悪役(?)†無双   作:いたかぜ

17 / 34
第16話

~臧覇サイド~

 

 

前回、俺は情けない結果を生んでしまい、その場から戦略的撤退をしてしまった。部下たちも残してしまったが奴らは有能な奴らだ。きっと上手く逃げているに違いない。

 

さて、そんな俺だが、今はとても重要な作戦を行っている。

それは……

 

【ヒヒーン!】

「おーよしよし。もう少しで終わるから待ってろよ」

 

この馬の世話だ。どうやら俺は動物にとても懐かれるらしく、どんなに人間嫌いな動物でも俺ならメチャクチャ懐かれてしまうのだ。これもチートの恩恵だろう。そして馬ということで気づいている人もいるだろう。

そう今回のターゲットは……

 

「悪いな韓遂(かんすい)。アタシらの代わりに世話なんてしてもらって」

「とんでもない! 私は動物が好きですので私にとっても嬉しいことですよ」

「……そっか」

 

貴女ですよ、馬超(ばちょう)さん。

 

「それにしても珍しいよねー。この子たちがこんなに懐くなんて」

 

近くに馬岱(ばたい)さんもいらっしゃる。これはもうくっころをしてくれと言っているようなもんだな。

で、ここまではいい。俺も知っているヒロインだ。

 

「確かに珍しいですよね。普段なら慣れない人には絶対に嫌がりますから」

「きっと韓遂さんの超絶的な指使いでこの子たちはもう虜に……キャー!」

「ななななに言ってるのよ(そう)! 変なこと言わないでよ!」

 

んで、ここからは俺の知らない人たち。

最初に喋った生真面目そうなのが馬休(ばきゅう)さん。そして次に喋った若干変態の感じがするのが馬鉄(ばてつ)さん。

馬岱さんは従姉妹にあたるがこちらは馬超さんの本当の姉妹らしい。やはりというか皆の髪型はポニーテール一択みたいですね。

 

「はぁー……ごめんな韓遂。なんか騒がしくしちゃって」

「いえ、仲が良く素晴らしいことかと思います。いつまでも見ていたいものです」

 

馬岱さんですら本当の姉妹のように接している馬超さんは優しい心を持った女性やね。そんな人のくっころを見れるとは……やっべ顔がにやけてきた。

 

「…………でも、本当にここまで懐くのは母さん以来だ。生きていたらきっと大喜びしてたと思うよ」

「………………」

 

彼女らの母でこの西涼の長である馬騰(ばとう)さんは既に亡くなっていた。どうやら病によるものらしい。

しかし、俺の記憶が正しければ馬騰さんは曹操が攻め込んできた際に馬超さんと馬岱さんを逃すために殿を務め、勇ましい最後を迎えたはずだ。だから孫堅さん同様に生きて会えるかと思っていたのだが……

 

「……歴史のズレが起きているのか?」

 

馬超さんたちに聞こえないくらいで呟く。

孫堅さんの生存。董卓連合の消滅。そして馬騰さんの病死……原作で起こっていないことが多く発生しているこの外史。これからは俺の頭脳のみでこの乱世を駆けていくのだろう。上等だ!全員のくっころを見るまでは死なんぞ!

 

「さて……この後、アタシらは飯にするけどどうする?」

「……どうするとは?」

「もー……お姉ちゃんは韓遂さんと食事をしたいって言ってるんだよ!」

「いいいい言ってねえだろ!」

「あの慌てっぷり……強ち間違いではないっぽいね」

「……あの……その……ど、どうでしょうか?」

「……ここにもいたかー」

 

本当に君たち元気だね。だが、その幸せが続くと思うなよ? この俺によって壊されるのだからな!

 

「ではわたしもご一緒しましょう。何なら料理も作ってあげます」

「ホントに!? たんぽぽ、韓遂さんの料理大好きなの!」

「蒼も蒼も!」

「ふ、2人とも落ち着いて! そ、それではよろしくお願いします……」

「ふふっ……それじゃあよろしくな!」

「仰せのままに」

 

今は仲良くしとくのもアリだ。この一族と馬の信頼を高め……ぐへへ。

 

それからの俺は地道に頑張ってきた。どうなるかわからないこの外史。最初こそ曹操さんが攻め込んできたら漁夫の利作戦を行う予定であったが、下手すれば曹操さんすら攻め込んでこない可能性もある。だからこそ俺は俺自身の力でくっころを目指すことにした。

