてた。
1時間が経ち、支部内の人間をあらかた片付けた崩を連れた穢流が穿殻を探していた。
目に入ったのは、頭に血濡れた白い田螺をのせて擬人態の姿で眠る穿殻とその側で音撃三角重弦に引っ付く黒い田螺。そして、逆さまの状態で壁に張り付けられ、胸元に大きな穴が開き、そこから臓物を溢して死んでいる予鬼の姿があった。
白と黒の田螺に溶かされた右腕を残して左手首と両足首が喰い千切られ、剥き出しになっている骨から血がポタポタと垂れていく。そして、右手首の変身鬼弦が砕けると同時に予鬼の鎧が光り始め、光の収まった場所には猛士熊本支部の支部長だった千野 花奈の血塗れの裸の惨殺死体が張り付いていた。
白鬼が九州地方の王となった時に鬼として弟子となり、その数ある功績が認められて熊本支部支部長となった女は穿殻によって公開処刑の死体の様にその姿を晒された。
寝息を立てる今回の立役者と白と黒の田螺、予鬼の持っていた音撃
如何でしたでしょうか?
あの天っ才物理学者のような喋り方をする蝕と反則スレスレな軟体ボディと大楯と田螺を活かした穿殻の戦闘回でした。
ーおまけー
迷家
【はいはい。おまけコーナーだよ♪】
古樹
【今回は私がゲストとやらだ】
迷家
【今回のゲストは家族きっての知恵袋年y–––】
古樹
【迷家………今、何を言おうとした?】
迷家
【な、何でもないよ!! 本当に何も!!】
古樹
【では、質問とやらを聞こうか】
迷家
【うんと、古樹にはある事を聞きたいんだけど、怒らない?】
古樹
【内容によるの】
迷家
【前に
古樹
【そのことか。確かに私は今の王以外の王に会ったことはある】
迷家
【ぶっちゃけ、王ってどんな感じだったの?】
古樹
【そうだな…………一言で言うのなら、変わり者かの】
迷家
【変わり者?】
古樹
【そうだ。………そうだな。朧の母君であるイヌガミを知っとるか?】
迷家
【ううん。知らない】
古樹
【産まれて少ししか経ってないから知らなくて当然か。
イヌガミは5代目の魔化魍の王で、『旋風の巨狼』と恐れられた魔化魍だ。歯向かう鬼をその牙で喰い殺し、風でバラバラにした。
だがな、やつは普段は冷静沈着で、物事を冷徹に考えてると思われているが実際は子供が心配で心配で後ろから見守っていた過保護だ】
迷家
【え、そうなの!!】
古樹
【他の王も。似たり寄ったりだな。シュテンドウジは自分を殺しにきた魔化魍を気に入って部下にしたり、フグルマヨウヒはあまり他者と喋るのが苦手なのか信頼した部下に耳打ちして自分の言葉を喋らせたり、ユキジョロウは触れば凍らすって感じだが酒を呑むと露出狂に変わる。
あとは誰がどうだったか、確か…………苛立たせる放浪癖、弱虫泣虫法師、純情引き篭もり、理想家って感じだったかの】
迷家
【今の聴くと、王って変わり者ばかり?】
古樹
【まあ、私が生きてきた中で1番変わり者なのは、個としての名を与え、家族と呼ぶ今の王くらいさ】
迷家
【じゃあ、先代の王達のさ、秘密っていうか隠し事とかなんかない?】
古樹
【すまんの。知ってはおったが、もう覚えとらん】
迷家
【やっぱり、何千年も生きてれば、色々忘れるんだね…………あ!!】
古樹
【やはり、オマエには教育が必要だな。なにすぐ済む】
迷家
【ヤバい! みんなごめんね!! 僕これから逃げなきゃ。じゃ、まったーーーーーーねーーー!!】
古樹
【逃さん!!】ヒュン
迷家
【ぎゃあああああああああ!!】