悪役(?)†無双   作:いたかぜ

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第29話

〜臧覇サイド〜

 

 

俺は未だ曹操の世話になっている。各地を飛び回るこの俺が此処にいる理由。それは目の前の人物が目当てだからだ。

 

「これはこれは……荀彧さん、おはようございます」

「………………」

 

お辞儀だけすませて、早足でその場を去る荀彧さん。ああ……この感じ、素晴らしい。

そう、今回のターゲットはヒロインの中でもくっころが似合う女性と言われたら真っ先に思いつく荀彧さん。そのために俺はこの地に留まっているといっても過言ではない。

 

「ククク……彼女なら必ず俺の望みを叶えてくれる。そのためにも準備をしなくては」

 

さぁ……待ち望んだくっころを見せてもらおうか!

 

 

〜会議室〜

 

 

「……以上が、華琳さまの身に起こった出来事よ」

 

曹一族に襲いかかった謎の集団。そのことはすぐに配下の耳に入れるように曹操自ら説明を荀彧に話した。そして荀彧もすぐ将を集めて、緊急の会議を開く。

今この部屋に集まっているのは夏侯淵、程昱、郭嘉、そして自分を含めた4人である。

 

「敵の侵入だけではなく、襲撃まで許すとは……将として情けないばかりだ」

「気持ちはわかりますが、それは今後の対策を強化すればいいだけです。問題はこの集団の正体を明確にすることです」

「ですね〜……」

「うむ。しかしこれは……」

「ええ。戦争を起こして勝利をするのではなく、暗殺をして華琳さまを討ち取る……これは外部の人間より、内部の人間を疑った方がいいわ」

「我が軍に裏切り者がいると?」

「それもありますが、1人怪しい人間がいます。敵か味方か区別しきれていない人間が」

 

郭嘉の発言で夏侯淵は気付く。タイミングとして最も怪しい人間は1人のみ。

 

「あの男か?」

「ええ。南中王を名乗るアイツよ」

「彼の訪問と謎の襲撃……偶然という言葉で終わらすことは出来ません」

「そうだな、一理ある」

「風はまだ全部をあの人だとは思えませんが……それでも疑う余地は十分にありますね〜」

「それに栄華の話だと襲撃の現場にも居合わせていた。これはアイツが裏で呼んだに違いない」

「ならば何故退治を? 仮に私がその集団を指揮していたならわざわざ任務を遅らせる真似はせぬぞ?」

「だからこそ風も完全には疑えないんですよね〜……」

 

もしも曹操の首が欲しいのならば何故、臧覇が直接介入してまで阻止をしたのか。それでは襲撃の意味はない。

 

「それがわからないから悩ましいのよ。阻止をしたとしてもその現場にいた意図はわからないなら疑うしかないわ」

「ええ。何かしらの行動を起こそうとしたのならば、警戒を怠らないよう注意すればいいだけです」

「だな。引き続き、我らが注意すればよいか。それで、奴はどこに?」

「……それがですね〜」

 

臧覇の居場所はそこにいた全員が理解出来ない場所であった。

 

 

〜荀彧サイド〜

 

 

「一体、ヤツは何がしたいのよ」

「…………」

 

私は今、香風(しゃんふー)と共にある現場へと向かっている。

それにしても、本当に意味がわからない。

華琳さまは何故、あんな男なんかに目を光らせるのか。もちろん、何かしらの意味があるのしれないが、私にとっては地獄でしかない。あのお美しい華琳さまが野獣のような男に毒されるようなことがあれば……私は生きていけるのだろうか?

