この素晴らしいダンジョンに祝福を!   作:ルコ

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破壊の限りに有罪を

 

 

 

 

 

「さあ。そろそろ出発しようか」

 

フィンの掛け声により、既に準備を整えていた団員達が立ち上がった。

18層でのひと時の休憩を終え、これから19層へ、そして中間層を超えて深層へ向かう。

 

ディックスのせいでまともに欲望の解放が出来なかった俺は、しぶしぶとパーティーの先頭を歩くのだが、幸いな事にと言うか、やはりと言うか、モンスターとのエンカウント率は変わらずに低かった。

 

「さすがにさ、ここまであからさまにモンスターが出てこないと…、何かの前兆かもって疑っちゃうよな」

 

「…うん。…警戒、しなくちゃ」

 

「そうだな」

 

と、答えながら、俺はアイズの背中に隠れて前を進む。

呆れたように、自らの背後で縮こまる俺を睨んだアイズはため息を小さく吐きつつも、その警戒を怠らない。

 

「なぁ、アイズ」

 

「…なに?」

 

「昨日は水浴びしなかったのか?」

 

「…うん。ティオナ達に誘われたけど、なんだか嫌な予感がして」

 

い、嫌な予感だと…っ。

相変わらず勘の良い娘だ…。

 

「だめだぞ?女の子なんだから身体はいつも綺麗にしておかないと」

 

「…でも、汗とかあんまりかいてないし…」

 

「そうやって無頓着なのはおまえの悪い癖だ。今夜、俺の花鳥風月で洗ってやるよ」

 

「……」

 

「なに?」

 

「…カズマは、私の裸を見て欲情する。…だから、危ない」

 

と、アイズがジト目で俺を睨んだ。

はぁ、まったくこの女ときたら…。

俺がアイズの身体を見て欲情?

 

「バカが!自惚れるなよ!?」

 

「…!?」

 

ないわー。ぜんぜんないわー。

せめてレフィーヤくらいロリ心を擽らせる小ささが、ティオネくらい嗜虐心を擽らせるむっちりさを身に付けてから物を言えっての。

 

「おまえの痩せ細った身体なんて見て誰が欲情するってんだ!!」

 

「!?」

 

俺はアイズの背中をペシンペシンと叩きながら

 

「もっと肉を食え!こんな骨だけの身体じゃ男は寄り付かん!」

 

「…ぅぅ」

 

「胸も申し訳程度に膨らみやがって!」

 

「ぅぅぅ…」

 

涙目になったアイズがこちらを振り返りながら、剣を持った腕を大きく振り上げた。

それを、ザンっ!!と振り下ろすも、レベル5であり悪運もあり、さらには花鳥風月をマスターしている俺には止まって見える。

さらっと、それを避けてやると、アイズは悔しげに地団駄を踏んだ。

 

「2度と自惚れた事を言うんじゃねぇぞ!!」

 

「ぐぬぬーーっ!!」

 

 

……

.

 

 

先頭の2人が口喧嘩をしつつも、数少ないモンスターを一撃で斬り落として階層を進む。

 

偶に出てくるモンスターは、俺がその存在に気がつく前にアイズが剣を振るって殺してしまう。

魔石も専属のサポーターが同行しているために拾う必要がないときた。

 

俺の役目と言ったら

 

「…カズマ」

 

「あいよ」

 

アイズにドレインタッチで魔力を送ることくらい。

地味な役割だなぁ…。

 

「ほれ、頭出せ」

 

「……」

 

俺はアイズに頭を出すように言うも、アイズはなぜだかふくれっ面になって頭を出そうとしない。

 

「なんだよ…」

 

「…頭じゃなきゃダメなの?」

 

「あ?別に身体なら何処でもいいけど」

 

「…なら手にして。…頭を掴まれるのは、ムカつくから…」

 

ほう、こいつにもそんな感情があったのか。

 

「ほら、じゃあ手な」

 

「…ん」

 

ギュ。

…ドレインタッーーチ。

意外に暖かいな、こいつの手。

 

「女の子なんだな、おまえも。小ちゃくて柔らかい」

 

「…カズマの手は、大きいね。…弱いのに」

 

弱いのは関係なくね?

