人間だけど私は魔化魍を育て、魔化魍の王になる。   作:創夜叉

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こんばんは。
今回の話は静岡支部戦後編と弟子の1人を失い、同志である過激派の支部を2つも潰された狼鬼の視点です。
シン・仮面ライダー観ました。あれはあれで良いものでした。


記録百拾参

 強制転移で支部長や鬼、天狗を飛ばした幽冥たちは残った静岡支部の鬼や天狗と戦っていた。

 そんな中で異質な光景が広がる所があった。

 

「焼ける!! 焼けるように痒い!! 痒い痒い痒い痒い痒いカユイカユイかゆい痒い痒い!!」

 

「あひゃひゃひゃひゃひゃ!!」 「ううう、やめてくれ、やめてくれ!!」 「ああ、そこにいたんだな」

 

「……………」 「蟲が蟲が俺の身体の上で這いずってる。取ってくれ!! 取ってくれえええ!!」

 

 それは鬼や天狗たちがそれぞれ違うことを言って転がる光景だ。

 ある鬼は身体が焼かれるように痒いと言いながら全身を掻きむしり。

 

 ある天狗は焦点の合わない目で大笑いし。

 

 ある天狗は自分の戦輪獣を使って自分の身体を痛めつけておいて止めろと叫び。

 

 ある鬼は虚空に手を伸ばして涙を流し。

 

 ある鬼は面の中から噴き出た血の中に沈み。

 

 ある天狗は居るはずのない蟲が全身を這いずり回ってると言い必死に自分の体から退かそうと踠き暴れる。

 

 そして、これらの光景を生み出したものがいる。それが–––

 

予言

【どう、凄いでしょ。私以外と戦えるんですよね。うん。ザコじゃないのよね。うん。

 ザコっと思って、油断したね。それがこの結果、どう、あ!! 分かるわけないか〜ね〜】

 

 そう胡散臭い雰囲気があり、煽るように、捲し立てるように言うこの予言こそ、この光景を生み出した張本人。

 

【アレ、なに?】

 

 予言に伸縮自在の尾で指差す兜が予言を知る盃に聞く。

 

【クダンいや予言の……なんだっけ? ちょっと待って思い出すから!

 あークダン光線? 違う! えっと、くだんフラッシュ! 違う! うーーん思い出せない】

 

予言

件ビーム! も〜う忘れるなんてヒッドーーーイ! 全世界の予言ファンが怒ってるよ!】

 

【知るか! ていうか名前貰ったばかりでお前の名前知ってるヤツ居るはずないでしょ!!】

 

 荒れる盃の代わりに説明しよう。

 予言の放った件ビームは簡単に言うなら、命中した相手にあらゆる状態異常をランダムに付与するという変わった技(?)だ。

 鬼や天狗たちの異常は雑魚魔化魍と侮ったばっかりにこのような目に遭ってのだ。

 何が起きるかは件ビームを受けない限りは分からない。まさに胡散臭さの塊ともいえる魔化魍の攻撃だ。

 因みに予言は件ビームと言っているが、実際はクダン種のほとんどの魔化魍が使うことが出来るのだが予言は名前を付けて特別感に浸りたいだけだったりする。

 

「よくも仲間を!!」

 

 無銘の鬼がそう叫び、予言と会話する盃に量産型音撃棒を振り下ろす。

 

【それ効かないよ】

 

 盃の言葉通りに音撃棒による攻撃は盃の肌に触れるとぬるんと滑り、音撃棒は狙ってない地面を叩く。

 

「なっ?!」

 

【効かないって言ったじゃん。まあ、これでおしまい】

 

「ぐっ、毒か!」

 

 盃が口から色の無い煙を鬼に向けて吹き付ける。

 鬼は煙を吸わないように面の口元を抑えるが–––

 

「あれぇ、なぁんで急に眩暈が、ううきもぢ悪い、うう…」

 

大尊

【頂きます】

 

 頭はぐわんぐわん、身体がふらふらと揺れたと思ったら倒れた鬼の身体を大尊は捉え、そのまま丸呑みにした。

 

大尊

【なんか、酔っ払いそうな味】

 

 大尊がそう感想を言うのも無理は無い。何故なら、大尊が喰らった鬼の死因は急性アルコール中毒。

 それはそうだろう。身体の中にある血液全てを酒に変えられた(・・・・・・・・・・・・)のだから。

 

 盃ことシュチュウは、『二大変水魔化魍』といわれている。

 あらゆる液体を油に変える魔化魍 アブラスマシ。

 

 あらゆる液体を酒に変える魔化魍 シュチュウ。

 

