はい。中部地方支部との戦いも大詰め。今回は幽冥たちのいる狼鬼たちの南口での戦闘回です。
そして、申し訳ございません。あまりにも長くなりそうになったのでこの話と次話の前後編にさせていただきます。
では、どうぞ!!
「さあ、開戦です!!」
鈴音
【開戦だニャ!!】
幽冥と鈴音の号令により背後に控えるように待っていた魔化魍たちが一斉に動き出して、狼鬼以外の周りの鬼や天狗、無銘たちを連れていく。
「なっ! くそ!!」
狼鬼は連れてかれた仲間を心配するも視線をすぐにこっちに戻す。
「舐めた真似してくれたじゃねえかクソ魔化魍ども!!」
狼鬼は腰にある音撃
「クソ猫と噂の魔化魍の王か。丁度いいな、テメエらを殺せば少しは魔化魍共が大人しくなるかもしれねえな。大人しく首を差し出せば優しく殺してやるよ」
それを聞いた幽冥はプッと吹き出す。
「あ? 何がおかしい!?」
「ふふ、それってジョークですか? あまり強がらない方がいいですよ。弱く見えますから」
鈴音
【ニャンの仲間たちをよくも殺してきたニャ。みんなの仇を討たせてもらうニャ】
「仇だ? オメエら魔化魍だって仲間を殺し、何十、いや何百もの人間を喰ってるじゃねえか。たったか数体のクソ魔化魍が死んだくらいでガタガタ抜かすんじゃねえ!!」
この発言を聞いた私は抑えようと思っていた怒りがどんどん膨らんでいくの感じた。目の前にいる狼鬼について、この戦いの前に同盟を結んだ共存派の鬼である診鬼こと神通さんから色々聞かせてもらった。
恋人と家族を鈴音に殺されてその復讐に燃える鬼。幼体の魔化魍を人質に妖姫を坂鬼という鬼や無銘に辱めさせたり、マトモに動けない無抵抗の魔化魍を惨殺、使えないと分かった人を囮にした非道な作戦。聞けば聞くほど魔化魍よりも悪逆無道な鬼だと思った。
もう、この鬼とは口を聞きたくない。今すぐにでもその舌を斬り落として、その汚い言葉を吐く口をニ度と開けないようにしてやる。
隣の鈴音に視線を送れば、鈴音はそれに気付き頷く。
「もう口を開かないでください。あなたはいや、お前はここで殺す!!」
鈴音
【そうニャ。その口2度と開かせないニャ】
「上等だ!! やれるモンならやってみやがれ!!」
幽冥と鈴音の言葉に反応して狼鬼が駆ける。その姿を見た幽冥と鈴音も臨戦態勢に入る。
そして今、幽冥と鈴音の狼狩りが始まった。
SIDE赤
王の指示と共に昇布と共に飛び出し、狼鬼の背後にいた鬼の1人を連れていく。
昇布が鬼を捕まえると同時に私は昇布の身体に掴まり、そのまま空へ昇っていく。
「つ、離せ!!」
鬼は背にある音撃弦を短く持つと、その刃で昇布の腕を斬りつける。
フシュルルルルルゥゥゥ
深くはないが浅く腕を斬られて、昇布は鬼を離してしまう。
鬼は下へ落下していく。それを見た私も昇布の身体を掴んでいた手を離して、鬼を追いかける。
昇布から逃げた鬼は既に着地しており、音撃弦を落ちてくる赤に向けて突き上げる。
「はあ!!」
赤はそれに合わせて十字槍を音撃弦に向けて突き、それぞれの獲物はぶつかり合い火花を散らせる。
「はあああ!!」 「ふん!!」
互いの攻撃の衝撃を利用して離れた赤と鬼。
赤の背後には空から降りてきた昇布が身体をうねらせながら飛んでいる。
「水棲系の魔化魍の妖姫とシロウネリですか……………確か、北海道でアマビエを守っていましたよね」
昇布
【っ!?】
「お、その反応ということはビンゴですね。いやいや魔化魍は多いので覚えるのが大変なんですよね。ははははは」
まるで親しい友達に話しかけるように軽い口調で話しかける鬼に私は心で悪態をつく。
この日本全国に存在する魔化魍の情報は数多い。それの中から見た魔化魍が何処で何をしていたのかと答えるこの鬼は明らかに危険だった。そして、鈴音から教えられた情報から目の前の鬼の名前を思い出す。
「鈴音から聞きました。確か記憶力が凄い鬼がいると名前は幹鬼」
