物語の執筆者   作:カボチャッキ―

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第三十一話

 夏目春樹がネロの宝具によってどこかへ行ってしまった。残されたカルデアのメンバーは彼を放置して藤丸立香の召喚をすることにした。

 

何故、放置することにしたかというとロムルスが事情を説明していたからだ。彼は自己紹介と中で起こっていることを説明すると、ネロの宝具の中に戻ってしまった。さすがは神祖、ローマが関わるところでは万能である。

 

 カルデアメンバーも慣れたもので‘いつものことか’と考えるようになってしまった。哀れ夏目春樹。

 

夏目春樹を無視した藤丸の召喚によってステンノ、タマモキャット、ブーディカが呼び出された。

 

 初めに召喚されたステンノは藤丸に約束を守ってくれたことに対してお礼を言った。それについて藤丸は夏目に土下座しようか考えた。しかし、夏目なら逃げ切るだろうと考えて謝罪はするが土下座は止めることにした。

 

 2人目のタマモキャットとは意思疎通が困難かと思われたが普通に会話ができたことに驚いた。そしてブーディカはマシュと嬉しそうに話しており、無事にカルデアに今回のメンバーが馴染めるだろうと思った。

今回の召喚も問題なく終わるだろうと考えた藤丸。しかし、夏目が戻ってきたことによってその気持ちは一気に消し飛んだ。

 

「みなのもの、春樹の妻のネロだ! よそしく頼むぞ」

「同じく、春樹の妻のアルテラだ。よろしく」

 

 二人から腕を組まれて凄く疲れた顔をした夏目が出てきた。その後ろでロムルスは明後日の方向を見ていた。何があったのだろうか?

 

「そのですね、二股の最低野郎に見えるかもしれないのですが、事情がありましてね。その、浮気はしてないんです。本当です。信じてください」

 

 そんなこと言われても困る。それが全員の感想だった。いろいろ言いたいことはあるがほぼ初対面なのだから自己紹介だけはしておこうと全員が挨拶する。

 

この時、ステンノを見た春樹がどんな表情をしていたかは想像に難くないだろう。

 

 自己紹介も終わり、このまま解散かという流れで、この場にいる二人。ジャンヌとアルトリアが物申した。

 

「兄さん、結婚していたんですか!?」

「そんな話聞いていませんよ!?」

 

 焦る二人を見てネロはすぐに二人の事情を理解した。

 

「その通りだ。余たちが生きていたときに結婚していた。前世で結ばれていたのだから、今世でも結ばれるのは普通であろう?」

「その、その通りですけど」

「では、問題ないな」

 

 普通ではないが、ローマの皇帝としてのカリスマが発動したのか反論ができなくなってしまうアルトリア。彼女が黙ると今度はジャンヌが言った。

 

「前世のことは理解しました。しかし、それでも二人と結婚するのはおかしいです!」

「では、前世で愛した夫が他の女と仲良くしているのを黙ってみておけというのか? それはあまりにも酷いのではないか?」

「……そうかもしれません」

 

 倫理的にはおかしいのは分かる。しかしだ、ネロが言っていることも理解できるジャンヌも黙ってしまった。

 

誰も何も言わなくなったので少し気まずい空気を残しながら解散することになった。

 

 その場に残ったオルガマリー、ダ・ヴィンチ、ロマンは予想はしていたが、予想の遥か斜め上の女性問題が生じたことにただ驚いた。何か解決策を出そうかとも考えた。しかし、どうにかなるだろうと考えるのを止めた。他人の女性問題について考えるぐらいなら別のことを考えたくなったのだった。

 

 

 自室に戻ったジャンヌは考えた。自分も彼が好きだったのだ。カルデアで前世ではできなかった彼との恋愛をしたいと考えていたのにこれはあんまりではないか。

 

 泣きそうになるのを我慢していると、部屋の扉がノックされた。

 

「はい」

「私よ。ステンノ」

「? すぐに開けます」

 

 扉を開けると入ってきたのは今日召喚されたステンノであった。ジャンヌはどんな用事があるのだろうかと不思議に思っているとステンノが楽しそうに微笑みながら尋ねてきた。

 

「あなた、あの男が好きなんでしょう?」

「え⁉ いや、その」

「恥ずかしがらなくてもいいわよ。誰かを好きになるなんて人として普通じゃない」

「そうですけど……」

「何を悩んでいるのか当ててあげるわ。彼に妻がいたことでしょう。そしてあなたは妻がいるなら彼と愛し合えないと考えた。あってるかしら?」

「……はい」

 

