今回のこの話の投稿でひな編完結です。
SIDEコソデノテ
梅雄に押されて、私は強い光のところへ落ちた。
そして、ずんと来る体の重さで意識が戻り、私はあの世から戻って来たことを感じさせた。そして、目を開いて最初に見えたのは–––
【【こ、こここコソデノテ様あああああああ!!】】
と言って私の身体に飛び付くヒャクメたち。その数によって起き上がった私の身体は再び、堅い氷のベッドに戻される。
【【すいませんコソデノテ様】】
少し経って、ヒャクメは私から降りて一斉に頭を下げて、反省していた。
頭を下げるのを止めさせて、私の身体にあった怪我はどうしたのか。私が倒れてる間に何があったのかヒャクメに聞いたところによると、ヒャクメが治療している時に王が現れて、傷薬を渡してくれて、そのまま去ったようだ。
それを聞いて思ったことがあった。私がいたあの世とは意識なく倒れた私が想像で作り上げた空想だったのではないのかと。そして、そこに居た梅雄も自身の想像で作り上げられた偽物だったのではないのか。
だが、この考えは否定した。その理由は–––
【(梅雄の奴め……ひなに会いたかったんだろう)】
私の魔化魍の姿である後翅の小袖の裾に桜の花弁を模した飾りの付いた簪が入っていた。
おそらく、梅雄が会えない孫のためにと思ってこの世に戻す際のどさくさに紛れこませたものだろう。だが、これのおかげであれは想像によって作られた空想ではなかった事が証明された。
【【それでは、コソデノテ様。早速ひな様を「大丈夫だよヒャクメお姉ちゃん」!!】】
その声でヒャクメが後ろに振り向くと、ひながいた。
SIDEOUT
SIDEひな
幽冥お姉ちゃんが部屋に戻ってきた。そして、ひなの手をつかみ、部屋の近くまで連れて、そのまま離れた部屋に入った。
そして、その部屋から聞こえる声からおばあちゃんが中にいると分かり、そのまま入る。
中にいたのは、いっぱいいる凍ったひれの一つ目のお魚と服のようなはねのアゲハチョウ。ひっそりと会話を聞いてると、一つ目きんぎょたちがヒャクメお姉ちゃんで、服のようなはねのアゲハチョウがおばあちゃんみたいだ。
【【それでは、コソデノテ様。早速ひな様を「大丈夫だよヒャクメお姉ちゃん」!!】】
ヒャクメお姉ちゃんの声の上からしゃべると、ヒャクメお姉ちゃんとおばあちゃんはひなを見た。ひなはそのまま部屋に入る。
そして、少し困っているヒャクメお姉ちゃんとおばあちゃんの前で座る。
「………」
「………」
「………」
座ったひなと話しやすいようにと擬人態になって座ったコソデノテ達は喋らずに静かな沈黙が続く。長い沈黙の中でひなが最初に喋り始めた。
「おばあちゃん……怪我大丈夫?」
「大丈夫だよひな」
ひなの心配な声に目の前の
「良かった。おばあちゃん、ひなを庇っていなくなっちゃうのかと思って」
ひなの言葉にはコソデノテもヒャクメも理解している。
何故なら、ひなの両親とひなの祖父である梅雄はすでに死んでおり、今、ひなに残された血の繋がりは祖母であるコソデノテだけである。
「安心してひな、私はもう家族を失わせはしない」
コソデノテはそう言って、ひなを抱きしめる。ひなは自分を抱くコソデノテの手を離すように離れる。
「おばあちゃん。ごめんなさい」
ひなはコソデノテに謝った。
「……なんで謝るのひな?」
優しく聞くコソデノテにひなは答えた。
「ひな、おばあちゃんのことを怖いと思った。ずっといっしょだったのに、ひなはおばあちゃんが怖かった。ひながふつうじゃないのはおばあちゃんのせいだって思って」
ひなが謝ったのは、コソデノテに抱いた恐怖のことだ。
それもそうだ。産まれてから別れる時まで一緒に暮らしていた大好きな祖母が実は人間ではなかったこと。しかも、それを知ったのは両親が死んでまだ心の傷が癒えてない状態の時だ。さらに、普通の人間と違ったせいで、両親が死んだ(母親はそれとはあまり関係ないが)。