「お、俺の名前を知ってるってことはネコショウに教えられたのか?」
猛士中部地方石川支部所属の幹鬼。
音撃弦を使って魔化魍と戦うベテランに位置する鬼。特筆すべきことは記憶力である。
全国に発生した魔化魍の事件、それに関わった魔化魍の情報を暗記してその情報を元に魔化魍を特定する鬼だ。
鈴音曰く、長期戦になればなるほど厄介な鬼だそうだ。
ならば、やることは簡単だ。
「(速攻でこの鬼を倒す)」
赤は十字槍を構えて、幹鬼に迫る。
「へえ、俺と槍で戦うの? じゃあ情報不足だね」
幹鬼も音撃弦を水平に持ち、そのまま赤に向かって突っ込んでくる。
そのまま迫りつつある両者。だが、赤は音撃弦が届くギリギリの距離に着くと、十字槍で地面を薙ぐ。
十字槍は地面を削り、その破片が幹鬼の面を覆う。
「ぬお!! ぐほっ!」
突然、目の前が真っ暗になり動きを止めた幹鬼の胴に十字槍の石突がめり込む。
だが、幹鬼は胴に入った十字槍の柄を掴む。離れようとした赤はそれによって動きが止められ、幹鬼は音撃弦を大きく振るう。
「ぐう!」
面に覆われた土でよく見えないはずの幹鬼に赤は浅く腹を斬られる。
柄をまだ掴む幹鬼は追撃のために再び音撃弦を振るう。
フシュルルルルルゥゥゥ
「なっ!! ちぃいいい!!」
だが、それは失敗する。
この場にいるのは赤だけじゃなく、昇布もいる。共に波音を守ってきた仲の2人。
そんな赤のピンチから救うために昇布は幹鬼の身体に体当たりするが、鳴き声が近くに聞こえたことで昇布の接近を察した幹鬼は十字槍の柄を離して、後ろへバックステップする。
昇布
【大丈夫か赤?】
「ええ。ありがとう昇布」
昇布の視線の先には面を拭って土を落とす幹鬼がいた。
「まさか、あそこで急に土で目隠しを行うとは、これは妖姫たちの脅威度を修正するべきですか?」
「そうね。次があるのだったらそれで良いんじゃない。次があるのならね!!」
「ええ。そうさせてもらいますよ。あなたたちを倒してからね!!」
幹鬼はバックルに嵌めていた音撃震を音撃弦の窪みに嵌め込む。
それを見た赤は昇布に目を合わせる。
フシュルルルルル
昇布は赤の考えを察し、赤の目の前に移動してまるで壁のようにその場で立ち塞がる。
「いい的じゃないですか!
幹鬼が音撃震を鳴らすとそれに合わせて、鳴った音が宙で球を生み出していく。
それはどんどん増えていき、増えていくにつれて幹鬼は激しく弾いていく。そして、演奏の終わりともいわんばかりに激しい音が鳴ると、宙に浮かんでいた無数の球は不規則な軌道を描きながら昇布の身体目掛けて飛んでくる。
幹鬼の音撃は音撃震を鳴らした振動で発生した清めの音を球状にして宙に停滞させ、無数の清めの音の球を魔化魍に放つというものだ。それ自体に大した威力はなく。せいぜい魔化魍の足止めなどに多用され、仲間が本命の音撃を魔化魍に浴びせる。
しかし、どんなに小さな傷でもそれが積もれば大きな傷となり無視することはできなくなる。
そんな幹鬼の音撃を何度も受けている昇布の白い身体は既に傷だらけ。だが、昇布はその音撃を避けずにその身で耐え続ける。何かを待つように。
フシュ、ルルルル……
「ありがとう昇布。後は私に任せて、上に行きなさい」
昇布の背後で準備を終えた赤は、昇布にそう告げると昇布はその指示に従って上へ飛んでいく。
そして、昇布が居なくなった後に見えるのは、真っ赤な炎に包まれた穂先の十字槍を構えた赤だった。
ここで思い出してほしい。赤はクラゲビの妖姫だ。
クラゲビ自体、触手の先に炎を灯しているが、実はクラゲビの妖姫も触手から炎を放つことができる。
そんな赤が昇布に頼んだのは、時間稼ぎだ。赤の武器である十字槍を自身の炎で強化するために赤は危険な時間稼ぎを昇布に頼んだ。もしもこれで断られたとしても文句はなく別の技を使おうとしたが、昇布の任せろという眼を見た赤はそれに答えるために時間稼ぎを昇布に任せた。
「さあ、この槍を受け止められるなら、受け止めてみなさい!!」
