〜張松サイド〜
私は張松……というのは仮の姿。本当の姿は劉備の陣営をくっころする為に劉璋の傘下に入った臧覇なのだ!
俺は精神が崩壊されかけた。荀彧という絶対の信頼からの裏切りに会い、耐え切れなかった……しかし! 俺はまた立つことが出来た。まだ見ぬくっころヒロインを求めて這い戻ってきたのだ!
そして俺が何故、劉璋の側近になれたかというと3つの理由があった。
まず1つ目は金。単純だが、1番わかりやすくもある。
2つ目は黄忠さんからの推薦。向こうも俺のことを覚えていたのでその件の恩返しという形で紹介をしてくれた。かなり反対していたが、関係ない。
そして最後の3つ目だが、これは予想外の展開だった。
何故ならば……
「お前は……韓遂?!」
「どうしてここに?!」
そう。原作では既に劉備の陣営にいるかと思われた馬超さんと馬岱さんが劉璋の陣営にいたのだ。後の2人は見当たらない。
俺とてこれには驚いた。しかし、同時に好機とも思えた。これだけの戦力ならば劉備の陣営に勝てるのではないか?強い武将がいるのは確かだが、相手は義勇軍。戦力差ならばこちらが有利に働いている。
「ククク……」
やはり、俺には悪としてのセンスがあるようだな。この戦いで勝ち、隙を見て劉璋の首もとれば……此処にいるヒロインたちのくっころは成功する。楽しみだなオイ!
さて、俺は今散歩がてらに街の様子を見ている。今後この街が俺のものとなるならば使い勝手に困らないようにせねばなるまい。
しかし、此処である問題が生まれてしまった。しかもそれは現在進行形なのだ。
それは……
「じー………………」
俺の背中を見てくる女性。名は魏延。劉璋というより厳顔さんの配下であり、武勇に優れた武人だ。
その魏延さんが俺に尾行をしている。それに今回が初めてではなく、何回かあるのだ。本人は隠れているようだが、背中に担いだ武器が完全に見えていてバレバレである。
「アイツは何がしたいんだ?」
彼女が尾行に向いていないことなど厳顔さんもわかっている筈。それなのに寄越してきたのは何か意味があるのか?
「下手に動いてもしょうがない……此処は大人しく飯でも食うか」
とりあえず俺は近くにあった飯屋に入り、お腹を満たすことにした。時間はあるのさ。落ち着いてこう。
〜飯屋〜
「………………」
「………………奇遇だな」
「ソウデスネ」
俺の目の前には魏延さんが睨みつけながら座っている。
説明するならばこの飯屋は人気店らしく、席が1つだけしか空いていなかった。俺はそれで問題なかったのだが何を血迷ったか魏延さんもこの席に座ってしまったのだ。
本当に……この子は何がしたいの?
「先に言っておくが、私は最近この店が好評という噂を聞きつけてやってきたまでだ。断じて貴様を尾行して成り行きでこうなってしまったのではないからな?」
「アッハイ」
俺、何も言ってないじゃん。
そんなことをしていると店員が笑顔で向かってきた。
「ご注文はお決まりですか?」
「俺は炒飯と拉麺で」
「私は……この回鍋肉で」
「あ、ごめんなさい回鍋肉は来月からです」
「む、そうか……なら酢豚で」
「先ほど売り切れてしまって……」
「……油淋鶏」
「当店では扱っておりません」
「何だよ! 私に対しての嫌がらせか!!」
あれ、この子って幸薄キャラだったっけ?
「はぁ……もうコイツと一緒で構わん」
「わかりました! 少々お待ちください!」
元気よくその場を去る店員に対し、不貞腐れるように机に頭を置く魏延さん。
「……何故、今になって此処に現れた?」
「ん?」
「お前にもわかるだろ? この地は長くない。あの野郎が好き勝手やった結果、あらゆる奴に喧嘩を売ってる」
「………………」
「こんな国に志願するのは自殺行為だ。桔梗様も反対してた。なのに何故……」
「お前たちはまだ理解していないようだな」
「……理解?」
「この国……いや、あの劉璋の価値を理解していない。奴は俺にとってどの宝よりも価値がある」
俺のくっころ計画にはアイツが必要だからな。そらもう俺の中では最高値ですよ。
「……お前の目的は何だ?」
「いずれわかる時がくる。楽しみにしておけ」
「………………」
そしていずれはお前もくっころ要員となる。
ククク……楽しみにだぜ。
「お待たせしました! 炒飯と拉麺お二つになります!」
「……食べるか」
「ああ」
こうして俺たちは炒飯と拉麺を食し、魏延さんはその場から去っていった。どうでもいいが、さっきの飯屋は美味かったから今後ともチェックしていこうそうしよう。
「さてと……」
なんか拍子抜けしてしまったな、今日はもう帰ろう。
魏延さんもバレたから明日からは幾分かマシになると思うし、明日から頑張ろう。
〜翌日・街中〜
「じー………………」
なんでやねん。
嘘だろ? 昨日一緒に飯食ったじゃん? まさかあの言い訳が通ったと思ってるの?
クソ、これ以上尾行されるとこちらとしても行動が……
「………………ハッ!?」
ま、まさか……魏延さんの尾行は俺の行動を阻止するためか!