 そう液体(・・)()に変える。

 人間の身体は70%が水分で出来ている。その70%を酒に変えられたら、それもアルコール度数が驚異の96度の酒スピリタスに変えられたら。

 ただでさえもガソリンと同等の第4類危険物としても扱われる酒が全身を周り、肉体のあらゆる機能が一気に麻痺し、その麻痺によって脳機能も麻痺し最終的に鬼を死に至らしめた。

 

大尊

【もうちょっと、この酔っ払い感がなくなったらいいかも】

 

【ええええ………】

 

 そんな酒浸りな死体を喰らっておいてこんな感想が言う大尊に軽くひく盃。

 

【うーーーん】

 

 そんな光景の隣では跳が術で仕留めた鬼と天狗の死体の前で唸り声をあげていた。

 

【どうした?】

 

【乾でやすか。いや、丁度良さそうな死体がありやしたが、ちと空間倉庫の空きが足りなくて、血だけだったら入るんでやすが】

 

 跳の手には満杯に詰まった血の入った瓶があり、鬼や天狗の身体を見れば、一部に身体の中まで見える穴が空いており、そこから血だけ抜き取ったのだろう。

 話は変わるが、幽冥の家族の何名かは覚えている空間倉庫の術は、術者の側の空間に穴を開け倉庫のように物を出し入れする事ができる術なのだが、その中に仕舞える収納量は決して無限では無い。鍛錬を積むことによってその収納量を多少増やすことは可能だが、術者によって収納可能な量は異なる。

 そんな跳の空間倉庫の中は『吸血小豆』や『死体肥料』、『血液肥料』などのものが多く仕舞われており、今その収納限界が来てしまい如何するかと悩んでいた。

 

【軽くなればその死体は入るのか?】

 

【………まあ、多少軽くなればギリギリというところでやすね】

 

 血の瓶を仕舞い、顎に手を当て少し考えた跳が答える。

 

【なら、少し待て】

 

 乾がそう言うと、鬼と天狗の死体に近付き、背に生えた無数の触手が死体に触れる。すると–––

 

【なっ!!】

 

 触手の触れた鬼と天狗の死体が見る見るうちに乾いていく。

 寄生タイプ蟲系魔化魍として真っ先に名が上がるヒダルガミ種。道行く人間に寄生してその栄養を宿主の人間に気付かれないように奪って成長する魔化魍。その特徴のひとつとして触れたものの水分または栄養を奪う固有能力が挙げられる。宿主の人間から栄養供給が望めない時、宿主が突然死んでしまった時に宿主の身体の中でその全ての栄養または水分を奪い、その宿主の身体から出て次の宿主を探す。それを繰り返して成長する魔化魍がヒダルガミだ。

 そんなヒダルガミの触手が触れた死体は数十秒も経たぬ間に水分がほぼ無くなりミイラと化してその場に転がっていた。

 

【こんなもんか?】

 

【はい。充分でやす】

 

 死体を確認した跳は空間倉庫の中へと死体を仕舞い込んだ。

 

気になるんだが……その死体はどうするんですか?」

 

【ええと、曙美で良かったでやすか?】

 

「はい」

 

【まあ、死体はこの『吸血小豆』に使う新しい肥料にしようと思いやしてね】

 

「ああ、なるほど……………それでその小豆は美味しいのですか?」

 

 曙美が跳の顔に近付き、ジッと跳の顔を見る。

 

【おお、う、美味いでやすよ】

 

「では、空間倉庫の中の死体を全部出して貰っていいですか。乾が乾燥させてくれますから」

 

【気にならないのでやすか?】

 

「何がですか?」

 

【死体を利用してるとはいえ人間を肥料にして育ててるんでやすよ。乾の宿主といえ人間を喰ってるようなもんでやすよ】

 

「別に気にしませんよ」

 

【なっ!!】

 

 目の前の少女の解答に跳は驚愕する。

 寄生タイプの魔化魍は人間に寄生してる際に人間を喰らうことはない。それを行えば、直ぐに猛士に気付かれるのと寄生した宿主の精神が崩壊するためだ。

 寄生タイプの魔化魍は寄生した宿主の精神的影響を多少受けることがある。過度な精神的影響によって自身の成長が阻害され、下手をすればそれが理由で寄生タイプの魔化魍が死亡する場合もある。故に寄生タイプの魔化魍、特にヒダルガミのような魔化魍にとって宿主を介して人間を喰うことはない。

 

「ご飯が満足に食べれなかった頃に比べたら、死体を使って育てた食材に不満はありませんよ。それに………おっと、それ以上はダメだな。喋らせねえよ

 

