人間だけど私は魔化魍を育て、魔化魍の王になる。   作:創夜叉

138 / 165
新作です。
妖世館で囚われた捕虜や捕虜じゃない鬼の1日のラストになります。
今回は捕虜側で最近捕虜になった3人の無銘と元宮崎支部支部長 土浦 ふくの話です。
因みに支部長は短いです。


妖世館での鬼の1日 無銘編

 んん。……………今日も朝を迎えられた。

 

 え、お前は誰だ? …………そうだった俺は名前を名乗っていなかった。

 俺は鹿児島支部に所属していた無銘の鬼。名前は板垣 千種(ちぐさ)。五感の中で視力に優れており、弦系の音撃武器を使う。

 鼠の魔化魍()に捕まり、魔化魍の王とその仲間が住む館で捕虜になった………………って誰に言ってるのだ俺は?

 

 同僚がいる筈の隣を見れば、そこには何もなく既に労働に行ったのだろう。

 

「起きたか? お前の労働内容だ」

 

 起きた俺の前に立っているのは『首長(渦潮)』の育て親であるウミホウズの妖姫()。顔の下半分から全身が隠れる程の大きさのコートを着てるせいで視線しか表情が分からない。

 ぶかぶかな袖で見えないも伸ばしてる手に乗せられた紙を渡されると、そのまま部屋の外へ出て行った。

 

「はあ、頑張るか」

 

 労働は、俺たち猛士の捕虜へ課せられた仕事のようなものだ。雑用事に魔化魍や戦闘員と呼ばれる異形の訓練相手など色々ある。

 王と親密な関係にある(春詠)敵対心のない鬼(あぐり、練、愛衣)は軽い仕事だが、俺たちには容赦がなく重労働とも言えるものが多くあった。それでも2週に1度程の休みはある。

 

「取り敢えず着替えて、労働に行くか」

 

 そう言った俺は此処で渡された服に着替えて、労働に向かう。なにせ早く行かないと厳罰という名のお仕置きを執行されるからだ。

 

 

 

 

 

 

 そうして、俺はこの館のいろいろな労働を終わらせる。

 本日最初の労働はこの館に溜まった洗濯物の運搬と洗濯物を干すこと。クラゲビの妖姫()が洗い終わった洗濯物を外で待機してるイッタンモメン(鳴風)シロウネリ(昇布)に渡して、彼らが絞った洗濯物を広げて物干しに掛けていく。簡単に思われるだろうが意外と大変だ。見間違いでなかったのなら、今持ってきた大籠が向こうに5個くらいあった筈だからだ。

 両手で持つのがギリギリな大きさの大籠が後5個。つまり、往復を含めて後、10回位も同じ大きさのものを運び、絞られた洗濯物を干すという作業をやる。これが今日最初の労働。

 

 洗濯物が終わり、最後の大籠をクラゲビの妖姫()に返してから次の場所に向かう。

 次に着いたのは、家庭菜園以上畑未満という感じの農地。

 そこに居たのは2体の等身大植物魔化魍で、ハエトリ頭の魔化魍(睡樹)が手に持つピンセットと白い濁った液体の入った霧吹きを渡してくる。

 ハエトリ頭の魔化魍(睡樹)が道具を渡すと、もう1体の仙人掌頭の魔化魍(命樹)と共に野菜に向かう。

 俺はそのまま、野菜が実る場所に行き、葉っぱや茎、枝を注意深く観察する。するといるわいるわ野菜の外敵がうようよと。

 この労働は他の労働よりも注意する必要がある。なにせ、此処で育てられた野菜のいくつかが俺たちの食事に回されるのだから。もしもこの外敵を逃せば、俺たちの食事の量が減ってしまう。

 ピンセットで茎に発生する油虫を取っていく、ピンセットでも取れない小さいやつには霧吹きを吹きかけて流していく。そうして1時間位経った。

 全ての野菜に対して作業が終わっただろう。ハエトリ頭の魔化魍(睡樹)が自身の腕で作った日陰場所で休んでると、ハエトリ頭の魔化魍(睡樹)が近づいてくる。何か文句を言うのかと思ったら、グッと手を突き出してくる。

 その手には熟して真っ赤なトマトがあり、それを俺の顔に向けてトマトが潰れない力加減で顔に押し付けてくる。トマトを受け取ると、ハエトリ頭の魔化魍(睡樹)がそのまま座り込むように俺を覗き込んだ。

 食っていいのかと質問すれば、向こうは頷いたので、お言葉に甘えて頂いた。

 程よい水分が口の中に広がり疲れた身体に染み渡る。美味しかった。それを伝えたら、俺の持っていた道具を持って、次の場所に向かえと指示を受けて、農地を離れた。

 