 

「馬超さん。これがこれまでの調教報告です」

「ありがとな。何か変わったこととかあるか?」

「そうですね……手入れに使う道具類が若干ながら弱くなってきました」

「わかった。すぐに手配しとく」

 

ある時は馬超さんの補佐。この国にとって馬は家族同然なので下手に動かず、しっかりと補佐をする。

 

「料理において最も大切なのは基礎。愛情で!という人は頭をカチ割っても問題ありません」

「そ、それは流石に……」

 

ある時は馬休さんに料理を教える。俺の料理の腕は美花によってかなり上達した。故に多少のモノなら人に教えられる。馬休さんも自分で料理がしたいと言っていたので俺が教えることにした。

 

「なんかいいイタズラの道具ってない?最近同じモノばっかでつまんなくなっちゃって……」

「ではこの“踏めば風が発生する”地雷はどうでしょうか?」

「……………それってどうやって作ったの?」

「禁則事項でお願いします」

 

ある時は馬岱さんとイタズラの強化。多少の息抜きは大切だ。ならばイタズラでも全力で行うのが俺のポリシー。

 

「フハハハハハハ! 遅い! 遅いぞ馬鉄ッ!!」

「どうして馬より速いの?!」

 

ある時は馬鉄さんと遊びを付き合う。馬一族の中で1番と言っていいほど馬に愛されている馬鉄さんはよく俺と遊びたがる。だから俺と馬鉄さんと遊ぶ時は馬も同行している。

 

以上のことを行い、俺は馬一族と馬の信頼を高めた。最早俺を疑うこともないだろう。

では……作戦に移らせて頂こう。

 

 

〜翠サイド〜

 

 

しばらく前に母さんが死んだ。何の前触れもなく、突然に。だから、悲しんで別れる暇もないまま、葬儀や引き継きを行っていった。そして全てが終わった時に初めて実感が出来た。蒲公英(たんぽぽ)(るお)、蒼は枯れるまで泣いていたけどアタシは泣かなかった。此処で泣いたらきっと母さんが心配すると勝手に思ったから。強い人間になろうと思ったから。

そして時は流れ、ある日のこと。ある男が西涼にやってきた。

 

「韓遂と申します。馬の手入れには自信がありますのでよろしくお願いいたします」

 

商人の紹介ということでアタシの面会を許した韓遂。どうやら馬の世話役をしたいということ。

その時のアタシは……

 

「帰れ。今はそれどころじゃない」

 

冷たく彼を突っぱねていた。この頃は忙しさで心を埋めたいこともあり、かなり苛立ちがあった。だが、それ以上に許さないことがあった。

 

「………………」

「アタシらは馬と家族同然として接しているんだ。他所のところの人間がどうこう出来るもんじゃない」

 

西涼の民は馬を家族として見ている。その誇りもあったから先の韓遂の発言が許せなかったのだ。

 

「遠くから此処まで本当に感謝してる。だがこればかりは……」

「し、失礼します!」

 

すると鶸がものすごい勢いで部屋に入ってきた。

 

「オイ! 今は客人と話している途中だ! 用事なら後で……」

「そ、それは重々承知です! ですが、麒麟(きりん)の様子が!」

「ッ!?」

 

アタシの愛馬の1匹である麒麟。鶸の様子からかなりの案件だというのがわかる。今すぐ行きたいが……

 

「……悩むことはありません。どうぞ行ってあげてください」

「…………いいのか?」

「この西涼では馬は家族。家族の心配ならばすぐに向かうべきです」

「……感謝する」

「いえ……もしよろしければ私も同行してもよろしいでしょうか?」

「こちらの勝手を受けてくれたからな。アンタに判断を任せる」

 

そうしてアタシと鶸、そして韓遂は急ぎ麒麟の場所まで走った。

そして到着すると既に蒲公英と蒼が麒麟の側にいた。

 

「お姉ちゃん! 麒麟が……」

「朝まで元気だったのに……急に苦しそうに」

【……………】

 

麒麟の顔を見ると確かに苦しそうな顔をしている。

 

「何かわかったことは?」

「いつも通りに世話をしてたよ。けど、特に変わったことはなかったし……」

「麒麟に話しかけても何も答えてくれないの」

 

蒼が此処まで言うとなると……とても重い病気か何かなのか?