 曙美が何かを喋ろうとした時に突然、乾の姿に変わり少女の意識は奥底へと引っ込んでしまった。

 

【すまんな。こいつ(曙美)はちょっと………色々あってな】

 

【………いや、ただ少し変わっているなと】

 

【ああ、間違いなく曙美は変わり者だよ……………さて、死体を出してくれ】

 

【そうでやした】

 

 跳は空間倉庫から新たな死体を出して、乾がその死体の水分を奪う作業を始めた。

 因みにそれを遠くで見た大尊と盃、予言は殺した死体を持っていたことで水分を奪う死体が増えてしまい乾はしばらくの間、干物を見て顔をしかめる事が増えるのであった。

 

 

 

 

 

 

 場所は再び変わり。

 胸元に穴の空いた死体や身体に無数の手裏剣が突き刺さった死体、無数の穴で身体が四散した無惨な死体などが転がっている。

 

「はああ、がべぇ…」

 

拳牙

【…ふん。温い! ハッ!!】

 

「あぎゃ」

 

 拳牙の拳が鬼の身体を貫き、その身から拳を引き抜き、離れた位置にいる鬼の身体を真横からの蹴りで真っ二つにする。

 

チュン、チュン

 

「ああああああああぁぁぁぁぁ」

 

 幻笛の奏でる横笛の音が鬼の頭に響き、その音に苦しみながら頭を抑えて鬼は事切れる。

 

ピアアアアアアア

 

「ぎゃあああああ!!」

 

 兜の尾から機関銃のように連続で放たれる尻尾先が盾のように前に聳え立った戦輪獣ごと天狗を貫く。

 そして、フグルマヨウヒの札を使って暴れる幽冥は自分に向かってくる戦輪獣に向けて札を飛ばす。

 

凍てつけ

 

 幽冥の飛ばした札は戦輪獣 瑠璃牙に貼り付くと一瞬の光と共にその身を凍結され機能を停止する。

 

「る、瑠璃牙が…これは!「燃え上がれ」があああああああ!!」

 

 自分の戦輪獣が一瞬で機能停止した事実についていけない天狗は幽冥の札に気付いた時には、幽冥の(まじな)いを聞いた札が発火し、その身は炎に包まれ黒焦げの死体へと変わる。

 

「クソっ!! 止めろおおおお!!」

 

 鬼面を中心に数珠のような飾りが鉢巻のように一週した濃い茶色で縁取りされた頭部にその後ろに斜めに生える2本の角、両腕にも紫色の数珠飾りが付いている鬼、崗鬼が惨劇を生み出す幽冥たちに向かおうとするも–––

 

クルルウウウウウ

 

 橙色に変色した2本の爪を指に挟んで振るう三尸が崗鬼の行動を妨害する。

 

「ちっ! またそれか!!」

 

クルルルウウウウ

 

 三尸は徐々に白くなる2本の爪を崗鬼に投擲する。投擲された爪を崗鬼は音撃弦 光崗を振るって叩き割る。

 それを見て三尸は新たな爪を伸ばして折り、尾の提灯に爪を当てて、爪を橙色に染める。

 

「崗鬼、クソッ! 戦輪獣さえあれば!!」

 

 その様子を歯痒い思いで眺める者がいた。

 自身の戦輪獣を失い、三尸と崗鬼の戦いを見ることしかできない天狗の相良は何かないかと見回すと、爪を熱している三尸の側に光るものを見つけ、それが何かと気付くとそこに向かって走りだす。

 

「何を、はっ! やめろ相良!!」

 

 突然駆け出した相良の姿とその先に見つけた物で相良が何をしようとするのかを気付いた崗鬼は声を荒げ、止めようとする。

 

「うおおおおおおおお!!」

 

 だが、相良は止まらず光るもの否、落ちていた音叉刀を拾い、垂直に構え三尸の身体へ突き刺した。

 

三尸

【……危なかった。あと一歩遅れてたらヤバかった】

 

「がぶっ……」

 

 だが、相良の音叉刀は三尸の硬質化した皮膚に阻まれて刃先は砕け、相良の身体には三尸の2本の爪が深く食い込んでいた。

 

「崗、鬼さん………」

 

 そのまま相良は三尸の腕の上で倒れるように事切れて、三尸は爪を引き抜くと相良は地面に崩れ落ちる。三尸は爪に付いた血を崗鬼に見せつけるようにベロリと舐めとる。

 

「貴様ああああ!!」

 

