悪役(?)†無双   作:いたかぜ

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第1話

~孫堅サイド~

 

 

「………………」

 

天を見上げる美しい女性。ただそれだけで絵画にもなる。女性の足元には人間“だった”物体が転がっているの除けばだが。

彼女の名は孫堅(そんけん)。字は文台(ぶんだい)。真名は炎蓮(いぇんれん)

江東の虎と評される武人である。死屍累累という言葉通り、彼女以外の人間は見当たらない。そんな状況で彼女は天を見上げて何を思うのか。そこへ……

 

「相変わらずの戦ぶりですね、大殿」

 

何人かの兵を引き連れた女性が近付いてきた。こちらもまた美しく凛々しい女性である。

 

粋怜(すいれい)か」

 

名は程普(ていふ)。字は徳謀(とくぼう)。真名は粋怜(すいれい)。炎蓮に仕える古参の将である。

 

「こちらもあらかた片付きました。あとは適当に兵を任せればよろしいかと」

「そうか……」

 

報告を聞く炎蓮は一度も粋怜を見ず、ずっと天を見上げていた。

 

「不満ですか?」

 

長く仕えている粋怜には多少なりに理解出来る。炎蓮は生粋の戦人。彼女が求めているのはこのような賊狩りではなく、猛者との死闘。全力でぶつかり合い、生死が交じり合う闘い。それで欲求は満たされる。しかし、戦を求めても求めても戦場はなく、ただの狩場しかないのだ。それでは炎蓮の欲求は満たされるどころか、ますます溜まっていくばかりである。

 

「違うぞ粋怜。不満は確かだがな」

「おや、意外な返答」

 

しかし、炎蓮から返って来た言葉は粋怜の予想とは違うものであった。

 

「オレは待っているのだ。この欲を満たしてくれる想い人が現れることを」

「……お言葉ですが、そのような人物がいるとは思えませんね」

「ハッキリ言うな」

「これでも長く仕えているんです。仮にいたとしても人間かどうか疑いたくなります」

「大地は広い。その中にはオレすら敵わん奴がいるかもしれんぞ」

「……まさか。猛者と言われた武人が大殿に挑み、大地へと還っていきました。それでも信じようと」

「ああ。でなければオレが乱世を起こせばいい」

「今のは聞かなかったことにします」

 

そして炎蓮は剣を仕舞い、馬に跨る。

 

「近くの山に向かう。後は任せたぞ粋怜」

「兵は連れていきますか?」

「いらん!!」

 

そう言い残し、炎蓮は大地へ駆けていく。いずれ会う猛者を求めて……

 

 

~山~

 

 

「ククク……此処も制圧だな」

 

此処の地域は海賊が多いので山を拠点とする賊は少ないと思っていたが、予想以上に多くてびびちまったぜ。まぁ大方の奴らは片付いたが。全く虎さんは何をやってるんだ。

 

「兄貴、新しい拠点もできやした」

「ご苦労。それぞれの役割が終わり次第、体を休ましておけ」

「へい!」

 

にしてもさっきまで木と草しかなかったのに、何で木製の小屋が出来てるんだ? 俺の部下が用意したと言っていたが素直に大工でも目指せば後世に名を残せるぜ?

 

「御主人様、少しお時間を」

 

俺の背後から美花が現れた。いや、ビックリしてないよ? 突然気配もなく現れた美花に対して驚くわけないじゃないですか? ホントウダヨー?

 

「御主人様?」

「っとすまん。して何事だ?」

「はい。先の賊退治の際なのですが……これを」

 

そう言って美花が渡してきたのは賊が使っていた剣である。ただの剣ならば問題ではないが……

 

「……なるほど。賊が使うにしては随分と上等な剣だな」

「はい。それでその賊たちの防具も調べましたら、これもまた賊が使うには充分すぎる品物ばかりでした」

 

一つや二つならば奪って手柄程度には出来るが、話からすると賊全員が同じような身なりだったっていうことか。となると……

 

「この近くで兵を忍ばせていた理由があるということか」

「おそらくはその通りかと」

 

待ち伏せ……そうなると此処で何かが訪れるってことか

 

「……美花」

「このことは内密にしておきます」

「さすがだな」

「アンっ……勿体なき、お言葉」

 

本当にこの子優秀だな。時折、もぞもぞするのは少し心配だけど。

 

「俺は少し出る。後は任せるぞ」

「いってらっしゃいませ、御主人様」

 

さて……鬼が出るか蛇が出るか。はたまた噂の虎さんかな?

