人間だけど私は魔化魍を育て、魔化魍の王になる。   作:創夜叉

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こんばんは。
今回の話は前回の長野支部の続きと静岡支部の話になります。そして、診鬼は–––
それではどうぞ!


記録百拾壱

SIDE不動

ギュルルルルルル

 

 単凍たちから離れ、キャタピラの音と共に鳴き声を響かせながら天狗たちとその天狗たちの操る戦輪獣と戦う不動。

 

不動

【………発射(Fire)

 

「がはっ」 「あばっ…」

 

 戦輪獣 緑大拳と戦輪獣 黄檗盾も鈍重そうな見た目の不動の高速機動に付いていけず、次の瞬間にはその肩に載る砲台から放たれた砲弾がその身体を撃ち砕き、更にその後ろにいた天狗2人を巻き込み肉塊に変える。

 

「黄檗盾を破壊しただと!!」

 

 戦輪獣の中でも頑丈さが取り柄ともいうべき黄檗盾が砕ける光景に天狗は驚愕する。

 更に天狗が悪態をついてる間に不動のキャタピラの脚に踏まれた戦輪獣 紫角は高速で動く無限軌道によって身体は削れていき、外装だけでなく内部の機構も削っていく。身体の半分が削られた頃にはその機能が停止した。

 

「クソッタレ!!」

 

 天狗が背から取り出したゴテゴテした戦輪を地面に叩きつけ天狗笛を吹くと、その戦輪はその姿を変える。

 それは黄檗盾に似ているが、黄檗盾よりもさらに大きく、左右非対称だった鋏は左右対称の厚みがある巨大鋏となり、装甲にも似たものが各所に追加されている。

 

「ふふふ。これが最近開発された戦輪獣(あらため) 黄檗大楯さ!!」

 

 天狗が両手を広げながら笑い、ギチギチと電子音と鳴らしながら黄檗大楯はその両腕をあげ、威嚇する。

 それを見た不動は–––

 

不動

【第一射。徹甲弾装填、目標天狗…………発射(Fire)!!】

 

 驚きも焦りもなく、いつも通りと言わんばかりに砲弾を込めて、黄檗大楯の背後にいる五月蝿い天狗に向けて撃つ。だが–––

 

不動

【………硬いな】

 

 天狗に向けて撃たれた砲弾は黄檗大楯の装甲に止められ、おまけに装甲には傷ひとつなく、砲弾に気にした様子もなく黄檗大楯は不動に急接近して鋏を振り下ろす。

 

不動

【ちぃ!!】

 

 不動はキャタピラの脚を後方に向けて回転させ、回避行動を行う。それと同時に牽制で自身の装甲の一部を剥ぎ、散弾のように甲散弾をばら撒く。

 砲弾よりも威力の低い甲散弾だが、人間からすれば一溜りもないそれは天狗に黄檗大楯を下げる指示を出させるのに十分だった。

 

 それのお陰で黄檗大楯から離れた不動は次の攻撃準備に移る。

 本来、不動が撃つ砲弾は榴弾、徹甲弾、焼夷弾の3種類のみだ。それは元が戦車のツクモガミだったことが理由なのだが、不動は異常種たるゴグマゴグに進化したことにより、もう1つの弾を持っていた。

 それが不動の切り札、『とっておき』ともいえる特別な砲弾だ。

 

不動

【第二射。HEIAP装填、目標黄檗大楯及び天狗…………発射(Fire)!!】

 

 轟音と共に放たれたHEIAPは真っ直ぐ黄檗大楯に向かっていき、砲弾が着弾する同時に大爆発が起きる。

 

 HEIAPとは『High Explosive Incendiary/Armor Piercing Ammunition』の略称で、榴弾、徹甲弾、焼夷弾の3つが合わさった弾頭。

 この弾頭の主な使用目的は装甲目標の破壊であり、直撃したときにのみ、その特殊な効果が発揮される。着弾時に先端部が焼夷剤に火をつけ、爆薬の起爆を誘発させ、第2の焼夷弾薬であるジルコニウム粉にも火をつける。