赤は十字槍の柄を強く握りしめ、前にいる幹鬼に合わせる。
「なめるなああああああ!!」
音撃弦を構え、必殺の音撃が再び掻き鳴らされる。
さっきまでいた昇布は既に居ない。妖姫とはいえ音撃を受ければひとたまりもない。だが、赤は焦ることなく、槍の穂先を幹鬼に合わせることに集中していた。そして–––
「はああああ!!」
狙いが定まった赤は勢いよく十字槍を幹鬼に向けて投擲する。
途中、幹鬼の音撃の球が飛んできていたがそれらを貫いて破壊していく。
そして、灼熱に染まって投擲された十字槍は幹鬼の中心を穿ち、十字槍はそのまま地面に落ちて深く突き刺さる。
「がふっ、す、すみません狼鬼さん」
胸に大きな穴を作った幹鬼はそのまま前のめりに倒れてそのまま事切れる。
それを見た昇布はそのまま地面に降りて、赤は十字槍の方へ歩いていく。
「昇布、すみません。無茶をさせて」
謝罪の言葉を述べながら赤は地面に刺さった十字槍を引き抜いて仕舞い込む。
昇布
【気にするな。お前のおかげで鬼を倒せたんだ。このくらいの傷はそう大したことじゃない】
「ありがとう昇布……………では、戻りましょう。私たちの王のもとへ」
赤は昇布の背に乗ると昇布は身体をうねらせながらそのまま空へと昇っていく。
王の安否の確認のためにその場から去るのだった。
SIDEOUT
SIDE美岬
幽の発令で動いて私たちが連れ出したのは狼鬼の傍にいた
幽のいる場所から離れた場所に連れ出しそのまま家族ごとに分かれて鬼たちの相手をする。
美岬
【せやあああ!!】
私を認めた
「魔化魍は清める」
鬼は素早くサイドステップで後ろへと逃げ、音撃管を撃つが
単純な攻撃力だけでなく、10度打ち合えばその武器を壊し、壊した武器の一部の能力をその刀身に宿すという反則に近い能力を持つ。おまけにその能力はストックするのではなく刀自体に宿るため許容がない。無限に強化される刀だ。
だが私の目の前で戦う鬼は音撃管を使う鬼だ。
管系の音撃武器の放つ空気弾は
だが、認められた武器の力を試したくなるのは刀を使う者の
ふと、周りがどうなったのか気になった私はチラリと他を見ると他の家族の姿が見える。
左には上半身と下半身が氷に覆われて砕かれた無銘とその近くに氷で作り出した台の上に座る単凍。
奥にはバラバラにされて血の海に沈む2人の無銘とその死体を踏みながら鎌についた血肉を掃除するように舐めて肉片を喰らう天鏢。
そのすぐ後ろでは大尊が口をもぐもぐと動かしている。その口から覗くのは血に染まった無銘の腕だ。だがそれもどんどん大尊の口の中へと消えていく。
その上にいる簪を咥えた舞は髪で2人の天狗の首を絞めている。いや、1人の天狗の首は明らかに人体を超えた曲がり方をしている。そして、もう1人の天狗の首も今、捻るように折られた。簪の舞から少し離れたところで手鏡と櫛の舞たちは天狗の持っていた戦輪獣をそれぞれが解体するかのように滅茶苦茶に壊している。
既に私が戦う目の前の鬼以外は全滅している。
確かにこの戦いに参加する覚悟は持っていたのだろう。だが無謀だった。相手の力量が分からずにいたずらに命を落としたとしか言えない。
しかし–––
「魔化魍は清める。魔化魍は清める。魔化魍は清める。魔化魍は清める」
私の姿を視認するなり同じことを壊れたラジオのように繰り返し呟く鬼。
音撃管の空気弾を撃ち続けているという長距離からの音撃管を使った手本のような戦い方をする鬼。だが、私の眼にはその様子がチグハグに映る。
まるで、無理やりその戦い方を強要させて本来の戦い方とは異なるように見える。
美岬
【………】
「魔化魍は清める。魔かも……」
しかし、戦いを長引かせて幽の身に何かあってはいけない。
早急に終わらせるために音撃管を撃つ鬼に接近して
そのまま幽の元へ向かおうとすると、いつの間にかそばに居た単凍が私の肩を掴み動きを止めた。
美岬