 『お前のせいで仲間が死んだぞ』と言わんばかりの明らかな挑発に崗鬼は激昂した。

 激昂の怒りを力に変えて三尸に音撃弦を振るうと重い金属同士の衝突音が響く。

 

「なっ!!」

 

「私の家族をやらせるわけないでしょ!!」

 

 目の前には、崗鬼以外の鬼と天狗を仕留めた幽冥がシュテンドウジの太刀を使い崗鬼の音撃弦による攻撃を峰で防いでいた。

 

「貴様、よくも仲間を!!」

 

「仲間って、無抵抗の魔化魍を残酷に殺してきた鬼が仲間なんて笑わせることを言うなっ!!」

 

 幽冥が太刀を横薙ぎに振るった衝撃が目の前の崗鬼に当たり、後方に吹き飛ばす。

 

「がはっ……ちっ!」

 

 転がる崗鬼に容赦なく追い討ちを掛ける幽冥に舌打ちを打つ崗鬼は音撃弦にバックルに収まっている音撃震 花崗を音撃弦 光崗に嵌め込むと音撃弦の真横に黄色い刃が飛び出し、幽冥の太刀に向かって音撃弦を打ち込む。

 

 幽冥の太刀と崗鬼の音撃弦がぶつかると音撃震 花崗から山吹色の光が迸り、幽冥の持つ太刀にまで電撃が流れる。

 

「ぐうっ! ハアアアアア!!」

 

 崗鬼の持つ音撃震 花崗の内部には周囲の静電気を蓄積し、音撃弦 光崗に嵌め込むことによって溜めた静電気を電気に変換、増幅させてそれを攻撃や音撃に転じる特殊機構が付いている。

 幽冥たちがこの静岡支部に着く前にフラリビの翼を負傷させたのはこれだ。

 

 そんなことを知る筈もない幽冥は太刀を崗鬼に振い続けるもさっきと同じように太刀が音撃弦に触れるたびに電撃が流れる。

 流石に同じことが続いたことで迂闊に音撃弦に触れるわけにはいかなくなった幽冥は考える。

 

「(流石にこれ以上の戦いは不味いし、あれを使うしかないか)」

 

 このまま戦いを続けるのは、もし他の中部地方からの増援や後の『8人の鬼』との戦いに影響すると判断した幽冥は最近編み出した技を使うことにした。

 

鋭利になれ肥大せよ万全たれ風となれ、さらに風よ集え!!」

 

 幽冥が(まじな)いを唱えながらシュテンドウジの太刀に札を貼り付けていく。

 幽冥が使ったのは、強化に部類されるフグルマヨウヒの札だ。

 鋭利になれは刀身を持つ武器の威力と強度を上げ、肥大せよは貼り付けた対象を巨大化させ、万全たれは貼り付けた者の身体強化、風となれは貼り付けた者の敏捷性を上げ、さらにイヌガミの力で風を身体や太刀に鎧のように纏わせる崗鬼の音撃弦対策だ。

 

 これが幽冥の編み出した技。主軸として使う王の力とは別の王の力を同時に使う。

 自身の身体の中に王の意識があり、自身の肉体を媒体にその能力を行使することができる幽冥にしか、9代目魔化魍の王にしか出来ない荒技。

 『魔進輝(まじんき)』に次ぐ、幽冥の新たな力。その名は、『魔歴王闘法(まれきおうとうほう)』。

 

「この一撃で終わらせる!」

 

 重ね掛けした強化の札によって大型魔化魍に匹敵するほどの大きさへと変化した太刀を構え、札とイヌガミの力で強化された幽冥は崗鬼に向かって一気に急接近し、それを振り下ろす。

 

「っ!! ぐおおおおおおおお!!」

 

 振り下ろされた太刀から身を守るために崗鬼は音撃弦 光崗を頭上に構えて巨大太刀を受け止める。しかし–––

 

「はあああああああああああ!!」

 

「おおおおおおおおおおおお!! がはっ!」

 

 受け止めるために使った音撃弦は真っ二つに割れて、そのまま太刀による一閃が崗鬼の身体に刻まれる。

 崗鬼の身体から吹き出る血が幽冥の上に血の雨として降り注ぎ、斬られた崗鬼はそのまま倒れる。

 

「がはっ」

 

 幽冥の攻撃は間違いなく崗鬼の命を奪うはずだったが、崗鬼の最後の足掻きか身体を捻ったことで致命傷となることを防いだ。だが、動くことはもう出来ないだろう。

 

「言い残すことはなにかある?」

 

 全力の攻撃で札の効果が切れたとはいえ、素の状態だったとしても鬼は軽く両断することが出来る太刀を突き出され直ぐにでも命を奪えるように首には刃が当てられている崗鬼。

 だが、過激派に属する鬼は命乞いを言うことはなかった。

 