 それから『縫いぐるみ()』に追われて着せ替え人形のように振り回され、アズキアライ()の吸血小豆用の肥料として血を少し抜かれ、鼠の魔化魍()から変な薬品を飲まされて景色がぐるぐる回転したり、と散々な目にあった。

 そして、次が今日やる最後の労働だろう。

 部屋に入ると俺を待っていたのか仲間が俺のもとに走ってくる。

 

「遅い!!」

 

 捕られられた無銘の鬼の中での紅一点で、俺の幼馴染。

 浅見 千枝(ちえ)。五感の中で触覚に優れており、管系の音撃武器を使う。

 

「まあ、まあこれで2人でやらなくて済んだんだから」

 

 同じく捕らえられた無銘の鬼で、俺の親友。

 内海 千弘(ちひろ)。五感の中で嗅覚に優れており、鼓系の音撃武器を使う。

 

 そして、俺たちの視線の先にはバケガニ(鋏刃)サザエオニ(穿殻)クラゲビ(浮幽)が待っていた。

 

鋏刃

【…………】

 

ルルル〜、ルル、ルルル

 

穿殻

【よろしくね】

 

「「「鬼変化!!」」」

 

 無銘の鬼は名を持たぬ故に名前の代わりに『鬼変化』と言い、無銘の鬼に変身する。

 板垣たちは無銘の鬼に変身し、目の前の戦闘準備万端な魔化魍との戦闘が始まる。

 

「今回は連携を得意とするバケガニたち。うまく分断させよう」

 

「でも、そう簡単に分断させてくれるのか?」

 

「やるだけやってみますか」

 

 労働もといこの戦闘では、この館に住む様々な魔化魍が戦う。

 一昨日の時には顔と尾が白骨化した蛇の魔化魍()とレインコートを着た愛らしいペンギンの魔化魍(小雨)だったし、その前の時は小さい人魚の魔化魍(波音)だった。

 日によって戦う魔化魍の数も異なるし戦う魔化魍の戦闘方法も異なる。

 今回の相手は戦うのは2度目にもなるバケガニ(鋏刃)たちで、連携を活かした戦い方をする。

 攻めを担うバケガニ(鋏刃)、防御に徹するサザエオニ(穿殻)、場を掻き乱す妨害のクラゲビ(浮幽)。前の戦いもその連携によって敗北した。前回の悔しさもあるのか千枝は分断の提案を出す。

 しかし、相手は連携に戦い慣れている3体の魔化魍とはいえ、分断された戦いをしなかったことはないはずだ。

 そうこう話してると–––

 

穿殻

【ねえ?】

 

「はい。どうしました?」

 

穿殻

【今日は分かれて戦おうか?】

 

「え。いいんですか?」

 

 まさかの向こうから連携ではなく個々で戦おうかという提案に俺は驚く。

 

穿殻

【僕たちは連携だけじゃないってことを教えてあげる】

 

 サザエオニ(穿殻)がそう言うと、バケガニ(鋏刃)クラゲビ(浮幽)も動く。

 クラゲビ(浮幽)は千枝の腕に触手を巻きつけて遠くに投げ飛ばす。サザエオニは千弘に向かって突撃して千弘は音撃棒で交差して防ぐも勢いを止められずにそのままズルズルと動かされる。

 そして、俺の目の前にはバケガニ(鋏刃)が飛び出し、口から溶解泡を吹き付ける。

 

 バケガニ(鋏刃)の溶解泡を横に転がって避け、音撃弦をバケガニ(鋏刃)に向けて振るう。

 しかし、バケガニ(鋏刃)は右の鋏で音撃弦を挟み、空いている左の鋏を俺に向けて突き刺そうと突き出す。その攻撃に対して、俺は挟まれてることで固定されてる音撃弦を利用してそれを軸に回転して避けて、音撃弦を挟む右の鋏を蹴り飛ばす。

 蹴られた衝撃で鋏は外れて自由になった音撃弦をバケガニ(鋏刃)に向けて再び振るう。

 バケガニ(鋏刃)は身体を反転させて藤壺だらけの背の甲羅で音撃弦の攻撃を受け止める。

 自慢の視力で藤壺から泡を噴き出そうとするのを見た瞬間にその場から飛ぶように離れて距離を取る。距離を取った直後に藤壺から泡が噴き出て、それが地面に垂れると床を溶かして煙をあげる。

 距離を取るとバケガニ(鋏刃)は動かずに鋏をカチカチと鳴らしてこちらの動きを見ている。

 俺は他の2人がどうなってるかのか気になり2人の方に視線を向ける。

 