だったら今すぐ医者に……

 

「失礼します」

「ッ! 麒麟に触るな!!」

 

すると付いてきた韓遂がすぐに麒麟の身体を触った。アタシは焦りもあって怒鳴ってしまった。

だけど……

 

「待って翠お姉ちゃん!」

 

蒼がアタシを止めてきた。

 

「止めるな蒼! 今すぐコイツを……」

「わかるけど落ち着いて! 麒麟の顔を見て!」

 

蒼に言われ、顔を見るととても穏やかな顔をしていた。普段でも麒麟は他者に触れられるのを嫌うのでアタシはかなり驚いた。

そしてしばらくすると麒麟はいつも通りの顔になり元気よくなったのだ。

 

【ヒヒーン!】

「……いつもの麒麟だ」

 

蒲公英が言う通り、先ほどの苦しそうな顔など忘れたかのような元気を見せる麒麟。

 

「若干ですが、関節部に炎症してるのがわかりました。とても小さなモノでしたが、それが気に入らなかったのでしょう」

「なら何で蒼たちに教えてくれなかったの?」

「ご主人様を心配させたくない意志が出ていたのでしょう。あのまま行けば歩けなくなっていたかもしれません」

 

そう言うと麒麟がアタシらに申し訳ない感じの雰囲気を出す。それと同時に韓遂に感謝するかのように頭を下げる。

 

「………………本当に自信があるんだな」

「ええ」

「先の発言は謝罪する。それで良かったらだが……」

 

さっきのやりとりを見て、この韓遂は信用出来る。そう思ったアタシはすぐに謝罪して韓遂に世話役をやらせた。

それも甲斐あってか、多くの馬たちが元気になっていくのがわかった。そんな馬たちをみて見てアタシらもまた、喜んだ。本当にあの時は恥ずかしいもんだ。

 

そして今……

 

「韓遂の奴、こんな夜遅くにどうしたんだ?」

「何かの用事ですかね?」

 

アタシらは韓遂に呼ばれ、小屋に来ている。どうやら見せたいモノがあるとのこと。

 

「もう鈍いな2人とも……」

「夜、男と女、小さな小屋、そしてそして……キャー!蒼興奮してきたー!」

「「……はぁ」」

 

この馬鹿2人は放置。そして小屋の扉を開けると……

 

「お待ちしておりましたよ……」

【……………】

「「「「ッ!?」」」」

 

韓遂が麒麟に刃を向けていたのだ。

 

 

〜臧覇サイド〜

 

 

おうおうその顔。とてもいいね!

 

「な、何してんですか韓遂さん!」

 

馬休さんが俺の行動に驚く。そうだろうな……今の今までは世話役してたんだ。この行動は驚くだろうな。

 

「見てわかりませんか?」

「そんな危ないモノを見せたら麒麟がかわいそうですよ! 今すぐ仕舞って……」

「…………くくく。甘ちゃんだな馬休」

「……え?」

 

まだ気付かないか……腑抜けとはこういうものか。

 

「もしかして……怒ってるの?」

 

馬岱さんが恐れ恐れ聞いてきた。いや、怒っているのとは違うが……

 

「寝ている時に蒼の下着を頭に被せたこと?」

「たんぽぽのイタズラで韓遂さんが落とし穴に落ちたこと?」

 

あれお前らだったのかよ!! 馬岱さんはわかるとして馬鉄さんはマジでわかんなかったよ! 何がしたいんだよ!

 

「そんなことは関係ない! 元より俺の目的はただ一つ……お前だ、馬超」

「………………」

 

神妙そうな顔をしてらっしゃる。いい……実にいい!

 

「このままこの馬を斬ってもいいが……菩薩と言われた俺だ。貴様に選択肢をやろう」

「……聞こう」

 

随分と落ち着いているな。まぁ、時期に屈辱的な顔にしてやるがな!

 

「このまま馬を斬り捨てるか……お前が裸になるかだ」

「………………っ」

 

やった! やってやりましたよ! これこそくっころ! その後はもうわかるよね? あの馬超さんのことだ。きっと罵声を散らしながら俺に歯向かって……

 

「なんだ。裸程度でいいのか」

 

くる…………は………………ず……

 

「………………ん??!!」

 

なんか今、とてつもない言葉を聞いたような気がする。

 

「アタシ的には2人っきりでも良かったけど……お前がこういうのが好きなら付き合うさ」

 

そう言って服を脱ぎ始めようとする馬超さん。

 

「ち、ちょっと待て!!」

「ん? どした?」

 

いや、なんで不思議そうな顔をしてるんですか? え? 何? 俺が間違ってるの?

