悪役(?)†無双   作:いたかぜ

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第30話

〜西涼〜

 

 

馬一族を指揮する国、西涼。馬の扱いなら右に出る者はいないと評される一族。もちろん、その武力も認められている。

その一族は今……

 

「……クソッ!」

 

窮地に立たされていた。

一族の長である馬超は片膝をつき、相手を睨みつける。

その相手は……

 

「思ったよりも時間がかかりましたね……流石と言ったところでしょうか」

 

于吉であった。

白装束を連れ、突如として馬超の前に現れたのだ。それに驚きながらもすぐに槍を持ち、応戦する。しかし、数の暴力に負け、現在に至る。

 

「アンタらの目的は何だ? こんなことをしてタダで……」

「まあ落ち着いて下さい。余興はまだおわりではありません」

 

そう言って指を鳴らし、ある人物たちを招き入れる。

それは……

 

「ッ!? 鶸! 蒼!」

「「………………」」

 

馬超の妹たちの馬休と馬鉄であった。

しかし、彼女たちからは生気が感じられず、まるで人形のような状態であった。それに気づかない馬超ではない。

 

「テメェッ!!」

「彼女たちは一足先に術をかけさせて頂きました。最後まで抵抗しましたがいい収穫です」

「2人から……離れろ!!」

 

ボロボロの身体に鞭を入れ、高速の突きで于吉を狙う。

 

「………………」

「……ガハッ!!」

「ッ!?」

 

于吉はその場から動くことはなく、その槍は横にいた白装束の男が盾となり、受け止めた。全くの躊躇もなく、死ぬことも恐れない白装束。まるで駒のように于吉を守る。

馬超はその不気味さもあり、もう一度距離を置く。

 

「では、先の質問にお答えしましょう」

「ふざけるな!! この後に及んで……!!」

「彼女たちがどうなっても?」

 

すると馬休と馬鉄は小刀を自分の首元に突きつける。

 

「ッ! やめろ!!」

「ならば……わかりますね?」

「…………クソッ!!」

 

そして馬超はその場に槍を投げ捨てる。

それを見た于吉は合図を出すと馬休と馬鉄は小刀を下げ、先の続きを始める。

 

「では答える前に一つ問題を。この騒動を起こし、得をするのは誰だと思いますか?」

「………………」

「わざわざ戦争をせずに領主の首を取り、戦力をそのままに活かせるとしたら……これほどの魅力はないかと」

「…………曹操だと言いてえのか?」

「……フッ」

 

于吉は肯定も否定もせず、ただ不敵な笑みだけを馬超に見せた。

 

「その名が出てきたということは……何か思い当たる節があるのですか?」

「………………」

「私からは何も言いません。思うのも疑うのも自由なのですから」

 

馬超は悩んでいた。曹操という人間は母の時代から聞いている名であり、かなりの野心家というのも聞いている。それと同時に誇りも持ち合わせているとも。

だからこの妖術にまで手を出したというのは考えにくい。

ただ、一つ確信したことがある。

 

「……どうされましたか?」

 

この妖術師は誰かに従う人間ではない。それだけはハッキリと理解した。

その時……

 

「お姉さま!」

「ッ! 蒲公英か!」

 

馬超の従姉妹である馬岱が息を切らしながら入ってきた。

馬岱は遠征に行かせていたので難を逃れたが、馬の落ち着きのなさに違和感を感じ、馬超の様子を見に来たのだ。

 

「おや? 随分と早い……」

「てい!」

 

勘が働いたのか、于吉が何か言う前に馬岱はすかさず動く。

懐にしまってあった玉を地面に叩きつける。するとたちまち辺りが白い煙に覆われる。

これはかつて韓遂(臧覇)と共に悪戯がバレた際に逃走用として作ったモノ。

そして煙が晴れると馬超と馬岱の姿はなくなっていた。辺りを見渡すと窓の扉が開かれている。

 

「ふむ……逃げられましたか」

「追いかけますか?」

「いえ、構いません。このままにしておきましょう」

「はっ」

 

すると白装束らは音もなく消えていき、残ったのは于吉と馬休と馬鉄のみ。

 

「ここで潰しても面白みがありません。物語に必要なのは“道筋”です」

 

于吉は2人の耳元で囁くと糸が切れた人形のように倒れていく。

 

「それでは皆様。今日はこの辺で……フフッ」

 

不気味な笑みを見せ、その場を去る于吉。

 

 

〜数時間後〜

 

 

「ん?」

 

深い眠りから覚めた馬休。隣には馬鉄がぐっすりと眠りについている。

 

「なんでこんなところで寝てたんだろ?……まだ姉離れが出来ていないのかな?」

 

馬休は立ち上がり、空いていた窓を見つめる。

 

「しっかりしなきゃ、私。これだと天国の母さんや……“姉さん”にまで笑われちゃうよ」

 

 

〜曹操サイド〜

 

 

