悪役(?)†無双   作:いたかぜ

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第22話

~建業・城門~

 

 

「な、何故貴様が!?」

 

臧覇は理解出来なかった。確かに薬は本物であった。その効果が効くのならば睡眠薬も効果があるはず。

 

「何を驚いている? お前の薬は効いたよ……最高の目覚めだ」

 

だが、孫堅は目の前に立っている。毒で苦しめてられてきた姿なぞなかったかのような立ち姿。そしてゆっくりと臧覇に向けて歩いてくる。

 

「あの薬には睡眠薬も入っている……効いているなら起きていないはずだ!」

「ああ……だからか。少しだが、眠さはあるぞ?」

「常人なら2日は夢の中の薬を……少しだけだと?!」

 

改めて臧覇は思った。孫堅は規格外の魔王であることを。

 

「おのれ……! またも俺の計画を邪魔しおって……!」

「ん? 困り事か? 何なら手伝ってやろうか?」

「いらぬわボケ!」

 

忘れてはいけないのは現在、彼らは白装束の集団に囲まれている。

 

「孫堅が生きている?!」

「馬鹿な……あの毒は現代では治せないはず!」

「しかし、目の前にいるのは本物だ……」

 

白装束の集団も孫堅が現れたことにより、乱れが見えている。

 

「慌てるな! 奴は病み上がりなはず !ならば、全力で闘うことは出来ん!」

 

その指示により、白装束は孫堅を囲み始めた。各々の武器を手にして、臨戦態勢に移る。

 

「母さま!」

「馬鹿野郎! そいつは全てが規格外だ! 無意味な戦闘は避けろ!」

 

孫権が母の心配をし、臧覇は白装束の心配をする。

 

「不義なる者に鉄槌を!」

「……目覚めの運動にはちょうどいいか」

 

そんな中、孫堅は落ちていた剣を拾い……

 

「失望させるなよ?」

 

全てを飲み込むかのような圧倒的な殺気を放つ。その殺気を受けた白装束らは意識が飛ばされそうになる。

 

「う、うろたえるな! 此処で作戦を成功させなければ、于吉さ……」

「遅い」

 

リーダーらしき者が何か言おうとした瞬間、その者の首は飛んでいく。あまりに早く、躊躇いのない攻撃であった。

 

「ッ!? この!」

 

近くの白装束はすぐに攻撃するが……

 

「フン……」

「ガッ!?」

 

最小限の動きで避け、そのまま相手を突き刺す。

ある者は手足を斬られ、ある者は胴体が真っ二つになり、そしてある者は顔面を抉られる。それは戦いではなく、正に“狩り”そのものである。

 

「………………ふぅー」

 

母の狩りを間近で見ていた孫権は声も出せず、ただ見ていることしか出来ないでいた。

しばらくして、白装束の集団は赤く染まり、孫堅の身体は返り血で染まっていた。

 

「この……化け物めが!」

 

同じく孫堅の狩りを見ていた臧覇は、徐に剣を抜く。

 

「ほぅ……お前も滾ってきたか? オレはいつでも歓迎するぞ?」

「どの口が言うか……! 今の戦いでわかった。貴様はまだ本調子ではないな?」

「フフッ……今のでオレがわかるか。嬉しいぞ、想い人よ」

 

臧覇の言う通りで、孫堅の身体からは若干の汗が出ている。本来なら致死量であった毒がなくなったばかりであり、さらに解毒薬の他に睡眠薬の効果も含まれている。

その状態で戦いに挑んでいる孫堅は正に異常なのだ。

 

「ッ! 此処は私が!」

「いや……オレがやる」

「何故ですか!? このままでは母さまが!」

 

孫権が前に行こうとするが、孫堅がそれを止める。それに納得出来ない孫権。しかし、孫堅は冷静でいた。

 

「前に行っただろう……お前はお前のやり方がある。それはオレも同じだ」

「…………え?」

「これはオレの戦いだ。その代わりなんて誰にも出来ない。オレと……想い人との戦いだ」

「母さま……」

「……許せ」

「ッ! …………わかりました」

 