 下を向いて落ち込むジャンヌの頭をステンノは撫でた。

 

「いいことを教えてあげる」

「なんですか?」

「彼女たちが結婚していたのは前世なのよ。つまり、今世には全然関係無いのよ。冷静になってみなさい。あなたは前世にイギリスと戦ったからって今も戦う必要はないでしょう?」

「その通りです」

「なら、前世なんて気にせずあの男に告白しちゃいなさい」

 

 その言葉に顔を上げてステンノを見る。

 

「しかし、いくら前世が関係ないと言ってもすでにあの人たちは恋愛関係です。その方から相手を奪うのを主は許さないと思います」

「主って神様のことよね?」

「そうです!」

「なら、安心しなさい。神様である私が許すわ」

「え?」

「よく考えなさい。あなたがサーヴァントとして召喚されて前世で好きだった人と出会えるなんてこの世の全てを探しても見つからない奇跡よ。そんな奇跡のチャンスに巡り合えたのに逃がすの?」

「私は…」

「このチャンスを逃した貴女の後悔はどれほどでしょうね? 彼と出かけて帰ってきたら泣く第二の人生を歩むつもり?」

「私は行きます!」

「それでいいのよ。さぁ行ってきなさい、幸せが待ってるわよ」

「はい!」

 

 笑顔で飛び出すジャンヌを見てステンノは本日最高の笑みで呟いた。

 

「ああ、課題を出すのもいいけどこうして彼が苦しむように仕向けるのも楽しいわ」

 

 こうして女神さまの悪だくみは成功したのだった。ちなみに突撃したジャンヌをオルタが見て、唖然とするのは今から数分後の話である。

 

 

 自室に戻ったアルトリアはやけ酒をしていた。何だというのだあの女は。似たような顔して無駄に脂肪を蓄えるなんて。許せん。

 

しかし、泣けてくる話である。好きな人と奇跡的に巡り合えたのだ。なら、このままゴールインしてもいいではないか。

 

 そう考えるも妻がいるならどうしようもできないとさらに鬱になるアルトリア。

 

 恋人がいる者から相手を奪うなんて最低な奴の行いだ。自分にランスロットみたいなことをしろというのか。そんなもの人理が焼却されても絶対にやらん!

 

 ため息を吐いて酒を一気に煽る。自分はちゃんと結婚はしたのだ。愛のある関係ではなかったが大事な女性と。

 

待て、そもそもの話、おかしいではないか? 自分は男と結婚するのが普通だろう。ではなぜ女性と結婚したのだ。それは自分が男として王位に就いたからだ。

 

 アルトリアは机に両手を叩きつけた。

 

「マーリン! せめて私を男にしろよ! 女性同士の結婚って絶対に失敗するに決まってるじゃないですか! 見つけた瞬間に切り刻んでやる!」

 

 ああ、私が男だったらこんなことに苦しまなくてもいいのか? そう悩んでいるアルトリアに雷が走る。

 

 そうだ、私は考え違いをしていた。私は男だ(錯乱)。そして春樹は女性だ(錯乱)。ならば結婚しても問題ないな。男性として結婚していたとしても、女性としての結婚はまだのはずだ。

 

 いける!

 

 アルトリアはまず、エミヤの元へ行った。

 

「シロウ、ドレスを作ってください! 春樹に似合うやつを!」

「は?」

 

 呆然とするエミヤにアルトリアはさらに詰める。

 

「春樹に似合うドレスです。はやく!」

「あ、ああ分かった」

 

 エミヤが作ったのはピンクのフリフリのドレスだった。

 

「ありがとうございます」

 

 そう言うとアルトリアは走って行った。

 

「……なんでさ?」

 

 彼の疑問に答えるものは誰もいない。

 

 

 この後、アルトリアとジャンヌが突撃したことによって女性によるプライドをかけた戦いが行われ、春樹の部屋が粉砕された。

 

 その光景に涙を流す春樹を嬉しそうにステンノが見ていた。それを、見た藤丸は土下座をして謝罪したらしい。

 

 この事件後、カルデアのトップによって、本人同士の同意があれば例え複数でも男女の関係になってもいいとのお達しが出たのだった。

 

 この知らせによって、夏目が胃薬を頻繁に使うようになった。そして、清姫が焦りを覚えて短期決戦を仕掛けるようになるのだった。

 


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