悪役(?)†無双   作:いたかぜ

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第21話

孫堅が倒れ、心が折れていた娘、孫権。

その前に現れた謎の男。彼の目的とは一体……

 

 

〜個室・孫権サイド〜

 

 

「………………」

「………………」

 

突如、私の目の前に現れた男……先の討伐で共闘してた男に違いない。

だが、彼は母さまを知っているかのような言葉をしていた。味方か、敵か……今は母さまを守るのが務めね。私は剣を抜き、彼の前に立つ。

 

「ほう……闘う意思はあるのか。流石は孫堅の娘、先ほどまでの弱さが嘘のようだな」

「……見ていたのね」

 

ますます怪しいわ。本当に何者なの?

 

「だが、俺を倒したところで孫堅は助からんぞ?」

「貴様には関係ない話だ」

 

先の発言といい……いきなり現れて、不快なことを言う。けど、私でもわかる。あの男は強い。母さまと互角かそれ以上ね。だから、下手に前に出れない。

 

「ククク……まあいい、今は闘いに来たわけではない。貴様に聞きたいことがある」

「………………」

「もしも、孫堅を助けることが出来るなら……貴様ならどうする?」

「ッ!?」

 

母さまが……助かる?

 

「さっき医者から手遅れと言われたようだが……俺なら助けてやることが出来る」

 

そう言って男は懐からある小袋を出した。

 

「これは解毒薬と活力剤が入った特効薬。今の医者たちには作れないモノだ」

「………………それを信じろと?」

「信じるのも信じないのも貴様の自由だ。そんな余裕があるならの話だが」

 

もし、その話が本当ならば今すぐにでも欲しい。しかし、目の前の男が敵か味方かもわからない状況なのに手を借りるなんて……

 

「……………一体……目的はなんなの?」

「目的?」

「今の私には敵か味方か判断する余裕がない。けど、敵なら助ける必要がない。味方ならこんな回りくどいやり方はしない。なら、貴様の……貴方の目的はなんなの?」

「………………」

 

男は黙り込む。それを見ている私。

しばらくして男は口を開く。

 

「目的というのなら……それは貴様だ、孫権」

「……私?」

「先も言ったが、俺はタダで助けようなど思っていない。助けたくば……貴様の誠意を見せるのだな」

「………………」

「王座の間にて待つ。それまでに答えを決めておけ」

 

そう言って男は窓から降りていった。

 

「…………母さま」

 

未だ苦しそうな母さまを見る。どれだけの時間が残っているかわからない生命。だとすれば……

 

『お前はお前のやり方がある。それを曲げずに進んでいけ』

 

倒れる前に私にかけてくれた言葉。将としてではなく、娘として見てくれた。

いつまでも悩むことこそ孫家の恥。姐さまとシャオが頑張っているのに私はいつまでも弱気になっていたの?

覚悟は決まった。私は立ち上がり、あの男の場所に向かおうとした。

最後に男がいた窓を見る。そこには……

 

「…………え?」

 

 

〜王座の間・臧覇サイド〜

 

 

「フハハハッ! 良いぞ! 実に良かった!」

 

あの顔、流石はくっころしたいランキング上位の孫権さんだよ。あれならば期待できる。長年待ち続けた計画……くっころが成功する!

きっとこんな感じで……

 

 

〜妄想〜

 

 

「さぁ孫権、見せてもらおうか。貴様の誠意を」

「人間の屑めが」

「フッ……それが誠意か?」

「………………………………私は貴方に従います」

「フハハハッ!賢い判断だぞ孫権ッ!!」

「クッ……殺せ!」

 

 

〜妄想終了〜

 

 

ヤバい、鼻血もんやこれ。これはもしかしたら……もしかするぞ?あの屈辱的な顔で……ゴクリ。その後は適当にこの薬を渡してお楽しみタイムと洒落込みましょうぜグヘヘ。

 

「さぁ……来るがいい孫権。そして見せてくれ!」

 

そんな感じで妄想を楽しんでいたら足跡が聞こえてきた。音からするに1人ではないな……ま、その方がより演習的になるな、うん。

 

「よくぞ来たぞ孫権! さぁ! 貴様の誠意…………を?」

 

その場に現れたのは孫権でもなく、その配下や兵士でもなく……

 

「不義なる者に正義の鉄槌をッ!」

「「「応ッ!」」」

 

なんか白い装束を着込んだ集団が入ってきた。

 

「………………どちら様ですか?」

 

 

〜于吉サイド〜

 

 

「……ふむ」

 

現在、黄祖軍と孫策軍が交戦中ですが、やはりというべきですか……我が軍が押されています。

元の軍事力や統率力もそうですが、向こうは王である孫堅がやられてしまいましたからね。それが今の強さに繋がったのでしょう。

 

「于吉! これはどういうことだ! 何故こちらは押されているのだ!」

 

黄祖も今の状況に焦っていますね。むしろ何故勝てると思っていたのですか?