と、突っ込みながらも、俺はゆっくりゆっくりと魔力を送り続けた。

 

「モンスターも居ないしこのまま手を繋いで行こうか」

 

「…うん」

 

「今日は特別にお兄ちゃんって呼んでいいぞ」

 

「…お兄ちゃん…」

 

そう言いながら、アイズは柔らかく笑いながら頬を赤める。

その表情に、俺も少しだけドキってしてみたり。

 

「ほら、まだ歩けるか?転ばないように気を付けろよ?」

 

「…うん。疲れたけど頑張る。…えらい?」

 

「えらいえらい」

 

「…頭撫でて」

 

「はいはい。まったく、アイズはお兄ちゃんっ子だなぁ」

 

「…♪」

 

なでなでなでなで。

サラサラとしたアイズの頭を優しく撫でてやると、嬉しそうに手を繋ぐ力を強めた。

 

ほんと…、守ってやんねえとな。

 

コイツは俺の、唯一の家族で唯一の妹なんだから…。

 

「カズマ…、キミはアイズと手を繋いで何をやっているんだい?」

 

おいおい、フィン。

兄妹の時間を邪魔するなんて無粋な真似をするなよ。

空気読め。

 

「おいフィン邪魔すんなよ!アイズが怖がるだろ!」

 

「…お兄ちゃん…」

 

俺はフィンから遠ざけるようにアイズを背中に隠した。

 

「アイズまで何をやっているんだ…。カズマ、そろそろ深層だよ?おふざけはここまでだ」

 

フィンはため息を吐きながら、その視線の先に下降する階段を捉える。

 

「む。…それもそうだな。おい、離れろアイズ」

 

「!?」

 

ペイッとアイズを蹴り飛ばし、俺は深層と呼ばれる階層へ続く階段を睨んだ。

少しばかりモンスターが出てこないからって遊び過ぎたな。

アイズなんかじゃ俺の妹には相応しくないし。

 

「…あ、あの、お兄ちゃん…」

 

「お兄ちゃんじゃないよ。俺の妹はレフィーヤとリリだけだから」

 

「…ぁぅ」

 

しょぼーんとするアイズを放っておき、俺は深層へと続く階段へと踏み出す。

途端に。ダンジョン特有の湿気臭さを乗せた風が頬を撫でた。

 

モンスターが少ないのは階層主が産まれる前兆か?

いや、そんなの聞いたことないな…。

 

もしかしたら、もっとこう、とてつもなく最悪な何かが起こるのかも…。

 

「フィン、この先から慎重にな。…冷静さを失えば直ぐに崩壊するぞ」

 

「…キミには言われたくないけど、まぁ同意だね」

 

降り立つ深層。

やはりそこにもモンスターの影は少なく、なぜだか嫌な予感ばかりが俺の胸を突く。

 

「親指は?」

 

「疼かない。まったくと言っていいほどにね」

 

考え過ぎなのか…?

フィンとて疑問はあるだうが、自らの親指を信じて先を進み続けた。

願わくば、このまま何事も無く目的の階層までたどり着けますようにと、淡い期待を抱きながら、俺は広いダンジョンを眺める。

 

何度か来たことのある階層。

 

頭を過る違和感。

 

…もとより広々したエリアだったが、こんなにも広かっただろうか?

