人間だけど私は魔化魍を育て、魔化魍の王になる。   作:創夜叉

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本当は前話で終わらせるつもりだった狼鬼の戦闘回と一部察しの良い方は気付いていられるかもしれませんが、あるキャラが実はな展開です。
ではどうぞ!!



記録百弐拾弐

 9代目魔化魍の王 幽冥と幽冥の家族と中部地方の8人の鬼 狼鬼と狼鬼率いる過激派の鬼との戦いも、終わりが近づいていた。奇襲を掛けた各班に対して逆奇襲を掛けて次々勝利している幽冥の家族。

 残すは、幽冥と鈴音が相手をする狼鬼のみだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 3人が戦いを始めてどれほど経っただろうか。

 幽冥と鈴音は着ている服の一部や裾が切られて内側の肌が少しのぞいてたり、身体の至る所には小さな傷があった。一方、狼鬼も目立つほどでは無いが、鎧の所々に凹みや罅があったり、戦いで使用した鬼爪は半ば砕けている。

 

「はあああ!!」

 

 魔歴王闘法(まれきおうとうほう)を使い、イヌガミの俊敏な脚とユキジョロウの氷の能力を併用して戦う幽冥と狼鬼。

 足元を凍らせて狼鬼の機動能力を奪おうとするが、狼鬼はそんな足場など構わずに幽冥に近付き、音撃縦笛(リコーダー)で軌道が読めない連続攻撃で幽冥を苦しめる。

 

「ぬぅうう」

 

 見た目的にそこまで大きくない音撃武器の筈が幽冥は狼鬼に押されていた。だが、狼鬼は音撃縦笛(リコーダー)を横なぎに振って幽冥を遠ざけると、鈴音に向かって走り出して音撃縦笛(リコーダー)を振り下ろす。

 だが、鈴音は手に持つ稲穂で狼鬼の音撃縦笛(リコーダー)の一撃を防ぐ。

 

「ちっ! なんだ、そのふざけた草は!! 音撃武器とやり合える草なんて巫山戯てるのか!!」

 

鈴音

【その音撃武器が鈍なんじゃないのかニャ!】

 

「そんな馬鹿な話があるか!!」

 

 稲穂と音撃縦笛(リコーダー)が鍔迫り合っていると鈴音の脇から炎が飛んでくる。

 狼鬼は自身に向かってくる炎に気付くと、狼鬼は地面に急にしゃがむ。狼鬼がしゃがんだことで炎は通り抜け、狼鬼がしゃがんだことで鈴音の体勢が崩れる。それと同時に狼鬼はしゃがんだまま後ろへ下がる。

 

「ちっ。さっきとは姿が違うな」

 

 狼鬼の視線の先にはフグルマヨウヒの力を使う幽冥が札を構えて立っていた。

 

「ふん」

 

 幽冥が札をばら撒くと札は色取り取りの鳥が狼鬼に向かっていく。

 

「そんな小手先の技が通じるか!!」

 

 狼鬼が音撃縦笛(リコーダー)を振るうと、音撃縦笛(リコーダー)の柄が伸び、向かってくる術を切り裂いて、突き壊す。

 音撃縦笛(リコーダー)は短剣より長く槍短いと言う中途半端な長さの音撃武器だが、それは敵を油断させるため。音撃縦笛(リコーダー)の柄下にある捻りを捻ると、中の留め具が外れて音撃縦笛(リコーダー)は長槍の如き長さの音撃武器となる。

 

「ほんと、音撃武器ってかなり変なのが多いね!!」

 

 幽冥は再び、札をばら撒く。だが、同じことだと狼鬼は同じように音撃縦笛(リコーダー)を振り回して幽冥の術を壊していく。

 狼鬼は音撃縦笛(リコーダー)の石突となった柄下を地面に勢いよく当て、長くなったことでしなりを得た音撃縦笛(リコーダー)。その反動を利用して移動する狼鬼に目を見開く幽冥。そして、それにより動作が遅れた幽冥は左腕が音撃縦笛(リコーダー)に穿たれる。

