悪役(?)†無双   作:いたかぜ

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第27話

〜豫州・賈駆サイド〜

 

 

「さぁみんな! 神様にお祈りを!」

「「「ほああああ! ほああああ!! ほああああ!!!」」」

 

…………いつ見ても慣れないわ、あれ。

ボクと月は今、天和たちと共に様々な場所を訪れて、賊退治や村の復興などを行なっている。

張三姉妹の役割は簡単。代表の天和、現場指揮の地和、内部管理の人和。そしてボクたちは主に人和の手伝いをしている。

人和はアイツと同じことを真似ているに過ぎないと言っていたが、それでもかなりの数を救ってきた。

 

「朝廷を辞めて行なっているのは国を救うこと……何とも皮肉なこと」

 

国を守る立場に居たのに国を腐らせ、辞めたら国を救う……なんの因果なのよ。

 

「詠ちゃん、大丈夫?」

 

そこへ月がボクに声を掛ける。

因みにだが、今のボクたちの格好はヒラヒラとした服装。曰く、神様が教えてくれた“めいど服”と言うものらしい。

アイツの趣味はわからないけど、月がとても可愛く見えるから文句はない。

 

「どうしたの? 何かあったの?」

「ううん、何でもないわ月。ありがと」

「そう? もし、何かあったら何でも言ってね?」

 

そう言って月はその場を去る。

ここ最近、月の笑顔が増えた。もちろん、アイツのことになると怖くなるのはまだあるけど、それでも朝廷にいた頃よりは本当に笑うようになった。それだけでもボクにとっては意味があったのかもしれない。

 

「素敵な笑顔ね。可愛らしい」

「……見てたの?」

「ごめんなさいね。覗き見するつもりはなかったの」

 

彼女の名は陳珪(ちんけい)。字は漢瑜(かんゆ)。ボクが言うのもなんだがこの胡散臭い軍団を受け入れてくれた胡散臭い人物。

けどかなりのやり手であり、群雄割拠の時代に独立している。それには理由があると言っていたがそこまで知る必要もあるわけではないので聞いていない。

 

「それで? ボクに何か用?」

「……この集団について、改めて聞きたいの」

「見ての通りよ、神を心の底から愛している宗教団体。それ以外に言えることはないわ」

「それまではわかる。私が知りたいのは、その神様のことよ」

「………………」

「私も何人かそういった人たちと会ったことがあるの。だけど、話を聞いても曖昧な返答。聞いてて飽きるほどにね。でもここにいる人たちは違った。話を聞くとハッキリとした答えが返ってきた。まるで“何者”かに言われたように……ね」

 

鋭いわね。相を務めているだけあるってことかしら。

 

「……知りたいですか?」

 

そこへ人和が現れる。

全く……どいつもこいつも気配を消し過ぎよ。

 

「貴女の言う通り、我々はあるお方を神として崇めています。それを知ってどうするおつもりで?」

「……どうもする気はないわ。けど、話は聞きたいと思っております」

「話?」

「貴女たちがここまで心酔させる神様……もとい、人間は実在するのか。そして、願わくはこの地に大樹となりえる人物なのか、見極めたく思っております」

「……なるほど、わかりました。ですが、神様はお忙しい身であるためにすぐにとは言えないです。それでもよろしいですか?」

「もちろん……ふふっこれは楽しみになってきたわ」

 

その時ボクは思った。こうやって宗教は完成するんだなって。

けど、月が幸せなら何でもいいと……

 

 

〜建業・孫権サイド〜

 

 

「セイ! ヤァ! ハァ!!」

 

私は今、修行に勤しんでいる。

母さまが王を退位し、姉さまが新たな王となった。一時はどうなるかと思われた先の戦い。私は己の弱さを見つめ直し、なるべく修行を行うようにした。

母さまがそれぞれの道を歩けと言っていたが、私にはこのやり方が似合っていると思っている。

 

「ハァ……ハァ……ハァ」

 

どれほどの時間が過ぎたのか、外は夕焼け色となっていた。詰め過ぎても仕方ない、今日はここまでとしよう。

 

「………………ふぅ」

 

ふと休むと思い出すあの日のこと。

私たちの国を救ってくれた人間。前に冥琳を救い、母さまとの決闘で勝利を収めた人間とも判明して、姉さまは“軍神”とも呼ぶようになった。

だけど……

 

「あの時……私にどのような事を望んでいたのかしら?」

 

今でもハッキリと覚えている。あの人はあの時、どんな答えを待っていたのか。

 

「……はっ!」

 

まただ。あの人のことを考えてしまう時間が増えてしまった。最近は抑えられるようにはなったが、戦いが終わった直後は常に頭の中でその答えを見つけることを専念していた。けど、そうなってしまうと手を止めてしまい、暫くは何も考えられないのだ。

 

「何なのかしら……これ」

 

もしかしたら奇病みたいなやつなのかしら?