「消えた?」

 

自室にてある発言が耳に入った。報告に来たのは華侖、柳琳、栄華の3人。そして発言者は世話役としていた華侖からのものだった。ちなみに裸である。理由はいなくなってモヤモヤしていたからだそうだ。

 

「そうなんすよー。今日、部屋に入ったら誰もいないんすよー。今はみんなで街を捜索させてる最中っす」

「ね、姉さん……服を着てください」

 

失踪ね……

 

「ふむ……ならその捜索でも見つからなかったら中断しなさい」

「いいんすか?」

「いいも何も彼はあくまで客将としていたまで。これまでの功績ならばこちらから褒美を渡さないといけないけど……いなくなってしまったら仕方ないわ」

「むぅー……出来れば一緒にいたかったっす」

 

客将として招いたけど、これほどまで面白い結果になるなんて思ってもみなかったわ。

 

「華侖」

「うっす」

「欲しいというのなら望むのではなく、掴み取るものよ。曹家の人間ならばね」

「……了解っす! そうとわかれば善は急げっす!」

「姉さん! せめて服を着て!」

 

そう言って華侖は裸のまま部屋を飛び出していき、柳琳は

華侖服を持って追いかけて出ていく。少し騒がしいけど、あの子の良さが出てるわ。

 

「全く、少しは淑女としての嗜みを心得て欲しいですわ」

「……それで、動きはあったの?」

 

華侖の情報も有難いけど、本命としては栄華の方が優先的ね。

 

「はい。実は商人らに話を聞きましたら……劉璋が大量の武具を購入したとのこと」

「劉璋……あの凡人ね」

「各地制圧のためなら頷けますが、それでもかなりの量とのことです。そうなると起こりうる可能性は……」

「戦争ね」

「恐らくは」

 

叩けば叩くほど溜まっていく埃。掃除をするにしても善意でやっているわけではないのに。全く。

 

「ですが具体的な証拠もありませんので、動くのは得策ではありません」

「ええ。けど、軍師たちには報告をしといてちょうだい。何処とやるかはわからないけど、万が一もありえるから」

「御意」

 

……劉璋の動きと彼の失踪。

 

「まさかね」

 

 

〜荒野〜

 

 

「ハァ……ハァ……」

「………………」

 

何日続いたのか。それすらもわからない。だが、決着は見えていた。荒野に存在するのは二つの命。最強と謳われる呂布と江東の虎、孫堅であった。

辺りは抉れた大地と無数の斬撃痕。凡人では決してたどり着けないほどの決闘であったのだろう。互いに大量の血を流しているのか、所々に黒い血痕もある。

孫堅は息をするのが精一杯だが、決して剣を落とさずにいる。対し呂布は傷はあれど、疲れた様子はみえない。

 

「全く……最強に偽りなしかい。これでも地元では強い奴と戦ってきたんだがな」

「…………恋は、強い。それだけ」

「はん……だろうな」

 

そう言って再び剣を持ち上げ、呂布に向ける。

 

「だが、剣はまだ折れちゃいない。決着をつけようじゃねーか」

「………………わかった」

 

呂布も血を流し、冷静になれたのか、先ほどの殺意はなくなっており、純粋な戦いの決着を望んでいた。

互いに武器を構え、暫くの時間が流れる。

そして……

 

「「………………ッ!!」」

 

凄まじい速さで距離を詰める2人。まさに一瞬。

その決着は……

 

「ぬっふぅぅぅぅん!」

「……ッ!?」

「ちぇぇぇえすとぉぉぉぉぉ!」

「な……ッ!?」

 

謎の闖入者により、その決着はつかなかった。

筋骨隆々の大男の2人は呂布と孫堅の腹部に拳をぶつける。呂布と孫堅は対応できず、直撃をくらい、意識を手放す形になる。

 

「ごめんなさいね、呂布ちゃん。今は大変な危機が迫ってるのよん」

「さて……ようやくこの世界にも入れた。後は転生者に会うか」

「ええ。けど……まずは華佗ちゃんを見つけましょう」

「だーりんにか?」

「うっふん。どんな時代でも恋する乙女ね、卑弥呼(ひみこ)

「当たり前よ貂蝉(ちょうせん)! 儂はどれだけ世界を回ろうともだーりんを忘れることはないわ!」

「素敵よん卑弥呼。華佗ちゃんを見つけて……この世界の転生者に会わないと」

「うむ!ならば急ぐぞ貂蝉!」

「了解よ! ぶるぁぁぁぁあ!!」

 

筋骨隆々の2人……貂蝉と卑弥呼は呂布と孫堅を担ぎながら嵐のように去っていく。

 

于吉の暗躍、臧覇の失踪、謎の闖入者……これらが意味することとは。




于吉は書いててすごく楽しい。悪らしい悪をつきぬけてますからね。
ん? 主人公?
……君のような勘のいいガキは嫌いだよ。

ありがとうございました。

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