物語の執筆者 作:カボチャッキ―
第三十三話
あの女性限定の狂乱事件から数週間、いろいろなことがあったが今はのんびりとした時間を過ごしていた。普段は藤丸君の物語を書いたり、今の俺の仕事をしたり、サーヴァントたちと共に訓練をするなど暇を持て余すことがなかった。他にも俺にちょっかいをかけてくるサーヴァントに対してガンドで対抗するなど、マスター力を上げているところだ。
しかし、最近では俺のガンドを避けるサーヴァントが増えてきたのでスリルが日に日に増してきている。ダ・ヴィンチさんに頼んだらガトリングガンかショットガンを作ってくれないだろうか。
そういえば俺の部屋も修理と共に強化されて出口が増えた。しかし、逃げ出すときにはどちらにも見張りが立つことがあり、結局逃げられない。まだまだ問題が残っており、改善の余地がある。これからさらなる開発が俺の平穏を作る鍵になるだろう。
こうした毎日を過ごしていた俺だが、今日はのんびりできないらしい。朝一だというのに管制室に呼ばれてしまった。
嫌な予感しかしない。……いつものことか。
諦めの境地に達している俺は、ぼーとしながら管制室に行った。そこに着くとすでに藤丸君とマシュちゃん、リーダー格の三人が揃っていた。
「さて、そろったわね。分かっていると思うけど特異点が見つかったわ。時代は1573年の大海原よ。ただし、特異点を中心に地形が変化しているから具体的な地域ではないわ」
へー、聖杯ってやっぱすごいな。俺も聖杯で安住の地とか作れないかな?
「ちなみにあなたたちの中に船酔いする人はいる?」
「俺は大丈夫です」
「私も平気です」
「とても心配です。船と海の組み合わせが。もっと言えばそこに女性が加わると最高にやばくなる可能性が高いです。だから行きたくないです。本当に勘弁してください。船の思い出でいいやつないです」
マリーが気まずそうな顔でこちらを見て、すぐにロマンを見た。
「安心してくれ。酔い止めはすでに作ってある」
「違うよ! 確かに盛大に吐いたけど、俺の心配は生命の方だよ!」
「安心してくれ。僕たちは医療のスペシャリストだ」
「せめて、もっと安心できる言葉をくれぇ」
医療の発展、そして今度の海で女性に絡まれないことを祈ろう。
「では、話も付いたようだし今から1時間後、早速第3特異点に向かってもらいます。なので準備をお願いします」
マリーに言われて俺たちはそれぞれ準備に取り掛かった。
◇
「特異点が発見された。今度は海の上らしい。それを考慮したうえでメンバーを選出したい。誰か行きたい人!」
食堂に集まってもらい、サーヴァントの自主性に期待して挙手をお願いした。そして手を上げたのはネロ、アルテラ、ロムルスであった。ロムルスよ、そのポーズは挙手ではない気がする。
「本当にいいのこのメンバーで? 後悔するよ?」
ネロと海は嫌だ。ネロと船は嫌だ。
「お前には悪いがすでに話してあったんだ。新メンバーに特異点を任せるってな。問題が発生すればすぐに交代もできるしな」
サーヴァントの自主性が高くてマスターはとても嬉しいです。泣きそうなほど。
「任せるがよい! 船と言えば余だ。また、あの操舵を見せてやるぞ!」
はい終わった。
「緊張するが、私も頑張る」
アルテラは癒しになってきた。
「私も全力を尽くそう」
お願いします。なんとかネロを止めてください。
こうして不安がかなり残るメンバーが決まったのだった。そういえば祈る相手がろくでもないことを思い出したのだった。
◇
管制室に戻ると藤丸君が、タマモキャット、ブーディカ、ステンノを連れてやってきた。……ステンノとネロか。嫌な予感が高まってきたぜ!
ブーディカさんとは料理など家事の話すことが多く、仲良くさせてもらっている。初めはネロと結婚をしていたことに対してかなり嫌われていたが、それも少しマシになった様だ。ネロとは表面上は話しているように見えるが内面のことまでは分からない。
タマモキャットも実は警戒されている。俺が安倍晴明と共に玉藻の前と関わったのが原因かもしれない。
ステンノは……諦めた。あやつ、恋愛相談とかして女性を唆して恐ろしいことを嗾けてくる厄介な女神である。藤丸君、お願いだから彼女を止めてくれ!
見事に女性サーヴァントが多いことに顔を引きつらせながら、俺たちは並んでマリーを見た。
「これより第三の聖杯を求めてレイシフトします。頑張ってきなさい!」
「はい!」
返事をして俺たちは特異点に向かったのだった。
◇
「さて、大まかな準備は出来たな」
満足そうに船上で頷くのは金髪の青年、イアソン。かの有名なアルゴナウタイの船長である。
「ええ、アタランテさんもヘクトールさんもすでに行動に移しています。後はあの方たちが来るのを待つだけです」
答えたのは幼さが残る魔女メディアであった。
「本当ならこんな小悪党みたいなことはしたくないが、あいつがいるなら話は別だ」
すでに彼らには人理を修復する者の噂が入ってきていた。一人は平凡な青年。これから英雄に成るであろう卵。そしてもう一人は……。
「人類の未来なんてどうでもいい。けれどもあいつのためなら、あの小説好きの奴のためなら俺は、命を懸けられる! あいつらが先に進めるなら悪党としてあいつらに倒されてやる」
「はい、イアソン様が望むなら。私も恩人であるあの方のために命を懸けましょう」
恩人のために文字通り命を懸けた行動をしようとする二人は決意を秘めた瞳で空を見上げる二人。彼らによってこの海はどう変わるのだろうか。