 

「ぐうぅぅ!!」

 

「逃すかあああ!!」

 

 穿たれた左腕を抑えながら後ろへと下がる幽冥をさらに追撃を掛けようとする狼鬼。

 だが、それを許さない者がいた。

 

鈴音

【させるかニャ!!】

 

 王の危機を察する鈴音が手に持つ稲穂から複数の術を放ち、幽冥を追う狼鬼に向かっていく。

 

「あああ、ネコショウ(クソ猫)があああ!!」

 

 幽冥(魔化魍の王)へトドメをさせると思った狼鬼は邪魔をされた怒りに吠えて、鈴音にディスクアニマルをディスク形態の投げる。

 鈴音は飛んできたディスクアニマルに稲穂を振り下ろすと、ディスクアニマルは粉々に砕ける。

 

 鈴音は稲穂を持っている手とは反対の手から爪を伸ばすと、幽冥に近付く狼鬼へ飛びかかる。

 

「ぐうう! 退きやがれえええ!!」

 

 狼鬼は音撃縦笛(リコーダー)の柄で鈴音を爪を防ぐと、しなりを利用して鈴音の攻撃をずらし、音撃縦笛(リコーダー)を勢いよく振るう。

 

「なっ!!」

 

 だが、振るったそこには幽冥も鈴音も居らず、狼鬼が周りを見渡せばすぐに2人は見つかる。

 音撃縦笛(リコーダー)の攻撃が届かない場所に幽冥の身体を抱えている鈴音が立っていた。

 

「何度も何度も邪魔をして、おとなしく死ねばいいんだよクソどもが!!」

 

 だが、そんな狼鬼の言葉を無視して鈴音は幽冥に話しかける。

 

鈴音

【王、大丈夫かニャ】

 

「大丈夫とはちょっと言いずらいかな」

 

 幽冥は穿たれた左腕を見ると、大きな穴があり、そこから流れ出る血と僅かにのぞく白いものが見えていた。

 

「これじゃフグルマヨウヒさんのあの技が試せない」

 

鈴音

【あの技かニャ?】

 

「そう。あんな鬼を1発で倒せちゃうくらい凄い術!! だけど」

 

 そう言って幽冥は自身の左腕を見る。まともに動かない左腕に幽冥は苛立っていると–––

 

【いいえ。手はあります】

 

 突然、私の頭にフグルマヨウヒさんの声が響く。

 

「手はあるって」

 

【そもそも、あれは私ひとりでやったことではありません。私の仲間の力のお陰なのです】

 

 フグルマヨウヒさんからその時の光景を見せられる。それを見た私は鈴音に顔を向ける。

 

鈴音

【お、王?】

 

「鈴音。あの鬼を一緒に倒すよ」

 

 突然の言葉に鈴音は困惑するも、鈴音は私に返事を返す。

 

鈴音

【分かったニャ。何をするのかニャ?】

 

「まずは–––」

 

「話の時間は終わりか!!」

 

 狼鬼は幽冥と鈴音が会話している中、待っていた。どのようなことを考えようと真っ向から潰して、相手の心を折る。

 そんな狼鬼の考えも知らず幽冥と鈴音は行動始める。

 

 幽冥は左腕を抑えていた右腕を前に突き出すと術を発動して目の前に術の球を生み出す。

 ただ術の球を出しただけのその様子に嘲笑する狼鬼は面の下で口を歪めていた。だが、幽冥の出した球に向けて鈴音が術を放ったことでその考えを改める。

 鈴音が幽冥の術の球へ術を放つと球は少し大きくなり僅かに光量が上がる。

 

「っ!! させるか!!」

 

 作戦を正面から潰そうと考えていた狼鬼は危険を察したのか何かの準備をする幽冥と鈴音の元へ向かおうとするが、それの邪魔をするために鈴音は幽冥の術へ向けて放つ手とは逆の手から術を放っていく。

 

「ちまちまと術を撃ってくるな!!」

 