【どうしたの? 早く幽を助けに行かないといけないのに】
単凍
【美岬、こいつ生きてるぞ】
美岬
【え?】
私が死体と化したはずの鬼を見ると、おかしな光景が見える。
首を胴から斬り落としたはずなのに首は呼吸をして、胴はその呼吸に合わせて体を上下させる。
普通の人間ならあり得ない光景だ。
美岬
【魔化魍、しかもクビナシだったとはね】
美岬は倒れる吹舞鬼の正体に気付く。
デュラハンという首がない人型魔化魍の異常種の魔化魍がいる。
首と胴が離れたこと以外、見た目はほぼ人間と変わらない人型の魔化魍で、目視が難しい中距離攻撃、どんな状況だろうと対応できる状況適応力とそして数多く存在する魔化魍の種の中でも数少ない音撃に対する絶対耐性を持つ魔化魍だ。
そう音撃が効かない魔化魍。魔化魍に対する絶対的な弱点である音撃が通じないという魔化魍なのである。
まあ、完璧に弱点がないというわけでも無いが、それは別の機会に話そう。
倒れてるクビナシを見て、思い浮かんだのはあの男の顔だ。
おそらく、いや確実にあの男が関わってるのだろう。それならば–––
美岬
【単凍、何か縛れるもの無い?】
クビナシは間違いなくあの男によって何かされた筈だ。それを解くことが出来れば幽の家族を増やせるし、幽が喜ぶかもしれない。
単凍
【じゃあ、こいつでどうだ?】
単凍がそう言って空間倉庫から取り出したのは、刀なのかと疑問を浮かべるような武器だった。
単凍
【拘束、捕獲といった獲物を傷付けず捕らえる為に造ったものだ。銘は
それは柄だけを見れば刀と判断出来るが肝心の刃部分が異常だった。
どうやって鞘に収めてたのかは分からないほどの長さと薄布のように薄い刀身。メタいことを言うなら前世で見ていた某鬼狩りの柱の1人が使っていた刀と似てると言えるだろう。
単凍
【うん? どうした?】
美岬
【いや、なんでもないよ】
単凍
【じゃあ、こいつを縛るか】
単凍はそう言うと、
ビュンビュンと空気を切る音が鳴り、単凍が大きく腕を振るうと伸びた刀身が地面に転がるクビナシに向かう。
美岬
【どうなってるの? それ?】
そう言ってしまうのはしょうがないと思う。
どういう原理か不明だが、伸びた刀身はクビナシの身体にグルグルと巻き付いていて、もしもクビナシが目を覚ましたとしても身体は完全に動かすことはできないだろう。
取り敢えず、クビナシの身柄を確保したのを確認した私はクビナシを単凍たちに任せて幽の元に向かうのだった。
そして、私は気づかなかったがひとつの影がその場から離れてある場所に向かっていた。
SIDEOUT
SIDE常闇
「さあ、開戦です!!」
鈴音
【開戦だニャ!!】
「何これ、む」
そんな号令と共に何処からともなく赤い霧が発生して鬼の1人に纏わりつくと、鬼の身体を宙へと持ち上げて何処かへ連れ去る。
赤い霧に連れ去られる鬼は赤い霧の中で霧から逃れようと音撃棒を振るうも実体のない霧を散らせることしか出来ず、それでも音撃棒を振るって足掻く。やがて鬼の身体が地面に降りると赤い霧が鬼の周りから離れていく。そして遠くの場所で赤い霧が一ヶ所に集まっていく。
赤い霧の中から巨大な蝙蝠の翼が飛び出て、それが霧を中に包み込むように閉じる。
そして、翼が開くと中から出てきたのは頭頂部に蝙蝠の耳を生やし、全身タイツにも似た真紅の衣装とほのかに赤い霧を身に纏い、手に長槍を携えた常闇が現れる。
王と鈴音が狼鬼の相手をすると聞かされ、周りの鬼たちを相手することになり、私が連れて行ったのはかなり変わった姿の鬼だ。
左右対称の音符マークが描かれた鬼面、音符の符尾を模した捻れた角を左側面に生やし、音楽の演奏で立つ男性指揮者が着るような服に似た黒い鎧、腰には金の刺繍がされたロインクロスが巻かれた鬼だ。
確か名前は–––
常闇
【指鬼だったか?】
「そう。僕が指鬼だ、よっ!!」
鬼が自己紹介と同時に音撃棒で刺突を行う。
常闇
【はっ!】
