~洛陽・個室~
「………………」
「クク……久しいな、曹操よ」
「いや、こんな再会は期待していなかったのだけど?」
前回、曹操に贈り物を渡したいとのことで現れた夏侯姉妹。それに付き合う形になってしまった臧覇は共に宝探しに出向く。
そして肝心の宝を見つけた一同だが、突如と龍が出現。封印から解かれた龍は一同に感謝を伝えると謎の光が発生させる。
一同はその光に飲み込まれると、曹操の国、洛陽に飛ばされていたのだった。
現在は個室にて、曹操と夏侯淵、臧覇の3人がその部屋で話し合いをしている最中である。
「休暇を与えた配下が突如戻ってきて、しかも貴方を連れてくるなんて……誰が想像出来ると思うのかしら?」
「だが、事実である」
「貴方ね……はぁ、もういいわ。とりあえず兵を貴方の国に向かわせるわ。謝って済まされる問題ではないのかもしれないけど」
「いや、此方としても突然のことだ。これを理由にあれこれ言うつもりもない」
「……そう。なら、暫くは客将として迎え入れるわ。問題を起こさない限りはこちらも何も言わない。それでどう?」
「……了解した。では」
臧覇が部屋から出て行くと残った夏侯淵が曹操に近付く。
「此度の件、大変申し訳ありませんでした」
「秋蘭が謝らなくてもいいわ。しかし……この文の通りね」
「此度の戦にてかの者の姿あり。かの者は南中にいる。その下には呂布、張遼、陳宮あり……でしたね?」
「ええ。あの張勲とやらはかなり目がいいのね」
曹操が一枚の文を取り出す。
それは袁術の配下である張勲が曹操に送った文であった。
「御丁寧に袁術の印もあるわ。大層なことね」
「これで我らが動かなければ、向こうの主張が強くなります。動いたとしても向こうにも利益がある。人を動かすのが得意な人物でしょう」
「だから、貴女と春蘭を休暇という形で送らせたのだけれども、まさか本当に龍が現れるなんてね……」
実は今回の夏侯姉妹の休暇は曹操の指示によるものでもあり、ある狙いがあった。
「黄巾討伐、皇帝拉致、そして孫呉の戦い……歴史の大局で必ず彼は現れている。これを偶然だとは思えない」
「華琳さまが危惧されている妖術の使い手……その可能性があると?」
「わからないわ。けど、彼が何者なのか……見極めるなら今しかない」
各地でその姿を見せている臧覇。最早人間の業では成し得ない活躍。曹操は彼に何かしらの力を持つと思い、それを見定めるために夏侯姉妹を南中に送ったのだ。
「引き続き、春蘭と秋蘭はすぐに動けるように。今回は一国の王としての客よ。無礼のないようにね」
「……無礼を働いて怒らせ、力を出させる。あれは肝が冷えます。姉者はともかく、私には向いていないようです」
「けど、彼はまだ王としての自覚は浅いようね。なら、次の手を考えるわ。軍師たちを呼んできてちょうだい」
「御意」
夏侯淵が部屋から出て行き、曹操が1人になる。
「もしも、彼が妖術とやらに手を染めていたなら……拍子抜けよ、宿敵さん」
そして誰かに伝えることなく、ポツリと呟く曹操であった。
〜廊下・臧覇サイド〜
「すまん!!」
「……何が?」
部屋から出て、暫く歩いていたら夏侯惇さんに出くわした。そしていきなり高圧的な謝罪をしてきた。
「いや、考えてみれば貴様は王だ。それなのに、振り回すようなことをした。これはかなり問題なのではないか?」
「いや……まあ、問題だわな」
「やはりか! だったら悪いことをした! だから謝罪をした! わかったか!」
謝罪を此処まで強気に出来るなんて、ある種の才能じゃないかな?
「さて謝罪も終わったし、私は訓練に戻る。それではな!」
そう言って颯爽と去っていく夏侯惇さん。
うん……なんか、もうあれでいいんじゃないか?