 

「…」

 

それに、所々に見られる壁面の破壊跡。

何かとてつもなく大きな物が削り取ったように、その跡は大規模に、そして恐ろしく疑惑の色を残す。

 

例えばだ。

 

例えば、とてつもなく大きなモンスターがダンジョン内を彷徨っており、それに慄いたモンスター達が隠れてしまった。とか。

 

日頃から階層主なんかが暴れるダンジョンで、モンスターさえもビビらせるほどに巨大で恐ろしいモンスター…。

 

 

と、妄想に近いファンタジーな想像をしていた時だった。

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴンゴ

 

 

「ンゴ!?」

 

それは突然に、大きな轟音を掻き鳴らす。

 

その轟音は壁や天井の岩を脆くも崩し、次第には立つ事さえも困難な程の地響きを伴った。

 

「…っ、フィン!!」

 

「こ、これは…っ!て、撤退だ!全団員はこの場から離れるんだ!急いで上へ向かえ!!」

 

フィンの慌てた怒声に、団員は困惑しながらも従う。

1人、また1人と、その轟音から逃げるようにその場から離れた。

何が何やらと、とりあえず此処は危険な事だけは理解した俺も、逃げ惑う団員達に紛れてスタコラサッサーと……。

 

「ぁうっ!あ、脚が…、つ、攣ったー!!」

 

なんでこんな時に!?

引きこもりのビタミン不足がこんな所で脚を引っ張るとは…。

そう考えながらも、攣った足は痺れたまま動かない。

近く轟音に焦りながらも、なんとかその場に立ち上がった俺は、その見えぬ正体を確かめるべく振り返る。

 

「…な、何が来るってんだ…?」

 

ゴジラか?使徒か?

どちらにせよ見てみたい…。

って、そんな冗談を言ってる場合か!ドアホ!!

 

気が付けば、砂埃舞う中に立ち竦む俺は、逃げる団員達から取り残されていた。

広々したエリアには、ケツ持ちとして残っていたフィン、リヴェリア、ガレス、アイズ、ヒリュテ姉妹、ベート、そしてレフィーヤしか居ない。

 

こ、こいつらと一緒に居る方が安全か?

 

「…お、おう。おまえら逃げないの?」

 

「逃げろと腹底の心理は叫んでるよ。ただ、僕らには正体を確かめる義務があるんだ」

 

と、フィンは答える。

そんな義務はないよ。だって冒険者は任意で動く者たちだもん。

フィン、それは義務じゃなくて正義感の間違いだ…。

 

ただ、俺が呆れて声を出せない中でも、フィン達は轟音の音先から視線を外さない。

 

「何が近づいてるんだ?…モンスター?ラスボスか?それとも魔王?」

 

「カズマよ。我々はそれを確かめるために残っているんだ」

 

「…リヴェリア」

 

「それが私達の義務だからな」

 

「…それ、もうフィンが言ってたぞ…」

 

「むぅ」

 

格好良く杖を構え直したリヴェリアの頬が赤くなった。

 

俺は逃げ出したい衝動に駆られつつも、轟音の特徴から正体の概要を推測してみる。

これも器用貧乏の利便性だ。

 

時折聞こえる機械音のような金音に、壁を削り落とす程の巨体。そして、到底二本足とは思えない数の足音。

 

「…モンスターじゃない。…人工的な…、それも破壊するために造られたような…。数は1体だが、とてつもなく大きくて硬そうだな」

 

「ふむ。音だけでそこまで分かるのか…。便利なスキルだな」

 

感心したようにリヴェリアが呟く。

 

「物知りで何でも知ってるリヴェリアさんよ」

 

「何でもは知らん。知っていることだけ」

 

「なら知っている限りで教えてくれよ。過去の文献でも、伝記でも良い。俺が言った特徴に似た()()を知ってるか?」

 

リヴェリアは少しだけ考えるように目を細めると、何かに思い当たったのか息を飲む。

静かに、その答えを聞くためにその場に居る全員が耳を傾けた。

 

「…数百年に1度、モンスターとは違った形をした何かが現れる事がある」

 

「…」

 

「その脅威は階層主の比ではなく、おおよそこの世界の文明とは思えない程の力を持つ」

 

「…文明」

 

「街を潰し、森を焼き、湖の形を変える。そいつの通った後には何もかもが失われるのが通例だ」

 

「な、なんなんだよ、そいつは…」

 

「そいつの名はーーーー

 

 

 

 

破壊神話(デストロイヤー)

 

 

 

 

 

 


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