常闇もそれに合わせて槍を前に出して、指鬼の刺突に合わせる。
音撃棒と槍は互いにぶつかり火花を散らす。
指鬼は音撃棒を引くと水平に構えながら連続で刺突攻撃を繰り出す。
常闇は赤い霧を何も持っていない片手に集めると霧は短槍へと変わり、指鬼の刺突を短槍で巧みに防ぎ、もう片方の長槍で指鬼を攻撃する。それに対して、指鬼は片手から伸ばした鬼爪を使い、致命となる傷のみを防ぐも常闇の攻撃によって少しずつ身体を削られていく。
数度の短い攻防の中、常闇はあることに気づく。
そう。鬼が持つ音撃棒の形状ともう1つある筈の音撃棒がないということに。
猛士中部地方富山支部所属の指鬼の使う音撃棒は従来の音撃棒とは違う。
本来の音撃棒は太鼓のバチを模した打撃と斬撃を可能とする双剣のような武器だ。だが、指鬼の音撃棒は指揮者の持つ指揮棒を模した
従来の音撃棒との区別のためにこちらは音撃
これは刀身を通る空気の振動を清めの音に変え、それを刀身に纏わせることで斬りつけた魔化魍に清めの音による裂傷を与える。さらに刀身に纏われた清めの音を演奏のように振れば音符型の音撃へと変わり中距離からなら音撃として攻撃できる。
常闇は長槍を防御に変えて短槍の攻撃に切り替える。
刺突だけでなく薙ぎ払いも混じり、指鬼の鬼爪はその攻防で根本からボキリと折れて、根本からは血が流れる。
指鬼も負けじと音撃
「ぐぅ!!」
指鬼の限界に気付いた常闇は防御に使っていた長槍も攻撃に回し、攻めの勢いを増す。
1つの槍ですら負傷していた指鬼は2本の槍の猛攻によってどんどん怪我を増やしていく。
「うっ! があああああ!!」
常闇は短槍を指鬼の脚に向けて投げると、短槍は指鬼の脛を貫いて地面に縫い付ける。それで体勢を崩した指鬼は持っていた音撃
「あああああああ!!」
急いで拾おうとした瞬間、指鬼の手には赤い短刀が突き刺さり指鬼は痛みに悲鳴を上げる。
痛みに耐えながら指鬼が視線を向けると長槍を持った常闇がゆっくりと近づいてくる。
そして、指鬼の近くに立つととどめを刺そうと長槍を向け、そのまま指鬼の心臓を貫こうとしたその時–––
【待って!!】
ひとつの影が常闇の動きを止めた。常闇は声の主の方に顔を向けると意外な家族がそこにいた。
常闇
【大尊か?】
大尊
【そいつ……を、ふーー殺すの、はーーちょっと待って】
現れたのは美岬のいた場所から駆けてきたのか少し疲れながらも常闇が鬼を殺すのを止める大尊だった。
突然、現れた常闇は長槍を指鬼に向けたまま大尊に話しかける。
常闇
【なぜ止める。過激派の鬼は生かしてはおけん】
大尊
【ちょ、っと待って。その鬼と、ふー、ふー話がしたいの】
常闇
【なに?】
大尊の言葉に常闇は眉を顰める。
なぜ、そのようなことを言うのか? それよりもこの鬼をさっさと始末しようと長槍に力を込めようとすると次の大尊の発言に常闇は完全に動きを止める。
大尊
【下手すると、王が死ぬかもしれないんだよ!!】
その言葉は完全に常闇の動きを止める。
常闇
【どういう意味だ?】
指鬼に向けていた筈の長槍が大尊に向けられる。
大尊はそれに気にせずに喋る。
大尊
【もしも、そいつが私の予想してる通りことになってるのなら、そいつを殺しちゃいけない。だから殺すの待って】
普段、自身のこともあまり語らず秘密が多いこいつがここまで言うのはかなり珍しい。ならば–––
常闇
【よかろう。少しだけ話してもよい。もし、その鬼がお前の杞憂ではなければ即殺す。それで構わないか?】
大尊
【うん。ありがとう常闇】
私の許可を得て、大尊は鬼に近付いていく、鬼は先ほど落とした音撃武器を拾い、近づく大尊に向ける。
大尊
【………お前、契約してるんだろ。その様子からして20か53のいずれかってところ】
「あの方を知ってるんですかっ!?」
大尊の言葉に鬼は驚き、その質問に答える。
大尊
【あの方ってことは…………53か、あいつとは知り合いみたいなもんだよ】
