今回はいつにも増して、内容に苦労しました。
今回は幽冥SIDEとヒャクメSIDE、最後にコソデノテSIDEを書きました。
そして、ひな編は次回でラストです。
「…………だ…………」
「おき……だ………う」
「起きてください王」
白の声が聞こえて、私は目を開ける。
「起きましたね王」
私を覗き込むように見る白の顔………って!!
「ひな……つーーー痛い」
「痛いです王」
ひな達のことを思い出した幽冥は起き上がろうとして、白の額に自分の頭をぶつける。
幽冥の身体は魔化水晶を手にする度に魔化魍になりつつある身体、だが、魔化魍化しつつある自分の頭でも元々、妖姫である白の額にぶつければ痛いものは痛い。
「大丈夫? 幽お姉ちゃん」
少し離れた所から聞こえる声に私は安心し、その声の主の方に向けて走る。
「ひな!!」
「うわ、幽お姉ちゃん苦しいよーー」
「ああ、ごめんね」
抱きついて、ひなの無事を確認するも、苦しそうにするひなに私は慌てて離れる。
少し涙目になったひなを抱きしめ、その頭を撫でる。
撫でて少し経った後に、私はコソデノテを探すことにした。
佐賀支部の攻撃によって一部が崩れた屋敷。
その中に入り、幽冥はコソデノテを探す。部屋の1つ1つを確認して、襖の壊れた6部屋目に入るとヒャクメが作ったと思われる氷のベッドの上で寝かされてるコソデノテと自分の主人であるコソデノテを看病をするヒャクメがいた。
【【ああ、どうすれば、どうすれば】】
無数のヒャクメ達が慌てて、コソデノテを治療しようとするが、魔化魍に人間用でもある普通の薬が効く筈もなく。尚更慌てる。
私は部屋に入り、ヒャクメに近付くと–––
【【こ、これは王!!】】
私を見て、一斉に畳に降りて凍った鰭を前に出して畳の上に付いた。
「コソデノテが心配なんでしょ。いちいちそんな事をしなくてもいいよ」
【【ですが、それは王に対して不敬です!!】】
私が言っても姿勢を解こうとしないヒャクメに私は裾に仕舞ったある物である事を思いつく。
「じゃあ、ヒャクメ。この薬をコソデノテに塗ってあげて」
【【薬ですか?】】
そう言って私が裾から取り出したのは、蝕が作った傷薬。
いつかのようにシュテンドウジさんの力を借りれるか分からず、その為に蝕に作って貰った。基本は塗り薬だが、飲むことも出来る。だが、飲ませるよりは傷口に直に塗る方が効果が高い。
「これは家の家族が作った傷薬でね。丁度持っていたからこれをコソデノテに塗って治療してあげなさい。これは王の命令です」
【【あ、ありがとうございます王。では、早速使わせて頂きます】】
そう言って、ヒャクメは鰭に薬を乗せて、コソデノテに塗る。その光景を見た私は部屋から静かに出た。
SIDEコソデノテ
ひなを鬼から守り、私は意識を失った。そして、この暗い道を1人歩いている。
私の怪我の具合から考えて、死んだのかもしれんな………さしずめ此処はあの世に繋がる一本道という所かの。だが、私はひなを1人にするわけにはいかない。あの子の家族はもう私だけ。
私が死んだら。ひなはどうなる、唯一の家族である私は死ぬわけにはいかない。
【先ずは此処から抜け出さねば】
そう口に出した私は、暗い道の反対を歩き始める。
あれからどれくらい経ったのだろう。数十分。数時間。いやもっと経ったのかもしれん。
そして、どれくらい歩いたのだろうか。歩いても歩いても同じ暗い道。此処があの世だとしたら、この世の入り口になりそうな場所があってもおかしく無い筈なのだが。
それから、さらに歩いた。だが、出口であるこの世の入り口らしきものは見つからない。