 ジルコニウム粉は非常に高い温度で燃えて簡単に消えないという特徴を持ちつつ、約30秒間燃え続ける焼夷弾薬であり、高い焼夷効果を発揮する。さらに砲弾内部のタングステン弾芯が標的の装甲を貫通し内蔵されている炸薬に点火し被害を拡大させるというものである。

 まあ、分かりやすいやつを言うのなら、『元婦警の吸血鬼』の対戦車長距離砲で第二射に装填されたやつを思い浮かべればいいだろう。

 

 そんな『とっておき』ことHEIAPによる一発は盾になるべく立ち塞がった黄檗大楯とその背後にいた天狗ごと吹き飛ばし、更には天狗のいた場所を火の海に変えた。

 よく見れば砕けた黄檗大楯の右腕と弾けた天狗の身体の一部が転がっている。

 

不動

【敵戦力壊滅を確認、状況終了】

 

 敵が居ないと判断した不動はその場を後にするのだった。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE単凍

 不動と分かれた俺は無銘の鬼を相手に左右の短刀を振るう。

 

「クソ! こいつ強い!」

 

 鬼がそう言うが、それは当たり前だ。

 こちとら武器を打っては試し、打っては試し。それを繰り返したおかげか俺はかなり強い。

 

「っ痛!!」

 

 鬼の隙をついてその腕を斬り裂く。さて、どうなるかな。

 

 鬼の腕を斬り裂いた短刀は勿論、俺が新しく造った魚呪刀だ。この刀はちょっと他とは違うあることを試す為に造り出した。その名も早鯖(はやさば)

 足の早い鯖の魂と短気な人間の魂を合わせて造られた魚呪刀で、見た目は刀身に青いラインが入っていて、持ち手の柄頭に鯖の尾鰭を模した飾りが着いてる。

 そして、この早鯖(はやさば)の能力は刀身先端に触れたもの、斬ったものの腐食。つまり–––

 

「ぐっ、う、う、腕がああああ!!」

 

 鬼の斬られた箇所を中心に腐食、つまり肉が腐っていき鬼の腕が千切れそうに垂れ下がる。

 

単凍

【五月蝿い】

 

「あっびゅ」

 

 五月蝿い鬼の額に早鯖(はやさば)を投げつける。額に吸い込まれるように刀身が深く刺さり、能力によって頭部が崩れるように腐っていく。

 

「己、魔化、もう」

 

 その光景を見て激昂する鬼の心臓付近目掛けて早鯖(はやさば)を投げる。

 

「はっ!! 武器が無いならどうしよねえな!!」

 

 量産型音撃弦を持った鬼が単凍の身体に向けて音撃弦を突き刺す。

 

単凍

【甘い!】

 

 そう呟く単凍の手には2人の鬼に投げた筈の早鯖(はやさば)が握られ、音撃弦の刃を抑え込んでいる。

 

「馬鹿な、何故それが手元にある!」

 

単凍

【俺は早鯖(こいつ)が2つしか無いと言ってはいない】

 

 魚呪刀 早鯖(はやさば)。この刀が他とは違うある事とは、同じ能力(・・・・)を持っていること。

 単凍の造る武器には同じ能力の武器は無い。そもそも材料として使う人間の魂に必ず同じものがあるかと言われれば、答えはNoだ。

 いかに似た人間の魂を使おうとも、必ずどこか違う能力になる。

 

 そこで、単凍は試しにと使用する魂の基準を大幅に変えた。

 その結果、同じ能力を持つ武器を造り出すことに単凍は成功した。そうして造られたのがこの早鯖(はやさば)ということだ。

 

「背後がガラ空きだぜ!! 魔化魍!!」

 

 単凍の背後には音撃棒を構えた無銘の鬼が急接近し、無防備な背中に叩き込もうとする。

 しかし、単凍は冷静に早鯖(はやさば)で正面の鬼の音撃弦の柄を斬ると同時に術で取り出した早鯖(はやさば)を背後の無銘に向けてノールックで投げる。

 

「がばっ!」 「がへっ」

 

