妖世館で囚われた捕虜や捕虜じゃない鬼の1日のラストになります。
今回は捕虜側で最近捕虜になった3人の無銘と元宮崎支部支部長 土浦 ふくの話です。
因みに支部長は短いです。
んん。……………今日も朝を迎えられた。
え、お前は誰だ? …………そうだった俺は名前を名乗っていなかった。
俺は鹿児島支部に所属していた無銘の鬼。名前は板垣
同僚がいる筈の隣を見れば、そこには何もなく既に労働に行ったのだろう。
「起きたか? お前の労働内容だ」
起きた俺の前に立っているのは『
ぶかぶかな袖で見えないも伸ばしてる手に乗せられた紙を渡されると、そのまま部屋の外へ出て行った。
「はあ、頑張るか」
労働は、俺たち猛士の捕虜へ課せられた仕事のようなものだ。雑用事に魔化魍や戦闘員と呼ばれる異形の訓練相手など色々ある。
王と親密な関係にある
「取り敢えず着替えて、労働に行くか」
そう言った俺は此処で渡された服に着替えて、労働に向かう。なにせ早く行かないと厳罰という名のお仕置きを執行されるからだ。
そうして、俺はこの館のいろいろな労働を終わらせる。
本日最初の労働はこの館に溜まった洗濯物の運搬と洗濯物を干すこと。
両手で持つのがギリギリな大きさの大籠が後5個。つまり、往復を含めて後、10回位も同じ大きさのものを運び、絞られた洗濯物を干すという作業をやる。これが今日最初の労働。
洗濯物が終わり、最後の大籠を
次に着いたのは、家庭菜園以上畑未満という感じの農地。
そこに居たのは2体の等身大植物魔化魍で、
俺はそのまま、野菜が実る場所に行き、葉っぱや茎、枝を注意深く観察する。するといるわいるわ野菜の外敵がうようよと。
この労働は他の労働よりも注意する必要がある。なにせ、此処で育てられた野菜のいくつかが俺たちの食事に回されるのだから。もしもこの外敵を逃せば、俺たちの食事の量が減ってしまう。
ピンセットで茎に発生する油虫を取っていく、ピンセットでも取れない小さいやつには霧吹きを吹きかけて流していく。そうして1時間位経った。
全ての野菜に対して作業が終わっただろう。
その手には熟して真っ赤なトマトがあり、それを俺の顔に向けてトマトが潰れない力加減で顔に押し付けてくる。トマトを受け取ると、
食っていいのかと質問すれば、向こうは頷いたので、お言葉に甘えて頂いた。
程よい水分が口の中に広がり疲れた身体に染み渡る。美味しかった。それを伝えたら、俺の持っていた道具を持って、次の場所に向かえと指示を受けて、農地を離れた。
それから『
そして、次が今日やる最後の労働だろう。
部屋に入ると俺を待っていたのか仲間が俺のもとに走ってくる。
「遅い!!」
捕られられた無銘の鬼の中での紅一点で、俺の幼馴染。
浅見
「まあ、まあこれで2人でやらなくて済んだんだから」
同じく捕らえられた無銘の鬼で、俺の親友。
内海
そして、俺たちの視線の先には
鋏刃
【…………】
ルルル〜、ルル、ルルル
穿殻
【よろしくね】
「「「鬼変化!!」」」
無銘の鬼は名を持たぬ故に名前の代わりに『鬼変化』と言い、無銘の鬼に変身する。
板垣たちは無銘の鬼に変身し、目の前の戦闘準備万端な魔化魍との戦闘が始まる。
「今回は連携を得意とするバケガニたち。うまく分断させよう」
「でも、そう簡単に分断させてくれるのか?」
「やるだけやってみますか」
労働もといこの戦闘では、この館に住む様々な魔化魍が戦う。
一昨日の時には顔と尾が白骨化した
日によって戦う魔化魍の数も異なるし戦う魔化魍の戦闘方法も異なる。
今回の相手は戦うのは2度目にもなる
攻めを担う
しかし、相手は連携に戦い慣れている3体の魔化魍とはいえ、分断された戦いをしなかったことはないはずだ。
そうこう話してると–––
穿殻
【ねえ?】
「はい。どうしました?」
穿殻
【今日は分かれて戦おうか?】
「え。いいんですか?」
まさかの向こうから連携ではなく個々で戦おうかという提案に俺は驚く。
穿殻
【僕たちは連携だけじゃないってことを教えてあげる】
そして、俺の目の前には
しかし、
蹴られた衝撃で鋏は外れて自由になった音撃弦を
自慢の視力で藤壺から泡を噴き出そうとするのを見た瞬間にその場から飛ぶように離れて距離を取る。距離を取った直後に藤壺から泡が噴き出て、それが地面に垂れると床を溶かして煙をあげる。
距離を取ると
