この素晴らしいダンジョンに祝福を!   作:ルコ

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レフィーヤは小憎たらしい後輩系キャラ。

大きなマントがすごく可愛い。


魔法使いにも信頼を

 

 

 

 

アイズに言われた通り、俺は正午の頃合いに指定された門前へと向かう。

トボトボとポケットに手を入れて歩いていると、既に集まっていたであろうアイズと姉妹の片割れ(胸が無い方)、そして知らない小っこい娘がこちらを睨んでいた。

 

「よう」

 

「よう、じゃないですよ!なんで貴方みたいな新人に待たされなくちゃいけないんですか!!」

 

「あ?なんだこのチビっ子は」

 

「うがぁぁー!チビっ子じゃない!!私はレフィーヤ・ウィリディスです!!」

 

「あぁ、そう。そんで?今日は何層行くの?言っておくが、俺は3層より下には行かんぞ」

 

チビっ子レフィーヤが噛み付かんばかりに牙を向けるが、それを気にすることなく、俺はアイズに問いただす。

 

「…今日は、18層まで行くつもり」

 

「大丈夫大丈夫!私達が付いてるし!」

 

アイズの言葉を擁護するように、貧乳のティオナも笑いながら腕を頭に回した。

 

本当に大丈夫なのか…?

 

「はぁ、まぁいいけど。少なくとも俺はお前らの後ろに隠れてるだけだし」

 

「…カズマ」

 

「おい、アイズ。そんな目で見んなよ」

 

ギャルゲーにのめり込んだ俺を見たときの母ちゃんと同じ目だ。

なんだろう、この底知れない苛立ち。

 

「ぐぬぬ。なんでこんな人とパーティーを組まないといけないんですか!」

 

「まぁまぁレフィーヤ。リヴェリアの命令だし無視はできないって」

 

「…そ、そうですけど…」

 

なんだ、このチビっ子はリヴェリアに頭が上がらんのか。

姿格好からしても、おそらくリヴェリアに師事しているとかだろう。

何かあったらリヴェリアの名前を出そう。うん、そうしよう。

 

「ほら、そろそろダンジョンに行くぞー?」

 

「む!なんで貴方が指揮を取ってんですか!!リーダーはアイズさんですよ!!」

 

 

 

✳︎✳︎✳︎✳︎

 

 

 

天へと貫くバベルの塔は、ダンジョンの穴を塞ぐ蓋の役割を果たしているらしく、塔の中には簡易的な公共施設なんかもあるのだとか。

 

とりあえずシャワーを浴びて飯でも食わね?なんて冗談を言おうにも、チビっ子には通じそうにないからやめておこう。

 

「はぁ。それじゃぁとっとこ行きますか」

 

「……え?あの、貴方…っ、その格好で潜るんですか?」

 

「そうだよ?だってこれしか無いもん」

 

ジャージにリュックを背負った俺は胸を張る。

 

「遠足かっ!!ダンジョンを舐めないでください!!」

 

「し、仕方ないだろ!無いもんは無いんだから!!」

 

「それにしたってもう少し考えて…」

 

「なら買ってくれよ!!俺に最低限身を守る程度の防具を買ってくれよ!!」

 

言っておくがな、俺だって好き好んでこんな格好をしてるんじゃないぞ!?

ミノタウロスに追い回されて転んだ拍子に、膝小僧に穴が空いたんだ!

しかも、リヴェリアが何をトチ狂ったかリンゴのワッペンで補修しやがった!!

とんだ恥晒しだ!!

 

「うぐっ、わ、私は持ち合わせがあまり無いので…。っていうか!防具なんて自分で買い揃えるのが普通です!」

 

そう言うと、チビっ子はぷいっとそっぽを向いてしまった。

そんな俺たちを宥めるように、ティオナはまぁまぁと苦笑いで俺たちの間を取り持つ。

 

「…カズマ、レフィーヤ、もう行くから集中して」

 

「は、はい!すみませんアイズさん!」

 

「ん。そいじゃ、足手まといになると思うがよろしく頼むな」

 

 

……

.