 サザエオニ(穿殻)と戦う千弘は迫る触手を音撃棒で振り払って、隙を見てはサザエオニ(穿殻)の殻に音撃棒を振り下ろすが、本人はその攻撃に動じることなく、違う触手で千弘の身体を噛みつこう迫る。

 しかし、嗅覚に優れた千弘は迫る触手の臭いに気付いて、迫る触手に音撃棒を叩きつける。触手が怯んだら、また殻を再び攻撃する。

 

 クラゲビ(浮幽)と戦う千枝は音撃管で撃ち続けるも、クラゲビ(浮幽)は遊ぶように宙を泳ぐように空気弾を避けて、2色の炎を灯す触手から放つ火炎弾で攻撃している。

 勿論、千枝はその火炎弾を避けてるが、避けた先で待ち構える触手に戸惑いはするも、あいつの自慢である触覚を駆使することで捕まらずに済んでいた。

 他の2人の戦いようを軽く見て、距離をとったバケガニ(鋏刃)に向けて俺は音撃弦で再び攻撃するのだった。

 

 

 

 

 

 

 戦いが始まって数十分経過していた。

 最初は手を抜いてたのだろう。だが徐々に手を抜くのをやめて、本来の強さで戦うバケガニ(鋏刃)たちの苛烈な攻撃に無銘の鬼たちは追い詰められる。

 

「がぼっ!」

 

 千弘はサザエオニ(穿殻)に首元を触手に巻きつかれて呼吸困難にさせられた後に頭から地面に叩きつけられて気絶、変身が解けたことで戦闘終了。

 

ルル、ルルルルル、ル

 

「ぐぅう、が!!」

 

 千枝はクラゲビ(浮幽)に触手で関節を極められて数秒後に鳴った音が聞こえると意識を無くして、変身が解けたことで戦闘終了。

 

ンキィ、ンキィ

 

「がぁああ!!」

 

 俺自身も一瞬の隙で斬られた腹から流れる血を感じながら意識が朦朧とする中でも音撃弦をバケガニ(鋏刃)に向ける。

 バケガニ(鋏刃)は口から溶解泡を吹き出し、俺はそれを避けようとするが脚がもつれて溶解泡を足先に受けてしまい、鎧が一部溶けて、当たった脚には火傷にも似たような傷が出来る。

 

「また、か……」

 

 痛みと朦朧する意識の中、最後に見たのは閉じた鋏を鈍器のように振り下ろすバケガニ(鋏刃)の姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目を覚ませば、いつもの部屋にいた。俺たちが戦闘訓練の労働で怪我をした際にはここに運ばれる。因みにここの天井を見るのはこれで5度目だ。

 布団を捲れば、斬られた腹部と火傷らしい傷のある所には包帯が巻かれていた。

 隣を見ればベッドの上で上半身を上げて話す千枝たちが居る。

 

「また、負けた」

 

「まあ、勝つことはないでしょ。俺ら鬼になって間もない無銘だし」

 

「でも悔しい!!」

 

 千枝が声を荒げて答えるが、千枝の気持ちは分かるし、千弘の言っていることも分かる。鬼になったのだ、俺たちの家族を奪った魔化魍を倒せる存在になった筈だ。

 だが、魔化魍に負けて捕虜にされた。同じように捕まった土浦支部長が王との話によって俺たちは死ぬことはないらしい。だが、死なないだけであって、今日のような怪我は戦闘訓練の労働がある日にはよくある。

 そして、怪我をすれば鬼である自分たちを人を喰らう魔化魍たちが怪我を治療する。

 死んだ仲間が今の姿を見たらなんと言うのだろうか、恨み言か怒りか。

 

「寝るか」

 

 俺の声を聞いて口論するのをやめて布団を被る2人を見て、俺も再び寝ることにする。こうして、斬られた腕の回復のために俺たちは眠る。

 明日の昼辺りにはおそらく怪我は治っているだろう。まあ、腕が治るまでの休憩時間を貰えたと思えばいいかと考えながら。

 こうやって、俺たちの魔化魍に課せられた労働をするだけの1日が終わる。

 

SIDE土浦

 私が魔化魍の王の少女との話し合いによって死ぬことはなく、他支部の鬼と共に捕虜として過ごしている。

 しかし、何故だろう–––

 

「あ、それ。此処に入れた方がいいですよ」

 

「うん? おお、本当だ。お前が来てから整理が楽で助かる」

 

「いいえ。こんなことしか出来ませんし」

 

「次は、向こうだ。それを、持って、移動。残りは、俺たちが、持つ」

 