そして孫権はその場から離れていく。その場にいるのは臧覇と孫堅のみである。

 

「さて……そろそろ決着でもつけようか?」

「……貴様」

「行くぞッ!」

 

そして互いの剣が交わり、大地を揺らすのであった。

 

 

〜于吉サイド〜

 

 

「……参りましたね」

 

まさか孫堅がまだ生きていたとは……駒も全員やられてしまったようですし、今回は失敗ですかね。

そしてこちらもかなり追い込まれています。どうやら、向こうに援軍が現れたようですね。

 

「どういうことだ于吉! 明らかにこちらが不利ではないか!」

 

今になって慌てますか……どうやらこれもここまでのようですね。

 

「では最後の策を行います……ですが、これを行うと貴方を」

「説明なぞいい!! 早くその策を出さぬか!」

「…………では」

 

そして私はとある“呪”を黄祖に与えた。それは黄祖の身体を蝕んでいく。

 

「お、おい! これは一体!?」

「それは黄祖さまの自由を奪うものです。これで貴方は私の操り人形となります」

「な、何だと?! 貴様……裏切るというのか!」

「裏切る? とんでもない。私は元々、貴方を道具としてしか見ておりません」

「……ッ!?」

「私は道具は大切に使うのです。使えるまでは……ね」

「………………」

 

こうなれば黄祖もタダの玩具です。さて……少し早いですが、此処は退散するとしましょう。

 

「……さようなら」

「………………ッ」

 

黄祖は自らの手で剣を突き立てた。錯乱した黄祖は最後に自害する……ベタな展開ですが、これで良しとしましょう。

孫家の崩壊は出来ませんでしたか……ならば次を目指すとしましょうか。

次はどのようになるか……楽しみです。

 

 

〜孫策サイド〜

 

 

「……これはどういうこと?」

「どうやらアレは動かなくなったな」

 

先ほどまで苦戦を強いられていた土偶の軍。しかし、突如として起動しなくなったのだ。

何があったのか私にもわからない。けど、これで軍を動かせられるわ。

 

「引き続き進軍を!ただし、向こうに何か動きがあったら止まってちょうだい」

「「「応ッ!」」」

 

皆は残った土偶を破壊しながら進んでいく。中には向こうの兵士もいたが、構わず斬り捨てる。どうやら向こうに戦う意思は見えない。

すると先行していた兵が慌てて私に向かってきた。

 

「ほ、報告します! 敵の陣にて、黄祖の死体を発見しました!」

「なっ……」

「………………」

 

私は驚きを隠せないでいた。これほどのことを起こしておいて最後には自害?

 

「………………これで終わりだというの?」

「雪蓮……」

「これじゃあただの茶番じゃない……笑えないわよ」

 

冥琳が何か言いたそうだったけど何も言ってこない。

出来れば決着は私の手で決めたかったけど……天はそれすら許さないというのね。

 

「残りは私たちで行う。雪蓮は少し休んでくれ」

 

冥琳はその場を離れ、現場の指揮を執る。

放心状態ってこういうことをいうのかしら?本当に何も考えられないわね。

 

「雪蓮姉様……」

「シャオ……」

 

いつの間にかシャオが目の前にいる。何か悲しそうな表情のままね。

 

「ごめんなさい……母さまの仇を取れなくて」

「シャオは大丈夫。むしろ……雪蓮姉様が心配で……」

「強いのね、シャオは……」

 

仇も取れず、母すら失うかもしれないのに……ダメね、私は。自分のことで精一杯。

そんな私たちの前に1人の兵が姿を現した。

 

「ほ、報告! 先ほど、孫権様がこちらにお見えになりました!」

「……蓮華が?」

「急ぎの件とのことです!」

「雪蓮姉様!」

「ええ!」

 

そして私たちは蓮華の元へ急ぐ。

そして合流した私たちに蓮華から衝撃的な発言を耳にする。

 

「姉様! シャオ! 母さまが!」

 

 

〜臧覇サイド〜

 

 

「ゼェ……ゼェ……」

 

さっきの戦いの後にこの化け物と戦うのはキツかった……病人の強さじゃねえよ、クソ!