「…………く、くたばれ、魔化魍!!」

 

「………そう。じゃあ、さようなら」

 

 幽冥が太刀を振り上げた瞬間。

 崗鬼が突然光りはじめ、何かが起きると判断した幽冥は太刀を振り下ろす。だが–––

 

「なっ!!」

 

 幽冥の振り下ろした太刀の先には崗鬼は居なかった。

 

クケルゥゥゥゥゥゥ

 

 声の方に身体を向けると、そこに殺そうとした崗鬼を抱えた魔化魍が立っていた。

 全身を覆うほどに透明度が高い大きな抜け殻で出来た服を羽織り、赤と藍色のオッドアイ、濃紫色の肌を持ち、尾先に橙色の火の灯った蝋燭の尾を持ち、二足歩行する角蜥蜴の魔化魍が唸っていた。

 

【クケルゥゥゥ。悪いな『契約者』を殺されるのはオレサマも困るんだよ】

 

「契約者? 魔化魍だというのは分かるけど何者?」

 

 太刀を向ける幽冥に魔化魍は口を開く。

 

【オレサマは悪魔魔化魍 チュパカブラ。

 魔化魍の王とその仲間たち。オレサマはコイツと一緒に逃げさせてもらうぜ】

 

 チュパカブラが名乗ると、幽冥の後ろには後処理を終えた家族たちが集まっていた。

 

【悪魔魔化魍って、オセやアロケルの仲間でやすか!!】

 

【クケルゥゥゥ。それをオレサマが答えると思うか?】

 

三尸

【なら、実力行使だ!!】

 

【覚悟っ!!】

 

 そう言って、三尸と兜が動こうとした瞬間–––

 

【クケルゥゥゥ。甘いな!!】

 

 チュパカブラは抜け殻に手を突っ込み、何かを此方に振り撒き、撒いたものに向けて更に術で生み出した風を使って広範囲にばら撒く。

 粉は太陽の光を反射させて、凄まじい光が辺りを照らす。

 

三尸、兜

【【ぐうぅ!】】

 

 光が収まると、そこには崗鬼もチュパカブラも居らず、光の中に紛れて消えたということしか分からなかった。

 

「三尸、兜、大丈夫!!」

 

三尸

【目が、くそ! 見えない】

 

【うう、痛い!】

 

 目を抑える三尸とゴロゴロと転がる兜。

 

治癒!!】

 

 跳が2人に近付き、術を掛ける。

 痛みが引いたのか、三尸は手を離し、兜は動きを止める。

 

治癒を掛けやしたので失明も無いでしょうが、回復のため、安静にしたほうがいいでやす】

 

三尸

【すまんな跳】

 

【ありがとう】

 

 跳の治癒のおかげで幸い、失明する心配はないようだが、跳の言う通り安静のため三尸と兜は次の戦闘は休んでもらおう。

 しかし、鬼の一人には逃げられたものの、支部長、鬼や天狗のほとんどは死んでおり、静岡支部を壊滅させたと言えるだろう。

 そして、私は静岡支部内の物を物色して、めぼしい物を頂き、家族とフラリビ、そして共存派の鬼で神通 希美と共に跳の術で『鳥獣蟲同盟』の住処(すみか)に帰るのだった。

 

SIDEチュパカブラ

 どこかの森の中。

 そんな雑木林が目立つ森の中で光輝き、その光の中からチュパカブラと抱えられた崗鬼が現れる。

 

【クケルゥゥゥ。ここなら大丈夫だろう】

 

 オレサマはあの場から攫った崗鬼を樹に寄り掛からせる。

 

「……う、ぐう〜、何故、俺を助けた?」

 

 目を覚ました崗鬼はそんなことを聞いてくる。

 

【クケルゥゥゥ、『契約』のためさ】

 

「契約、だと」

 

【クケルゥゥゥ。そう『契約』のため、オマエが死んだら。オレサマは強くなれないからな】

 

 悪魔魔化魍は従来の魔化魍と違い、従来の食事よりも『契約』を介した食事を行うことによって強くなる傾向にある。

 それはどの悪魔魔化魍も同じであり、『契約』を介しての食事を行ったとあるツチグモ種の悪魔魔化魍は他の悪魔魔化魍とは一線を越した力を持っていた。

 故に悪魔魔化魍にとって『契約』は絶対であり、『契約』を交わした者を『契約』による対価以外で死なせることはない。

 

「や、はり魔化魍は魔化魍だな………」

 