 

 

ダンジョンに入ってからは圧巻の光景だった。

いつものおっとりとしたアイズとは思えない俊敏で軽快な剣さばきは、正にモンスターを虐殺するに値する強さ。

ティオナに至っては笑いながら返り血を浴びてるし。

レフィーヤはまぁ、魔法を撃つタイミングが無いためか、俺の護衛に回ってる。

 

「……すげえ」

 

「ふふん。あのお二人はロキ・ファミリアの幹部ですからね」

 

チビっ子が自慢気になるのも頷ける。

準幹部だと言うコイツも、それなりの強さなのだろう。

 

そうやって、ただただモンスターから溢れる血を眺めつつダンジョンを歩く事数時間。

気付けば17層に到着し、もはやモンスターの残骸にも見慣れてきた頃だった。

 

「…どう?ダンジョンには、慣れた?」

 

アイズは首を傾げながら、洞窟でも見劣りのしない金糸の髪をなびかせ、そう聞いてきた。

 

防具も武器も持たずに俺を付いて来させたのには、こいつなりの考えがあったのだろう。

 

「まぁ、慣れたくはないがな。ダンジョン内の特性やら道順やらは粗方覚えたよ」

 

「…そう」

 

それだけ言うと、アイズの顔は心なしか綻んだような気がする。

 

「18層ってのはもう直ぐなんだろ?早く行こうぜ」

 

聞けば、18層はダンジョンには珍しいセーフティーゾーンらしい。

それならば早くそこで腰を降ろしたい。

 

「カズマ、ここからは少しだけ慎重にね」

 

と、ティオナが先を行こうとする俺を手で制す。

 

「この先の大きな空間、そこには運が悪ければ階層主がいるから」

 

「か、か、階層主!?」

 

「ぷーくすくす。そんなに慌てなくても大丈夫だよ。階層主は一定のスパンでしか生まれないから。でも、念には念をね」

 

ティオナは笑いながらも慎重な足取りで俺の先を歩く。

一定のスパンで生まれると言う階層主を最後に倒したのは、何を隠そうロキ・ファミリアで、それも1週間前程度らしい。

だから、前を歩くアイズもティオナも、俺の後ろを歩くレフィーヤも、必要以上には警戒をしていなかった。

 

 

その余裕とも取れない、小さな隙を縫うように

 

狡猾で悪魔的なダンジョンは

 

俺の悪運に笑って手を振るのだ。

 

 

それは大空間の先に見える、18層へと続く階段に、アイズ、ティオナ、そして俺が続こうとした時だった。

 

ぐわんぐわんと下から円を描くように揺れる地震に、その場の誰もが動きを奪われる。

 

その揺れは確実に大きくなり、やがては大空間の壁を崩すほどに。

 

 

そして。

 

 

「…っ!?か、カズマ!レフィーヤ!!」

 

がんっ!ごんっ!と、砂埃を上げながら落ちてきた岩が、俺の数センチ前を塞ぐ。

 

遮断された…っ!

 

「アイズ!ティオナ!…っ、こ、この揺れって…」

 

「くっ!う、上に戻りますよ!その岩では18層には行けません!それに…っ!」

 

行く手を塞がれ、隊を分断された一方で、地面から伝わる揺れに、慌てたレフィーヤも足を取られる。

そのレフィーヤの上を見るや、運悪く、揺れによって崩れた天井の岩が大量に落ちてきていた。

 

あれ?やばくね?

 

「っ!お、おい!ちびっ子!!」

 

気が付けば、俺はそこから走り出していた。

なだれ落ちる岩の数々がレフィーヤの元へと走り寄る俺の身体を掠める。

それでも、なんとか走り抜け、俺は飛び込まんばかりにレフィーヤに覆いかぶさると。

 

 

がんっっ!がっ!ごんっ!!!

 

 

「……っ」

 

「っ、あ、あの…」

 

舞い上がる砂埃を吸い込まぬように、俺は胸元の襟を口に運ぶ。

 

当たらなかった。

 

()()の岩が、俺たちに当たることなくその場に転がっているのだ。

 

「はぁ…、どうやら俺の悪運(ラック・オンリー)も使い方次第で役に立つみたいだ」

 

「っ…」

 

互いに無傷でその場にいる事が、レフィーヤには信じられないのだろう。

ただ、これが俺のスキルなのだ…、と、格好付けようにも、確信があったわけではなかったから正直めっちゃビビってます…。

 

だが、問題はここからなんだろうな…。

 