 ひとつひとつの威力はそこまででも当たればただじゃ済まないそれに、狼鬼は音撃縦笛(リコーダー)で術を防ぐが、鈴音から連放たれていく術の数が多く、その場から動けず動きが止められる。そして、その間にも鈴音は幽冥が出した術の球に次々と異なる属性の術を放っていく。

 幽冥の出した術は鈴音の術を受けて、術が渦巻きながら大きくなり、光を放つ。幽冥は裾から取り出した札を球に向けて投げる。札を当てられた球は爆発し、そこから虹色に輝く光の蛇が飛び出す。

 

「いけえええええええええ!!」

 

 鈴音は幽冥の指示通りに動き、何をするつもりだったのか分からなかったが、それを見て術を使う魔化魍の中で語り継がれたある伝説を思い出す。

 

鈴音

【これが2代目魔化魍の王 フグルマヨウヒの究極攻呪術……】

 

 それは2代目魔化魍の王 フグルマヨウヒがある魔化魍と戦った際に放った究極の術。

 その魔化魍との戦いで追い詰められたフグルマヨウヒは最後の力を振り絞って放った術にフグルマヨウヒの仲間の魔化魍たちがその術に向けて異なる術を放ち、術同士が混じり合って虹色に輝く光の蛇となり、魔化魍を倒した。

 それを見たフグルマヨウヒの仲間はその術をこう名付けた。

 

鈴音

虹大蛇(にじおろち)

 

 フグルマヨウヒの知識を持つ幽冥はそれを術が優れている鈴音の協力を得て生み出された虹色の光の蛇は狼鬼に真っ直ぐ向かっていく。

 

音撃響(おんげききょう) 噴炎狼吼(ふんえんろうこ)

 

 それに対して狼鬼は元の長さに戻した音撃縦笛(リコーダー)に口を付け、必殺の音撃を吹き出す。音撃縦笛(リコーダー)から放たれるのは朱色混じり赤い焔の狼の音撃。

 疾走感と荒々しく恨みに満ちた炎の音撃は虹色の蛇へと顎を大きく開きながら向かう。やがて龍と狼は互いにぶつかり合い、その衝撃が辺りに響き、ぶつかり合った場所から地面が抉れていく。まるで意思を持ったように蛇と狼はぶつかり合っていくが、それも終わりがくる。

 光の蛇は炎の狼の身体を喰い破り、そのまま光の蛇は音撃を放ったことで動きが止まっていた狼鬼を呑み込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 やがて虹大蛇(にじおろち)は天に昇っていき雲の向こうへと消えていく。

 蛇が消えた先には変身が解けたのか服を着ていない男が倒れていた。狼鬼としての姿が解けたのだろう。今ならばトドメをさせると幽冥が札を構える。すると、鈴音が倒れている狼鬼に向かって歩き出す。

 

「鈴音、何をする気なの?」

 

鈴音

【心配無用ニャ。ちょーっと話すことがあるだけニャ】

 

 変身が解けた狼鬼に鈴音が近付く。

 虹大蛇(にじおろち)によって五体の一部は欠損し、戦う武器もない狼鬼は何も出来ない。それが分かってるからこそ鈴音は何も気にせずに狼鬼に近付く。

 

「クソ猫め」

 

 鈴音が近付いて来たことで気配を察したのか狼鬼は顔を上げて、見えたその姿に忌々しく言う。

 

鈴音

【その猫にやれたのがお前ニャ。その傷じゃもう動けないニャ】

 

 ふざけやがって。その傷じゃ動けないだと–––

 

「舐めるんじゃねえ!! 俺は中部の『8人の鬼』の1人 狼鬼だ!! こんな傷だろうとテメエの喉笛を噛みちぎってやるよ!!」

 

鈴音

【…………ニャンがお前の家族を殺したのは、猛士だったからだけどニャ。

 お前の彼女を殺したのは別の理由があるニャ】

 

「何だと!!」

 

鈴音

【ニャンがお前の彼女を殺したのはあの女が外道だったからニャ】

 

 ネコショウ(クソ猫)からの言葉に俺は全身の血が沸騰するかのような怒りを覚える。

 