 やっていることが猛士でやっていたこととあまり変わらない。

 まあ、その理由は分かっている。なにせ私は元々ただのバイトだった。いつの間にか支部長になってたけど。

 私は魔化魍と戦う角でも、現地サポートをする飛車でも、情報収集をする歩でも、武器開発をする銀でもない。

 どちらかと言えばデスクワークを主とする金に近い支部長だろう。

 鬼から成り上がった支部長と違い、なんの力も持たない私に戦闘が発生する労働をまず論外。他の労働もやってみたが長い間のデスクワークのせいか体力はなく数分も持たず筋肉痛で倒れる羽目になった。

 こうもやる労働がないと向こうもどうするべきかと悩み、その結果がこの地下室の資料整理だった。

 監視役兼整理手伝いとして、魔化魍が2体常に監視でついている。

 

「しかし、本当に非力だの」

 

「他の、捕虜たちと、全然、違う」

 

「それ、は、そうですよ」

 

 擬人態の術というもので人間に変身しているフルツバキ(古樹)ヌリカベ()

 今も少し大きめな本を2冊持っただけで腕がプルプルして、後数分じっとしてたら多分、本を落として筋肉痛で倒れる。

 

「まあ良いか。お前のお陰で効率よく作業できる。手伝うと言いながら去ったどこかの馬鹿と違ってな」

 

「仕方ない。あれは、そういうもの、と、理解すれば、いい」

 

 誰のことかは分からないが、2人は苛立ちと諦めの混じった風な顔をしながら私よりも多く資料を運んでいく。

 

「(私も取り敢えずは与えられた労働を全うしよう。此処で生きていくにはそれしかないし。死にたくないしね)」

 

 そう心で思いながら土浦は労働に励むのであった。




如何でしたでしょうか?
コロナが流行る前の元のストーリーでは、本当は土浦 ふくは死亡する予定でしたが、なんか唐突に支部長の捕虜がいてもいいかという悪魔魔化魍の囁きに従って生存させてしまいました。
ですが、本編に登場する回数は無銘の鬼3人同様に極めて少ないです。
幕間で時折出るかもしれないという位です。
ちなみに千種が種族名と見た目呼びの理由は種族名を知っているのと知らない種族に分かれてるからです。
次回は猛士に存在するとある派閥の視点をお送りします。


ーおまけー
迷家
【イエーーイ、おまけコーナーの時間だよ!! シェキナ、ベイベー!!】


【ど、どうした突然!?】

迷家
【いつも同じだと飽きが来ると思ったから〜今日はこんな感じでやってくゼー!!】


【おい。その話し方をやめろ】

迷家
【今日のゲストは最近、暴炎たちとなにか話し込んでる桂だぜーーー!!】


【お前に何を言っても意味がないというのはよーーく分かった。
 やめないのなら帰るぞ】

迷家
【( 0w0)ウェィ!! …………分かったよ〜。いつも通りに喋るよ〜】


【それでいい。 …………で、なぜ俺なんだ】

迷家
【ふぇ。いや〜〜なんとなくっていうか。
 偶々見掛けたから〜っていうか…】


【…………】

迷家
【ちょっ!! 無言で帰ろうとしないで!!】


【馬鹿らしい。付き合ってられん】

迷家
【むぅ。堅物ヅラめぇ〜〜】


【ヅラじゃない。桂だ】

迷家
【帰ると言うのならぁ〜、桂のあだ名をずっとヅラって呼んでやる〜!!】


【ヅラじゃない。桂だ!! というかなんだそのあだ名は!!
 妙に頭に残るのが腹立たしい!!】

迷家
【唐突に思いついたの、それで質問に答えてくれる?】


【はーーー。変な名前で呼ばれるくらいなら質問に答えるのが賢明か。
 で、どんな質問だ?】

迷家
【うんとね。自己紹介の際にも言ったけどさ、暴炎たちと何をしてるんだろうと思って】


【ああ。アレか。
 別に知られたところで問題は無いから言うが、お前の思っているようなことでは無いぞ】

迷家
【じゃ、何やってるの?】


【アレはな。我らの同士が集える会を作ろうと思ってな】

迷家
【同士?】


【ああ。爬虫類魔化魍家族の会というのを作ろうと思ってな】

迷家
【へえ〜〜。メンバーは?】


【今は俺を含めて、暴炎、三尸、屍の4名だ】

迷家
【それで何をするの?】


【まあ、特に決まったことは考えていないな。そうだな親交を深める交流場と情報交換というところか】

迷家
【じゃあ、これからメンバー増えていくの?】


【増やしていきたいものだ】

迷家
【ふーーん。あ、そろそろ時間だ。じゃあ、また次の回で会おうね♬
ほらほら、ヅラも】


【ヅラじゃない!! 桂だぁあああああ!!】

迷家
【やばっ、逃げろ!!】


【待てぇぇぇぇ!!】

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。