物語の執筆者 作:カボチャッキ―
先に動いたのはロムルスだった。彼は俺たちに対して両手を上げたYの字のポーズで俺たちを威嚇してきた。
「あのポーズはまさか⁉」
「何、知ってるの?」
警戒態勢を取るみんなの前でオルタがロムルスから視線をそらさずに尋ねてきた。
「ああ、あれは……」
「あれは……?」
ゴクッとのどが鳴る。
「ローマポーズだ」
「ローマポーズ?何それ?」
「偉大なるローマ専用のポーズが欲しいと言われて俺が発案したかっこいいポーズだ。あの姿勢ならば週刊少年誌でも表紙を飾れるほどの最強のポーズだ」
「……意味は?」
「特にない。強いてあげればかっこいい」
俺も昔のように彼と同じポーズを取る。
「さすがは我が友、完璧だ」
「ふ、お前には負けないぜ」
お互いに視線が外せない、少しでも動けばやられる。緊張感が辺りを支配する。
「意味がないならやるわよ」
均衡を崩したのはオルタだった。彼女が手をかざすとロムルスの足元に黒い炎が発生した。
「当たらぬ!」
一歩も動かなかったロムルスの足元から急に木々が生えロムルスを炎から遠ざけた。
「あれは何⁉ 宝具?」
「この木? 何の木かって? 気になるの?」
「別に木の種類はどうでもいいわよ!」
「でも、名前の知らない花が咲くかもしれないよ」
「その時は図鑑で調べるわよ。それよりあれ!」
「うーん、たぶんローマを守護する大樹じゃないかな」
「他に情報は?」
「彼が本気出したら最強質量兵器ローマになる」
「ローマってろくでもないわね!」
「ローマを馬鹿にするな! それに話してる場合ではないぞ!」
ヴラドとネロが木の上を駆け上がりながら器用に戦っている。ネロって人間だよね? なんであんな動きできるの?
「分かってるわよ!」
オルタも駆け上がるとそこに加わり剣を振り回し始めた。どんどん伸びていく木は天井を突き破り空まで伸びていった。
ジャックと豆の木、あそこまで登った少年って凄いな。改めて空高く伸びる木を見て考えてしまった。
「あんたもぼっとしてないで来る!」
マルタに連れられてタラスクに乗り俺も空の上、天空へ向かう。天空ではロムルスが3人と均衡した戦いを行っている。
「実にローマである!」
「うっとおしいわね、ローマ、ローマって私はローマとは無関係よ!」
「余は……関係があるな」
「そうだ! すべてはローマに通ずるのだから」
ヴラドの槍とオルタの剣が空を舞いロムルスを攻撃するが全て槍と木々に防がれる。
「強いわね、どうしたらいいの?」
「木が守れないように空に突き上げたら?」
「それよ!」
俺発案の作戦を実行するらしいので念話で知らせる。
『何とか空に突き飛ばせない?』
『難しいがやれと言われればやるぞ春樹』
『同じくよ』
手短に作戦を組んでいく。ネロにも協力してほしいけど会話が届かない。そこはアドリブでなんとかしよう。
「令呪をもって命じる!最強火力を叩き込め!」
「了解!」
俺の声が聞こえたネロが大きく後退したところで、オルタの黒い炎が先ほどの比ではないくらいに燃え上がりロムルスの足場を燃やす。そこにヴラドの槍が一気に下から押し寄せる。
先ほどはバックステップや槍で防いでいたが辺り一面が炎と槍になったことでロムルスは大きく飛び上がった。
「そこ! タラスク!」
そこに高速で飛来するタラスクによってロムルスは大きく空に吹き飛ばされた。
「このまま地面に着地されたらやり直しだ、ここで決着つけるぞ!」
ネロがおそるおそるとタラスクに乗り、全員で彼を追いかける。追いつくと彼はローマポーズで俺たちを待ち受けていた。
「このような場所で戦うとは予想していなかったぞ、友よ!」
「予想通りに生きてこなかったやつが言うな」
「その通りだ、決着を着けようではないか!」
圧倒的に不利なはずなのに決して弱気を見せないロムルス。やはり偉大なる建国の祖である。
追いかける時に事前に打ち合わせしていた作戦を取る。先ほどのようにヴラドとオルタが空中に浮かぶ槍や炎、剣で下や正面から攻撃する。しかし、決め手が欠けるのか空中でも凌ぐロムルス。
「足りんぞ! こんなものでは私を倒すことはできないぞ!」
吠えるロムルスは俺たちを見て驚く。
「ネロはどこに?」
「余ならここだ!」
ロムルスが上を見上げるとネロが急降下し、そのままロムルスに剣を突き立てた。それはどう見ても致命傷であった。
ごほっと血を吐くロムルス。そして共に落下するネロ。マルタに頼み二人の下に行き彼らを拾う。無事に成功してほっとする。
俺たちが事前に立てていた作戦は単純だった。ロムルスが俺のサーヴァントに気を引かれている間にネロを移動させて不意打ちさせるというものだった。
やはり、サーヴァント戦において人間よりもサーヴァントに注意を向けてしまうのは仕方ないことだ。実際にロムルスも注意していたとはいえ、二人に集中攻撃されれば気を逸らしてしまうというものだ。
ネロはヴラドの槍に乗って上に上がりそのまま槍を蹴って急降下したというわけだ。
「大丈夫かネロ?」
「うむ、それより……」
ネロは倒れているロムルスに近づく。
「ネロ。永遠なりし真紅と黄金の帝国。そのすべてをお前と、後に続く者たちへ託す。忘れるな。ローマは永遠だ」
「はい」
涙ぐみながらネロは返事した。
「そして友よ。世界を任せたぞ」
「俺には頼りになる英雄たちがいる。大船に乗ったつもりでいろよ」
「そうだな。お前には助けてくれるものがいる。ローマの全てがお前を応援しているぞ」
満足そうに笑って消えたロムルス。やれることはやるよ、じゃあな。
「じゃあ、下に戻るか」
そうして下に戻ると黒い触手の化け物がレフに戻ったところだった。触手人間とは業が深いな世界を滅ぼそうとしているやつは。
かなり引いていると、下に到着した俺は藤丸君の隣に立った。
「夏目さん、そっちは終わったんですか?」
「うん、被害無く終わったよ。ロムルスがかなり力を抑えてくれたおかげだ。そっちも終わった様だね」
「はい」
彼と共に前を見るとフラフラになったレフが怖い顔でこちらを見ていた。そして聖杯を掲げた。
「このままでは終わらん! 古代ローマを生贄に最大の英雄を召喚しよう。ふはははははははは! ローマに終焉を運ぶもの、来たれ! 破壊の大英雄アルテラよ!」
そして現れたのは褐色の肌に白い礼装を纏った女性、アルテラであった。