 早鯖(はやさば)は背後にいた鬼の喉元に突き刺さり、正面の鬼の持つ音撃弦は早鯖(はやさば)で斬られた箇所が落ちて、呆然とした無銘の頭に早鯖(はやさば)を突き刺す。

 早鯖(はやさば)が突き刺さった2人の鬼はその部分を腐らせて倒れる。

 

 新たな早鯖(はやさば)を出し、そのまま複数の鬼の元に走り出す。

 

「ぎゃあ!」

 

 ある鬼は首に横一文字の一閃。

 

「ぐふ…」

 

 ある鬼は投げられた早鯖(はやさば)が眼に深く突き刺さる。

 

「があああ!! がっ……」

 

 ある鬼は脚の腱を腐食され、倒れた瞬間に背後から早鯖(はやさば)が刺さる。

 

「ああ………」

 

 ある鬼は恐怖から逃げ出そうとした瞬間にその頭に早鯖(はやさば)が刺さる。

 

 単凍は6人の無銘の鬼を瞬殺する。

 倒れてる鬼以外、周りに鬼の姿はなく、落ちてる早鯖(はやさば)を拾おうとした瞬間–––

 

「死に晒せ!!」

 

 音撃管特有の射撃音が響き、単凍は左腕に3発鬼石がめり込む。

 

単凍

【っうう。そこか!!】

 

 手にある早鯖(はやさば)を鬼石の飛んできた方に向けて投げれば、何も無い筈のところで早鯖(はやさば)はなにかに弾かれたかのように地面に落ちる。

 弾かれた空間からまるで何か纏っていたものを脱ぐように1人の鬼が姿を現す。

 頭部が鼠色で縁取りされ、左右対称にこめかみから生える2本の角、縁取りと同じ鼠色の鎧を纏い、左肩に一周するような煙を模した肩当てを着けた鬼が音撃管を構えて立っていた。

 

「まさか、気付く魔化魍がいるとは」

 

 現れた鬼は面で顔が隠れてるので分からないが、驚いているようだ。

 

単凍

【普通なら、そのままお陀仏というところだが、生憎俺は似たような経験があるからな】

 

「ほお。私と同じ芸当が出来る鬼ということは、栃木支部にいた燻鬼さんですね……………3年前に亡くなりましたが」

 

単凍

【知り合いか?】

 

「いえいえ。名前だけしか知りません。親しいわけでもありません。おっと自己紹介がまだでしたね。私の名は蒸鬼です」

 

単凍

【そうか…………なら、ひとつ聞かせてくれ。

 俺の早鯖(はやさば)に触れた筈なのに何故腐食しない?】

 

「簡単ですよ。その武器に触れて腐食したのは先端に斬られたか刺された時のみです。

 つまり、先端から下の刃に触れたとしても腐食することはありません」

 

 単凍は驚く。

 先程の無銘の鬼との攻防で、蒸鬼はこの早鯖(はやさば)の弱点に気付いてることに。

 蒸鬼の言うとおり、この早鯖(はやさば)刃先(・・)に触れたものを腐食させる。つまり、刃先以外の場所に触れたとしても腐食することはない。同じ能力を持たせる為に魂の基準を変えたのは説明しただろう。

 早鯖を造る為に使った魂は、鯖の場合は、同じ親から生まれた兄弟魚の魂を使い、短気の人間の場合は、忍耐力のない人間、せっかちな人間、ヒステリックな人間といった短気な人間の魂を利用した。

 そして、刀の鍛造の際にそれらの魂を全て纏めて(・・・・・)ひとつの魂にして造る本数分に魂を分割した。

 だが、普段とは違う方法で使った魂で造ったのが原因なのか、本来なら刀身(・・)に触れたもの、斬ったものを腐食させる能力の筈が、刃先(・・)に触れたもの、斬ったものを腐食させる能力へとなり、魂を3つ以上使っているのに第2能力が発現しなかったのだ。

 

 だが、単凍は能力が分かったことは別にどうでも良かった。

 それならば、違う武器(・・)に替えるまでのこと。

 