それよりも、今はあの男の場所に向かうのが先。少し急ごう。

 

そしてしばらく歩いたら、ヤツの監視役である凪と合流した。

 

「お疲れ様です」

「……状況は?」

「今のところ、怪しい行動は見受けられませんでした」

「ありがと……だって」

「………………」

 

監視役がいるから? いえ、何かしらの意味はある。此処で尻尾を掴めば問題ない。

それにこのままでは……

 

「先生! 次は何の遊びをするの!?」

「そうだな……なら、ドッチボールでもするか」

「どっちぼーる?」

「よし、今から説明するから集まれ」

「わーい! たのしそー!」

 

子供たちが危うい。

ヤツは華琳さまに子供の世話がしたいと相談をした。突然ではあったが、監視役をつける条件でそれを許可。そして今に至る。

だが、此処は城からそれほど離れていない場所。何かをするにしてももう少し場所を選ぶはず。なら、本当にヤツは子供と遊びたいだけ?

 

「……凪、香風、ヤツを見てどう思う?」

「難しいことはわからないけど……多分、今のシャンでは勝てない」

「同意見です。私とシャンで協力をすれば、時間稼ぎにはなるかと思います」

 

それほどなの? 私にはわからないけど、この2人もそこらの将よりも強さはある。だとすれば、ますます目を離すわけにはいかない。

何としてもヤツの正体を掴むわ!

 

 

〜数日後〜

 

 

「先生、先生」

「どうした? 何か新しい遊びでもしたいのか?」

「昨日の夜ね、お父さんとお母さんが布団の中で喧嘩してたの……どうすればいいかな?」

「うん、それは喧嘩じゃないから心配しなくていいぞ」

 

あれから毎日、ヤツは子供たちと遊んでいた。

私はその監視役として見てきた。もちろん武力はないので他の将も同行しているが全く怪しい気配を見せない。

いや……それどころではない。彼の援護をする声するも出てきた。

 

「あの人は沙和と凪ちゃんを助けてくれたの! だから恩返しをしたいの!」

「あの時は気が動転しており、不快な思いをさせてしまいました。また改めて謝罪をしたいかと」

「ウチはまだ会ったことないけど、2人がここまで言うんやから悪い兄ちゃんじゃないかもしれんな」

 

かつて救われた恩を返すとヤツと行動することが多くなった沙和。そしてそのまま凪や真桜もヤツの行動を疑わなくなった。

 

「怪しくはありますが、別の可能性も考えるべきだと風は思いますね〜……ぐぅー」

 

最初からヤツの行動には意図がないと指摘をしてきた風。

 

「あの人は悪い人じゃないっす! きっと子供が好きなんすよー!」

「そうですね。あの時に救って頂けなかったら……どうなっていたことか」

「最初はわたくしも疑っておりましたが……あの子供たちと遊ぶ姿は本物です。ならこれ以上、わたくしが言うことはございませんわ」

 

そしてあの時の襲撃を助けてくれたと信じている華侖。柳琳やあの栄華すら彼を援護している。

将の人間がここまで外部の人間を援護するのも珍しい。いや、ヤツだからこそ認めているのかもしれない。華琳さまからも一目置かれ、皆からも信頼を勝ち取っている。

だからこそ気にいらない。私たちは苦労を重ねて華琳さまに認められて配下となった。それなのに顔もわからない見ず知らずの男が華琳さまのお気に入りとなりつつある。

 

「認めない……認めてなるものか!」

 

ヤツは必ず何かをする。その時がくればどうとでもなる。私は諦めない。絶対にだ!

 

「覚えてなさい!」

 

ともかくこの行動には意味がない。私は監視役にこの場を任せて、城へ戻る。一度、状況整理をして準備をする必要があるからだ。

 

荀彧は臧覇が何かをすると確信して目を光らせ続けた。しかし、それとは反するように臧覇はただ子供たちと遊んでいた。裏があるかのような行動もとらない。

荀彧は日を重ねる事に焦りと怒りを増す。元々男嫌いもあったためか、気持ちもまた拒絶感が増すばかりであった。

そしてその肝心の臧覇は……

 

「フハハハハハ!!」

 

高笑いをしていた。

 

 

〜臧覇サイド〜

 

 