 

「いや……なんというか……他に俺に言うこととかない?」

「言うこと? んー……あ、良かったらアタシだけじゃなくて妹たちにも平等に愛してくれよ」

 

………………………………アイスル?

 

「な、何故この流れで愛などという言葉が出てくるのだ?」

「え? だってこれ、告白だろ?」

「え?」

「ん?」

 

お互いに頭にはてなマークが出ているような気がします。

 

「確かにアタシらとお前じゃ身分が違う。だから強行策として麒麟を使ったんじゃないのか?」

 

……………馬超さんの脳みそどうなってるの?

 

「なーんだ。そういうことだったのね」

「もー言ってくれれば蒼がすぐにヤってあげたのにー」

「麒麟を使ったのは確かに悪いことですが……でも、その熱意、素敵だと思います」

 

おっと後ろの姉妹たち。勝手に納得するのはよろしくないぞ? 俺だってこの流れは予想外だぜ?

 

「いや待て、落ち着け。こっちには馬の命を預かってるのだぞ?」

「……麒麟の目を見てみろ」

 

目?そう言われて、麒麟さんの目を見る俺。うん、つぶらな瞳だ。などと思っていると……

 

「今だ!」

「「はい!!」」

「なッ?!」

 

馬休さんと馬鉄さんが俺の腕を掴み後ろに倒した。その間に馬岱さんが麒麟の確保を行う。流石は姉妹の連携プレーだ。とか言ってる場合じゃねえ!

 

「は、離せ!」

「いいじゃんいいじゃん。このまま熱い夜にしようよ」

「韓遂さんの腕……た、たくましいです」

 

この程度、チートを貰った俺ならすぐに振りほどける。しかし、馬鉄さんの胸が気持ちよくて力が入らない。俺の馬鹿!

 

「韓遂」

 

そんな俺の顔をグイッと自分に向けさせる馬超さん。

 

「もう……気にすることなんてない。アタシらは家族だ」

 

馬超さん? 目の光が行方不明なんですが? 迷子センターで案内放送しましょうか?

 

「だから……」

 

徐々に顔を近づけてくる馬超さん。

ヤバいヤバいヤバいヤバい! このままではこっちがくっころしてしまう! そんなのは絶対に認めん!

 

「馬超!」

「ん? なんだ?」

「今回は俺の負けだ。しかし! 俺は決して諦めないぞ! その時が来たら貴様の最後だ!」

 

そして俺は気を高めて……

 

「閃光波ッ!」

「「「ッ!!?」」」

 

身体を光らせた。その光に驚いた馬三姉妹は目を瞑る。そして光がなくなると俺の姿を消した。

 

 

〜翠サイド〜

 

 

「…………消えた?」

 

接吻しようとした時、突然に韓遂の身体が光り出し、収まると韓遂の姿はなかった。

 

「もう少しだったねー翠お姉ちゃん」

「………………はぁ」

 

鶸も蒼も少し悲しそうだ。

 

「お姉ちゃん、さっきすんごい光が見えたけど……あれ? 韓遂さんは?」

 

麒麟を避難させた蒲公英もやって来て韓遂がいないことに気づく。

けど……今回“は”………か。

 

「…………母さん」

 

見つけたよ。この西涼に相応しい君主が。それまではアタシらが頑張る。そしてくる時が来たら……

 

「アワセテアゲルヨ……フフッ」

 

 

この時より西涼はさらなる力をつけていった。民にも愛された馬超率いる一族。だが、民の間ではある噂が目立つようになった。

 

「ねえ聞いた? 馬超様が結婚したって噂」

「え、マジで?!」

「あくまで噂だから強くは言えないんだけどね……」

「それで……その相手ってのは?」

「なんでも馬の手入れは馬超様たちより凄いって話を聞いたわ」

「嘘だろ?!」

「だから馬超様との結婚が認められたらしいのよ」

「な、なるほど……凄い奴がいたもんだな」

「もしかしたら噂の救世主様かしらね?」

 

 

その噂は民の間で多く流行ったという。その真意は……誰も知らない。




1番主人公を追い詰めた馬超さん。流石は五虎大将軍だ!

ありがとうございました。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。