「何ですかその武器は!?」

 

 そうして、早鯖(はやさば)から替えるように出したのは、鮫そのものを鞘にしてみたと言わんばかりの歪な鞘に収まった刀だ。

 単凍はその鞘の尾鰭の形状をした柄を握りしめ、中に納められた刀を抜く、歪な鞘に収まって刀は、ファルシオンに似た刀で刃の部分が鋸のようになっている。

 その名は魚呪刀 適鮫(てきさめ)

 ノコギリ状の吻を使って獲物を切り裂く特異な性質を持つ鋸鮫(ノコギリザメ)の魂と数字大好きな数学者の人間の魂を使って造られた魚呪刀だ。

 

単凍

【こいつは適鮫(てきさめ)。お前のような鬼に有効な武器さ】

 

「ではどう有効なのか見せてもらいましょうか!!」

 

 蒸鬼がそう言うと、その姿は揺らぎ、また姿が消える。

 蒸鬼は炎の音撃と水の音撃を併用して使う変わった鬼だ。それら2つの属性の鬼術を音撃管を通して同時に使うことで、姿を視覚出来なくし、魔化魍に透明に近い鬼石の弾を使ってチクチクとダメージを与えてトドメを刺す。

 この方法で何体もの上級魔化魍を仕留めた蒸鬼は、ゆっくりと動きながら単凍の背後に回り込む。

 

「(背後はガラ空き、いくら王の魔化魍といえど、この俺の姿は見えまい)」

 

 そうして背後に回り込んだ蒸鬼は音撃管を撃つ。

 

「(な!!)」

 

 すると単凍は振り向かずに適鮫(てきさめ)を振って、鬼石を斬り落とす。

 

「(馬鹿な、まぐれだ!!)」

 

 蒸鬼は射線がバレないように位置を変え、音撃管を放つも、再び、鬼石は斬り落とされる。

 それから蒸鬼がどんなに撃っても鬼石の弾は単凍に当たることなく斬られていき、残骸となった鬼石が散乱する。

 

「(どういうことだ。何故こうも完璧なタイミングで鬼石を斬れる!!)」

 

 適鮫(てきさめ)あるもの(・・・・)を視覚化する。それは弱点。

 その能力はあらゆるものの弱点を視覚化するという能力だ。

 どんなに最強の武器だろうと、どんなに最硬の防具だろうと、どんなに万能な肉体だろうとも、それらには必ず弱点が存在する。適鮫(てきさめ)はそんな弱点を視覚化することが出来る。それは透明に近い鬼石だろうと弱点があることは間違いなく、飛んでくる鬼石の弱点が表示される単凍はそれをタイミングよく斬るだけだ。

 勿論、そんな適鮫(てきさめ)にも弱点はある。それは–––

 

「(何ですか、あの血は?)」

 

 それは単凍の鼻から垂れる血だ。

 

「(アレに変えてから攻撃に当たっていない筈、なのにあの出血。

 !! そうか、なるほどあの刀のデメリットか)」

 

 蒸鬼の考えはほぼ正解だった。

 適鮫(てきさめ)の弱点の視覚化。それは脳に膨大な情報が一気に押し寄せ、そこから正確な弱点の情報を視覚化する。それによって脳と眼に多大な負荷を掛ける。

 そんな適鮫(てきさめ)の弱点に気付いた蒸鬼はニヤリと笑う。

 

「(つまりアレは使い続けるほど不利になるに違いない。なら好機や)」

 

 既に両眼や鼻からも血が垂れている単凍。

 それを見て蒸鬼は単凍の頭に狙いをつける。

 

「(さあ、往生しな!!)」

 

 音撃管の引き金を引こうとした瞬間–––

 

単凍

【はっ!!】

 

「(なに!!)」

 

 単凍は姿が見えない筈の蒸鬼のいる場所を見抜き、そのまま姿を消す為に使う音撃管を斬り裂く。

 音撃管が斬られたことでその姿が現れ、唖然とする蒸鬼。

 

