SIDE白
旅の支度が整い、私と王、睡樹は崩に乗り、土門と顎は鳴風の上に乗って、洋館の窓ガラスを作るために、埼玉県秩父地方の秩父市と横瀬町の境界にある武甲山へと石灰石を取りに向かう。
長時間じっとしているのが原因か王は私の膝を枕代わりに眠った。睡樹は王が眠る前にすごく頭を撫でたそうにしていたが、自身の腕のツタを毛布のように組んで王に掛けている。
「王よ起きてください。後少しで武甲山です」
「んんん」
もう少しで武甲山に着くので、王の肩を揺すって起こす。睡樹も王を起こすために肩を揺する。
「ん………着いたの?」
「いいえ。後少しです」
「ありがと白」
「いいえ。これも従者として当然です」
シュルルゥゥゥウウ
私にも感謝してよという感じで睡樹は王に声を出す。
「睡樹もねありがとう」
シュルルゥゥゥ
感謝されて嬉しそうにしてる睡樹。そうこうしてる間に、崩は走るのをやめて目的地の武甲山に着いた。
SIDEOUT
肩を誰かに揺すられて、眠っていた意識が起きる。館から武甲山を目指す時に、崩に乗ったが、乗り心地が良くて白の膝を枕代わりに眠ってしまった。
「ん………着いたの?」
「いいえ。後少しです」
思えば、白と出会って3日も経った。
初めて会った時は私を鳴風の餌にしようとしたけど、今では私の従者をしてくれている。魔化魍ではない私を心配してくれて気が利く。だからこれからも何度も言うかもしれないけど–––
「ありがと白」
「いいえ。これも従者として当然です」
シュルルゥゥゥ
睡樹も褒めてというように声を上げる。私の身体をよく見ると睡樹の腕から出てるツタを編み込んで毛布のように掛けてくれている。
「睡樹もありがとう」
シュルルゥゥゥ
睡樹は嬉しそうに声を上げて、腕のツタを元に戻した。そうしていると崩の動きが止まった。武甲山に着いたようだ。
石灰石は武甲山の北側斜面で採掘されているようなので、崩にそっちに向かうように指示する。鳴風も崩の後ろから飛びながら着いてくる。
崩が山道を歩いているのを上から見てい………あ!
「崩! ここで止まって!」
私の声を聞き、崩が歩くのやめて身体を屈める。
屈めた崩の上から降りて、私は1つの野草を毟り取った。
「山ウドがこんなに生えてる」
「山ウドって何ですか王?」
山ウドが何なのか分からない白たちは首を傾げる。
「山ウドは冬に生える山草の一種で刺身、酢の物、和えもの、味噌煮、天ぷらなどのいろんな料理にできる山草だよ。これをいっぱい持ち帰って、久々に美味しい料理を作れる」
食器や調理器具、調味料はあの家に置いてあるのは全て持って来た、色々作れる。
思えばこの3日間何も食べていない、早く石灰石を取って館に戻ろう。
そうだ白たちの分も作るからいっぱい持って帰らないと、あんな親から教わったことでも、こんな風に使う時が来るとは思わなかったなあ〜。
でも、このリュックには山ウドを入れるのはダメそうだし、どうすればいいんだろう。
「んん?」
私の肩を何かがツンツンと突くので後ろを振り向くと–––
シュルルゥゥゥ
睡樹が居た。腕のツタを使って、私の肩を突いていたようだ。
「どうしたの睡樹?」
シュルルゥゥゥ
睡樹が腕のツタを伸ばして網目状に組んでいくと籠のような形に変えて背中に背負い、私の持っていた山ウドを籠に入れて、下にまだ生えてる山ウドを次々に入れていく。
正直驚いた。睡樹がこんなことが出来るとは、でもこれで山ウドを館に持って帰れる。
「ありがとう睡樹。それを落とさないように気をつけてね」
シュルルゥゥゥ
山ウドを入れた籠の上をツタで塞ぐ。
「じゃあ、睡樹それを無くさないように持って、ここで待ってて? 土門、鳴風、崩は睡樹を見ててあげて」
シュルルゥゥゥ グルルルル
ピィィィィィ ノォォォォォン
万が一の為に、土門たちに睡樹の護衛を頼む。
「白、顎ここからは歩いて行こう」
「分かりました」
ギリギリギリギリ
白と顎を連れて、採掘場へと向かう。
SIDE白
王と私、顎で採掘場を目指しているのだが–––
明らかに何かが私たちの後ろを付いて来ている。しかも1体ではなく3体くらいで、しかも人間の気配ではない。おそらく私と同じ魔化魍が付いて来てるのだろう。
王は我らのことを家族と言っている。魔化魍でもない人間の少女が、だから我らは王に降りかかる害という名の炎を全て排除する。
ボソッ「顎、あなたは王を守りなさい」
ギリギリギリギリ
顎に王を任せて、私は王が視界から見えなくなるのを確認すると、後ろから尾いてくるものに声を掛けた。
「付いて来てるのは分かっています! 出て来なさい!」
私の声を聞き、後ろから尾けて来ていたもの達が後ろの岩陰からその正体を現す。