ですが、このまま負けてしまっては私の策が失敗してしまいます。やれやれ……少し面倒ですが、仕方ありません。

 

「では、私の力を使いましょう」

「おお! それはいい! あの謎の力で孫策を倒すのだ!」

 

……まぁいいでしょう。今は孫策が先です。

 

 

〜孫策軍・交戦〜

 

 

「手を休めるな!! 奴らに我らの怒りをぶつけなさい!!」

「「「おおおおおお!!!」」」

 

こちらは黄祖と孫策の軍が交戦している。軍事力と統率力で敵を圧倒している。なにより誰もが愛した孫堅が倒れた悲しみと怒りにより、その力は計り知れないモノとなっている。

 

「見事なモノだ。あの姿こそ王と呼ぶに相応しい」

「ええ。炎蓮さまが見ていたら……喜ばれていたことでしょう」

 

孫策の後ろ姿を眺める張昭と周瑜。その姿を孫堅と重ねるように今の孫策を誇らしく思っているかのようだ。現状から見れば流れは確実に孫策軍にある。

 

「流れはこちらにある……しかしなんなのじゃ、この不気味な感じは」

「雷火殿もですか?」

「……お主もか」

 

張昭と周瑜は謎の不気味さを感じていた。言葉では表せられない、理解しがたい不気味さを。

だが、それは形になって現れる。

 

「伝令! 敵の増援を確認しました!」

「何処かの軍か?」

「そ、それが! 増援は人間の形をした土偶のようなモノと!」

「…………なんじゃと?」

 

 

〜交戦・黄蓋、程普、孫尚香〜

 

 

「なんぞアレは?!」

「私がわかるわけないでしょ!」

「気色悪すぎ!」

 

黄蓋と程普、そして孫尚香は最前線で戦っていた。そしてその流れのまま進軍していく。そして最初に“ソレ”と接触したのも彼女らである。

 

【………………………………】

 

ソレは人の形をしていた。だがソレは、地面から這い上がるように出てくる。その姿を見ていた孫策軍は困惑を隠せずにいた。

 

「とりあえずどうするの?!」

「ともかく、皆で固まっておれ! 単独での行動は危険ぞ!」

「あと少しというのに……他の部隊と合流があるまではここで敵を食い止めるわ!」

「「「応ッ!」」」

 

猛将の言葉により再び戦意を取り戻す兵士たち。そしてソレと戦闘を開始をする。

 

「うりゃああああ!!!」

「シッ!」

「せぇりゃあああああ!」

【………………………………】

 

孫尚香ののチャクラム、黄蓋の大弓、程普の蛇矛が敵を砕いていく。

しかし倒せど倒せど、ソレは地面から湧き出てくる。戦闘力は低いがその底なき数に押されていく。

 

「これじゃあキリがないじゃない!」

「チィ! 黄祖め……妖にでも取り憑かれたというの?!」

「無駄口はそこまでじゃ! まずはコレをどうにかするぞ!」

 

歴戦の猛者を持ってしても苦戦させられる戦場。

かつてない脅威が孫策たちに襲いかかる……

 

 

〜臧覇サイド〜

 

 

「ゼェ……ゼェ……」

 

と、とりあえず全員片がついたか……いきなり現れて攻撃とか頭可笑しいわ。というより、此処の兵士たちは何やってんの?寝てるの?

 

「ま、まぁいい……ともかく今は孫権を待つことが重要だ」

 

多少のトラブルはあったが、修正が出来た。こいつらの正体が気になるが後でいい、今は孫権さんだ。

こちらにはこの特効薬がある。喉から手が出るほど欲しい孫権さんなら必ず来るはず。さて、今のうちに薬を出しておこう。

 

「確かこの辺りに……」

 

………………………………ん?

 

「あれ?……あれ?!」

 

ない! ないないないない!! キーアイテムの薬がどこにもない!

 

「何故だ?! 確かに俺は無くさないように入れていたはずだ! 出さない限り……」

 

ちょっと待て、俺の行動を思い出せ………………

 

 

〜回想〜

 

 

「これは解毒薬と活力剤が入った特効薬。今の医者たちには作れないモノだ」

「………………それを信じろと?」

「信じるのも信じないのも貴様の自由だ。そんな余裕があるならの話だが」

 

 

~終了~

 

 

「あの時かああああああああ!!!」

 

俺の馬鹿! どうして肝心な薬を落とすんだよ! あれなきゃ意味ないじゃん!

 

「だとすれば既に薬は使われたか、クソッ!」

 

だが、あの薬は身体を休ませる為の睡眠効果もある。飲んですぐに復活はない。

 

「此処まで来て失敗するとは……俺もまだまだだ!」

 

あまり得策ではないが、此処は退く。そしてもう一度策を練り直す!

