物語の執筆者   作:カボチャッキ―

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第十九話

「案内感謝します」

「うむ」

 

 そう言って部屋に入った俺。すぐに出ていくと思っていたネロ帝は出て行かずにこっちをじっと見ている。

 

「あの、何かありますか?」

「ある。少しゆっくり話でもせぬか?」

「いや、明日も早いですし寝ませんか」

「余は話がしたい」

 

 そう言うと部屋に備え付けられていた鍵をガチャと閉めた。そしてそこに鎖を巻き始めた。

 

 ここまで心臓がバクバクいったのはいつ以来だろうか。

 

「あの……その……どのような話でしょうか?」

「先ほどそなたがしてくれたギリシャの話、とてもよかったぞ」

「……ありがとうございます?」

 

 なんだ、何が言いたいのだろう? それに彼女の目がとてつもなく怖い。ギリシャでよくいた女性と同じ目をしている。

 

「先ほどの話はな、●●●もしてくれた」

「はぁ」

「その時はな酒を飲んでいた日でな。あやつは酒に滅法弱いのだ。それでな、その話をしてくれた時に言っていたのだ。‘自分のこれは実体験だった’と」

 

 ……え?

 

「余もさすがに疑った。しかし、話を聞いてみれば嘘ではないと信じれるくらい詳しかったのだ。それに、皇帝として何度も人間と騙しあいをしてきた余にはそやつが嘘を吐いているかぐらいすぐに分かる」

 

 いつだ。俺は本当にそんなこと言ったのか? 確かにネロ帝には無理矢理酒を飲まされたことは多かったし、記憶が飛ぶ日も何度かあった。でも、英雄と一緒にいたら当たり前すぎて警戒していなかった。

 

「それでだな、他にも言っていたぞ。もしかしたら未来にも自分がいるかもしれないとなぁ」

「ひぃぃ」

 

 で、出口は、ふ、封鎖されてる。

 

「なぁ、教えてくれないか夏目、どうしてあやつが実体験として語ったものと同じことを言えたのか?」

「それは……その」

「ならば、当ててみせようか。何、難しい問題ではない。なぜなら、そなたも同じ体験をしたのだろう春樹ぃ」

 

 極上の暗い笑みを浮かべて一歩、また一歩と近づいてくるネロ帝。そして一歩ずつ下がる俺。どんどんと迫られそして壁際に追い込まれる。

 

「お、落ち着こうネロ。俺たちは分かりあえるはずだ」

「ふふふふふふ、やっといつもの呼び方をしてくれたぁ」

 

 おや、選択ミスしたかな。さらにいい笑顔になったネロがもう目の前に来たところで外からドアが叩かれた。

 

「夏目さん! 大丈夫ですか! 大丈夫なら返事してください! 先ほどドクターから夏目さんのバイタルに異常が出てるって報告がありましたよ」

 

 これは天の助けならぬ藤丸の助け、ありがたい!

 

「藤丸……」

「何も問題ないぞ、立香!」

 

 ちょ!

 

「あれネロ帝と一緒にいるんですか?」

「うむ、あの後、酒を飲んでな。そのせいで体調を崩したのだろう。大丈夫だから安心せい」

「分かりました! 夏目さんをよろしくお願いします」

「任せるがよい」

 

 ああ、藤丸の助けが消えたぁ。彼は純粋すぎないか?

 

「……邪魔も入ったしここまでにしようか。大丈夫だ、余も今が非常事態なのを理解している。ここでそなたに危害を加えることは決してせぬ。しかしだ、これだけは今、させてくれ」

 

 そしてネロは俺を抱きしめた。ネロが不安になったときによく頼んできた行為だった。俺は●●●ではない。しかし、不安になっている彼女を引きはがすこともできなかった。

 

「ではな、確認したいこともできたし、余も寝るとする」

「ネロ!」

「なんだ?」

「えーと、おやすみ!」

「うむ、おやすみ!」

 

 そう言うとネロは部屋から出て行った。安心した俺はゆっくりと床に座った。まさかネロがここまでのことになってるとは予想外だった。過去の俺は……ああ、逃げ切れずに捕まってたし。時間の問題かなぁ。

 

 なら、この異常事態中は俺ができる限り彼女を支えてやろう。どうせ、俺が未来に戻っても俺が彼女を支えるのだから。今だけは俺の尻拭いをしてやろうかな。

 

 そう考えた俺は、立ち上がると先ほどの件で藤丸君に感謝を述べようとドアまで行き手をかける。しかし、ドアノブが回らない。

 

 あれ、あれ、あれ⁉ なんで、どうして、開かないの? あ! 