「外道だと? 嘘をつくな!! あいつは迷子を見たら母親が見つかるまで一緒に探し、捨てられたペットを拾っては家族に怒られるような明るく、ちょっと子供っぽい()だぞ!!」

 

鈴音

【……真実というのは目に見えるものが全てというわけじゃないニャ】

 

 訳の分からないことを言うネコショウ(クソ猫)の言葉を聞き流し、隙だらけの奴に攻撃しようとした時–––

 

「何を言ってやがる!! 訳の分からねえことを()かすな!!」

 

鈴音

【じゃあ、質問させてもらうけどニャ。桃園 愛……この名に聞き覚えは無いニャか】

 

 ネコショウ(クソ猫)の喋った言葉に俺は動きを止めてしまう。

                                        

「桃園 愛だと? なんでテメエがあいつの名前を知ってるんだよ!! あいつは…」

 

鈴音

【病院で意識不明のまま眠っている…だったかニャ】

 

「そうだ。それもお前の仕業だろう。あいつが意識を失う前日にお前はあいつに会っていただろ!!」

 

鈴音

【確かにニャンはあの子に会ったニャ。でもニャンはあの子には何もしてないニャ】

 

「嘘だ!! お前は老若男女問わずに人間を快楽的に堕として、自発的に自分の元に呼び寄せて捕食する悪辣な魔化魍だ!!」

 

鈴音

【じゃあ、花咲 蕾は?】

 

「花咲 蕾だと。その名前も何故!?」

 

 なんで知ってる?

 あの子は卒業式の前日に交通事故で–––

 

鈴音

【お前の彼女はニャ。お前に近付く女に嫉妬して、自分の仕業と思えないように自分の手を汚さずに女たちを排除してきた。

 その子たちだけじゃない。愛乃 恵。宇佐美 一歌。日向 さき。夢原 望美。お前に声を掛けてたり、助けられたりした子は全員、お前の彼女によって排除されたニャ】

 

 ネコショウ(クソ猫)の言った名前にはどれも聞き覚えがあった。どの子も俺が親しかったりした子だ。

 だが、ネコショウ(クソ猫)の話が仮に本当だとして本当にあいつがやったのか? いや、そんな筈はない。あいつが絶対にそんなことをする筈がない。

 

「………あるのかよ」

 

鈴音

【ニャ?】

 

「証拠があるのかよ!! あいつがやったという証拠が!!」

 

鈴音

【…………】

 

「ほら、そうやって黙る。証拠がねえからだ!! さっきは騙されそうになったがそんな筈がねえんだ!!」

 

鈴音

【…証拠かニャ。じゃあ、これで信じるかニャ】

 

 そう言って、ネコショウ(クソ猫)は着物の裾から何かを取り出す。

 ネコショウ(クソ猫)が出したのはどこにでもあるボイスレコーダーだ。そして、ネコショウ(クソ猫)がボイスレコーダーの上にあるボタンを押すとカチッと鳴り、ざざーと音を出して中に入っているものの再生が始まる。

 

「それじゃあお願いね」

 

 ボイスレコーダーから聞こえたのは、既にこの世にいないあいつの声だ。目の前のネコショウ(クソ猫)に殺されたあいつの。何年経っても忘れるはずがない。間違いなくあいつの声だった。だが、その声はいつものあいつとは違う風に聞こえた。

 

「ああ。蕾を車が来るタイミングで押せばいいんだろ」

 

「ええ。あの女の背中を思いっきり押して」

 

「なっ!!」

 

 これはなんだ?

 

「私の大事な人に触れて………あの人に触れていいのは私だけでいいのよ。他の女に汚されたくない」

 

「お前も悪い女だな。今まで何人そうやったんだ?」

 

「知らないよ。だってあの人は私のものだから」

 

 あいつがそんなことを?