これだよ! やはり悪とは嫌われていなければな! どいつもこいつも俺を疑いもせずに甘ちゃんだらけだったからな。

だがアイツは違う! あの拒絶感、素晴らしいものではないか! 人気キャラなのも頷ける。

 

「先生どうしたのー?」

「大丈夫ー? あっちで休むー?」

 

おっと、まだ子供たちと遊んでいたんだ。

子供たちと遊んでいるのは後に関係がある。だが、本来はただただ荀彧さんを困らせたいだけ。軍師というのは物事を難しく考える天才。俺の行動ですら何かしらの理由を探したがる。

そしてこの必ず油断する時はある。その時に俺は荀彧さんを襲う。警戒が解かれた時、ヤツは必ず無防備になるはずだ!

 

「ヤツはまだ諦めていない。しかし、少なからずこの行動に意味がないと感じている……動くならば今日の夜だな」

「今日の夜、たのしみー!」

「わーい!」

「先生も楽しみだよ、みんなはちゃんと親御さんに伝えたかい?」

「「「うん!!」」」

「そうか、そうか……なら、今晩は此処に集まってね」

「「「はーい!!」」」

 

さぁ……絶望を見せてやるか!

 

 

〜深夜・臧覇サイド〜

 

 

「………………」

 

日も落ち、照らすのは月の光のみ。こんな真夜中に俺はある小屋にて荀彧さんを待っていた。ある文を送り、内容を知れば、必ず来る。その時は誰かしらの護衛もあるが、大ごとになるのは向こうも同じ。そうなるも少数に留めるはずだ

 

「ククク……アイツだけは信じている。必ずやくっころを達成してくれると!」

 

思えば長かった……来る日も来る日も俺は壁にぶち当たった。しかし俺は耐え、この時を待っていた。

だがそれも……

 

「………………」

「…………ふん」

 

この日のために!

やはり来たか荀彧さんよ! 隣の大斧を持った……誰だこの人? まあいい、護衛の人間も1人。俺の読みも当たった!

 

「ようこそ……ここに来たということはあの文を読んできたか」

「当たり前よ。男のモノなんて触りたくもないけどそれどころじゃないわ」

「フッ……かの名軍師も甘さが出ているな」

「……何故、子供を巻き込んだの?」

「貴様らは俺を甘くみた……それだけだ」

 

文の内容は簡単だ。

 

【子供を預かった。助けたければ小屋に来い】

 

ということだ。子供と遊んでいるのはこの時のため。荀彧さんはなんだかんだで子供を大切にしている節がある。ならば、それを最大限に使うのみ!

 

「さて、どうする名軍師さま?子供はこちらの手にある。となれば、やることがあるはずだが?」

 

これはもう決まりですわ。完全勝利ですわな。

 

「………………」

「………………桂花」

「わかってるわよ」

 

そうか……わかってくれたか。

ついに俺は……夢を叶えたのだな。

 

「その前に答えなさい。この計画は何処から気付いてたの?」

「そんなの貴様と会ってから……ん? 気付いた?」

「今回は華琳さまから極秘任務として私と香風で進んでいたのよ」

「けど、貴方が動いたおかげで解決出来たの……だから」

「待て、一体何の話をしている?」

 

な、何だ……この寒気は?

 

「今回の任務…………内通者の発見と対処」

 

内通者…………だと?

 

「華琳さまは気付いていたの。自分の情報を売る人物がいることにね。だから、下手に大ごとにせず、私と香風だけで対処するように命じられた。私もある程度までは確認できたけど、確信に迫るまでの材料がなかった」

「最悪ね、シャンが処分することになったんだけど……」

「だ、だけど……?」

「此処に来る前にその内通者が自首してきたわ」

 

うん……それは良かったね。けど、俺との関係はないよね?

