波音と楽鬼の戦いをどう決着つけるかと悩んで、前後編に分けることにしました。
波音の話に入る前にテオイヘビと食香と乱風。佐賀支部襲撃のオクリイヌも入れました。
では、先ずは物語をどうぞ!!
SIDE食香
レイウルスが岸鬼を冥府の斧で滅多斬りにしている同時刻。
ヒャクメを守っていた春詠たちは屋敷の防衛にあたっていた崩たちとジャック・オ・ランタン達と合流して、その後、微妙に残っていた傭兵たちを再び、別れて殲滅していた。
【溶けちゃいな!!】
テオイヘビの骨の尻尾からどくどくと流れ出る血を傭兵に目掛けて飛ばすと、血を浴びた傭兵たちは蒸気をあげながら溶けていき、そのまま肉が少し付いた骨が無数に積み上がっていく。
傭兵が倒れるたびに増えていく骨は、周りに傭兵が居ないことを確認して、テオイヘビはそのまま骨に顔を近づけると、骨はテオイヘビの頭蓋骨に吸い込まれるようになくなり、どんどん数を減らしていく。
やがて、骨はなくなりテオイヘビは満腹かのように腹を白骨の尾で摩る。すると、戦う前より、その玉のような身体をデカくした食香がテオイヘビに近くに寄る。
食香
【寝りたいなら、寝ると良いよ。満腹の食後で動いたら、思ったように動けないから】
食香は、満腹のままだと動けないテオイヘビの側に寄る。食香はそのまま、自身のプルプルした身体をテオイヘビの下に潜らせて、触手のような手で肉の付いてる身体を撫でて、テオイヘビは頭蓋骨の頭をカツンカツンと鳴らしながら、頭を上下させ、そのまま眠った。
食香
【見てないで、貴女もこっちに来たらどうですか? 乱風】
食香は後ろから近づく気配に気付き、その気配の主の名前を言う。
乱風
【やはり母上には気付かれますか】
食香
【一応、貴女の母親をやっていたんですから。分かりますよ】
乱風
【………】
乱風はジッとテオイヘビを眺めているのに気付き、食香はその理由を察する。
食香
【貴女も私の身体に乗っかって寝たいんですか】
乱風
【なあ//////!!】
3つの頭が同時に赤くなる。
乱風
【母上!! 私は子供じゃないですよ!!】
食香
【私からしたら貴女はいつまでも私にとっては子供ですよ】
乱風
【ですが、ですが………】
乱風は幼体の頃は今のような感じではなく、『母上〜母上〜』と言いながら、食香の後ろをヒヨコのように着いて来ては甘えていた。成長するにつれて大人しくなっていき、昔のように甘えなくなった。
あまりの羞恥心のせいか、必死に口では反論するが、それでも身体は正直で、少しずつだが食香の身体の近付きつつある。
それを見て、食香はこっそりと乱風の後ろに潜ませた分体を使って、乱風をこっちに引き寄せる。
乱風
【わあ、は、は母上///////】
急に自身が母上と慕う食香の身体に久々に触れたせいかだんだんと瞼が閉じていく。
食香
【昔はみんな仲良くこうやって眠ったよね】
食香は幼かった頃の乱風たちのことを思い出し、今は何処にいるのだろうかと、自分の元から自立して離れていった子供達のことを思っていた。
SIDEOUT
SIDEオクリイヌ
幽冥に頼まれて単身で、佐賀支部に攻め込んでいるオクリイヌ。
【ちっ! 分かってたとはいえ本当に弱いな】
もやを片刃の剣に変えて、迫る傭兵たちの身体に振るい両断する。
やがて、他の扉よりも重厚で何かがあります感のある扉を見つけて、中に入る。
【これは………血か】
入った部屋には、闘技場のような広さの部屋で反対側に入った扉と同じ扉があった。周りを見ると壁には何が染み込んだのか、赤黒く染まっている壁がある。
赤黒く染まった匂いを嗅ぐと、鉄分が大量に含まれた匂いがした。つまりここで行われていたのは–––
【(胸糞わりい。人体実験かよ)】
オクリイヌの嗅いだ臭いは人間の血だった。つまり、壁が染まるほどの人間がここで死んだ。しかも、その血を浴びたものの匂いが壁の奥から匂ってくる。
「ああ、あーーーー聞こえるかね不法侵入の魔化魍くん」
部屋の四方に付けられたアンテナから声が流れてくる。この佐賀支部の支部長 脳見 藩の声だ。
「あーーー君はこの佐賀支部に甚大な被害を与えた。我らの苦労を泡に変えた。よって君を
【(この声のやつの喉笛を噛みちぎってやる)】
オクリイヌは一方的に話す藩の言葉に苛立ちながら、壁の向こうにいる存在に警戒する。壁は真ん中から線が入って左右に開いていく。
アーーアア、アアアアアアアアアアアアア!!