 そんな馬鹿な。そうだこれは編集された声に違いない。またネコショウ(クソ猫)に騙されるところだった。

 

鈴音

【どうせ、編集した声って思ってるのかニャ? じゃあコレは?】

 

 そう言ったネコショウ(クソ猫)はボイスレコーダーのボタンを押す。

 

「これが例のブツだ」

 

「ありがとう。これであの女はおしまいね」

 

 さっきとは違う男と喋るあいつの声。

 

「ああ。とびきりのやつを用意した。だがバレるなよ」

 

「大丈夫だよ。身代わりはいるし、それにあの人の隣は私のモノよ」

 

「おお、こわいこわい。じゃあな」

 

 会話が終わるとネコショウ(クソ猫)はまたボタンを押す。

 

「あああ、なんであの人の隣にいるの? そこは私の場所なのに……消さなきゃ」

 

「邪魔なあの女を今度はどうやって消そうかな」

 

「卒業式に告白するつもり? 2度とあの人の前には出さない」

 

 次から次へと流される彼女の裏の証拠ともいうべき声に狼鬼は頭を抑える。 

 

「嘘だ。嘘だ嘘だああああああああああああ!!」

 

 信じられない言葉を聞き続けた狼鬼を見て鈴音はボイスレコーダーを止めて、狼鬼の側に立つ。

 

鈴音

【どうだニャ。これが真実ニャ。お前の彼女はハッキリ言って外道ニャ。お前に依存し、お前を独占しようとし、お前に向けられる視線を、心を自分のものにするためだけに彼女たちの未来を奪ったニャ。

 愛乃 恵。宇佐美 一歌。日向 さき。夢原 望美。花咲 蕾】

 

鈴音

【そして、桃園 愛もニャンがもっと早く会っていれば、あんなことにはならなかったニャ】

 

鈴音

【ニャンは人の幸せを踏み躙り、表でのうのうと生きてる奴が許せないニャ。でも、そういう外道ほど権力や金を使ったり、巧みに身を隠したり、身代わりを使ったり、法では裁けないないニャ。だからニャンが被害者や遺族に変わり、法で裁けない外道を殺すんだニャ】

 

鈴音

【あの時、お前の彼女を殺したのはそれが理由ニャ。あの女を地獄へ送って、って頼まれたからニャ】

 

 鈴音は語ると、ボイスレコーダーを裾に仕舞い込む。

 そして、鈴音は爪を伸ばすとそれを狼鬼の首に当てる。

 

鈴音

【本当は死んだ仲間たちの分も苦しめてからお前を殺したかったニャ。でも、お前は今の話で充分苦しめることが出来たニャ。その絶望の感情を抱いたまま死ねニャ】

 

 そう言った鈴音は狼鬼の首を勢いよく爪で横に動かす。

 爪の一閃とともに狼鬼の首から噴水のように血が噴き出す。そして、血を止める動きもせず絶望の表情を浮かべ涙を流しながら狼鬼はそのまま倒れて動かなくなった。

 家族と彼女のために復讐鬼となった狼は真実を知って絶望し呆気なく死んだのだった。

 

鈴音

【……………】

 

 鈴音は死体となった狼鬼から離れて幽冥のほうへ歩き出す。

 

鈴音

【付き合って貰ってありがとうニャ】

 

「いいよ。私の家族のことだしね。それにあの鬼が鈴音に何かしようとしてたら」

 

 幽冥が指をパチンと鳴らすと、側にあった樹が切られて、そのまま倒れる。

 

「こうやって助けるつもりだったから」

 

 鈴音は幽冥が手を出さずに全部任せてくれたことに感謝する。幽冥自身もあの狼鬼に対しては色々言いたかっただろう。

 だが、幽冥はまだ会って家族となって日が浅い鈴音に任せた。自分よりも最も狼鬼に対し殺意を持っていた鈴音に任せたのだ。

 

「それじゃ、行こっか」

 

鈴音

【ニャン♪】

 

 幽冥と鈴音は家族の集まる場所へ向けて歩き出した。

 こうして、幽冥たちの手によりまた猛士の支部がいくつも壊滅した。

 そして、猛士中部地方支部の壊滅と過激派でも名の通った狼鬼を殺した幽冥たちの名前は魔化魍に、猛士に広まるのだった。

 

