人間だけど私は魔化魍を育て、魔化魍の王になる。   作:創夜叉

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更新完了です。
ひな編も残りわずかになりました。


記録漆拾漆

 氷柱を撃つのをやめて、ユキジョロウさんの見せたあの技のイメージを固める。

 その技はありとあらゆる強化状態を消し去っておきながら状態異常は消し去らずという二重の意味で相手を苦しめる技。例え、攻撃力強化や守備力強化、呪文反射、ブレス耐性を行なってもこの技は防ぐことは出来ない。その技を受けた瞬間に、それらの強化状態を蝋燭の火を吹き消すように簡単に消し去る。

 

 この技を発動させるのに必要なものは2つ、極限まで溜めて冷気と魔化魍の王としてのオーラ。

 この2つを合わせるのに隙が出来ていたのだが、鬼は攻撃しようともせずにこちらを見ていた。そして、2つが歯車のように上手く合わさり、自然と右腕をまっすぐ突き出すように出して、その技を放つ。

 

 「凍衝波動(いてつくはどう)!!

 

 そう。此処とは違う世界アレフガルドの大地を生み出した精霊ルビスを石像に変えて封印し、アレフガルドを永遠の闇に包み込んだ大魔王が元祖ともいう冷気系の技。

 

 放たれた白い光は、目の前の錫鬼に目掛けて放たれる。だが、錫鬼は技が当たる寸前に結界を張った。だが、そんな結界は無意味だった。

 そこに居たのはーーー

 

「ぐがあ…あ、あああ」

 

 結界を張って防いだ筈の攻撃は結界を消し去り、無防備になった錫鬼の身体を凍て付かせた。鎧の上から凍らせた事もあり、身体の半分には氷が張り付き、身体の一部は重度の凍傷で壊死していた、特に結界を張るときに前に突き出していた右腕は鎧越しに凍り付いて根本からボキリと崩れそうになっていた。

 

 幽冥はその様子を見ながら、氷の下駄の音を鳴らしながら錫鬼に近付く。

 脚が氷に覆われて、地面に接着するように固められてる為に動けない錫鬼の首を左手で掴み、凍った脚を下駄で砕き、錫鬼の首を掴んだまま宙に浮かせる。

 空いた右手に空気中の水分を集めて、冷酷な眼で錫鬼を見ながら右手に出来上がった氷の槍を上に構える。

 

「じゃあね…………鬼!!」

 

 そのまま、氷の槍を錫鬼の心臓を貫き、錫鬼の背中から穂先が突き出て、地面に突き刺さる。

 背中から垂れていく血は氷の槍に垂れるが、槍の温度によって凍っていき、血のように真っ赤な槍に変わった。

 

【ふふふ、やはり人間の串刺しは良いものだ】

 

 頭の中で、高揚したユキジョロウさんの声が響く。

 朧から聞いた話によると、ユキジョロウさんは富士山頂上付近を根城にしており、そこにやって来た鬼や反逆した魔化魍を殺し、氷の槍で串刺しにしてそれを眺めながら喰らっていたらしい。

 

 だから…………なのだろうか?

 私は今、凄くこの鬼を喰らいたい(・・・・・)と思った。

 

 幽冥のこの状態は、魔化魍の王になる兆候である。幽冥の家族である魔化魍たちは最近では、人の食事にも興味を持ち、炭火焼オルグことおっちゃんや野間 茂久の料理などを喰べる事も増えただが、やっぱりどうしようとも人間を喰べたくなる。

 そして、幽冥は錫鬼の死体を眺め続け、その死体に近付き、死体を齧ろうと口を近づけると–––

 

「申し訳ございません」

 

「うっ」

 

 首に来た衝撃によって、幽冥はユキジョロウの力を借りた姿から元の着物姿に戻り、意識を落とした。

 

SIDE白

 隙をついて、赤に一撃を与えて、何とかあの場の正妃対戦は勝利し、赤をその場で置いて、私は王を探した。

 すると、鬼の死体を喰らおうとした王を見て、私は王に近付いて、首の後ろに当て身を当てる事で気絶させた。そのまま地面に横たわらせようとすると、王は目を開いて、私から勢いよく離れる。

 だが、王の瞳の色が白かった事で、今起きているのは王は王でも5代目の王であるユキジョロウ様だろう。

 

【何故、こやつの食事を邪魔した妖姫?】

 

 王と同じ声でも喋り方が違い、私を睨みつける王の身体を借りたユキジョロウ様に私は答える。

 

「王はまだ完全な魔化魍の王ではありません」

 

【知っておる。だから早めに人間の味を覚えて貰おうとしておったのに】

 

 それもそうだ。元が人間だったとはいえ、魔化魍の王になると言うのなら、人間を喰らわねければならない。王は人間を喰らう覚悟はあるだろう。何故なら王は既に2人の鬼を殺している。

 だが–––

 

「私は……いえ、私達は王が完全な魔化魍の王になるまでは人間を喰らわせないと」

 

 そう。完全なる魔化魍になるまで、その時までは絶対に私は、いや私たちは王に人間を喰わせない。

 

【分かった。今回はお前さんたちの覚悟に免じて何も言わん】

 

 すると、王の瞳の色が白から琥珀色に戻り、地面に倒れる。

 私は王に近付いて王の頭を膝に乗せて、頭を撫でる。

 

 気絶させた赤以外の他の正妃を目指す者が見たら、再び正妃対戦が始めるが今は居ないので、王を私の膝に乗せても問題ないでしょう。

 

SIDEOUT

 

 

SIDE眠眠

 何で、何で………突然のことで僕は混乱している。

 僕の身体は気体と同等で、例え、爆発に巻き込まれたとしても、斬り刻まれても、死ぬことはない。なのに何で?

 

眠眠

【何で庇ったのランピリス!!】

 

 目の前で緑の血を流し、肉体の一部を失い、本来の姿から偽り(擬態)の姿で倒れているランピリス(主人)に声を荒げる。

 何でこんなことになった!!

 

〜回想中〜

 もう虫の息ともいう傭兵たち数名を残して、傭兵たちの殲滅は完了した。

 

眠眠

【えっ】

 

 だが、虫の息の傭兵たちは腰に携帯していた緑の筒状の物の上の出っ張りを押すと、側にいた僕に向かって走って来るが、それを見たランピリスが間に割り込むように入って、僕を押し飛ばしてランピリスは傭兵にぶつかった瞬間に炎に包まれた。

〜回想終了〜

 

 僕の所為で、ランピリスは–––

 

「自分を…責めてはダメ……だよ……」

 

 自責にかられる眠眠の頭に手を置いて撫でたのは、目の前の怪我人だった。

 

眠眠

【でもーーむっ】

 

「油断…は私もしていたんで…すから……おあいこです」

 

 そのままランピリスは眠るように意識を失い、眠眠はランピリスの傷を如何にかする為に離れた所にいる家族の元にランピリスを背負いながら向かっていった。




如何でしたでしょうか?
今回は幽冥の変化と焦る眠眠という感じで書いてみました。
次回にオクリイヌの戦いを書こうと思います。

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