「今の揺れ、ただの地震じゃないんだろ?」

 

「…っ、はい。生まれる予兆です。…つまり、今この場に…」

 

 

メキメキメキと岩の壁を崩しながら、そいつはゆっくりと姿を現した。

 

灰褐色の硬皮を持ち、7mは越えようかと言う悍ましい巨人。

 

こ、こいつが…。

 

「生まれてしまったんです。17層の階層主…っ、ゴライアスが!」

 

 

その巨体が俺とレフィーヤを見つけるや、その長い手をこちらへと伸ばす。

 

「ぬぉぉぉ!!ば、化物だぁぁ!!」

 

「お、落ち着いてくださいっ!」

 

「お、おおう!そうか、チビっ子が居るもんな!殺れ!殺っちまえチビっ子!!」

 

「ちょ、ぐいぐい押さないでください!…っ、わ、私は魔道士です!詠唱を唱える時間が必要なんです!」

 

「おっけーおっけー分かった!はい!早く詠唱して!走りながらでも出来るだろ!?おまえは出来る子だ!」

 

「で、出来ませんよ!それが出来るのは上級の魔道士だけです!!」

 

逃げるは恥だが役に立つ。

ただ、このチビっ子は全然役に立たねえ!!

 

俺とレフィーヤは共に逃げ回るも、ゴライアスの一歩が小さな俺たちをあざ笑う。

 

「「ひぃやぁぁぁ!!」」

 

「ゴォアアアアアア!!!」

 

なんなんだよこのハードモードは!!

18層へと続く階段は岩で塞がってるし、17層を戻る出口もゴライアスが先回りしやがる!

 

「ちっ!こ、このまま逃げ回っててもジリ貧だ。おいチビっ子!おまえの魔法ならあのデカブツをぶっ殺せるのか!?」

 

「な、なんですかぁ!?」

 

「おまえの最大火力の魔法ならゴライアスを一撃で倒せるかって聞いてんだよ!!」

 

「は、はいっ!で、でも、さっきも言いましたが詠唱には時間が…」

 

「よ、よっしゃぁ!俺の命、お前に預けるからな!!」

 

「な、何をっ!!ちょ、無謀です!!」

 

俺は走る事を止めて、凄まじい形相のゴライアスへと向き直す。

 

「に、逃げとけチビっ子!」

 

「っ!」

 

「俺があのデカブツを引き付けとく!おまえはどっかで早口詠唱をしてくれぇ!!」

 

「くっ、わ、分かりました…っ!」

 

巨体が近づく。

だから、俺もゴライアスへと突進していく。

あれだけの大股なら踏まれる事もないだろう!って願いたい!!

 

俺の突進に驚いたのか、ゴライアスも慌てたように走る速度を落とす。

 

そして、なんとかその足元をすり抜けるや、狙い通りにゴライアスは俺へと標的を定めた。

 

ふと、遠くから聞こえる透き通る声ーーー

 

「誇り高き戦士よ、森の射手隊よ」

 

それが詠唱だと、聞かなくとも分かる。

ただ、それって長いのかな?あとどれくらいなのかな?

俺の体力と悪運は保ってくれるかなぁ?

 

「ゴォアアアアアア!!」

 

「ぬぉぉぉっ!!」

 

「押し寄せる略奪者を前に弓を取れ」

 

ゴライアスの腕がしゃがんだ俺の真上を横へ薙ぎ払った。

その風圧だけでも身体が吹き飛びそうだ。

 

「同胞の声に応え矢を番えよ」

 

どしんっ!と、俺を踏みつけようと上げた足が地面を揺らした。

俺はその足にしがみつき、よじよじとゴライアスの太い後ろ首へと登る。

叩いてやる!

つねってやる!

 

あぁ!や、やめて!首を振らないで!!

 

チビっ子ぉぉ!!

魔法早よぉぉぉぉ!!