SIDE◯◯

 幽冥たちが魔化魍殲滅派閥こと過激派の揃う猛士中部地方との戦いの勝利を喜んでいる同時刻。

 緑たちが相手をしていた葉栄班のいた場所で、倒れていたひとつの死体が起き上がる。

 

「ふうーー。これでようやく仕事が終わりだよ」

 

 それは緑に腹を貫かれて死んだ筈の葉栄 灯子だった。

 その腹は貫かれて血で汚れているが腹に空いてるはずの穴はなく白い肌が見えており、まるで寝起きかのように声を出す。

 

【仕事お疲れさま】

 

 そんな葉栄に声を掛けるのは、茂みの奥からカチャカチャと金属音を鳴らしながら歩いてくる西洋甲冑だ。

 人のいないこんな場所をそんな姿(西洋甲冑)で歩くのは明らかに怪しかった。だが葉栄は–––

 

「悪いね。わざわざ迎えに来てもらって」

 

 その姿に対してはなんの反応も示さずに西洋甲冑に声を掛ける。

 

【構わねえよ。俺も今代の王を見てみたかったからな】

 

「しかし、今代はかなりの変わり者だけど、油断できないね」

 

【ああ。過激派の中でも戦闘力の高い猛士の中部地方壊滅させるなんて、これは俺たちの主人(あるじ)にも伝えないとなあ】

 

 西洋甲冑は少し下に見ていた幽冥たちの評価を上方修正して報告することを呟く。

 

【しかし3年だったか? お前が潜入して、よくあんな人間の集まりにいられたな?】

 

 ふと思い出したかのように、西洋甲冑は葉栄に聞く。

 

「かなり居心地は最悪だったよ。でも、お陰で私たちの存在のことを猛士はあまり知らないことを知れた」

 

【ほほう。それは良い情報だなあ】

 

「…………………」

 

「ん?」

 

 葉栄は何かの声が聞こえ、茂みの方に顔を向けるとひとつの影が飛び出す。

 

「……………支部長? ………支部長!! 良かった無事だったんですね?」

 

「ええ。貴方も無事で」

 

 それは、最初に緑に蹴り落とされた戦輪獣 茜羽に乗っていた天狗だった。

 先に落ちた茜羽が天狗のクッションとなり、天狗は左腕の骨を折るも命に別状はなかった。利き腕と笛を吹く吹くための口と喉さえあれば天狗は戦える。急いで現場に戻れば殺された天狗の同僚や先輩の抜鬼の死体を見て戦闘が終わったことを悟る。

 だが葉栄の死体を見ていなかった天狗は生存の確認のために葉栄を探していたのだ。

 

「支部長、その隣の方は?」

 

「ええ彼は、私の友人です」

 

「友人? こんな場所でそのような格好を?」

 

 天狗は西洋甲冑を怪しむように見る。

 

【お前な、そうジロジロと見るんじゃねえよ】

 

 西洋甲冑はいきなり剣を抜いて天狗に振り下ろす。

 

「クソ! 今の動き、お前人間じゃないな!!」

 

 常人なら間違いなく両断されるほどの一刀を避けた天狗は西洋甲冑が人間じゃないことに気付く。

 

【あぁん? 俺を人間と一緒にするとは身の程知らずだな】

 

「支部長早くに「はあ〜。本当に君は空気が読めないね」…え?」

 

 葉栄を心配した天狗の声を遮ったのは、葉栄だった。

 下を向いていた顔を上げる葉栄の顔を見た天狗は軽く悲鳴をあげそうになる。

 

 それは人間が浮かべるような顔ではなかった。

 ぎょろぎょろと動く目が天狗を睨みつけ、三日月の弧を描くような歪み切った口は人間とは思わせない不気味さを醸し出していた。その雰囲気から天狗は悟る。

 目の前にいるのは人間ではないと。

 

「支部長いや、葉栄! お前は何者だ!!」

 