【クケルゥゥゥ。今は眠りな】

 

 チュパカブラはそう言って、抜け殻の隙間から取り出した眠り粉を崗鬼に振りかけると、崗鬼の頭は樹に寄り掛かるように倒れて、眠るのだった。

 

 契約のためと崗鬼(コイツ)には言ったが……………本当は違う。

 オレサマは崗鬼(コイツ)を助けたかった。気に入っているしな。

 

 最初は驚いたぜ。まさかあの過激派の鬼から『契約』を持ちかけられるとはな。

 そっからオレサマの気まぐれで崗鬼(コイツ)と『契約』を結んで、はや半年。

 

 いつからか、崗鬼(コイツ)に『契約』に呼ばれるのを楽しみに待ち、崗鬼(コイツ)に会いたいと思うようになってた。

 

 …………ん? 待て。オレサマは今、何を思った。

 オレサマが崗鬼(コイツ)に会いたい? オレサマが? ………いやいや、そんな訳ない。

 あり得ない。あり得てはならない。オレサマは魔化魍。やつは鬼。相容れぬ者同士、『契約』を結んだ関係なだけだ。否定せねば。

 でも、何でだ。否定しようと考えると胸がズキンと痛くなる。

 

 …………こんな気持ちは初めてだ。今度、お母様に聞いてみよう。

 

 そうしてチュパカブラは眠る崗鬼を連れて、魔法陣を使って、何処かに消えた。

 

SIDE狼鬼

 場所は変わり、此処は猛士岐阜支部。

『八人の鬼』のひとり狼鬼の所属する支部だ。

 

 そんな支部の会議室のひとつに一人の男が座っていた。

 その周りは何かが暴れたかのように散らかっていて、男の座る椅子と机を除いて、ほとんどの家具が壊れていた。

 そして、その机の上も綺麗とは言えない。雑に注いだせいで机の上はびちゃびちゃに濡れており、その側には原因のお猪口に酒が並々に注がれている。

 

「……………」

 

 男、いや狼鬼はお猪口の中の酒を一気に呑み込む。

 そして、お猪口を雑に机に置いて、狼鬼は自身の変身鬼笛 狼鳴を出す。

 

「クソ!!」

 

 そして、狼鳴を机に叩きつけ、音を立てながら勢いよく床に落ちる。

 此処までこの男が荒れているのは、ある報告(・・)が入ったからだ。

 

 そう幽冥たちが襲撃を掛けた猛士長野支部と猛士静岡支部の壊滅の報告だ。

 

 狼鬼が猛士に所属し修行の末に正式に『八人の鬼』と認められ、この中部地方岐阜支部で戦うようになって5年。

 魔化魍の王が目覚めたことで活発化し始めた魔化魍たちによって壊滅する支部が他の地方支部で起きる中、中部地方を魔化魍から守ってきたと自負するこの男は、初めて聞かされた自分のいる地方支部での壊滅の知らせは狼鬼の心に深く傷を残した。

 

 俺は強くなった。俺の手にかかれば数百年に一度しか現れない伝説の魔化魍だろうと一人で戦える。

 この5年間魔化魍からこの地を、支部本部を守った。だが、壊滅しなかっただけで被害が無かった訳ではない。此処にきて一番酷かったのは5年前。 

 俺が此処に配属された時、この岐阜支部に襲撃を掛けたツチグモの異常種によって支部内のメンバーの半分が死に、死に間際の悪足掻きで猛士と関係の無い民間人は何十人も死んだ。その時に誓った。

 『魔化魍を見つけ次第すぐに殺す、犠牲者を出さないために』と、それを胸に刻みながら魔化魍を殺し続けて5年。この中部地方は守れてると思っていた。

 

 でも、死んだ。

 一緒に魔化魍を清めた戦友も。

 

 新人の頃に世話になった先輩も。

 

 酒を呑んで笑い合った後輩も。

 

 俺を心配し怒鳴ってた支部長も。

 

 魔化魍を討ち滅ぼす誓いを立てた同志も。

 

 俺の手で育てた次世代の弟子も。

 

 みんな死んだ。

 

 目に入ったお猪口に再び酒を注ごうとすると–––

 

「おやめください。体に障りますよ」

 

 後ろから伸びた手がお猪口と瓶を持っていく。

 

「五月蝿え。俺がどうしようと勝手だろう吹舞鬼」

 

 狼鬼の振り向いた先には取り上げたお猪口と瓶を持つ青年 吹舞鬼が立っていた。

 

「やけ酒はいけません。今、魔化魍から襲撃を掛けられたら狼鬼さん死にますよ」

 