「しかし……曹操の土地に来てしまったか」
予想外ではあるが大人しくしてる道理もない。ならば、誰かしらのくっころは拝みたい。まぁ1人は決まっているとして……あまり時間もかけられない。さて、どうするか。
「あー! きっとあれっすよ! 間違いないっす!」
「ん?」
背後から声が聞こえる。
その声の方を向くと金髪クルクルの3人が立っていた。
え?何この子たち?曹操さんのファン?
「姉さん、もう……御迷惑をかけてすいません」
「いえ、大丈夫です……えーっと、すいません貴女たちは?」
「あ、ご挨拶がまだでしたね。私は
「あたしは
「…………
あ、どうもです……ん?曹?
「もしかして……曹と申しますと?」
「はい。私たちは華琳さまと従姉妹柄にあたります」
マジかよ。いや、可愛いのはそうだけど、みんなドリルなんだな。一族でドリルとか呪いに近くね?
「さっき華琳姉ぇが客が来たって言ってたっす! だから失礼のないようにうらなしするようにするっす!」
「姉さん、それを言うならおもてなしです」
「そうそう! それっす!」
ヤバい。この曹仁さんって子、頭の弱い子だ。
「ところで……おもてなしってなにをするっすか?」
「それを考えろというのがお姉様からの議題だったでしょうに」
「なら考えるっす! うーん……」
いきなり地べたに座って考え始める曹仁さん。この人の顔、曹操さんに似てるからなんか複雑な気分になる。
「もう、姉さんったら……重ね重ね、御迷惑をかけてしまい申し訳ありません」
「いえ、大丈夫です、はい」
「これよりは我らが案内を行わせて頂きます。まずは部屋を……」
曹純さんと曹洪さんが案内を始めようとした時である。
「むむむ……あー! 頭が爆発しそうっす! こういう時は!」
考え事をしていた曹仁さんが叫び出した。そして自分の服に手をかけ……
「ふー……やっぱり気持ちいいっすね!」
自分の服を投げ捨てるように脱いだ。
「……はぁ?!」
「姉さん!!」
「……またですの?」
もちろん彼女の姿は生命が誕生する時と同じ姿。
いやー……これは役得なのか?
「なんで裸なの?」
「考え事をしたら頭がいい熱くなったっす! だから服を脱いだだけっすよー。当たり前じゃないっすかー!」
ごめん、俺には理解出来ない。
「………………」
「………………」
「………………脱がないんっすか?」
え?! 俺も脱ぐの!?
「裸の付き合いが一番ってどっかで聞いたことがあるっす! だから脱ぐのが一番に決まってるっす!」
意味が違うような合ってるような……と、ともかくだ!
「曹洪さん!すいませんが部屋に案内してもらっても!」
「ええ。こちらですわ」
「あ! じゃあ、あたしも……」
「姉さんはまず服を着てください!」
俺は確信した。あれほどの強敵はいないと。だからこそ彼女だけは避けよう。
心の中で強い決意をし、俺は部屋の寝床にて深い眠りにつくのであった。
〜翌日〜
「華琳姉ぇから王様の護衛を任せられた曹仁っす! よろしくお願いするっす!」
「」
曹操おおおおお! 謀ったな曹操おおおおお!
「そ、そうか。だが、申し訳ないが今は体調が優れない。だから、部屋から出るのはやめにするよ」
まだだ……俺はまだ諦めん!
とりあえずはこの曹仁さんから離れるようにしなくては!そうすれば俺は自由に……
「ならお世話をするっす! こういう時は裸になって汗を拭くのがいいって聞いたっす!」
「あーなんて天気がいいんだ! こういう時は外で散歩するのが一番だな! 体調が悪いなんて嘘みたいに散歩がしたいなチクショウ!」
「そうっすか? それならいい散歩道があるっす!」
クソ……コイツは危険だ。何処かで逃げる手立てを考えなければ!