 

「………………」

 

その化け物は大の字になって、倒れている。

綺麗な顔してるだろ?魔王なんだぜ?それ。

 

「お、俺の勝ちだな孫堅」

「ああ……やられたよ」

 

計画やらなんやらが崩壊したが、結果が全て! なら、このままくっころタイムへと突入だ!

 

「よ、よし……では孫堅! 貴様の命を」

「くれてやるさ」

「貰おう! …………え?」

 

聞き間違えかな? 今簡単に命をあげるとか言わなかったか?

 

「オレは人生に飽いていた。子に恵まれ、国の王として立っていたのに……オレの心は空だった。だがら、蔓延る賊を殺すことでこの心を埋めようとした」

 

あれ? なんか語り始めたぞ?

 

「しかし、来る日も来る日もオレの心は空のまま……満たされないまま日々を過ごしていた。いっそ乱世を起こそうとも考えたさ」

 

やっぱこの人魔王だよ。思考が戦闘民族とかそういう部類だよ。

 

「そんな時だ……お前が現れたのは」

 

おーっと此処で俺の登場?

 

「オレが負けるなんてことはなかったからな……心が一気に満たされたよ。だから、お前を追い続けた。まるで玩具を買って貰ったガキのようにはしゃいでたよ」

 

そんな気持ちで俺、追われてたの? マジで怖かったんだけど?

 

「それで余裕が出来たのだろうな……ある日、国に帰ってみるとな……俺の子供らが頑張ってる姿が見れたんだ。民と触れ合う雪蓮。勤勉に働く蓮華。女を磨く小蓮。そんな姿を見たらな……この国は安泰だと思えた。親としての甘えもあるかもしれん。しかし、本気でそう思えた時……オレの心は違う気持ちで満たされた。それと同時にオレの役目は終わったと感じたんだ……だがら」

「………………」

「お前の手で……終わらせてくれ」

 

ふむふむ。つまり簡単に説明すると……“我が生涯に一片の悔いなし!”的な感じなの?

………………………………。

 

「ふざけんなああああ!!!」

「ッ!?」

 

それだとくっころ出来てねえじゃん! ある意味向こうもハッピーエンドになってんじゃん!

ダメだダメだダメだ! そんなことはこの俺が許さん!!

 

「何故、俺が貴様のワガママに付き合わなければならん! それに貴様には誇りというのはないのか!」

「誇りか……だからこそ此処で終わるべきだ。オレの負ける姿なぞ誰も見たくないだろう」

「戯言を……! いいか! 無傷の英雄なぞお伽話で充分だ! 現実に求められるのは 傷だらけの猛将なんだよ!」

「………………」

「どれだけ窮地に立たされようがどれほど失敗を刻もうが立ち上がる……その姿が求められるんだ! それを貴様は否定するのか!」

 

そしてその窮地の状況でくっころが出来るんだよ!

 

「…………オレは」

「……ッ! 殺気!」

 

とりあえずその場から即座に離れると同時に上空から何かが降ってきた。

砂煙が晴れると……

 

「蓮華が言っていたのは貴方ね……」

 

小覇王、孫策さんである。

何?君たち家族は空から現れるのがトレンドなの?

 

「……雪蓮?」

「母さまッ!! ………蓮華から聞いたわ。それで目的は何かしら?」

 

すんげー殺気出して聞いてくるけど俺じゃなきゃ気絶もんだぜ?

それと同時に……

 

「よっしゃ! 間に合った!」

「………………」

 

張遼さんと呂布さんも馬に跨って登場した。

 

「(…………………………恋)」

 

コイツ……! 直接脳内に!?