俺は他の2人がどうなってるかのか気になり2人の方に視線を向ける。
しかし、嗅覚に優れた千弘は迫る触手の臭いに気付いて、迫る触手に音撃棒を叩きつける。触手が怯んだら、また殻を再び攻撃する。
勿論、千枝はその火炎弾を避けてるが、避けた先で待ち構える触手に戸惑いはするも、あいつの自慢である触覚を駆使することで捕まらずに済んでいた。
他の2人の戦いようを軽く見て、距離をとった
戦いが始まって数十分経過していた。
最初は手を抜いてたのだろう。だが徐々に手を抜くのをやめて、本来の強さで戦う
「がぼっ!」
千弘は
ルル、ルルルルル、ル
「ぐぅう、が!!」
千枝は
ンキィ、ンキィ
「がぁああ!!」
俺自身も一瞬の隙で斬られた腹から流れる血を感じながら意識が朦朧とする中でも音撃弦を
「また、か……」
痛みと朦朧する意識の中、最後に見たのは閉じた鋏を鈍器のように振り下ろす
目を覚ませば、いつもの部屋にいた。俺たちが戦闘訓練の労働で怪我をした際にはここに運ばれる。因みにここの天井を見るのはこれで5度目だ。
布団を捲れば、斬られた腹部と火傷らしい傷のある所には包帯が巻かれていた。
隣を見ればベッドの上で上半身を上げて話す千枝たちが居る。
「また、負けた」
「まあ、勝つことはないでしょ。俺ら鬼になって間もない無銘だし」
「でも悔しい!!」
千枝が声を荒げて答えるが、千枝の気持ちは分かるし、千弘の言っていることも分かる。鬼になったのだ、俺たちの家族を奪った魔化魍を倒せる存在になった筈だ。
だが、魔化魍に負けて捕虜にされた。同じように捕まった土浦支部長が王との話によって俺たちは死ぬことはないらしい。だが、死なないだけであって、今日のような怪我は戦闘訓練の労働がある日にはよくある。
そして、怪我をすれば鬼である自分たちを人を喰らう魔化魍たちが怪我を治療する。
死んだ仲間が今の姿を見たらなんと言うのだろうか、恨み言か怒りか。
「寝るか」
俺の声を聞いて口論するのをやめて布団を被る2人を見て、俺も再び寝ることにする。こうして、斬られた腕の回復のために俺たちは眠る。
明日の昼辺りにはおそらく怪我は治っているだろう。まあ、腕が治るまでの休憩時間を貰えたと思えばいいかと考えながら。
こうやって、俺たちの魔化魍に課せられた労働をするだけの1日が終わる。
SIDE土浦
私が魔化魍の王の少女との話し合いによって死ぬことはなく、他支部の鬼と共に捕虜として過ごしている。
しかし、何故だろう–––
「あ、それ。此処に入れた方がいいですよ」
「うん? おお、本当だ。お前が来てから整理が楽で助かる」
「いいえ。こんなことしか出来ませんし」
「次は、向こうだ。それを、持って、移動。残りは、俺たちが、持つ」
やっていることが猛士でやっていたこととあまり変わらない。
まあ、その理由は分かっている。なにせ私は元々ただのバイトだった。いつの間にか支部長になってたけど。
私は魔化魍と戦う角でも、現地サポートをする飛車でも、情報収集をする歩でも、武器開発をする銀でもない。
どちらかと言えばデスクワークを主とする金に近い支部長だろう。
鬼から成り上がった支部長と違い、なんの力も持たない私に戦闘が発生する労働をまず論外。他の労働もやってみたが長い間のデスクワークのせいか体力はなく数分も持たず筋肉痛で倒れる羽目になった。
こうもやる労働がないと向こうもどうするべきかと悩み、その結果がこの地下室の資料整理だった。
監視役兼整理手伝いとして、魔化魍が2体常に監視でついている。
「しかし、本当に非力だの」
「他の、捕虜たちと、全然、違う」
「それ、は、そうですよ」
擬人態の術というもので人間に変身している
今も少し大きめな本を2冊持っただけで腕がプルプルして、後数分じっとしてたら多分、本を落として筋肉痛で倒れる。
「まあ良いか。お前のお陰で効率よく作業できる。手伝うと言いながら去ったどこかの馬鹿と違ってな」
「仕方ない。あれは、そういうもの、と、理解すれば、いい」
誰のことかは分からないが、2人は苛立ちと諦めの混じった風な顔をしながら私よりも多く資料を運んでいく。
「(私も取り敢えずは与えられた労働を全うしよう。此処で生きていくにはそれしかないし。死にたくないしね)」
そう心で思いながら土浦は労働に励むのであった。
如何でしたでしょうか?