 

 そこで俺は思い出した。ここは元々俺を幽閉するための部屋だったことに。つまり、俺は幽閉されたってことか。ふー、落ち着け、落ち着け。俺がこのまま幽閉されることはないだろう。何故なら、俺も戦力に入っているからだ。ならば明日には解放されるはず。

 

 つまり、前世みたいに逃げ出さないようにしているだけ。そう、そうだよね? 考えるのは辞めるとしよう。

 

 そうして俺は心の中の不安を振り切るようにしてベッドで寝たのだった。

 

 

 翌日、目を覚ますと目の前にネロの顔があった。

 

「あ、」

「声を出すでない。ただ起こしに来ただけだ。余、自ら起こしてもらえるなんて感謝するべきであろう」

「はい」

 

 感謝の前に恐怖しかないよ。

 

「では、朝食とするか。すでに全員集まっているぞ」

 

 あれ、みんな起こしに来てくれなかったの?

 

「ジャンヌがそなたを起こしに行こうとしていたが余がやると言ったら引き下がってくれたぞ」

 

 ジャンヌは負けたのか。

 

「それより朝食を取ろうではないか」

 

 昨日のネロが嘘のように元気溌剌なネロに安心しながら俺はネロについていった。

 

 

 朝食は常に和やかに進んだ。ネロも暴走することなく俺の心は安らかだった。この朝食の席で一先ず霊脈となっているエトナ火山にターミナルポイントを設置することになった。

 

 

 火山に向かう途中、敵も少なくのんびりしているとジャンヌが話しかけてきた。

 

「今朝、皇帝に何かされませんでした?」

「されてないよ。あんな笑顔の皇帝が何かしてくるように見えるか?」

「昨日の笑顔を見れば誰だって不安になりますよ」

 

 否定できない。

 

「そういえば、昨日も夜にネロ帝と酒を飲んでいましたよね、夏目さん?」

「どうかなぁ」

「?」

 

 嘘を吐きそうになったけど清姫ちゃんがいるのだった。こんな恐ろしいウソ発見器はこれから先も存在しないだろう。

 

「酒飲んだだけでドクターが焦るようなことが起きるんですね」

『そうだよ。昨日は軽くパニックになったんだよ。だって春樹の心拍数が異常に上がっていたからね。生命の危機に襲われているのかと思ったよ』

「ははは、ネロ帝がいるのにそんなことあるわけないでしょう」 

『そうだよね。でも、貞操の危機だったりして? あははは、そんなわけないよね』

「……」

『え?』

「……そんなわけ、なかったらいいのになぁ」

 

 微妙なラインだけど生命よりは貞操の危機だったかもしれない。

 

『あー、このことは忘れるよ』

「助かる」

 

 ここで話が終わればよかったのだが。

 

「春樹、そんな話、私は聞いていませんよ」

「……はい」

 

 聖女様がお怒りのようだ。ちなみに周りの反応は、ヴラドとマルタはやれやれみたいな感じ。オルタや清姫、マシュちゃんは興味津々。ジークは気の毒そうにこちらを見ている。さすが、女性のせいで痛い目にあった御仁は女性の恐ろしさを知っている。

 

「黙っていたら分かりません。何か言ってください」

「俺は悪くないです。悪いのは前世の俺です」

「つまり、悪いのはあなたですね」

「……違う、可能性もあります」

「どうせあなたのことだから、女性を蔑ろにしていたんでしょう?」

 

 どうせってなんですか?

 

「そういえば、余の時もそんなことあったな」

「俺の時もあった」

「私もあの時は困ったのよね」

「はぁ」

 

 三人でため息を吐くな。

 

「何というか不幸属性とでも言えばいいのか、厄介な女性によく絡まれていた」

「英雄と仲良くなるせいかそのつながりで絡まれることが多かった」

「恋愛とは関係のないものでも揉めていたし」

「はぁ」

 

 だから、辞めて。

 

「これも全部神様が悪いんだよきっと」

「主が女性関係のもめ事を引き起こすはずないでしょう」

 

 たぶん、この状況はその主が起こしているものですよ。

 

 その後もジャンヌの追及を躱しながら進んでいくとちょうどいい場所があったのでターミナルポイントを設置することにした。途中で幽霊みたいなのに襲われたが簡単に返り討ちにした。

 

 ターミナルポイントを設置後、カルデアのサーヴァントと少し会話することになり、俺はアルトリアに‘帰ってきたら話があります’と言われ、クー・フーリンからは‘護身術教えようか’と言われた。

 

 ‘自分の身を守るには敵が巨大すぎるので、助けてください’と言ったら断られた。もしもの時は令呪であいつを犠牲にしようと本気で考え始めた。

 

 なんやかんや、サーヴァントたちと交流を深めた俺たちは再びネロのいる城へ戻るのだった。

 


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