 

「命拾いをしたな孫権。この借り……高くつくぞ!」

 

そして俺はその場から離れ、城門に向かう。

そこには……

 

「不義に鉄槌を!!」

「「「「応ッ!」」」」

 

先ほどよりも多くの白装束の軍団が立ちはだかった。

 

「………………すぅーーーーはぁーーー」

 

俺は一度深呼吸をして……

 

「邪魔すんなボケエエエエエ!!!」

 

その軍団に向かっていった。

 

 

〜孫策サイド〜

 

 

先ほどまでこちらが優勢だったけど……今は押されてきている。理由は目の前の敵の存在だ。

人の形をした土偶。個の強さはどうとにでもなるが、圧倒的な数でこちらに向かってくる。

 

「黄祖……ついに外の道に足を踏み入れたようね」

「雪蓮!此処は私に任せて一旦退いて!」

「退く?冗談なら面白くないわよ。こんだけいるなら斬りがいがあるってこと!」

「ああ、もう……戦闘面だけは炎蓮さま譲りなんだから」

 

ため息を出す梨晏。けど、すぐに得物を持って私の後ろに立ってくれる。

 

「ま、それが雪蓮だもんね。付き合うよ!」

「……ありがと」

 

本当に梨晏や冥琳がいてくれて助かった。もしも、彼女たちがいなかったら、ただの復讐の獣になっていたわ。

 

「ともかくコレをどうにかしない限りは……」

 

梨晏の言う通り、この得体の知れないモノがある限りは我が軍は不利だ。各将たちが頑張っているが……決定打に欠けている。どうする?

その時、私の目の前に伝令兵が現れる。

 

「張勲さまより伝令! この場は袁術軍が引き受けるとのこと!」

「ッ! 感謝するわ!」

 

何があったかわかんないけど……これは好機ね。

 

「聞いたわね! これより、我が軍は突撃をかける! 後ろは気にするな! 進め!!」

「「「おおおおおおおおおお!!」」」

 

これ以上、長引かせるのはマズイ。ならば、賭けに出る!見てなさい、黄祖!

 

孫策たちが突撃を仕掛けていた頃、袁術軍を率いていた張勲もまた動きを見せる。

 

「到着早々で申し訳ありませんが……時間がありません。なるべく多くの敵をお願い致します」

 

張勲が深々と頭を下げ、ある人物にお願いをする。

その正体は……

 

「おーーーっほっほっほっ! この袁本初が来たからには勝利なぞ当然ですわ! さぁ皆さん! 優雅に敵を倒しなさい!」

「「「おおおおおおおおおお!!!」」」

 

河北の名族、袁紹と多くの兵士たちであった。

 

 

~臧覇サイド~

 

 

「おんどりやああ!」

「グハッ!」

 

百の技が一つ! 閃光喧嘩蹴(シャイニングケンカキック)! 片膝立ちした相手の脚などを踏み台にして仕掛け、思いっきり顔面に蹴りを食らわす技。下手すれば顎が砕ける。

 

「ふんぬらば!」

「ガッ!?」

 

百の技が一つ! 脳天砕(ブレーンバスター)! 相手を逆さまに抱え上げて後方へ投げて相手の背面を地面に叩きつける投げ技。打ち所次第では下半身麻痺になる。

 

「どっせえええい!」

「「「ぐわああああ!!!」」」

 

百の技が一つ! 巨人回投(ジャイアントスイング)! 相手の両膝を脇の下に挟み込んでから抱え上げ、回転しながら相手を振り回し、投げ飛ばす技。多人数であればその勢いのまま投擲攻撃になり、多くの犠牲者が出る。

 

「鉄槌を!!」

「うるせえええ! さっきらからそれしか言えんのか!」

 

コイツら……数が多い上に気配がまるでねぇぞ!あとどれくらいいるんだよチクショウ!

 

「というより目的はなんだ!? ハッキリ言うが俺は此処の配下じゃない! 用があんなら他を当たれ!」

「そんなことはどうでもいい! 貴様が死ねばいいだけの話だ!」

 

安直すぎだろコイツら!?

だが、これだとキリがない。何か対策を考えねば……

 

臧覇もまた謎の集団により、苦戦を強いられていた。圧倒的な数に神出鬼没な気配。武では勝るがそれ以外が不利となっていた。

その時……

 

「………………ッ!! 馬鹿なッ!?」

 

臧覇はある気配を感じ取った。自分を苦しめてきたその気配は臧覇が誰よりも知っていた。

そして二つの影が姿を現す。

 

「こんなところにまで敵が!」

 

1人は目的であった孫権。

そしてもう1人は……

 

「オレの城に敵襲とは……寝ている間に甘く見られたものだな」

 

ある者は彼女を王と呼ぶ。ある者が彼女を魔王と呼ぶ。そしてある者は彼女を英雄と呼ぶ。

 

「入ったからには楽しませて貰うぜ……そうだろ? “想い人”よ」

 

江東の虎、孫文台の姿があったのだ。

孫呉の逆襲は……これより始まる。




それぞれの視点では熱い展開やシリアス展開が続いているのに何故か主人公の時だけギャグが生き生きしているような気がします。
もう少しで孫呉編は終わるかな?終わりましたら章管理を行いたいと思います!

ありがとうございました!

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