物語の執筆者   作:カボチャッキ―

14 / 37
お待たせして申し訳ありませんでした!


第十三話

「まさか、春樹がこんなことになるなんて……」

 

「大丈夫よ、医療班によればバイタルは安定しているしすぐに目を覚ますわよ」

 

 ここ夏目春樹の部屋ではロマニとオルガマリーが心配そうに夏目春樹を見ていた。彼らが第一特異点であるフランスから戻ってきて2日が経過している。

 

 戻った当初は無事に特異点を修復できたことを喜んでいたカルデアの人々であったが、夏目が戻ったと同時に気絶したこと、そしてなかなか目を覚まさないことに危機感を募らせていた。

 

「でも何故目を覚まさないのかしら?」

 

「レイシフトにおいてミスはなかったはずです。他にもいろいろ検査はしたのですが原因は不明です」

 

 心配そうに見ていると、ドアが開き彼のサーヴァントであるアルトリアとクー・フーリンが入室してきた。

 

「こいつはまだ目を覚まさないのな」

 

「死ぬことはないでしょうけど心配ですね」

 

 口では心配そうにながらもクー・フーリンはベッドの横にある冷蔵庫を見た。

 

 クー・フーリンはマスターである夏目が冷蔵庫に‘このレイシフトが終わったら食べるんだ’と大事にシュークリーム二個を保存していたことを思い出した。ついでに夏目の分とアルトリアの分だけで自分の分を用意していなかったことも思い出した。

 

 クー・フーリンは少し考えると笑いながら冷蔵庫を開けシュークリームを二つ取り出すと片方をアルトリアに渡し食べ始めた。

 

 アルトリアは少し迷ったがもともと自分の分だしいいかと考え、食べることにした。彼女は食べることに関してはあまり迷わないのだ。

 

「はやく、もぐ、起きてくれないと困りますね」

 

「全くだ! お、このシュークリームうめぇ」

 

 二人の行動に苦笑しながらロマニが尋ねる。

 

「なかなか目を覚まさないけど大丈夫かな春樹は?」

 

「あん? 心配だけどこいつなら大丈夫だ。例えどんな目にあっても戦いの途中でこいつがいなくなることはないからな」

 

「ええ、何があってもマスターは大丈夫です」

 

 二人のセリフにロマニは不思議な信頼関係があることに気付いた。そして彼らがいるなら大丈夫だろうとオルガマリーと部屋を後にしたのだった。

 

 

 

 俺は不思議なことに二つの夢を同時に見ているらしい。どちらも百年戦争が終わり故郷に帰った時の夢だ。夢で俺は友人と再会した。しかし、友人の死に方が何故か2種類存在した。

 

 一つ目では奥さんと幸せに暮らし、老後笑いながら死んだと聞いた。二つ目は奥さんと結婚したがそれからしばらくして病で死んだ。

 

 俺の記憶では老死だったはず。では、もう一つのほうは何だろうか? 分からないけど考えなければならない気がする。しかし、考えようとしたところで俺は夢から覚めてしまったのだった。

 

「ふわぁ。よく寝た。今何時だ?」

 

 手元の時計を確認したところ時刻は20時と出ている。あのレイシフトの後の記憶が無いのだが、ここは自室なので無事に戻ってきたのだろう。

 

 自分の安全も大切だが、先ほど見ていた夢のほうが大切な気がする。死に方が異なる百年戦争時代の友人。

 

 俺たちがレイシフトしたことと何か関係があるのかもしれない。そう考えているとおなかが鳴った。

 

 どうやらしばらく何も食べてなかったようだ。そういえば冷蔵庫にエミヤ作のシュークリームがあったはず。

 

 そう思い冷蔵庫を開けると……無い! どこにもない! おかしい、確かに俺はフランスに行く前に入れておいたはずだ。

 

 俺はベッドから起き上がると誰か知っている人がいないかとみんなが集まっているであろう食堂に向かった。

 

 

 食堂の入り口に到着して中を見てみると藤丸君やそのサーヴァント、そしてアルトリアたちもいた。

 

「あっ、先生。起きたのですね。よかったです」

 

 俺の存在にいち早く気付いたマシュちゃんが俺に声をかけたことでほかのメンバーも俺の存在に気付いた。

 

「夏目さん、元気そうでよかったです」

 

「おう、藤丸君も元気そうでなによりだ」

 

「やっと起きたか。いつまでも寝てるから心配したぜ」

 

「嘘つけ」

 

 クー・フーリンと笑いながら近くの椅子に腰を下ろす。俺の中の直感が囁いている。こいつは俺のシュークリームのありかを知っている。むしろこいつが犯人な気がする。

 

「それよりさ、俺のシュークリーム知らね?」

 

「知らん」

 

「ええ、知りませんね」

 

 クー・フーリンに聞いたはずなのに何故か返事してきたアルトリア。よく見ると視線が泳いでいる。

 

「……なんでお前まで答えたの?」

 

「気分です」

 

 無表情でお茶をすするアルトリア。もしかしてこいつが2個食ったのか?

 

 二人を睨みつけているとキッチンのほうからエミヤがシュークリームを持ってきた。

 

「ほら、注文されたシュークリームだ。もう一つ食べたいとは困ったものだ」

 

 そう言いながらも少し嬉しそうなエミヤは置いておき、気になるセリフがありました。

 

「もう一つって何? アルトリア?」

 

「……おいしいものは何度も食べたいということです」

 

「これから1週間飯抜きにするよ。でも正直に言ったら許してやるから言ってみ。俺のシュークリーム食ったの誰?」

 

「クー・フーリンです」

 

「ちょ、おま⁉」

 

 迷うそぶりを見せることなく仲間を売ったアルトリアだった。

 

「お前、1週間男子トイレ掃除な」

 

「そんなのないぜマスター!」

 

 焦った顔でこちらを見るクー・フーリンを横目に俺はエミヤから許可をもらい少し多めに作られたシュークリームを食べるのだった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。