人間だけど私は魔化魍を育て、魔化魍の王になる。   作:創夜叉

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まず、謝罪させてください。以前、3話で済ませると言いましたが、4話になってしまいした。
今回はオリジナル設定を1つ入れてみました。


記録参拾壱

SIDEヤドウカイ

 目の前にいる海豚の下半身の人魚のような姿をした魔化魍はおそらくこの北海道を拠点とし動く、沖野 美岬………いやヤオビクニだろう。

 噂によると北海道地方に現れる特異的な魔化魍のほとんどはヤオビクニの配下と聞いた事がある。

 

【成る程、聞いた鬼の数が少なかったのは、貴方達がいたからですか】

 

「魔化魍覚悟!!」

 

 後ろから私を追ってきた冠鬼が音叉剣を振るってきたが、私は当たる寸前に避ける。

 

「くそっ!! 当たらなかったか!!」

 

【いい加減、しつこい!!】

 

 ヤドウカイは良い加減しつこい、冠鬼を殺すために普段は使わない術を使う為に何かを呟き始める。

すると、風が突然、吹き始め、樹が揺れる。そして、風がヤドウカイの身体の周りに纏われていく。

 風が止み、冠鬼はヤドウカイの姿を見ると–––

 

「なんだ、その姿は!!」

 

 今のヤドウカイの姿は風を纏われる前とは大きく異なっていた。

 トレードマークでもある三度笠はそのままだったが、眼は翡翠のように透き通った眼に変わり、黒い毛は深緑色に染まり、首元に赤いマフラーが巻かれ、前脚には風と書かれた手甲を着け、尻尾は4本に増えていた。

この姿こそ、ヤドウカイのもう1つの姿。

 この術はある一定の領域まで辿り着いた魔化魍がさらなる力を求めた魔化魍の為に2代目魔化魍の王 フグルマヨウヒが編み出した古の術 幻魔転身(げんまてんしん)

 そして、幻魔転身(げんまてんしん)をしたヤドウカイは目の前の冠鬼を睨んだ。

 

「!!!!」

 

 その瞬間、冠鬼はこの場からすぐ逃げたいという恐怖に支配された。ただ姿が変わった程度だと思っていたが、この魔化魍に睨まれただけでもう戦意を喪失していた。その姿は鬼ではない、彼らが普段喰らっているひ弱な人間とほぼ変わらない。

 

「ひいいいいい!!」

 

 ヤドウカイが脚を進めただけで冠鬼は怯えて、その場から逃げようとする。

 だが、逃げようとした目の前にはさっきまで後ろにいた筈のヤドウカイが大きな口を開いて冠鬼の前にいた。鋭い牙は冠鬼の頭に振るわれ首から上が無くなり、血が勢いよく出て、ヤドウカイの深緑の体躯を赤く染め、冠鬼の身体は地面に倒れる。 

 首の無くなった冠鬼の身体をヤドウカイは貪り喰う。

 

SIDEOUT

 

 

SIDEエンエンラ

 はあ〜〜〜〜眠い。

 

「当たれ!!」

 

 まったく、戦うのは良いけど〜。

 

「この!!」

 

 せめて、もう少し寝させてくれれば。

 

「何で、当たらないの!!」

 

 この鬼を苦しめなかったのにな〜。

 

 エンエンラは身体を煙に変えて、鬼の周りに散り始める。

 煙になって空中に漂うエンエンラを見て鬼は離れようとするが、何かが脚を抑えつけて動かせようとしない。自分の脚を見ると、煙に包み込まれて動けなかった。

 

「!!」

 

 鬼は早く抜け出そうと力を込めるが、うんともすんともいわない自分の脚にさらに力を込めると。

 

「っ、動けた、え?」 

 

 異様な音とともに脚が動けたと思い、動こうとすると前に倒れる。自分の脚が妙に軽く感じて上半身を上げて、脚を見ると。

 

「え、なんで脚が」

 

 膝から下の脚が無かった、煙になったエンエンラを見ると、煙の一部が赤く染まっており、その中心には2本の脚が煙に包み込まれていた。

 脚は煙の中でどんどん小さくなり、やがて影も形も無くなった。

 鬼はおかしな感覚になっていた。自分の脚が千切れてるのに痛くない。

 

【大丈夫だよ、そのままこの煙に身を任せば良いよ】

 

 いつの間にかエンエンラは顔を鬼の前で現して、心が安らぐような声で鬼に語りかける。

 その声を聞き、鬼は抵抗するのを辞めて、煙の方に這いずりながら向かい、煙に包み込まれる。

 

 煙に入った瞬間に両腕が引き千切られる。咲鬼はそんなのを気にせずに煙に身を任せる。達磨と化した咲鬼の身体は圧縮されたように縮み小さくなっていく。

 煙に入って僅か数十秒でこの姿へと変わった咲鬼は四肢からダラダラ垂れる血に何も反応する事なく煙の中に心地よい気持ちに包まれていた。

 

 普段、エンエンラは嬉々として鬼の殺しに参加することはない、良くても重症にさせる程度である。そんなエンエンラが何故、このような事をしているのかというと。

 

 寝不足だったからだ。

 

 エンエンラは普段、パイプの中で眠っている。そして、一定の時間まで眠っている。

 だが、眠っているエンエンラは無理に起こされると残虐な性格へと変貌し、対象を殺す。しかもただ殺すのではなく、人間を幸福な状態にして殺す。

 そして、鬼は最も幸福な状態で首を捻られ死んだ。そして、死体は煙の中で小さくなり、形もなくなる。

 

