オリガ・ローゼン。31歳。身長160センチ。国籍、ロシア。
1月28日。アメリカ。
その日は奇しくも、かつてキラがこの世を去ったのと同じ日だった。
それまで世界中で報道されてきた重犯罪者やテロリストが、まったくの同時に心臓麻痺で命を落としたのだ。
死亡した犯罪者の数は、合計で302名。一夜にしてそれだけの悪人が裁かれた。
キラ再臨。
その報せが瞬く間に世界を駆け巡るのは、
「始まった……!!」
ニューヨークのホテルの一室でノートパソコンでニュースを見ていたオリガは、強く拳を握り締めた。
キラによるものと思われる裁きのニュースは、ニューヨーク時間の深夜には既に広まっていた。
〈なるほどォ、これが犯罪者を裁くとかいう神気取りの……〉
オリガの肩越しに画面を覗き込んでいた死神のセーヘルが呟いた。
カラスの頭蓋骨のような頭部と、痩せ細った人間のような身体つきの死神だ。その全身の肌には青いタトゥーのような模様が入っている。
「……取引よ、死神――」
オリガは背後の死神に目もくれず、ニュース画面を睨みつけながら言った。
「死神の眼を、私に寄越しなさい」
〈フククク……いきなり飛ばしますねェ。寿命半分、本当にいいのですかァ?〉
「構わない。キラを
〈過激ですことォ……けれど、こうして悪人を殺す者がいるのは元祖キラもウェルカムではァ?〉
「私欲の為にキラの名を騙るのも、キラに憧れてキラを目指し模倣するのも、私にとってはキラを冒瀆する事に変わりないわ。キラが創り上げたこの世界は、キラ1人によって創られたもの。誰かがキラと同じ力を手にしたというだけでキラを継ごうとするなど、キラの功績に染みをつけるだけよ。我々はキラの意志を重んじ、キラが創った世界を享受すればいい……!」
〈お、おゥ……〉
「わかったら、さっさとやってちょうだい」
〈まァ、アタシは構いませんがァ……〉
セーヘルは手を伸ばし、アリサの眼を死神の眼に替えた。
〈具体的に、ノートの回収はどうするおつもりでェ?〉
「寿命の見えない人間の名前を片端から書いて、私にノートを渡して死ぬようにする。6冊全部集まったら、最後は私か貴方のノートに私の名前を書くか、賢い人間の名前を書いて、『ノートを永久に見つからないよう隠して死亡』と書くだけ」
〈妥当ですねェ〉
オリガはインターネットで飛行機のチケットを手配した。
〈日本の東京行き……そういえば、元祖キラは関東にいたんでしたっけェ?〉
「そうよ。おそらく他の所有者も一度は東京か日本に足を運ぶはず。こうしてキラ
〈他の所有者も眼を持っていたらァ?〉
「早撃ち勝負、といったところね。先に見つけて名前を書いた方が勝つ」
死神の眼はノートの所有権と共にあるので、所有権を放棄する訳にはいかない。つまり眼を持つ以上、他の所有者の眼で所有者であると知られてしまう危険性がある。
〈キラ擬きが引き篭もりだった場合はァ?〉
「それこそLと警察の仕事よ。だから私がまず調べるのは、日本の警察――手始めに警視庁。そこに出入りする警察官を張り込んで、所有者を探す。所有者がいれば、キラ擬きかどうか自白させるようにノートに書いてノートを回収するわ」
〈警察といっても、人は多いと思いますがァ〉
「1ヶ月周期で各地の警察から
警察官の死を操作する事で、キラを捜査する人間の情報を集めて眼で名と寿命を見るということだろう。
〈フクククク……この様子だと、決着は思いの外早く着きそうですねェ……〉
「…………」
この死神がオリガを利用しようとしている事は、3ヶ月前に出会った時からわかっている。しかし、オリガにとってそれ自体は問題ではない。利害は一致しないが、互いが互いを手段として利用できる。だからこそ、こうして行動を共にしている。
オリガはテーブルの上に置かれたノートを見た。
濃い赤色のデスノートは、まだ誰の血も吸ってはいない。
オリガは経済書や普通のノートなどでデスノートを挟み、ブックバンドで縛って旅行鞄に放り込んだ。そしてパソコンとスマートフォンで、閲覧できるキラ事件の速報に次々と目を走らせていく。
『キラ再来』
『裁かれる悪』
『今までと同じキラか否か』
『Lはどう動く』
様々な見出しが並ぶ。そのどれもが、オリガの内に点いた怒りの炎の燃料にしかならなかった。
何故誰も怒りの声を上げない?
何故誰も、これがかつてのキラではないとわからない?
こいつはキラを後追いするだけの贋作に過ぎないのに。
キラの栄光に尻を載せているハイエナでしかないのに。
この世界を創ったのは最初のキラだ。
讃えられるべきは最初のキラだけだ。
デスノートで世界を変えようと志し、勇気ある初めの一歩を踏み出したキラこそが唯一のキラだ!
新世界を切り拓いたキラこそが絶対のキラだ!
誰が「跡を継ぐ」などと言おうが、それはエゴでしかない――
――そんな思い上がりは、私が許さない!
それから眠りについたオリガは、夢を見た。
自身の過去の追憶。
オリガの信仰が試された、あの瞬間の光景。
夢から醒めたオリガは、夢の内容を思い返して確信する。
やはりあれは、神が、キラが私を試す為に与えた試練なのだと。