そして俺と曹仁さんは街に出て、散歩を始めた。今の俺はとくに縛りのない客人らしく、それなりのお駄賃も貰った。
「ここの肉まんは流琉っちが認めてるほどの美味しさなんすよ! あ、流琉っちって言うのはうちの将ですごく料理が上手いんすよ!」
……思ってみたが、この曹仁さんは頭が弱い。墓穴を掘らなければ逃げる手立てなぞいくらでもあるだろう。
ならば、わざわざ逃げることなどせずとも機会を待てばいいだけの話だ。
「さぁ買ってきたっす! 熱々のうちに食べるっす!」
ククク、自分の愚かさに気づかないとはな。やはり、無知とは罪だ。
……美味いなこれ。
「それじゃあとっておきの場所を連れていくっすよ!」
そう言いながら俺の手を引っ張り出す曹仁さん。
そして連れてこられたのは透き通るような川辺であった。
「ここで日向ぼっこするのが最高なんすよ。本当は服を脱ぎたいんすけど昨日、
そうだね、時代が時代なら逮捕されるからね。賢明な判断だ。
「んー! こうしていると嫌なこととかすぐに忘れるっす!」
「……嫌なこと?」
「…………あ」
あ、聞かなきゃよかった。だ、だが、これは話したくないパターンだ。安心していいだろう。
「え、えーっとっすね……実は」
あ、ダメだこれ。話すパターンだ。仕方ない話だけでも聞いてやろう。
「どうやらあたしは……除け者らしいんすよ」
「除け者?」
「そうっす。華琳姉ぇみたくみんなを指揮することも出来ないし、春姉ぇみたく力があるわけでもないんすよ。かといって頭も良くないから……部下の陰口を聞いちゃったんすよ」
「………………」
「一族の除け者……最初は理解出来なくて柳琳と
なるぼとなー。曹操さんの一族だから、比例の対象は酷だわな。
しかし……これは使えるかもしれんぞ?
「曹仁、お前は除け者は嫌か?」
「……どういうことっすか?」
「答えろ。返答次第では協力してやる」
「ッ! …………嫌っす」
ククク……これはもしかすると曹操さんのくっころを拝めることが出来るかもしれんぞ。
〜深夜・川辺〜
「……此処ね」
「ええ。間違いないです」
「………………」
皆が眠りについていた深夜。曹操は曹純、曹洪と共に川辺に訪れていた。何故、この真夜中に此処に現れたのか。
それは……
「来たっすね」
曹仁が曹操を呼んだのだ。
そしてそれはただの呼び出しではなく……
「姉さん! どうして華琳姉さんと決闘なんて!」
曹操との決闘を申し込んだのである。
この真意を知るためにあえて配下には伝えず、一族のみにこのことを知らせ、同行を許した。
「………………」
曹純の言葉を流し、無言で剣を構える曹仁。
その目を見た曹操は感じ取った。彼女は本気であると。
「柳琳、栄華……離れなさい」
「お姉様!」
「今の華侖は本気よ。ならば、こちらも本気で向かうのが道理」
そして曹操は持っていた鎌を構える。
「貴女に何があったかは聞かないわ。けど……私は甘くないわよ?」
「……上等っす!」
曹仁の全力が曹操の鎌にぶつかる。その様子を一族以外に見ている人物がいた。
「ククク……やはり身内には甘いか。曹操」
臧覇である。
言わずとも、今回の決闘は彼が仕組んだモノ。それを狙う理由は一つである。
「曹仁と曹操がぶつかり合い、疲労したところにあの2人を人質にとる。どちらが勝とうなぞ興味もない」
彼の狙いは曹純と曹洪の確保である。彼女らを人質に取り、曹操にくっころを言わせる。それが今回の策となる。
「貴様の本気を曹操にぶつけてみろ。そうすれば彼女は必ず見る目が変わる……こんな言葉を信じるとはな。素直で助かったぜ。さぁ……とことん闘え!」
彼の準備は整っている。あとは舞台が揃うの待つのみである。
一方の決闘はというと……
「グハッ!!」
曹操の攻撃で吹き飛ばされる曹仁。純粋な力なら曹仁が上かもしれない。しかし、技量や闘いのセンスなどは曹操が圧倒的である。
「こんなものなの? 貴女の全力は?」
「はぁ……はぁ……ま、まだ、まだまだっす」