 

「突然の事でこちらも驚いたけど……そいつはこう答えたの」

 

 

〜回想・王座の間〜

 

 

事は数時間前。

その場にいるのは曹操、荀彧、徐晃、そして内通者の男。

 

「私には子供がいます……その子供が笑顔で帰ってきて毎日楽しそうに今日の出来事を話してくれました。その時です。私が兵士の前に人としての親と気付いたのは……」

「………………」

「今さら許してくれとは言いません。ですが、今生の願いとして……子供だけは、どうか」

 

男は深々と頭を下げた。もちろん、こんなことをしても望みは薄いことなど承知の上。だが、彼はその覚悟で此処に現れたのだ。それは最愛なる子供のため。

そして曹操は答える。

 

「……今回の動きは誰かに見られたか?」

「いえ……」

「なら都合がいいわ。貴方はそのまま情報を流しなさい。ある程度までなら本当の情報を許す」

「え?」

「今から貴方には香風の部隊に入りなさい。そしてそこから情報が入り次第、香風に流すこと。いいわね?」

「お、お待ちください! 私は裏切り者です! そのようなことでは……」

「自惚れるな」

「ッ!!」

 

曹操は男に殺気をぶつける。

 

「貴様を1人殺そうが今後も同じような者が出てくる。だが、見せしめとして処刑するよりも危ない橋を渡らせる方がこの国の発展に繋がる。もちろん、事が終われば貴様の処罰も改める」

「………………」

「ま、貴方は裏切り者なのは事実。子供はこちらに預けてもらうわ。貴方が怪しい動きを見せれば、子供がどうなるか、わかるわね?」

「………………はい」

「その潔さだけは認めてあげる。月に一度、会えることは約束するとしましょう」

「ッ!ありがとう……ございます!」

 

そう言って男は徐晃と共にその場を去っていった。

 

「華琳さま」

「甘い、とでもいいたいのかしら?」

「………………はい」

「でしょうね。本来なら処刑ですものね」

「ならば」

「けど、処刑すれば奴の情報はそこまで。けど、嗅ぎ回る奴らを炙り出せるならば生かすのも一つの手よ。いざとなれば亡き者にすればいい」

「……わざと泳がせるのですか」

「そういうことよ……それにしても」

 

曹操は天井を見上げながら……

 

「先に子供の心理を使って内通者を出すとはね」

「………………」

「やはり面白い男ね、ふふっ」

 

笑みを見せていた。

 

 

〜終了〜

 

 

「ば、馬鹿な!?」

 

そんな事初耳なんですけど!?

子供なんて皆同じような感じだろ!

 

「すごいよ……まさか子供を使って内通者を出すなんて。シャン、驚いた」

 

こっちも驚いたよちくしょう!

だが、これではマズイ! このままでは俺がいい奴になってしまう!

 

「ちょっと」

 

行動を起こそうとした時、荀彧さんが俺を呼ぶ。

 

「私は男が大っっっっっ嫌いなの。けどね、個人の感情だけでは華琳さまの理想を汚すことはもっと嫌いなの。だから、一度しか言わないからよーく聞きなさい!」

 

この時俺は直感した。

や、やめろ。お前だけは言ってはいけない!

それを言っては……

 

「待っ……」

「此度の件、感謝するわ………………ありがと」

「ッッッッッ!!!!」

 

本当に小声だった。だが確かに聞こえた。

あの……あの荀彧さんが…………感謝?

 

「……あーもう!帰るわよ香風!」

「うん……シャンもお礼するね。ありがと」

 

そして荀彧さんと小柄な少女は出ていった。

 

こうしてまたも自分の計画が失敗に終わってしまった臧覇。そんな彼は……

 

「大きな星が点いたり消えたりしている。アハハ、大きい……彗星かな。イヤ、違う、違うな。彗星はもっとバーって動くもんな。暑っ苦しいなココ。ん……出られないのかな。おーい、出して下さいよ……ねぇ」

 

誰もいない場所で精神が崩壊していたのだった。




無敵艦……轟沈!

ありがとうございました。

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