 

 

~山奥~

 

 

さてとやってきましたよ奥さん。今は物陰に隠れていますが目の前ではとんでもない光景が写ってますよ。

 

「チッ……此処もはずれか」

 

首を回しながら剣を仕舞う女性。かなりの美人さんなんだけど足元には屍が多数ありますので若干ホラーです。というよりあの人孫堅さんじゃないですかね? 桃色の髪に褐色の肌、そしてなによりのナイスバディな身体。あれ、孫策さんよりもデケェぞ。ハンパねぇなオイ。このままじっくりと眺めるのもええんじゃねいですかねグヘヘ……

 

「何処にいるのかねオレの想い人は……テメエもそうはおもわんか?」

 

………………俺の事? いやまさか。かつて俺はかくれんぼして、そのまま行方不明扱いになってテレビにも取り上げられたほど、影が薄いといわれた男だぜ? 簡単に見つk

 

「そこの茂みに隠れている野郎だ。早く出てきな」

 

バレてーら。ええい、こうなっては仕方ない。

 

「ククク……いつから気付いた?」

「この山ん中入ったときから妙な気配を感じてた」

 

マジですか? やだこの人怖い。

 

「そんでテメェは何してるんだ? 仮にもオレはここを任された身なんでな。事情を話さなければ斬る」

「ククク……さすがは猛将。血に飢えた虎とはまさにこのことだな」

「……話す気はないらしいな」

 

そう言って仕舞っていた剣を再び抜く孫堅さん。ならば……

 

「一つ虎退治を行うとしよう」

 

こっちにはチートもあるんだ。いざとなればビームを出せば平気平気。

 

「フン……ほざけッ!!!」

 

すると突如、目の前に孫堅さんの顔がドアップになった。ってちょ?!

 

「せいッ!」

 

すぐさま俺も剣を抜き、孫堅さんの剣を止めた。というより迷いなく首を狙う辺り、流石ですね。

 

「ほう……いい反応だ」

「そいつはどうも」

「だが……よッ!」

「ぐッ?!」

 

ぐおおお……ず、頭突きと来ましたか。この人は何でもやるな。今ので確信したわ。

 

「どうやら闘いはまだまだ赤子みてぇだな」

「……さすがは虎さんだな。驚きましたよ」

「まさかこれで終いってーのはないよな? さぁもっと楽しもうぜ!」

 

楽しそうに闘うなーこの人は。だけどこれほど強い人だ。さぞかしプライドも高いに違いない。

 

「ククク……残念ながら楽しむのは俺だけだ」

「ほう……言うねぇ」

 

見てろ。そんなプライド、ズッタンズッタンにしてやるんだからね!

 

「すぅ……はぁ……」

 

俺は深呼吸をして、狙いを孫堅さんの顔に狙いを定め……

 

「セィリャアアーーー!!!」

 

いわゆる“牙○”と言われる突きを披露した。

 

「ッ!? チィッ!!」

 

孫堅さんも反応し、剣で防ごうとしたが時既に遅し……

 

「ガハッ!!」

 

その突きは防いだ剣ごと孫堅さんを吹き飛ばした。というより防いでくれなかったら貫いてしまったかもしれん。危ない危ない。

 

「ゴホッゴホッ……ッは!」

「動くな」

 

木にもたれかける孫堅さんの首に剣を向ける。やべぇ今の俺、めっさ悪役じゃね?

 

「ククク……先で油断したな? 弱者と思った人間に喰われる気持ちはどうだ?」

「………………」

 

俺を睨みつける孫堅さん。やばい、興奮が収まらないぜ。さぁそのまま“くっころ”展開に……

 

「フフフ……アッハッハッハッ!!」

 

あれ? 急に笑い出したよこの人? さっき吹き飛ばしたときに打ち所が悪かったのか?

 

「何が可笑しい?」

「可笑しいのではない。嬉しいのだ! 世に絶望していたオレが若造に敗北するとは! やはりオレは間違っていなかったな!」

 

それからも笑いを止めようとしない孫堅さん。マズイこのままでは向こうのペースになってしまう。

 

「オ、オイ」

「フゥ~……笑った笑った。さて、“想い人”よ」

「お、おう何だ」

「別にこのオレの首を持っていっても構わんが一つ頼みがある」

「頼み?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今すぐ抱いてくれ」

「………………What?」

 

あるぇーーー?(=゚ω゚=;) くっころどころかとてつもなく嬉しそうなんですが? というよりこの人人妻じゃないんですか?

 

「き、貴様には子供がいるはずじゃ?」

「ほうよく知ってるな。だが、そんなことは関係ない」

 

そ ん な こ と ?

自分の娘をそんなことっていったぞこの人! 娘に聞かれたら悲しむぞオイ!

 

「どうせなくなる命ならば猛者に抱かれて死んでいきたい。さぁこい!!」

 

そう言って着ていた服を脱ぎ捨てて、豊満な身体を披露する孫堅さん。うわすげぇ……じゃなくて! 待ってお願い! 違うの! 展開が全く違うの!

ええい! こうなったら……

 

「……き」

「き?」

「今日のところはこれで勘弁してやるからな!! 覚えてろーー!!」

 

秘奥義! 三十六計逃げるに如かず!!

 

「はぁ!? ここまできてそれはねぇーだろ! オイ!」

 

何か言ってるが一目散に逃げろ俺! チクショー! 次こそは! 次こそはぁーーー!!!

 

 

その日、夢の中で神様に会い「ヘwwwタwwwレwww」と思いっきり笑われた。覚えてろよこのヤロー




ちなみに話で出てきた謎の賊は孫堅を討とうとした者たちです。
主人公がいなければそのまま討たれてました。

それではまた次回

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