「スゴイナ王ノ従者、私タチニ気付クトハ」
ウォォォォォォォ コォォォン
現れたのはヤマビコの姫、そして肩に乗せてる幼体のヤマビコと私が見たことのない狐の魔化魍だった。
SIDEOUT
いつの間にか白が消えて、顎が私の側を付いて歩いていた。
そんな感じで歩いてると、やっと目的の場所に着いた。そして、リュックから電灯付きヘルメットを出して、顎を背中のリュックに入ってもらう。
もしも、人間がいたら面倒なことになる事、間違いないから。
「いい顎、私が出て良いと言うまで出ちゃダメだからね」
ギリギリギリギリ
顎は理解したようで上顎を鳴らす。
そして、ヘルメットの電灯の明かりを付けて、採掘場の中に入っていく。
SIDE白
私は現在、ヤマビコの姫と話している。
彼女はどうやらここからかなり離れた地で、この幼体のヤマビコを童子と共に育てていたようだが、鬼が現れ、童子が自分の身を犠牲に姫とヤマビコを逃してくれたようだ。
だが、鬼は童子を倒して追いかけてくると狐の魔化魍が現れて鬼の一瞬の隙を突いて、火達磨にして焼き殺したと言う。
ヤマビコの姫の話を聞き、狐の魔化魍を見る。
コォォン
とてもじゃないが今、首を傾げて私を見てるこの魔化魍に鬼を殺す実力があるとは思えない。だが、幼体で鬼を倒したという事は相当の実力を持っているということだ。
「それで、あなた達はなぜ王を付けていたのですか?」
「知ラナイノカ?」
「?」
「噂ニナッテイルゾ、人間ナノニ魔化魍ヲ家族トイイ、魔化魍ノ王デモアルトイウ噂ガ。ダカラ王ニ会イタイト思ッタ」
「!!! ……………本当ですか?」
「嘘ヲ付イテドウスル、本当ノ話ダ」
驚いた。私が王に出会ったのは3日前。
確かに王は我々を家族のように接してくれる。だが、この噂は王に出会う前から流れていたと考えるのが正しいだろう。しかしそうすると誰がこの噂を流したのかが疑問だ。
SIDEOUT
顎をリュックに入れ坑道に入ってしばらく歩くと、電灯が点いていたので、ヘルメットの電灯を消した。
先ほどまで暗かった足元は今は良く見える。坑道の奥に進んで行くと坑道を広くした場所に着いた。周りには古いスコップやツルハシ、それとさらに奥に行くための線路の上に乗ったトロッコがあった。ここが多分、目的の場所である石灰石の採掘場に着いたようだ。
背中に背負っている顎の入れたリュックを下ろして、そこらに置かれたツルハシを取って採掘場の土を叩く。カン、カンと叩く音が坑道に響く、すると白い塊が出て来た。
石灰石を見つけた。でも1つだけでは意味がない。もっと掘らないと–––
「顎?」
リュックからいつの間にか出てた顎が私のズボンの裾を上顎で挟んでグイグイ引っ張ってた。すると上顎を離して、さっきまで掘っていた土を掘り始める。ザクッザクとさっき私が掘っていたスピードより速く、適確に石灰石を見つけていた。
数分経つ頃には石灰石の山が出来た。
「ありがとう顎」
ギリギリギリギリ
感謝の気持ちで頭を撫でると顎を鳴らす顎。すると、坑道から足音が聞こえてきた。
だんだんと音は近づいてきて、その正体を現した。
「王よただいま戻りました」
ウォォォ コォォォン
白だった、他にも幼体のヤマビコを肩に乗せてるヤマビコの姫と2本の尻尾を生やす赤い狐の魔化魍がいた。
「王、こちらの姫が話があるそうです」
「初メマシテ、ヤマビコノ姫デス」
白の隣にいたヤマビコの姫が私に話しかける。
「私ヲ貴女ノ従者二シテモライタイ」
いきなりヤマビコの姫が土下座をして、急な行動に私は驚く。
SIDE白
先程出会ったヤマビコの姫たちを王に会わした。今、ヤマビコの姫は王に従者にしてくれと頼んでいた。
本来なら、従者は私1人充分と言いたいが、どうしても王や土門たちの世話をするのも限度というものが出てくる。それに、これからも家族は増えていく。これは絶対だと思う。
何故なら、それが我らの王だからだ。人間なのに我々に名をくれた。
「なるほど……………」
「何卒、コノ子達ノタメニ………」
土下座の姿勢を崩さずに自身の子のヤマビコと狐の魔化魍の心配をするヤマビコの姫。
「そうだね。いいよ貴女もその子達も私の家族にする………良いよね白?」
「それが王の考えなら」
「アリガトウゴザイマス………ヒグッ」
ヤマビコの姫は涙を流しながら感謝してると王がヤマビコの姫に近付き頭を撫でる。
「辛かったでしょ。良いんだよ泣いて」
「グスッ……………ヒグッ………ウアアアアアァァァン」
ヤマビコの姫の泣く声が坑道に響く。
今回はヤマビコとヤマビコの姫、そして謎の狐の魔化魍が登場しました。
狐の魔化魍の正体は次あたりに書きます。そして、主人公の存在を広めているのは後に出てきます。