 単凍が何故姿が見えない蒸鬼の音撃管を正確に斬れたのか、勿論、適鮫(てきさめ)の能力によるものだ。

 単凍は適鮫(てきさめ)の能力を使い、周辺の弱点を視覚化し、その中で周りとは明らかに違うおかしな部分を探し出す。

 いくら同じ風に見せようとも、視覚化される弱点によってそこは違うものと分かる。そうして蒸鬼を見つけ、音撃管を破壊した。

 

単凍

【じゃあな】

 

 そう言った単凍の繰り出した適鮫(てきさめ)の一閃は人間共通の弱点である蒸鬼の首を斬り落とすのだった。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE焼腕

 兄貴とその連れの不動によって鬼数人と天狗が向こうに離され、俺たちの相手は残った2人の鬼と此処の支部長でもある鬼だ。

 まあ、誰だろうと構わない。俺たちの使う武器の性能テストに丁度いい。

 

 そう思いながら、焼腕が出したのは、柄の中間に狼の尾に似た飾りの付いた長い柄の斧。隣の黄が出したのは柄頭に猫の頭を模した飾りのある片刃の長剣を出し、動かずに構える。

 

「魔化魍が武器だと笑わせるな。矢彦、挟撃で叩くぞ!!」

 

「おう!!」

 

 それを見た2人の鬼が馬鹿にする笑みと共に同時に仕掛ける2人の首に音撃棒を振るう。

 

「なっ!!」

 

 黄が前に出て、片刃の長剣を横にして2人の攻撃を止めると同時に長剣を滑らせるように動かして、2人の音撃棒を弾き、右にいた鬼の身体を逆袈裟で斬り捨てる。

 

「曽根崎!! はっ!」

 

焼腕

【………】

 

 仲間の死ぬ姿で動きを止めた鬼に焼腕は斧を振り下ろし、防御姿勢の間に合わなかった鬼の身体を一刀両断する。

 

焼腕

【切れ味は申し分なしだな】

 

「こちらも同じだね」

 

 使った武器の性能の感想を言う2人。

 その姿に気味の悪さを覚えた植鬼はその感情を振り払うために自身の音撃武器である音撃弦 植蔓を構えて突撃する。

 

焼腕

【さて、次は変形動作(・・・・)といこうか】

 

「変形動作?」

 

 植鬼は何のことだ面越しから目の前の焼腕を睨みつける。

 しかし、焼腕はそんな視線は気にしないと言わんばかり、斧を縦横に振るう。

 

「くっ!」

 

 師である狼鬼の鍛錬で使い慣れてる筈の音撃弦が重い。

 実際に重いのではなく、目の前の魔化魍の斧の攻撃が重いのだ。見た目はただの斧の筈なのに攻撃が重く、それを受ける音撃弦はミシリと嫌な音が鳴る。

 これ以上は不味いと判断した植鬼は斧の攻撃を受けると同時に力を抜く。

 

焼腕

【む!】

 

 斧は重力に従って下に向かい、植鬼は音撃弦を地面に突き刺すと、その柄を握り込み、ポールダンスのように一回転して、その勢いのまま焼腕の腹に蹴りを浴びせる。

 

焼腕

【ぐふっ………】

 

 蹴りをモロに受けた焼腕は腹を押さえながら後ろに下がり、植鬼は突き刺した音撃弦を抜くとその刃先を焼腕に向けた。

 

焼腕

【やはり、そこら辺の鬼では試す前に死ぬからな。戦い甲斐のあるやつをテストに出来るのは良いものだな!!】

 

 腹を抑えていた手を外し、こちらを見る目は血走り、牙が見える口元は弧を描いている。

 幽冥がこの場に居て、この光景を見たら、『あの(単凍)がいてこの(焼腕)あり』と言うのだろう。片方だけの血の繋がりとはいえ、間違いなく兄弟同士だと思わせるものだった。

 焼腕は武器の柄を握りしめると共に武器を上に掲げる。

 

 突然、話は変わるが焼腕と黄の持つ武器の名は双獣器(そうじゅうき)。勿論、焼腕の造った武器だ。

 この武器は単凍の造る武器とは違い、魂を使わないので能力を持たないが、特殊な機構が組み込まれている。

 それは–––

 

