物語の執筆者 作:カボチャッキ―
俺は今、取調室にいる。目の前にいるのはアルトリア被告。罪状は俺を女装させたこと。ちなみにネロも大きくこの事件に関わっている。ジャンヌは巻き込まれた。そして俺の部屋は半壊した。
「アルトリア、どうしてこんなことしたのか言ってごらん。怒らないから」
事件後、速やかに移動したので俺はピンクのフリフリのドレスを着たままである。誰がこれを作ったのだろうか。
「……はい。あなたがネロ帝やアルテラとイチャイチャしているのを見て私はやけ酒に走りました。私は、先ほども言いましたがあなたが好きです。王である私をただの一人の女性として見てくれたあなたが。王の仕事に追われる中、あなたとの語り合いが私にとって最も大切な時間でした。アーサー王ではない、アルトリアにとって。そんな私にとって、急に現れた女性にあなたを取られたショックはとても大きかったのです」
頷きながら俺は心の中で大きく狼狽えた。彼女が俺のことを好きとは考えてなかったからだ。前世でアルトリアから色恋沙汰の話題が全く出なかったからだ。王になって、そのまま同性と結婚していたし。
「酒を飲んでいるうちにだんだん分からなくなってきたのです。私が男として生きている一方であなたの前だけでは女性でいれました。あなたを愛していたのは男の私なのか、女としての私なのか」
「女としてだろ」
男として好きになったら俺が困る。
「そうです。今ならはっきり言えます。しかし、酔った私は男である私は女性であるあなたを好きになったのだと」
…………俺は今は女装しているが、前世では女性らしい振る舞いをした記憶が一個もないよ。
「俺は女じゃないよ」
「でも、あなたはそこらへんの女性よりも女性らしいです!」
「ええ…」
「家事万能で、シロウにもひけを取りません。そしてこの人理崩壊中、あなたは姫のごとく攫われては救出されています。これを聞いてあなたは自分が男であると言えますか⁉」
「言えるよ!」
「……」
「……」
黙るなよ。
「しかし、私は相手から妻を取るなんて最低な行為はしたくありませんでした」
「妻じゃないよ、夫だよ。それとお前が本気でそう思っているのは理解している」
彼女にとってはトラウマだからだ。
「そう考えた私は、こう考えました。男であるあなたが女性と結婚したのなら、女であるあなたと男として結婚すれば奪ったことにはならないと」
「……俺はなかなかハードな二重生活を送る必要がありそうだな」
「申し訳ありません。私が馬鹿なことをしたのは理解しています。それでもあなたが好きであるこの気持ちを伝えておきたかったのです」
俺はどうすればいいのだろうか。告白されたからと言って何も考えずに受け入れるのは違うだろう。しかしだ、前世に結婚していたとはいえネロ達に対して受け入れたのに前世から好意的に見ていてくれたアルトリアの拒絶するのも違う気がする。
悩んでいると俺の部屋を破壊して、途中からアルトリアと協力して俺を女装させた、男装したネロが入ってきた。何がしたいの君は?
「話は聞いた、余は別に良いぞ。春樹の妻や夫が何人増えようとな。恋こそローマの本質なのだからな!」
またいらないのが来た。そして夫はいらん。それよりもネロが許可を出しているのだったらアルテラも出したということだろう。……あんなに俺を独占していた彼女が認めているのだ、ネロとの取引で何が行われたのだろうか?
「そうは言ってもな……」
「あなたに対して余は前世の話を出した。それには結婚できなかった者も含まれているのだ。聖女も含めてな」
ジャンヌのことか。彼女は女装させられている所に告白しに来たのだ。そこで、‘告白したい相手が女装している状況なんて認めません’と叫んで2対1の戦闘を開始したのだ。結局、負けたが思いは伝わった。
「分かっているけど」
「あなたは、複数の方と付き合うことを不誠実であると考えている。しかしだ、誠実に複数人と付き合うことがあなたならできるとみんな信じている」
「ネロ……」
「だから、迷う必要はないぞ」
意を決して俺が発言しようとしたところでマリーが入ってきた。とても疲れた顔をして。
「協議の結果、複数のサーヴァントと付き合ってもいいことになったわ。そもそもの話、倫理観が別なのだし、変に止めても何するか分からないし。自由に。双方の合意があれば好きにやってちょうだい」
マリーはそれだけ言うと‘あ~、ここまで考えるのが辛い仕事は久しぶりだわ’と呟いて戻っていった。
覚悟を決めよう! まるで世界がそうしろというように後押しされてるようだし。
「アルトリア!」
「はい」
「前世では俺は君のことを大事な妹のような存在と考えていた」
「……分かっています」
「それでもだ、前世は関係あるが今の時代には深く関わらない。だからだ、現代でこれから、前世以上に仲良くなろう!」
少し驚いた顔をするとアルトリアはほほ笑んだ。
「はい」
こうして俺たちは照れたように握手したのだった。
◇
エミヤは食堂でのんびり紅茶を飲んでいた。アルトリアが急にドレスを作ってと言ってきたときには焦ったが、あれから、春樹の部屋が半壊する以外は問題が起こっていないので大丈夫だろう。例え、食堂の入り口でドレスを着た春樹が青い顔でジャンヌに抱きしめられていても、その後、アルトリアにも抱きしめられて苦しんでいても。その後ろでステンノが最高の笑みを浮かべていても。
春樹が着ているドレスを見て、エミヤは笑った。あれはエミヤが彼のために作った服だ。高校生の時に文化祭の劇で彼がお姫様に決まったときに全員で笑いながら作ったドレスである。完璧なお姫様を演じた彼には笑い以外は出なかったが。やはり、あの服は彼に似合う。
過去を思い出しながらエミヤは席を立った、あの死にかけの友達を救うか。それとも、清姫に追いかけられている自分のマスターのどちらを助けるか考えながら歩き始めたのだった。