此処までくると私は考えてしまった…………出口はそもそも無いと。
歩くのに疲れ、暗い道の脇にあった岩に腰を下ろし、溜め息を吐く。すると–––
「何、しょぼくれた顔をしとる」
後ろから懐かしい声が聞こえ、振り向くと。
「よっ!」
そこに居たのは、本来は、
魔化魍である私だけを愛し、死ぬ時まで一緒だった男。その名は–––
「久しぶりだの紫陽花」
立花
ひなの祖父であり、先先代の8人の鬼の1人である呑鬼。魔化魍である私が本気で愛した男。そして、紫陽花というのは私が人間の姿で名乗っていた名前だ。
梅雄はそのまま私の隣にあぐらで座り、いつの間にか持っていた酒の一升瓶を猪口に注ぎ、そのまま一杯飲む。
「ぷはーーー。で、どうしたんだ」
梅雄と話をする為に私は擬人態に姿を変える。
「やっぱり、いい女よのーー」
どうやら死んでもこやつのスケベは直らないのか。だが、少しだけ暗い気持ちが和らいだ。そして、私は梅雄に
「梅雄。おまえが死んで少し経った年に孫が生まれたんだ」
「ほおーーあのバカ息子も嫁を見つけられたのか。それはめでたいの」
「ひなという名前でな。雛人形に愛らしい姿からその名を付けたんだ」
「人間の風習に興味は無いと言ってたお前が名前か」
「考えるのに苦労したよ。それからなーーー」
私はそのまま暫く、ひなの話を続けた。
その話を聞きながら梅雄は酒を猪口で飲む。息子の時とは違ったひなの赤子の頃の大変さを教えたり、悪戯をして叱れるひな、幼稚園で先生に褒められたことを嬉しそうに報告するひな。そこから、梅雄の知らないひなの話を続けた。
最後の話が終わると、私は現状を思い出し、再び、この世の出口を探そうとした。
「紫陽花。此処で儂と過ごさんか」
梅雄の言葉で、私の足は動きを止める。
「お前はもう充分生きた。再び戻ったとして、また同じことを繰り返して、ひなを悲しませるより、此処に残り儂と此処で過ごさんか。
ひなは魔化魍の血が流れてるとはいえ、4分の3は人間だ。いずれ此処に来るだろう。そうすれば、儂たちと一緒に此処で暮らそう」
梅雄の言うことも確かだ……私がひなを人質に取られて、再び、あの世とも言える此処に来るかもしれない。それならば、此処に残るのもいいかもしれない。だが–––
「私はひなの元に戻る」
目の前の梅雄の目を見てはっきりと宣言する。
「いいのか? また同じことを繰り返すのかもしれんぞ」
「その時は、例え、ボロボロになったとしても必ずひなの元に戻る」
私の覚悟を聞き、梅雄はあぐらを解く。そして私の手を掴み、何処かへ歩き出す。
段々と暗かったはずの道が明るくなり、その明るさは強くなっていく。やがて、途轍もなく光るところに着くと梅雄は私の手を離し、そのまま私の方に振り返り、口を開く。
「此処から先に行けば、お前さんは本来の肉体に戻る…………此処でお別れかの。さあ、早よ戻って
そう言って、梅雄は元来た暗い道に向かっていこうとするが–––
「待て梅雄!!」
「ん。なん、むぐ」
私は行く前の梅雄に感謝と別れを合わせた接吻をした。やはり慣れぬなと心の中で思いながら口を離すと、やられた梅雄は少し、目をパチクリとさせるが口は大きく開き笑う。
「はははははは。やっぱり、お前さんはいい女だの」
そう言って、梅雄は私を強く光る後ろに押した。そして、最後に見えたのは満面の笑顔で笑う愛しの男だった。
如何でしたでしょうか?
今回はコソデノテSIDEに彼女の夫だった。ひなのおじいちゃん梅雄さんを出して見ました。
今回のみしか梅雄さんは出ませんが、もしかしたら別の話で出て来るかもしれません。