焼腕

【ふん!!】

 

 焼腕が手に持つ双獣器 血まみれの狼(bloody wolf)を振るうと長い柄が縮み、狼の飾りに収まっていて刃が斧の刃と合わさり大剣へと変わる。

 

「なっ!!」

 

 それは変形機構が組み込まれた武器。男ならば誰もが夢見るロマン武器。それが焼腕の造る武器の特徴だ。

 魂を内包した武器を最初に造り出した兄の単凍と違い焼腕の最初の武器は、至ってシンプルかつ丈夫な刀剣類だった。それが、何故ロマン武器を造るのに至ったのか、それはある時に()で出会った狩人(・・)が理由なのだが、その話はいずれさせて貰おう。

 

 いきなり武器が変わったことに驚いた植鬼は驚き、一瞬足が止まる。

 その隙を突くかのように焼腕は血まみれの狼(bloody wolf)を頭に振り下ろす。が、足の止まった植鬼は咄嗟に音撃弦 植蔓の刃を振り上げる。

 互いの武器がぶつかり合いその力によってぶつかり合った武器は互いに弾かれ、それに釣られて2人の身体も弾かれたように動く。

 

 血まみれの狼(bloody wolf)による攻撃。

 植鬼は勿論、音撃弦 植蔓を構えて真正面から迎え撃とうとする。しかし、焼腕の後方で仲間の蒸鬼が単凍に殺される姿を見たことで、植鬼は構えも忘れる程に動揺し、隙が生じた。

 隙だらけの植鬼が、すぐ近くまで来た焼腕の姿に気づいた時には横っ腹に血まみれの狼(bloody wolf)を叩きつけられ内臓が飛び出るかのような感覚に襲われる。

 

「ぐぅう!」

 

 強烈な一撃で身体を上空へと飛ばされる植鬼。空中ということもあり体勢も立て直せず、おまけに先程の一撃もあってか身体を思うように動かせない。

 それを見た黄は双獣器 寂しがりな猫(lonely cat)を振るうと柄から刃が離れワイヤーで繋がれた等間隔の刃が上空に飛ぶ植鬼の面の半分、音撃弦 植蔓、それを持つ右腕、左手首、腹部の鎧、右脚を一瞬にして斬り落とす。

 

「ぎゃああああ!!」

 

 バラバラになった武器と肉が一斉に転がり、それと同時に斬られた植鬼は受け身を取ることも出来ずに地面に頭から落下する。

 

焼腕

【うむ。変形動作も問題なしだな】

 

「うん。でも私はこれよりも前に渡してもらった杖の方が使いやすいな」

 

焼腕

【アレか。そうだな次の機会に】

 

 焼腕、黄は武器のテストを終えて、その場から去ろうとすると–––

 

焼腕

【………まだ息があるのか、最近の鬼にしては頑丈だな】

 

 あの高さ、おまけに頭から落下したので、既に死んだのだろうと思っていた。

 だが、そこには戦う術を失い、満身創痍の身体、身を守る鎧も最低限しか残っておらず僅かに残った左腕で立ち上がろうとする植鬼の姿があった。しかし植鬼はまともに立つこともできずに前のめりに倒れる。

 それでもまともに動く頭を動かして、離れた位置にいる2人に向けて憎悪の視線を送る。

 

焼腕

【言い残すことはあるか?】

 

「ぐふっ、…………ろ、狼鬼さんが必ず、貴様らをこ、殺す。あの世でその様をゆっ……」

 

「聞く必要もなかったか」

 

 黄が寂しがりな猫(lonely cat)を振るうと伸びた刃の鞭が植鬼の首を刎ねる。

 

「無駄な時間でしたね」

 

焼腕

【所詮は復讐心で眼の曇った鬼だ。気にするだけ無駄だ】

 

 黄の言葉に同意するように焼腕は答えると–––

 

単凍

【やっと終わったか?】

 

不動

【そのようだな】

 

 そう答える2人の背後から声が届く。

 