 

「あら? 私が用があるのはそこの男だけよ?」

「そか。せやけどウチらもこの男には用があるさかい」

「へぇ〜……そこをどかないと自分の身体を見ることになるわよ?」

「……やってみぃ」

 

孫策さんと張遼さんが臨戦態勢に入る。

やっぱりこうなったかチクショウ!! 此処ぞのタイミングで何故邪魔が入る!

ぐぬぬ……!

 

「張遼ッ! 今は退くぞ!」

「…………あいよ!」

 

俺は持ってきた馬に跨り、撤退の準備に入る。しかし、このまま引き退るのも味気ない、何か決め台詞でも決めておこう。

 

「待ちなさい! 貴方には聞きたいことが!」

「残念だが、今回は此処までだ……だがな孫堅よ!!」

「………………」

「覚悟なき貴様なぞに興味はない! 再び立ち上がった時、その首は貰う! わかったな!」

 

そして俺たちは馬を走らせてその場を去っていくのであった。

 

こうして臧覇の野望はまたしても失敗に終わるのであった……

 

 

〜数日後・孫策サイド〜

 

 

あの戦の後、母さまは復活したことを皆に告げると大歓喜に包まれた。特に、祭と粋怜は大号泣であり、雷火も涙を隠しきれていなかった。

そんな様子に母さまも満更じゃない感じだったのは珍しく思えた。

 

黄祖の軍はすぐに壊滅した。報告にきた張勲は残りの残党処理も行うとのこと。

私たちも手伝うと告げると……

 

「そんなことする暇があるなら孫堅さんを復帰させるなり、自国の強化をするなり努力してください。我らと同盟を組んでいるんですから同盟国としての威厳を大切にしてください」

 

そんな感じで却下された。それに甘え、今は皆で自国の強化を行っている。もちろん私たちも出来る範囲で手伝ってはいるけど、みんな口を揃えて母さまと一緒にいて下さいって言ってくる。

それからというもの、母さまや蓮華、シャオと一緒にいる時間が増えている。

現に今、家族全員で囲んだ食事を行っている最中なの。

 

「……病人に食べさせる料理が一個もない」

「ええ〜! シャオは美味しいと思うよ!」

「いえ、美味いとかそういうのじゃなくて……母さま、無理して食べなくても」

「ガツガツガツ! ゴックン……ん? なんか言ったか?」

「……ナンデモアリマセン」

 

目の前には肉、肉、肉! 的な料理がたくさん並んでいる。心配していた蓮華も母さまの食べっぷりを見て、呆れていた。

 

「ふふっ」

「どうした? 何が可笑しい雪蓮?」

「いえ……なんか、こうして家族と食事をするなんていつぶりかしら?」

「そうだな……個々との食事は多少あるが……全員で食うことはなかったな」

「そういえばそうですね」

「なら、これから月一でもいいからみんなでしようよ!」

「無茶言わないでシャオ。みんなだって大変なんだから」

「あら?蓮華は私たちとの食事は嫌なの?」

「そ、そんなことありません! 私だって嬉しい……ハッ!」

「「ニヤニヤ」」

「も、もう!」

 

顔を真っ赤にして、可愛い!

 

「……そうだな。出来ることなら皆で食事をする時間を作るとしよう」

「ホント?!」

 

しかし、母さまは真剣にシャオの提案を考えていた。

それを聞いたシャオはとても嬉しそうでいた。

蓮華もその話を聞いて笑みを浮かべる。

 

「………こんな時代でこうして家族と食事をすることが出来るなんてな。本当に……オレは恵まれているよ」

 

……母さま。

 

「……雪蓮、蓮華、シャオ」

「「「はい」」」

「もう一度……乾杯するか」

「「「はい!」」」

「それじゃあ……これからの時間に」

「「「「乾杯ッ!!」」」」

 

 

そしてこの日を最後に……母さまは呉の王から降りることを決めた。




これで中篇パートは終わります。
あ、もちろん孫堅さんは生きてますよ。ただ、地位がなくなったのでより動きやすくなりました……ん?

ありがとうございました。

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