「へっ、俺がこの程度の酒で殺せるわけねえだろ。それを返せ」

 

「いけません。ただでさえもこの間、お医者様から酒を控えるようにと言われたばかりなのですから」

 

「俺の酒をどうしようが勝手だろう!! さっさと返せ!!」

 

「いけません………これ以上呑むと仰るのなら実力で止めさせて頂きます」

 

 吹舞鬼は服から変身音叉を取り出すといつでも鬼へ変われるように構え、それを見た狼鬼も地面に転がる狼鳴を拾い、変身できるように口元に持っていく。

 

「……………………」

 

「……………………」

 

 互いに睨み合う沈黙の中、先に声を上げたのは–––

 

「……分かった。降参だ。もう呑まねえよ」

 

 狼鬼だった。

 その言葉を聞いて吹舞鬼も変身音叉を仕舞い、笑みを浮かべる。

 

「良かったです。では、これを片付けますね」

 

 そう言って吹舞鬼はお猪口と瓶を持って部屋から出て行った。

 それを見た狼鬼は倒れてる椅子を戻して、それに座る。

 

「全く、余計な世話だっつの」

 

 口でそう言いながらも、少し笑みを浮かべて狼鬼は思い出す。

 

 あのお節介好きな鬼、吹舞鬼がこの支部に来てもう3年になる。

 初めは随分変わった鬼が来たと思った。そりゃそうだ。

 

 夏だというのに首にマフラーを巻く(・・・・・・・・・)鬼。

 当時はなんて変わり者が来たと思った。此処に来る前は大阪第4支部、北海道第1支部、佐賀支部と転属を繰り返し、この岐阜支部にやって来た。

 最初は使えなければ、何処か別の支部に飛ばす予定だったが魔化魍との戦闘を行った際にその気持ちは無くなった。

 単純にこの男は強かった。これほどの強さを持つ鬼がまだいたという喜びで、俺の片腕として側に起き、過激派の中では上位に食い込むほどの実力となった。

 

 俺と吹舞鬼の力があればヤツ(・・)を殺せる。

 俺が狙うあの魔化魍を殺して初めて、俺は今までの犠牲が無駄では無かったと胸を張って言えるようになる。




如何でしたでしょうか?
後半も無事決着。静岡支部壊滅、崗鬼はチュパカブラに攫われました。そして、ようやく幽冥と共存派が接触することが出来ました。長かった……
次回はそんな共存派の話を書こうかなと思っています。
では、次回もお楽しみに!

ーおまけー
ドクター
【ふむ。今回は私が担当ですか】


【あっしもいるでやすよ】

ドクター
【跳ですか。おや、そちらの方々は?】


【あっしと同じ王に仕える魔化魍とその妖姫でやす】


【初め、まして。俺は、砦】

「は、灰でしゅ、うう〜しひゃ()噛んでゃ()

ドクター
【既に知ってるかもしれませんが、此処ではドクターと呼ばれています】


【有名な、変わり者と、聞いた】

「こら砦、失礼なこと言わないの」

ドクター
【まあ、私自身変わり者は自覚しています。さして気にしていません。
 それでは、今日のリクエストはそちらの御二方から聞きましょう】


【リクエスト? 迷家と、違うのか?】


【そうでやす。ドクターの解説は此方からのどんな魔化魍の解説を聞きたいのかと要望に答えるスタイルでやす】


【ならば、頑丈であり、敏捷性の、高い大型魔化魍】


【今日はあっしは解説を聴く方に回りやす】

「でしたら、砦と同じヌリカベ種の解説をお願いします」

ドクター
【ヌリカベ種で、頑丈で敏捷性が高い大型、ふむ一部違いますが、決まりました。
 今日紹介させて貰うのは、ヌリカベ異常種 アシモギババアです】

「アシモギ、ババア?」


【種族名から、メスのヌリカベが、進化した、異常種か?】

ドクター
【その通り。アシモギババアは、雌のヌリカベ種が『脚収集行脚』という行動をすることで進化する異常種】

「え、えと脚しゅう、ぎ、ううう、まひゃ()、しひゃ()が〜」

ドクター
【言いづらいのでしたら無理に言わなくても大丈夫ですよ。
 『脚収集行脚』とは、ヌリカベ種を除いた魔化魍25種と人間25人の脚を集める単純(シンプル)なことをします】

いひゃいひゃ(いやいや)じぇん(ぜん)ぜん、しんふりゅ(ぷる)じゃにゃ()い」


【質問、脚だけ、なのか?】

ドクター
【ええ。脚だけです。それも生きている者の脚。
 なので、脚を奪ったあとには、傷口を塞いだりしていますね死んだら駄目なので、まあ、人間の場合はそのまま喰らっても問題ないようですが】