狂姫

【荒夜様……重くないですか?】

 

荒夜

【いいえ。姫。むしろ軽いくらいです】

 

狂姫

【/////////】

 

美岬

【はいはい狂姫。そういうのは帰ってからだよ。終わったみたいですね】

 

 顔を赤らめた狂姫を背に乗せた荒夜の2人を見た美岬はナチュラルにイチャつきそうな2人の注意して、黄と焼腕の様子を確認していた。

 

【そのようだな】

 

常闇

【ふむ、では戻るとするか】

 

「いえ、その前に貰えそうなものを頂きましょう」

 

 緑の提案に賛成した一同は、無人となった長野支部から目ぼしいものを奪っていき、全員の空間倉庫に仕舞い込んだのちに帰路につくのだった。

 こうして長野支部は壊滅し、その事実に狼鬼たちが気付くのは、同じように襲撃を掛けられた静岡支部の様子を見に行った鬼たちの連絡で知るのだった。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE静岡支部

 単凍達が長野支部を襲撃した同時刻。

 猛士中部地方静岡支部。

 

 ある一室にこの支部の支部長 井伊宮 宮子、崗鬼、名持ちの鬼や無銘の鬼、天狗たちが集まり、部屋にいる人物を逃げられないように扉や窓の前に立ち逃げ道を塞いでいた。

 

「………いったい何の用ですか? こんなに集まられて」

 

 そう問いかけるのは、この部屋の主である診鬼こと神通 希美だ。

 

「用だと? 分かっている筈だ」

 

 1人の無銘が敵意を剥き出しに答える。

 

「ですから、な「惚けても無駄だ!!」……」

 

 神通の言葉を遮る様に荒げた声が響く。

 

「診鬼。いや神通 希美。………貴女、どうやら共存(・・)派の鬼のようですね」

 

 井伊宮の言葉に神通は驚く。

 どうしてバレた。この部屋に最初に案内された際に隅から隅まで調べて監視カメラや盗聴器などが無いことを確認した。

 

「何故って顔ね。確かにこの支部は他の同志のいる支部と違い、盗聴器も監視カメラもありません。ですが」

 

 井伊宮の言葉を聞き、天狗の1人が天狗笛を吹くと、天井の隅の電灯から何かが天狗に向かって飛んでくる。

 それが天狗の手に止まるとその正体に神通は苦虫を噛んだ顔を浮かべる。

 

「(ディスクアニマル 竜胆蝙蝠)っ!!」

 

 ディスクアニマル 竜胆蝙蝠。

 蝙蝠をベースに造られたディスクアニマルで、主に夜行性の魔化魍の探索や追跡を行う。

 何よりも特徴的なのは、他のディスクアニマルと比べても圧倒的とも言える連続稼働時間と録音と録画可能容量だ。その時間はなんと連続稼働時間は240時間、録音及び録画可能容量は230時間だ。この竜胆蝙蝠が開発される前だと瑠璃狼の後継機である黄金狼が最大だったが、それをはるかに上回る性能だ。

 だが、その連続稼働時間と本来なら出来なかった録音と録画機能の両立を実現させるのに必要な物の数が少なかったことが理由でこのディスクアニマルは100機ほどしか存在せず、おまけにその大半は過激派が所有している。

 希少でもある為、一般の鬼はその姿形を知ることは少なく、こんな支部に置いてあるはずがないという油断が仇となった。

 

「そうさ。竜胆蝙蝠(こいつ)がこの支部の監視カメラであり、盗聴器でもあるんだ。なぜか映像(・・)は無理だったが、お前の場合は音だけでも聞ければ十分ってことさ」

 

「そういうわけよ診鬼。さあ、たっぷりと話しを聞かせてもらおうじゃない。連れて行きなさい」

 

「はっ!」

 

 井伊宮の指示で無銘の1人が神通の腕を掴む。

 

「っ、離せ!!」

 

「観念しろ裏切り者!!」

 