息切れする曹仁と凜とした立ち振る舞いを見せる曹操。どちらが有利など一目瞭然。
それでも曹仁は立ち上がる。それは己の決意。それを裏切ってはいけないと自分に言い聞かせる。
「姉さん……」
「………………」
曹純と曹洪も止めに入らない。彼女らとて曹家の血が流れている。此処で止めては何も生まない。だからこそ、納得するまでやらせる。それが今、出来ることだ。
「やっぱ、華琳姉ぇはすごいっす……あたしの全力が全く効かないんすから」
「なら、諦めなさい。これ以上は無意味よ」
「…………ふふ」
「何故笑うのかしら?」
「華琳姉ぇは優しいっすね。こんなあたしにもみんなと同じように接してくれるんすから」
「自分を無下にする発言はやめなさい。魂まで腐らせることになるわ」
「……けど、此処で諦めたら、華琳姉ぇは嬉しいっすか?」
「………………」
「あたしは決めたんす。自分の決めた道だけは絶対に諦めないって!諦めたら……自分がいなくなるから!」
ボロボロになりながらも剣を構える曹仁。その目は最初の決意の目から何も変わっていない、真っ直ぐな目であった。
そんな目を見た曹操も笑みを見せ、鎌を構える。
「見事よ華侖。さぁ……決着をつけましょう」
「了解っす!」
2人の決着がつく……その時である。
「不義なる者らに鉄槌を!!」
「「「「ッ!?」」」」
突如、叫び声と共に謎の白装束の集団が彼女たちを囲んだのだ。
曹操はすぐに前に出て、彼らと対峙する。
「何者だ! 我が決闘の邪魔をする不届き者め!」
「曹一族……貴様らは歴史の汚点となる。此処で消えてもらう!」
白装束らは得物を構え、曹一族に向ける。
対するは曹操と曹純のみが得物を構える。曹仁は立ち上がるのが厳しく、曹洪は武力は皆無である。
こちらが厳しいと理解している曹操。
「ここで倒れるわけには……!」
そこへ……
「だらっしゃあああああ!!!」
「ごほおおおおおお?!!」
臧覇=サンのエントリーである!
白装束の1人を百の技が一つ、
「貴方は!?」
突如現れた臧覇に戸惑う曹操。
「貴様は! またしても邪魔をするか!」
「それはこっちのセリフじゃボケが! もう少しで決着がつくって時に……!」
自分の計画を邪魔が入ったことですごく不機嫌な臧覇。
「さぁどうする? テメェらなんぞ俺1人でどうとでもなるぞ?」
「…………覚えておれ!」
そう言って白装束の集団は霧のように消えていった。
「ふん! 不甲斐ない奴らめ!」
「……覗き見も不甲斐ないとは思わないかしら?」
「俺はいいんだよ……はぁ」
計画を邪魔された臧覇は既にやる気がなくなっていた。そしてその場を去ろうとする。
「待ちなさい」
しかし、曹操がそれを止めた。
「貴方に聞きたいことがあるわ」
「……何だ?」
「あの白装束は一体何者なの?」
「知らん。だが、俺の邪魔ばかりする奴らだ」
「そう……それともう一つ」
曹操は曹仁の方に目を向ける。既に力尽きたのか、寝息を立てながら曹洪に抱かれた状態で寝ていた。
「華侖の件、感謝するわ」
「………………」
「彼女なりに悩んでいた。それを知っていても私たちじゃどうしようもなかった。だから……」
「言っておくが、これは貴様の為にやったのではない。俺の計画の為に必要となっただけだ。感謝なぞ要らん」
「………………そう」
「なんか勘違いしているようだが、俺は貴様の敵だ。それだけは忘れるなよ?」
そう言い残し、臧覇はこの場を去る。
「ふふ……やはり貴方は素敵よ、宿敵さん」
残された曹操は今までの考えは杞憂と確信し、曹一族とともに城へと戻るのであった。
~???~
「………………………………」
ゆっくりと歩く。急ぎもしないし、焦る様子もない。
だが、尋常ではない殺気を隠すことなく全方位に放ちながら、ある場所へと向かう。
「恋の、邪魔するヤツは………………………………コロス」
とある脅威が迫っていることにまだ気付かない……
・乙女繚乱煩悩爆発覇道邁進歴史AVG
恋姫の新作のジャンルが面白すぎ問題。元からでしたっけこれ?
ありがとうございました。