最初からバレバレな尾行も隠密にする必要はなかった。だからこそ、苦手そうな魏延さんを選んで俺を監視をしていた。そう考えると今までの行動も頷ける。
「これが厳顔の策……侮れんな」
だが、こちらとて貴様らの手の内は把握した。ならばやることは一つ。
「逃げるんだよォ!」
これが俺の十八番、逃走だ!
「あっ! 待て!!」
フハハハッ! 一つ教えておこう魏延さん。
「お前に足りないものは、それはー……情熱思想理念頭脳気品優雅さ勤勉さ! そしてェなによりもォーーーーーー」
「は、速い!? クソ!!」
~街外れ・廃村~
「速さが足りない!!!」
ふぅ……やはり速さは大切だな。
ただ逃げることだけしか考えていなかったから寂れた村に来てしまったな。いや、此処は捨てられた村か。
「あちこちボロが見えるが……再利用出来るモノばかりではないか」
もったいない。それならば俺が使えるようにしてやろうか?
「まぁいい。しばらくは俺の仮拠点にでもしておいてやるか」
そう言って俺は適当に空き家の扉を開く。
「な! どうして此処がバレた!?」
空き家と言ったのに空き家ではなかった。
家の中には賊らしき人物と商人らしき人物がおり、更には机の上にはあるものが置いてあった。
「…………クスリか」
うむ、あれは見たことがある。もちろんだが俺と配下たちには使わせていないし、見つけても麻酔に使える物だけをとって、後は埋めてる。
クスリ、ダメ、絶対。
「クソが!」
「ヒィ!」
賊らしき男は腰に差してた剣を抜き、対峙する。
いや、待てよ? 此処でこのクスリを俺の物にして、この現場を作れば……悪党になれるんじゃね?
「ッ! 遂に見つけたぞ!」
あ、ダメだわ。魏延さんが追いついちゃった。
冷静になれ俺。此処はまずこの場を支配して……
「デェェェイ!」
「グハッ!!」
手が早いっすね魏延さん。
「安心しろ、貴様らは生かしておく。聞きたいことも山ほどあるからな」
「はははははっはい!」
気絶している賊らしき男と商人らしき男はそのまま魏延さんのお縄につく。数分後、兵士が到着して2人の身柄を確保。そのまま城へと連れて行かれた。
…………俺、何もしてねぇ。
「お前が此処に志願した同時期、不可解な行動をとる人たちが街で発見されてな。私はお前が何か絡んでいると思い、尾行をしていたのだ」
つまりは厳顔さんとかは絡んでなく、個人で俺の尾行をしていたわけか。
「なるほどな。だからあんなバレバレな尾行をしていたのか。確かにアレでは行動も何も……」
「えっ?! バレバレだったの!?」
「………………」
アレ……本気だったんかい。
ともかく、この日を境に魏延さんが俺の尾行をすることはなくなり、代わりに稽古に付き合えということで再び絡まれてしまうのであった。
〜深夜〜
「以上が、今回の異変の事実です」
「なるほど……よくやったぞ焔耶」
ある日の夜、魏延は厳顔の部屋を訪れ、今回起きた事件の報告をしていた。
「あの商人は何度か見たことがある。元より悪さをする為にこの地に訪れていたか……」
「こちらの動きを把握していたのも、内通していた兵がいたと吐いておりました」
「……で、あるか」
「桔梗様、やはり劉璋の下を離れましょう。これ以上、この地にいて損はあれど、得はありません」
「ならん。ワシらもまた一辺を任された身。ワシらならまだしも民にまで犠牲を出してはあのクソ坊主となにも変わらん」
「………………」
「ともかく、この件は他にも絡んでいないか、調べるのだぞ」
「わかりました」
魏延はその場を離れ、自分の部屋へと戻る。
そして扉を開けると……
「お待ちしておりました……魏延様」
「………………」
その部屋にいたのは、劉備の陣営に所属している孫乾であった。しかし、魏延は驚きもせず、自分の椅子へと座る。
「随分と早いな」
「………………」
「まぁいい。現状、こちらは動くことはない。戦いになれば敵として……だな」
「そうですか……こちらも覚悟を決めなければなりませんか」
「それと、お前の頭も何か考えがあるみたいだな。どう転ぶかわからんが」
現代で表すならば今の魏延は二重スパイ。このことは厳顔も把握しており、厳顔と孫乾の情報のパイプとなっている。
「今のまま戦っても無駄に戦力を減らすだけだ。まだ手があるならそっちを優先させた方がいい」
「こちらも時間があまりありません。関羽様と張飛様が既に準備を完了しております」
「そうか。そういうことならこちらも歓迎するしかあるまい」
「……それでは、失礼します」
そして孫乾は音もなくその場から消えるように姿を消した。残された魏延は窓の外を見る。
「どんなことがあっても私は武を捨てない。例え裏切り者と蔑まれても……」
魏延もまた覚悟を決め、その日の1日を終わらす。
その頃の臧覇は今……
〜森・水辺〜
「………………」
「にゃ………………」
綺麗な水辺に二つの影。臧覇ととある少女は無言で見つめあっていた。
少女の名は張飛。劉備の義兄弟にして一番槍としての活躍も聞く。そんな張飛が何故、劉璋の陣営にいるかはわからない。
しかし、臧覇はある問題を抱えていた。
「……なんで、服を着ていないのだ?」
「………………」
彼は……全裸であった。
事案発生。
ありがとうございました。