「エンエンラ、戻りなさい」

 

 いつの間にかエンエンラのパイプを持っていたランピリスはパイプを叩き、エンエンラをパイプの中に眠らせた。

 

「まったくエンエンラは」

 

 そう言ったランピリスはやれやれと言った感じで古びたパイプを服の下に仕舞い、ヤドウカイ達と合流するために歩き始めた。

 

SIDEOUT

 

 

SIDEクダキツネ

 僕の分体が撃たれてどんどん数が減っていく。鬼は容赦なく僕を殺そうとしてる。

 殺されるのは嫌だ!! まだ、王様に会っていないし、美岬様の恩を返していない。

 だから、殺される前に殺す!!

 

「何だ!!」

 

 クダキツネは竹筒に身体を仕舞いこみ、分体も竹筒に集まり始める。

 

「何か分からねえがとにかくくたばれ」

 

 すると、竹筒が膨張して砕ける。

 砕けた竹筒の破片から身を守る鬼は腕で破片を防ぐ。

 そして、腕を降ろすとその先には細長い長い身体ではなく、山犬のように大きくなった身体に変化して、口が眼の近くまで裂けた白狐がおり、尾には長く鋭い竹槍を持っていた。

 

「虚仮威しが!!」

 

 鬼は音撃管を撃つが、弾はクダキツネに届く前に砕け散る。

 

「!!」

 

 さらに音撃管を連射するが、弾は1発も当たらず、クダキツネは一歩も動いていない。

 そして、クダキツネが動く。

 尻尾の竹槍を鬼に目掛けて構える。クダキツネはそのまま鬼に向かって走る。鬼は真っ直ぐ向かってくるクダキツネに目掛けて、音撃を放つ。

 

 クダキツネに目掛けて赤い炎の音撃が迫るが、クダキツネは尻尾の竹槍の穂先を鬼に向け、勢いよく投擲する。

 音撃管を貫き、竹槍は鬼の心臓を貫き、何処かに消えた。

 

 クダギツネが竹槍の消えた方角へ口笛を吹くと、奥から青い光がかなりのスピードでクダキツネの尻尾に迫る。

 青い光は消えると尻尾には竹槍が戻っていた。

 すると竹槍から竹が物凄い勢いで伸び、クダキツネの全身を包む、竹が小さくなっていくと竹槍はどこにも無く、竹から竹筒に変わり、クダキツネも身体は細長くなっていた。

 

SIDEOUT

 

 

SIDEノヅチ

 弱い鬼だ!!

 

 これならシュテンドウジ様と戦っていた鬼の方が遥かに強かった。少なくても、あの時代の鬼は初見殺しとも言える私の攻撃を軽々と避けていたんだが–––

 

「があ…………あああ」

 

 下半身がほぼ私の胃に入っている鬼は必死に私の顔に音叉剣を突き立てるが、私の皮膚はシュテンドウジ様が直々に鍛えてくれた自慢の皮膚、あの時代の鬼なら少しの切り傷が出来るが、今の鬼にはかすり傷1つもつかない。

 

 どんどん呑み込まれていく鬼を侮蔑の目で見るノヅチはそのまま、頭だけになった鬼を呑み込む。

 

SIDEOUT

 

 

SIDEスイコ

 ノヅチの相棒とも言える、スイコはノヅチからかなり離れた場所で鬼と戦っていた。

 拳と拳のぶつかり合いで、スイコも鬼もボロボロだった、スイコは左腕が使えず、鬼も顔の装甲や胸元にかなりのヒビが入っている。

 

【なかなかやるな】

 

「お前こそ」

 

 スイコはシュテンドウジに仕えていた頃から鬼と戦う時、自身の能力を使わずに身に付けた武術でしか戦わない。

 スイコは慢心してこういう事をしているわけでは無い、ただ能力を使うと、炎の属性を持つ鬼以外は倒すことは出来ないからである。

 正々堂々と戦うのがスイコのスタイル。

 そして、この鬼 拳鬼も自分の武術もとい音撃拳という遥か昔に廃れた音撃技で戦うとりわけ珍しい鬼なのだ。

 

【次で決める】

 

「良いだろう」

 

 お互い拳を構えて、その場で動きを止める。

 スイコはカウンターを得意とし、拳鬼は速さを活かした先制攻撃を得意とする。

 これはお互いの読みによって、どっちが勝つかは不明な戦い。

 先に動いたのは、先制攻撃を得意とする拳鬼だった。真っ直ぐとスイコの腹、目掛けて、音撃拳を放つ。

 

 2つの拳が互いに命中し、スイコの腹には音撃拳の拳痕がつきグラリと倒れそうになったスイコは脚に力を込め、意地でも倒れてなかった。一方、拳鬼の腹にはスイコの掌底が決まり、装甲全体にヒビが入った身体をグラつかせて、前のめりに倒れる。

 

「俺の……負けだ……」 

 

 そう言った拳鬼は意識を無くした。

 スイコは倒れている拳鬼に礼をしてその場を去った。




如何でしたでしょうか?
今回は茨木翡翠さんのフグルマヨウヒを2代目魔化魍の王として出させていただきました。
茨木翡翠さんアイディアありがとうございます。
次回で第2支部の戦いを終わらせます。楽しみにお待ちください。

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