コロナが流行る前の元のストーリーでは、本当は土浦 ふくは死亡する予定でしたが、なんか唐突に支部長の捕虜がいてもいいかという悪魔魔化魍の囁きに従って生存させてしまいました。
ですが、本編に登場する回数は無銘の鬼3人同様に極めて少ないです。
幕間で時折出るかもしれないという位です。
ちなみに千種が種族名と見た目呼びの理由は種族名を知っているのと知らない種族に分かれてるからです。
次回は猛士に存在するとある派閥の視点をお送りします。
ーおまけー
迷家
【イエーーイ、おまけコーナーの時間だよ!! シェキナ、ベイベー!!】
桂
【ど、どうした突然!?】
迷家
【いつも同じだと飽きが来ると思ったから〜今日はこんな感じでやってくゼー!!】
桂
【おい。その話し方をやめろ】
迷家
【今日のゲストは最近、暴炎たちとなにか話し込んでる桂だぜーーー!!】
桂
【お前に何を言っても意味がないというのはよーーく分かった。
やめないのなら帰るぞ】
迷家
【( 0w0)ウェィ!! …………分かったよ〜。いつも通りに喋るよ〜】
桂
【それでいい。 …………で、なぜ俺なんだ】
迷家
【ふぇ。いや〜〜なんとなくっていうか。
偶々見掛けたから〜っていうか…】
桂
【…………】
迷家
【ちょっ!! 無言で帰ろうとしないで!!】
桂
【馬鹿らしい。付き合ってられん】
迷家
【むぅ。堅物ヅラめぇ〜〜】
桂
【ヅラじゃない。桂だ】
迷家
【帰ると言うのならぁ〜、桂のあだ名をずっとヅラって呼んでやる〜!!】
桂
【ヅラじゃない。桂だ!! というかなんだそのあだ名は!!
妙に頭に残るのが腹立たしい!!】
迷家
【唐突に思いついたの、それで質問に答えてくれる?】
桂
【はーーー。変な名前で呼ばれるくらいなら質問に答えるのが賢明か。
で、どんな質問だ?】
迷家
【うんとね。自己紹介の際にも言ったけどさ、暴炎たちと何をしてるんだろうと思って】
桂
【ああ。アレか。
別に知られたところで問題は無いから言うが、お前の思っているようなことでは無いぞ】
迷家
【じゃ、何やってるの?】
桂
【アレはな。我らの同士が集える会を作ろうと思ってな】
迷家
【同士?】
桂
【ああ。爬虫類魔化魍家族の会というのを作ろうと思ってな】
迷家
【へえ〜〜。メンバーは?】
桂
【今は俺を含めて、暴炎、三尸、屍の4名だ】
迷家
【それで何をするの?】
桂
【まあ、特に決まったことは考えていないな。そうだな親交を深める交流場と情報交換というところか】
迷家
【じゃあ、これからメンバー増えていくの?】
桂
【増やしていきたいものだ】
迷家
【ふーーん。あ、そろそろ時間だ。じゃあ、また次の回で会おうね♬
ほらほら、ヅラも】
桂
【ヅラじゃない!! 桂だぁあああああ!!】
迷家
【やばっ、逃げろ!!】
桂
【待てぇぇぇぇ!!】