 背にある戦輪獣に手を掛けいつでも投げるようにする天狗は葉栄に吠える。

 

「あははははははははははは! 葉栄 灯子の姿は仮初の姿。私の本当(・・)を見せてあげる】

 

 灯子の身体が不自然に揺らぎ始める。

 さながらテレビ画面の砂嵐のように、揺らぎはどんどん激しくなり、人としての姿から異形いな魔化魍としての姿へと変わっていく。

 

「葉栄、お前は魔化魍だったのか!?」

 

【フフフ、そうよ。私はあの方に選ばれしゴエティア72柱の悪魔魔化魍の1柱 フールフール】

 

 そこに居たのは葉栄 灯子ではなく、異形とも言える魔化魍が立っていた。

 外見を言うならスマートな爬虫類の人型だ。だが、ひとつひとつの身体部位が特徴的だ。

 ひとつの首から鰐と何かの紋章が額にある蜥蜴の2つの頭を生やし、中世ヨーロッパ風の黒のロングコートジャケットを着て、その背中から全身を包むほどの大きさの蝙蝠の羽根を広げ、腕の真ん中に亀の甲羅を生やしゴツゴツした鱗に覆われた右腕と左手首が口を大きく開き舌を覗かせる蛇、蛇の身体が巻き付いた右脚、臀部からギザギザな鱗を生やしたカメレオンの尻尾。

 ヨブコ異常種 フールフール。それが猛士中部地方愛知支部支部長 葉栄 灯子の本当の姿だ。

 

「おのれ!!」

 

 天狗が先程の戦いでも使い、翼が半ばで砕けてる茜羽と新たに出した戦輪獣 瑠璃牙を取り出し天狗笛を吹く。

 2体の戦輪獣がフールフールとその隣の西洋甲冑の魔化魍に襲い掛かるが–––

 

【鈍いなああ】

 

 西洋甲冑の魔化魍が抜いていた剣を鞘に収めながら2体の戦輪獣の背後に立っていた。

 

「茜羽! 瑠璃牙!」

 

 天狗笛を吹き、天狗が戦輪獣の名を呼ぶも戦輪獣はピクリとも動かない。

 

「どうした、動け動け……なっ!!」

 

 指示を無視する戦輪獣に近付くとキンと高い音が響くと、茜羽も瑠璃牙も全身がバラバラと斬られて崩れ落ちていく。

 

「い、いつの間に!! はっ!」

 

 ただの残骸と化した2体の戦輪獣に気を取られた天狗は下が暗くなったのに気付き顔を上げると–––

 

【残念だったね。じゃあバイバイ】

 

 拳を振り上げて自分に振り下ろすフールフールの姿を最後に天狗の意識は途絶えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ニチャと肉と血に塗れた腕を引き上げるフールフール。そこには肉塊と化した天狗の死体があった。

 

【………じゃあ行こうか】

 

 天狗だった肉塊を一瞥してフールフールが呟くと2体の魔化魍の身体はどんどん透けていき、その場から姿を消える。

 やがて静寂が訪れて、何事もなかったかのように冷たい風が吹くのだった。




如何でしたでしょうか?
なかなか、幽冥と鈴音VS狼鬼の戦闘描写が決まらずかなり遅れました。
狼鬼の結末はこうなりました。あなたは自分の親友や彼氏、彼女のことを本当に知っていますか?
どのような人間にも裏の顔というものがあると私は思っています。それに気付いて、その人から離れるのか、それとも知らぬふりをするのかは貴方次第です。
そして、葉栄支部長は実はゴエティア72柱の悪魔魔化魍であるフールフールでした。勿論、フールフールを迎えに来たのも同じゴエティア72柱の悪魔魔化魍です。
次回もお楽しみに!