医者に見せたいけど自分でもどう説明していいかわからない。だから下手に動くこともできない。

 

「……こんな弱い姿を見せたらどう言われるのか」

 

 

〜妄想〜

 

 

「ふん……なんとも弱いことだ。これが虎の宝とはな」

「………………」

「何だその目は?まるで自分の立場がわかっていないようだな?ん?」

「くっ……貴様には屈しない!」

「フハハハハ!威勢だけは認めてやる!だが、楽しみはこれからだぞ!」

 

 

〜終了〜

 

 

「………………………………」

「蓮華さま?」

「…………へ?」

「何やらお考えでしょうか?」

 

気付かぬ内に思春が目の前に立っていた。

 

「あ、いや、違うの、これはね……」

「………………」

「えと、その……ごめんなさい」

「い、いえ、こちらこそすいません」

 

私と思春の間に微妙な壁が現れた。

本当に……どうしたのかしら、私。

 

 

〜洛陽・個室〜

 

 

「………………」

 

臧覇は悩んでいた。自分の弱さに。

神様から貰ったチートと呼べるモノの中に、お酒が強くなるのは入っていなかった。その為に、前世でもお酒は強くない臧覇は基本的に飲み過ぎないようにしていた。

しかし今朝、猛烈な頭痛と昨日の記憶が一切ない。これは自分が飲み過ぎた証拠とも言えるだろう。

更に問題なのは……

 

「朝ごはんだけど、簡単なもので大丈夫かしら?」

 

この女性である。

臧覇が起きると、裸の状態で隣で寝ていた。そして話を聞こうにも何も覚えていないとのこと。

 

「問題はない。とりあえずは飯を食ってから話そうか」

「わかったわ。それじゃ、待っててね」

 

そう言って女性は部屋を出ていった。

 

「この状況下であの冷静さ……間違いない、アイツは何かを知っている。そして俺を罠に嵌めたに違いない」

 

この場合、ハメたのは臧覇ではないだろうか。

 

「誰かの刺客か、思惑か……いいだろう。俺は此処で朽ちるつもりはない!」

 

そう言って気合を入れる臧覇。

 

ところ変わって女性の視点。

実は彼女、ただの女性ではない。

 

「……朝廷に仕え、それが崩壊した後も袁紹さんや曹操と共に復興を目指しで頑張った私が……ついに!」

 

彼女の名は皇甫嵩(こうほすう)。字は義真(ぎしん)。真名は楼杏(ろうあん)

かつては漢の将軍として様々な戦果を残し、それを買われていた。皇帝が退位した後も曹操、袁紹と共に影ながら支えており、今もその関係で洛陽にいる。

そんな彼女にはある悩みがあった。

 

「ようやく私にも春が来たわ!!!」

 

彼女は焦っていた。自分が1人でいることに。

エリート街道を歩いてきた皇甫嵩だが、女性としての幸せは遠い人生であった。もちろんそういった願望もあったが、仕事が忙しく、それどころではなかった。

そして自分の時間も出来て、出逢いを求めて街に出た。

しかし……

 

「……誰も近寄ってくれない」

 

彼女は地位が高過ぎなのもあり、寄ってくる男は皆無であった。行動を起こそうにも彼女自身、経験もない為に動けないでいた。

 

「………………ぐすん」

 

仕事の関係とプライベートの不安が重なり、彼女は自棄酒をしていた。その後は記憶がなくなり、目が覚めると裸の状態で男と寝ていたのだ。

 

「耐えに耐えて、掴み取った幸せ……逃してなるものか!」

 

皇甫嵩自身も理解している。あの状況は全くの誤解であることに。しかし、彼女からしてみればどうでもいいことなのだ。

 

「きっと彼は説明をしてほしいはず……ならば適度な嘘で誘導させるしかない」

 

「奴は何かしらの手で俺をモノにしようとしている。そうなる前に記憶があるフリをするしかない」

 

「「この戦い……絶対に負けられない!!」」

 

こうして語られることはない男と女の戦いが始まったのであった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜???〜

 

 

「………………」

 

臧覇を求めて歩く呂布。それはまるで何かに取り憑かれたかのような姿。殺気を放ち、ひたすらに歩く。

それを妨害すること……それは自殺と見ても間違っていない。今の呂布はそのくらい危険であった。

だが……

 

「……………………ん?」

 

呂布の目の前に“何か”見えた。ハッキリとはしていないが、それは人間の姿をしていた。

 

「…………ダレ?」

 

武器を構え、更に殺気を強める呂布。

しかし、目の前の人間は全く動じていない。それどころかこちらに歩いてきたのだ。

 

「この地で待っていれば呂布に出会える……あの小娘の言う通りだったな」

「………………ジャマ」

「だろうな。そうする為に此処に来たんだからな」

 

そう言って彼女も武器を構え、呂布にも負けない殺気をぶつける。

 

「さぁ……オレと楽しもうぜ?」

 

 

江東の虎、孫堅。彼女は今、最強に挑む。




今回のテーマはほのぼのです。嘘じゃないですよ?

ありがとうございました。

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