ドクター
【アシモギババアの姿はある一点を除いて基本的には同じ姿です】


【一点でやすか?】

ドクター
【そう。海牛のような頭部に、表面が少し(ぬめ)っている大樹の如き身体に、その身体を蓑虫の蓑と藁、メカブやワカメなどの海藻類が混じったような特徴的な体表に覆われています。そして此処が他と違う点です。
 その身体を支えるのは25種の魔化魍と25人の人間から奪った脚で出来た海月の触手のような脚。それがアシモギババア最大の特徴であり、他のアシモギババアとは違う点ですね】


【なるほど、確かに、それなら、違う点、といえる】

「確かに同じ脚を奪うとは限らないからね」

ドクター
【そうです。アシモギババアの脚は必ず同じ物ではないのです。私が知る限りでは50本の脚全てがある種族で統一された魔化魍の脚だったり、その逆の全て人間の脚のアシモギババアもいました】

「25ずつじゃないんですか!?」

ドクター
【基本的は25ずつらしいのですが、正確に言うとしたら50の人間か魔化魍の脚が必要ということでしょう】


【いいかげんでやすね】


【50という、数は、確実か】

ドクター
【そうですね。
 では、解説に戻りましょう。アシモギババアの特徴で挙げられるのは先ず、速さ、敏捷さです】

ドクター
【アシモギババアの脚は解説した通り、50本の脚があります。
 その50本の脚を全て動かしてるのではなく、10本ずつに分け、それらの脚を交代交代で動かしています】


【最大、活動、時間は?】

ドクター
【以前の私のところに治療に来たアシモギババアは最大168時間は休みなしで動けると言っていりましたが、正直当てにはならないでしょうね】

「どうしてですか?」

ドクター
【そのアシモギババア以外にも質問してみたことがあるのですが、あるものは144時間、あるものは72時間、またあるものは192時間と、それぞれ言った時間が異なるのです。それでもどのアシモギババアも72時間以上は走れるということは分かっています】

「72時間も走れる。羨ましいなあ」


【いやいや、そんなに走ってどうするんでやすか?!】


【………灰、まあ、頑張れ】

「ありがとう砦」

ドクター
【次の特徴ですが、頑丈な身体と言いたいですが、アシモギババアは頑丈ではありません】

「え、頑丈じゃないんですか!?」


【しかし、頑丈な、体質に、似たなにかが、ある?】

ドクター
【砦の言う通り、アシモギババアの体質は頑丈というより硬軟です】

「硬軟?」


【硬くて、軟らかい、読んで、字の如し】

ドクター
【アシモギババアの身体は太い幹の大木のように硬いようで、軟体類のように妙な軟らかさがあり、おまけに身体の至るところから体内の水分を逃さないように粘液と体表で覆っている為に、ヌメヌメしています。
 そして、その特徴的な体質によってアシモギババアは音撃武器に対して僅かながら耐性があります】

「鬼の音撃武器が効かないんですか?」


【それは違いやすね灰。効かないのではなく耐性といっておりやすから】

ドクター
【跳の言う通り、より正確に言うのならば、粘液と体表によって音撃棒や音撃弦は当てられたとしても滑って攻撃がまともに入りづらく、音撃管の空気弾は硬軟体質の身体でダメージがありません】


【なるほど、だが、弱点は、見えた】

「え、そんな凄そうな身体なのに弱点あるの!?」

ドクター
【では、その弱点とは?】


【おそらく、乾燥だろう。あとは、鬼の鬼炎術とかか】


【追加で言うのなら、あっしら魔化魍の場合は、赤の属性の魔化魍とそれに連なる炎系の術ってところでやしょう】

ドクター
【そのとおり。アシモギババアは乾燥、そして炎系の術とそれに連なる技が弱点です。
 炎によって粘液と体表が乾かされ、さらに体内の水分も減らされるので、アシモギババアは著しく弱体化します】

「そんな強そうな魔化魍でも弱点ってあるんだね」

ドクター
【弱点はどの魔化魍に必ず存在します………………………… 絶対的な無敵なんてあり得ない

「え?」

ドクター
【いえ、なんでもありません。で、どうでした解説は?】


【参考と、なった。俺は、性別的に、無理だが】

「私もアシモギババアのように強くならないとって思った」


【ドクターの話は色々と学ばせてもらってやす。次も楽しみでやす】

ドクター
【それは良かったです。では、今日は此処までです。またの機会にお会いしましょう】
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