 神通は袖元の変身音叉を出そうとするも、無銘が腕を掴んでいるのが原因で出すことも出来ないし、無銘の腕を振り払おうとしても振り払えない。鬼とはいえ、人間で男女の差は必ずどこか出てしまう。女である神通も例外ではなく、その力の差は明らかだった。

 王との接触という目的を果たしておらず、此処でお仕舞いかと神通が思った次の瞬間–––

 

「ぎゃああああああ!!」

 

 神通を捕まていた無銘の顔が火だるまになる。

 急に顔が燃えたことで神通の手を離してしまい、炎はやがて全身を覆い、無銘を黒焦げの死体に変える。

 

「誰だ!!」

 

ヂヂヂヂヂヂヂ

 

 崗鬼の声に反応するかのように上からバサバサと羽ばたく羽音と火が付かないガスストーブのような鳴き声が響く。

 崗鬼の視線にいるのは、18個の炎を宙に浮かせる両翼と尾翼が緑色の炎に包まれた鸚鵡の魔化魍が飛んでいた。

 

【………オイラはフラリビ。オイラがいる限り神通には指一本触れさせない!!】

 

 好きな者(神通)を守るために本性を表したフラリビは目の前の崗鬼たちをいつでも攻撃できるように炎に包まれた翼を大きく広げた。




如何でしたでしょうか?
焼腕の作る武器はロマン変形武器でした、今回はポピュラーな変形武器にしました。まあ何方も件の狩人とは違う作品ですが、変形武器ということで出しました。
そして、戦輪獣の後期型の改シリーズも登場です。ものの数分くらいで破壊されましたが、改の名前の元ネタは生きてる繊維のヤバい制服です。
因みに今回の話と記録百参にも出た戦輪獣 紫角とは本作のオリジナルディスクアニマル 紫兜の戦輪獣です。
ディスクアニマル 紫兜は魔化魍の顔周辺を飛び回り鬼の攻撃を悟らせない撹乱目的や住処を作る魔化魍の棲家探索などに用いられるディスクアニマル。
一方、戦輪獣 紫角は大きさは黄檗盾の半分ほどの大きさで飛翔能力は無いが、その代わりに角の先端に鬼石と音撃弦系の音撃武器に使われる刃を合成した『鬼刃石』が搭載され、更にはパワーもそこそこ上げられている。
使用用途としては、角による攻撃、巨体を活かした押さえ込みなどが主な使われ方である。
さて、次回は幽冥たちが参戦します。
………感想ください。

ーおまけー
迷家
【はいはーい! やってきました。おまけコーナーの時間です】

迷家
【今日のゲストは王の最初の家族のひとり。ツチグモの土門!!】

土門
【はじめまして。
 そして、此処がおまけコーナーですか?】

迷家
【そう! って、なんで知ってるの!?】

土門
【睡樹から聞いたから】

迷家
【ありゃりゃ、まあしょうがないっか】

土門
【それで何を聞きたい?】

迷家
【話が早いのは良いけど、う〜ん。お!
 土門って成体だよね。なんで成体なのに身体が小さいままなの?】

土門
【確かに私の身体は一般的でいうと成体になる。そして、何故小さいままなのかと言うと】

迷家
【言うと】

土門
縮小の術は知っているよね】

迷家
【確か、生物や物体を小さくするだけの術だっけ?】

土門
【そう。私は常にその術を自分の身体に掛けているの】

迷家
【なんで?】

土門
【恥ずかしい話だけど、私は種族としてのツチグモのサイズでいるのが嫌で】

迷家
【なんで、デカい方がいいじゃん】

土門
【私の戦闘手段をお忘れ?】

迷家
【戦闘手段? ん、んんん。あ! そうだ!】

土門
【思い出した? そう。私の戦闘は基本、糸を使った身体操作。
 デカいだけの本来の姿だと私の戦闘手段は確立しない】

迷家
【なっるほど♩
 確かにあの大きさじゃ出来ないね】

土門
【納得できた?】

迷家
【うん! いや〜やっぱり疑問は聞いてみるものだね。
 おっと、そろそろお開きかな。じゃ、バイバーーーイ】

土門
【またいつか】
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