ーおまけー
迷家
【は〜い。おまけコーナーの時間だよ。さあ鈴音、続きを話してもらうよ】

鈴音
【ありゃ、もうかニャ】

迷家
【ほらほら、前回の宣言通りに話の続きを聞かせてもらうじゃないかー】

鈴音
【分かった分かったニャ。そう急かさないで欲しいニャ】

鈴音
【それで花魁の着ていた着物の側で眠気に襲われて目が覚めたら、この姿になっていたニャ】

迷家
【珍しいね。確か、ドクターの話だと通常種をすっ飛ばして異常種に進化するのって限りなく低い確率なのに】

鈴音
【そう言われてもニャ。なっちゃったものしょうがないニャ】

迷家
【まあ、それは置いといてそれでどうしたの?】

鈴音
【人に近い姿を得たニャンは花魁の幼なじみの元へ向かったニャ】

鈴音
【そして、ニャンは幼なじみに会ったニャ。幼なじみは花魁が死んだショックで酒に溺れてたニャ】

迷家
【まあ、大切な人が亡くなったらそうなるって春詠も言ってたな】

鈴音
【ニャンは花魁の話を幼なじみにしたニャ。最初は信じてもらえなかったけど、だんだんニャンの話も聞くようになり、ニャンは花魁が死んだ理由を話したニャ】

鈴音
【そして、花魁の仇を知った幼なじみは、その商人の息子の元に向かったニャ】

鈴音
【でも、幼なじみは商人の息子の護衛に刺されて川に沈められたニャ】

迷家
【沈められたって………死んだってこと?】

鈴音
【そうニャ。そして、ニャンは幼なじみが死ぬときも見てることしか出来なかったニャ】

鈴音
【幼なじみも死んで、ニャンは後悔したニャ。自分の飼い主だった花魁の大切な人が亡くなってしまったのはニャンが仇を話してしまったからニャ。
 ニャンは花魁がニャンを恨んでると思ったニャ。ニャンは路地裏で猫のように隠れながら暮らしていたニャ。それから数日経ったある時にニャンはある噂を聞いたニャ】

迷家
【噂?】

鈴音
【晴らせぬ恨みを晴らします。そんな噂を聞いたのニャ】

鈴音
【ニャンは噂の出所となった三番筋に向かったニャ。そこにあった小さな祠に花魁のお金を置いたニャ】

鈴音
【すると、どこからか声が聞こたのニャ。『頼み事は?』って】

鈴音
【ニャンはその声に向かった言ったニャ。ニャンの大切な2人の命を奪ったやつに報いをって】

鈴音
【声は言ったニャ。『分かった。その恨み聞き届けた』って】

鈴音
【ニャンは気になってその声を出していた女性の後を追いかけたニャ】

迷家
【おお〜】

鈴音
【そこには女性を含めて5人いたニャ】

鈴音
【ニャンは屋根裏から中の話を聞いたニャ】

鈴音
【話によると彼らは仕事人っていう裏稼業をする人たちだったのニャ】

迷家
【仕事人って?】

鈴音
【晴らせぬ恨みを晴らし、許せぬ人でなしを消す………まあ、お金を貰って復讐が出来ない弱い人のために標的を殺す殺し屋みたいなものかな】

鈴音
【会話が終わり、5人はそれぞれ動いて商人の息子と護衛を殺したニャ】

迷家
【それでそれで?】

鈴音
【ニャンは仕事人っていうのが気になって暫く、仕事人の色々な仕事を見ていたニャ。そしてニャンも仕事人のようになりたいと思ったニャ】

迷家
【ほほう】

鈴音
【でも、この姿じゃ人間じゃないと分かってしまうからと必死に術を学んで擬人態の術を覚えたニャ。
 そして、自分ならではの殺しの技を身につけて仕事人になったニャ】

迷家
【鈴音、仕事人だったんだ】

鈴音
【まあ、特徴的な殺しだったから表裏問わず、かなり有名だったニャ】

迷家
【へえ〜】

鈴音
【そろそろお別れの時間じゃないかニャ】

迷家
【お、そうだね。じゃあ今日はここまで。ありがとう鈴音】

鈴音
【では、ニャンは帰るニャ】

迷家
【オツカーレ! よし、じゃあ僕も…………あれ?】

迷家
【そういえば結局、なんで外道を狙うようになったのか聞けてない!!】
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