開いた壁から現れたのは、異形だった。赤く脂ぎったような身体、ぎょろぎょろと血走った目、止めどなく溢れる涎を出す口、肥大化している左腕と3本の爪、それらを支える太くパンパンになった両脚、そして唯一の人間の右腕。
オクリイヌはこの異形の正体に気付き、憐れみの目を送るが、憐れみの視線に何も感じない異形は壊れたマイクのような声を上げる。
「そいつの名はペイラーD。
ペイラーD、今日の相手は目の前にいるやつだ」
藩の声にぎょろぎょろと血走った目を動かしてオクリイヌを見つけて、扉の方にズッシ、ズッシと移動する。
「じっくりと楽しむがいい」
アンテナから流れる藩の声が消えると、ペイラーDが扉を守るように肥大化している左腕の爪をオクリイヌに向ける。オクリイヌは目の前の魔化魍モドキに自身の武器である黒いもやを向けて、構えた。
SIDEOUT
SIDE波音
鬼の逃げた森の中、静かに息を潜めて、僅かな風の動きや鬼の微かな呼吸音、振動、あらゆるものを予想と数ある見える未来から、次にどう動くかとい推理をしながら波音は楽鬼と戦っていた。
「音撃射
辺りに散らばった鬼石の弾丸から放たれる清めの音は波音に迫るが、波音は発生源である鬼石に
楽鬼の持つ音撃武器、音撃
。
だがその分、射程距離というデメリットがあり、音撃弦のような中距離で戦う音撃武器である。その為、並みの鬼だったらまずその性能を十全に扱えずに魔化魍に殺されて喰われているだろうが、これを持っているのが楽鬼なら話は変わってくる。
楽鬼は幼少の頃から藩に引き取られた孤児の1人で、藩の実験である人間を超えた人間を生み出す実験であらゆる部分が強化された。
だが実験は激痛と苦痛を伴い、ほとんどの孤児が死に実験で生き残ったのは楽鬼ただ1人。そして、実験をされた影響か楽鬼は並みの人間と違い、常人離れの力と耐久性、運動性を持つ。
一方、波音は
海星は空気を裂きながら楽鬼に近付くが、楽鬼は焦ることなく海星を弾いて、波音付近の地面に鬼石を撃ち込む。波音は先の攻撃で音撃
だが、楽鬼は斬り落とされる前提で走り出して、波音に近付き、音撃
波音
【っ、これは!?】
高い音が武器同士から発せられて、突然の腕の痛みに波音は驚き、楽鬼を尻尾の棘で横薙ぎに振るって楽鬼を引き離し、痛みが起きた腕を見ると波音は刺鱏で防いだ筈の腕に亀裂状に入った罅に驚く。
波音の近未来予知は本来、あらゆる状況で発動するが、この姿の波音はその近未来予知の精度が自身の危機の時のみにしか発動せず、おまけに何が危機なのかが分からないので、あらゆる事に警戒しないといけない。だが、今回は戦っている鬼は楽鬼1人で、しかも何が危機なのか明確に理解したのに傷を受けたことが波音を驚かせた。
「あははは!! ビックリしたこれが音撃
波音
【衝撃徹?!】
「そう。音撃を閉じ込めた特殊弾を使って、魔化魍に撃ち込むことで例え、武器や盾で防いだとしても通せる佐賀支部の作り出したオリジナル機構だよ」
るんるん気分で言う楽鬼の言葉に波音は音撃
だが波音はーーー
波音
【ふふふ】
「?」
波音
【あはははははははははは】
「何を笑ってるんだ魔化魍!!」
笑った。魔化魍である波音が笑ったことに苛立ったのか、楽鬼は声を荒げる。やがて、笑うのをやめた波音は
波音
【もう私に衝撃徹は通じないよ!!】
自信満々の言葉に楽鬼はさらに苛立って、波音に音撃
そして、何かが砕けた。
如何でしたでしょうか?
乱風は実は甘えん坊だったんです。そして、オクリイヌはペイラーDと戦う。
波音も次回で楽鬼と決着がつきます。
何が砕けたんでしょうね?
因みにオクリイヌと戦うペイラーDの名の由来は、殺しの実験という意味のギリシャ語です。
モデルとして使ったのは、一度は見たことあるとあるゾンビゲームの敵キャラです。それを醜悪にしたイメージで作りました。