だが、ひなはノツゴと話したことで、コソデノテは自分の大好きなおばあちゃんだということに気付いた。それに、ひながしばらく暮らしていたのはそのコソデノテと同じ種族でもある白たち。それによって、おばあちゃんが怖かった恐怖はいつの間にか無くなり、コソデノテに謝ろうと思ったのだ。
「………」
それを聞いたコソデノテは薬指を折り曲げて、親指で抑えて、ひなの額に––––
「ぴっ!! ううーーー痛いよおばあちゃん」
コツンとデコピンをした。
「ひな………私の所為でひなは普通とは違う子だ。普通の子供から見たら不気味に思われるかもしれない。だがな、それがどうした。
ひなは私の孫だ。そんなに人と違う事を気にする奴がおったら私がひなの代わりにシバく」
「ぷ。ははははは」
小袖の裾をめくって、腕を振り下ろす動作を見たひなはそれが可笑しかったのか、笑い始める。
「あははははははは」
コソデノテは笑うひなを抱きしめて、自らも笑い始める。ヒャクメはひなが居なくなる前まで見られていた光景を見て、着物の裾で顔を覆い、静かに涙を流した。
SIDEOUT
ボソッ「良かったね。ひな」
ボソッ「うん………でも幽なんでこそこそするの?」
ひな達のいる部屋の隣にある部屋で壁にコップを当てて、盗聴するのは幽冥と春詠だ。2人はひなとコソデノテの様子が気になり、隣の部屋に潜んでコップで盗聴していたのだ。
ボソッ「ひなとコソデノテが仲直りできるか心配だったの」
「(やっぱり)」
春詠は前世から妹である幽冥のことをよく知っていた。
野上 良太郎よりも不幸な目によくあうのに、親友の為にヤクザの事務所に乗り込んだり、自分の姉兄が怪我で入院や体調を崩して寝込めば、学校を放り出して見舞いや看病をして、弟妹が欲しいものがあれば自分の貯めた小遣いを使ってプレゼントしたりと色々する。
要するに幽冥は自分の親友や家族にはとことん甘い。そして、ひなとコソデノテの話を隣の部屋で盗聴していたのは、何かあった時のために直ぐに壁を突き破ってでも、対応するため。
「何事もなくてよかったよ。じゃあ私は蛇姫たちと転移の話をしてくるよ」
ほっと一息ついて、幽冥はこの佐賀から自分たちの住まう妖世館に転移する話をする為に部屋から出て行った。
SIDE食香
幽冥がひなとコソデノテの会話を盗聴していた同時刻。
食香は自分の育てた子供の1人、乱風と共に屋敷の外に出て、入り口である者を待っていた。
乱風
【それにしてもいつになったら帰ってくるのでしょうか?】
食香
【さあ、あの娘はいつも時間にルーズでしたしね】
そう言って入り口で待っている2人の耳にある音が響く。道から響く機械の爆音はどんどん近付いてきて、食香の側に爆音を出したものは止まる。
「お、お袋。ただいま」
背中に背負うように結んだ袋をそのまま下ろして、単車から降りるのは食香に育てられた魔化魍オクリイヌだ。
食香
【お帰りなさい】
食香はオクリイヌの無事な姿を見れて、安堵する。
乱風
【佐賀支部は潰せたのですか?】
乱風はオクリイヌに襲撃した佐賀支部をどうしたか聞いた。
「ああ、問題なく潰せた。雑魚ばっかだったし。それよりは王は何処にいるんだ?」
乱風
【全くあなたは………王でしたら蛇姫の所にいます】
いつまでも口の悪さが変わらない、オクリイヌに乱風は溜め息を吐くが、王に何か用があるらしく、何処にいるのかを教える。
「そっか。じゃあ俺、王に渡す物あるんでな、また後で」
オクリイヌはそのまま、屋敷の方に向かって歩いて行った。
食香
【全く、あの不良娘は】
乱風との会話を横で聞いていた食香は少し呆れるが、昔のような光景が見れて懐かしく思い、乱風を連れて屋敷の中に戻った。
如何でしたでしょうか?
オクリイヌの持ち帰ったものは幕間で出てきます。
それと今回の投稿でしばらく、投稿をストップします。
現在、製作中の安倍家の魔化魍 参の巻が投稿次第、続きを書きます。続きが気になる方には申し訳ございませんが、これからも本作品をよろしくお願いします。