「そうですか。それでは何故止めたのですか? あのままでしたらあなたのお仲間に貫かれて憎き敵を殺せるというのに」
鬼の言うことも最もだ。
だが、大尊の様子からしてそれがマズいのだろう。
大尊
【ただの鬼だったらそれで良かったけど。お前は別、53は契約者を殺されたりすると全力で殺した相手を殺しにくる。おまけにそれと親しいものも巻き込むことが多い、それで王が巻き込まれる訳にはいかないし、何よりあいつとはなるべく戦いたくないんだよ】
なるほど。
私がもしも、あの鬼を殺せばその報復として私を殺しにきて、それに王が巻き込まれるかもしれないという訳か。それならば大尊が必死に私を止めようとするわけだ。
「それでどうするつもりですか?」
鬼は音撃武器を既に下ろして大尊に質問する。
大尊
【……………見てるだろ53。私も常闇もお前の契約者には手を出さない!! どうせ部下に監視させてるんだろう。さっさと契約者を回収しにこい!!】
突然、大尊が顔を上に上げながらそう叫ぶ。
私も鬼もその行動に唖然としていると–––
【困りますね】
何処から声が響く。
常闇
【っ!!】
いつ間にか鬼の側に全身を追い隠せる黒のローブを羽織ったモノが立っていた。
【あまり、
大尊
【五月蝿い、やっぱりいたか。久しぶりといえばいいの?】
【お久しぶりに………なりますかね。しかし貴女が今の王のところにいるのはどういうことですか? 貴女はあの戦いの後、忽然と姿を消した。当時の
そこに書かれたのは貴女の生存と8代目と契約を交わしたということ】
【
大尊
【あれ、もしかして寂しかった?】
【いえ別に。ただ、貴女の子飼いが煩かったのですよ】
大尊
【それはごめん】
【兎に角、貴女の生存を知ってるのは
大尊
【そう。だったら早くそいつを連れてってよ。誤魔化しも忘れずに】
【ええ。では、またいつかお会いしましょう。Au revoir】
黒ローブが倒れている鬼を抱えると霞のようにその場から消える。そして、その場には鬼の持ち物であろう折れた変身音叉が落ちていた。消えていくのと誤魔化しを確認した大尊は何事もなかったかのようにのしのしと歩き始める。
常闇
【おい】
だが、そんな大尊を常闇が呼び止める。
呼び止めると同時に大尊の喉元には常闇が向けた長槍の穂先がギリギリ届く位置に置かれる。
常闇
【お前、何を隠している?】
大尊
【……………】
今、思えばこの魔化魍には謎が多すぎる。
先ず、普段から掛けている縮小の術。日常的に掛けているのは土門も一緒だが、あやつの場合は身体を小さくする理由がある。だが、こいつは日によって身体の大きさはバラバラだ。
次に以前の九州地方で家族となった渦潮との何かの話し合い。その戦いは幻術で誤魔化されていたそうだがある程度の実力を持つ者たち、側で食事をしていた水底は幻術に騙されずその光景を見ていたが、何も言わなかったようだ。
そして、今のやりとりだ。今現れた魔化魍とはまるで親しい友人と話すような雰囲気を感じた。あの黒フードは大尊が生きていることを知っているのは、と言っていた。
過去のことに関してとやかく言うつもりはないが、流石に王に害する可能性もある。もしも、そうだったのなら。
大尊
【……………今は話せない】
常闇
【なに?】
大尊
【いつかは話す。でも私は王の敵には絶対にならない】
常闇
【それを信じろと?】
大尊
【別に信じなくてもいい。私はシュテンドウジとの契約があるから】
常闇
【契約だと?】
契約と言った。ということは奴の正体は!?
常闇
【お前、まさか!?】
大尊
【常闇……それ以上は】
…………ふむ。これ以上言っても何も喋らないだろう。このことは一応、白たちに話すべきだろうか。
いや、辞めておこう。知ってる者は少ない方が良さそうだな。
常闇
【では戻るか】
大尊
【うん】
そう言った私は長槍を消して、大尊と共に王のいる場所に向かう。
如何でしたでしょうか?
前書きにも書きましたが本当はこの回で南口戦闘回を終わらせようと思いましたが、次話まで伸びちゃいました。次の話の後に1、2話を入れて鳥獣蟲宴編を終了しようと思います。因みに待狆穴子のモデルは某鬼狩りの恋柱の刀を常闇の姿は師匠の服装の真紅ヴァージョンをイメージしてます。
大尊の正体は察しがいいお方は多分気づいてますよね。
次回もお楽しみにして下さい。
ーおまけー
迷家
【僕の名前は迷家。今、新しい家族に質問しようとしている非戦闘系補助タイプの王の家族です】
鈴音
【なんニャ。その自己紹介的な挨拶は?】
迷家
【なんか、電波ていうかバグというか、そんなのが頭に送られてきて】
鈴音
【そうかニャ】
迷家
【じゃあ、改めておまけコーナー始まるよ〜】
鈴音
【始まるニャ】
迷家
【では早速質問しようかな】
鈴音
【どうぞニャ】
迷家
【じゃあね。鈴音が外道を狙うようになった理由を聞きたいな】
鈴音
【……………】
迷家
【あれ? もしかして聞くの不味かった?】
鈴音
【あ、ああ。大丈夫ニャ。ちょっと昔を思い出しただけニャ】
迷家
【無理そうなら話さなくても大丈夫だよ】
鈴音
【大丈夫ニャ……………ニャンは昔、とある花魁の飼い猫だったのニャ】
迷家
【へえ〜鈴音は、そっちの生まれなんだ?】
鈴音
【…………あまり言いたくないけど、それはあまり言わない方がいいニャ】
迷家
【分かってるよ。鈴音ならあまり気にしなさそうだからね】
鈴音
【とにかくニャ。ニャンは花魁に飼われてた猫だったニャ。ニャンの飼い主の花魁はそれは美しく、女だろうと魅了する魔性の女ともいうべき人だったニャ】
鈴音
【ある時、花魁に身請けの話がきたニャ】
迷家
【みうけ?】
鈴音
【まあ簡単に言うなら、男が遊女を選んでその遊女に見合う金と借金を払って自分のものにすることニャ。だけど、花魁はその話を断るニャ】
迷家
【なんで? みうけされれば少なくても遊郭からはに出れるんでしょ】
鈴音
【花魁には好きな幼なじみがいたのニャ。だからちゃんと働いたお金で遊郭から出ようとしたのニャ】
鈴音
【花魁はいつも仕事を終えるとニャンに幼なじみのことを話してくれたニャ。あの笑顔は忘れないものニャ。そして、ある時–––】
鈴音
【花魁は殺されたニャ。あと少しでお勤めを終えて、幼なじみと結ばれるところまで来た時だったニャ】
鈴音
【花魁を殺したのは、花魁を身請けしようとした商人の息子だったニャ。自分の身請けを断った腹いせに殺されたのニャ】
鈴音
【ニャンはその光景を見てたニャ。そして、ニャンを見つけた花魁はニャンを逃してくれたのニャ】
鈴音
【その直ぐ後に花魁の死が幼なじみの耳に入ったニャ。それで部屋から移された花魁の死体を見て駆け寄り花魁の死体を抱えて泣いてたニャ】
鈴音
【ニャンはその時、自分を恨んだニャ。下手人が分かってるのにそれを伝える術がないと、ニャンはその場を離れて花魁がいた部屋に向かったニャ】
鈴音
【花魁の持ち物だった着物の前に行くと、突然の睡魔に襲われたニャ。ニャンは眠気に抗えず、そのまま眠ってしまったニャ】
鈴音
【次に目を覚ました時、ニャンはこの姿になっていたニャ】
迷家
【え? ちょっと待って。鈴音ってバケネコの姿を飛ばしてその姿だったの!?】
鈴音
【そうニャ。続きは話したいところだけど、今回はここまでにするニャ】
迷家
【えええええ!! ここまで聞かせておいて!? 続き聞かせてよ〜】
鈴音
【長い話だからニャ。続きは次のコーナーの時に話すニャ】
迷家
【ぶううう。ちぇ、分かったよー。続きは次のおまけコーナーで話してもらうからね】
鈴音
【分かったニャ】
ー次回のおまけコーナーへ続くー