 

「帯よ炎、森の灯火。打ち放て、妖精の火矢。雨の如く降りそそぎ」

 

「うわぁぁ!チビっ子ぉぉ!死んじゃう!俺死んじゃう!!」

 

「っ!…蛮族どもを焼き払え!!…は、離れてください!!」

 

強く、レフィーヤの持った杖が光り輝く。

赤い炎が渦巻く光景に、俺は慌ててゴライアスの肩から飛び降りた。

 

その炎は、極上のうねりを持って。

 

レフィーヤの掛け声と共にゴライアスへと襲いかかる。

 

 

「ヒュゼレイド・ファラーリカ!!!」

 

「ウゴォォォォォゴォォォォォ!!!」

 

 

詠唱を完成させる時間は見事に丁度3分。

良くやった!良くやったぞチビっ子!

 

ゴライアスを焼き払う炎を横目に、俺はレフィーヤの元へと駆け寄る。

 

今ならその小憎たらしい姿すらも可愛いと思えるぜ!!

 

 

「良くやった()()()()()!!」

 

「は、はいっ!あの、()()()()()も…」

 

 

勝利を確信した。

 

焼き払われたゴライアスは既に下半身を無くし、腕だけで身体を支えている状態だった。

 

だからレフィーヤも、もちろん俺も、ゴライアスから目を離してしまったんだ。

 

 

 

「……っ、ぐうおおおおおおおお!!!!」

 

 

 

それは死に際に見せる最期の号砲か。

 

少なくとも、その号砲により、俺たちが身体を硬直させてしまったのは確かだ。

 

それは瞬く間に、全てを薙ぎ払うゴライアスの大きい腕がこちらへと

 

「っ!れ、レフィーヤ!」

 

「っ!?」

 

襲いかかる前に、硬直から数秒早く解けた俺はレフィーヤを押し倒す。

 

あ、あ、あ、……危ねぇぇぇ!!

 

いま髪をサラッて!

何本か掠めていったよね!?

 

「こ、この野郎ぉぉぉ!!良い加減くたばりやがれお願いしまぁぁす!!」

 

リュックサックから、念の為に持ち込んだ例のブツを取り出し、俺はそれを力強く握りしめた。

 

それはニトログリセリンに似た有機化合物を染み込ませたおがくずを羊皮紙で包んだだけの簡易的な物。

 

ぽいっと。

 

俺は死にかけの火だるまゴライアスへと投げつける。

 

「レフィーヤ!耳ふさげ!!」

 

「っ!」

 

それが、ゴライアスにこつんと当たり。

 

その瞬間ーーーー

 

 

ゴワーーーーーーン!!!

 

 

と、先ほどの地響きすら可愛く思える轟音が、この大空間に、いや、17層中に、もしかするとダンジョン中に鳴り響いた。

 

「「!?」」

 

……いや、後ほんの少しでも威力が強かったら巻き込まれてたじゃん…。

コボルトくらいなら倒せるかなって思って作ったんだけど…。

だ、ダイナマイトは用途と場所を考えて作らなくちゃね。

 

「な、な、な、何ですか…、今の…っ!か、カズマさん!魔法が使えるんですか!?」

 

そう言って俺の胸元を掴まんばかりに顔を寄せるレフィーヤを落ち着かせ、俺は今度こそゴライアスが跡形も無く消えた事を確認する。

 

お、終わった…。

 

「…はぁぁぁ〜」

 

長いため息が腹の底から溢れ出る。

いやしかし、これも今日ばかりは仕方ないだろう。

 

どろどろになったジャージと、所々に付いた傷跡が、ほんの少しだけ冒険者っぽいなぁ、なんて思ってみたり。

 

ふと、俺の簡易ダイナマイトに驚いていたレフィーヤもようやく落ち着きを取り戻したのか、その小さな身体を少しだけ緊張させながら、突然、俺に向かって頭を下げた。

 

「…ごめんなさい」

 

「ぅえ?な、なんだよ突然…」

 

「私はレベル3で、ロキ・ファミリアの準幹部です。本来ならカズマさんを守らなくてはいけない立場なのに…」

 

「あぁ、良く守ってくれたよ。だから頭を下げるのはやめてくれ」

 

「守ってくれたのはカズマさんです!!岩が落ちてきた時も、詠唱してる時も、油断して身体を硬直させてしまったときも…っ、わ、私は…、冒険者失格です…」

 

尚も頭を下げ続けるレフィーヤは、とうとう肩を震わせて涙を流してしまう。

 

「……」

 

こういう時に、カッコ良い言葉が思いつかないのは俺の短所だな。

えっと、エロゲーやギャルゲーではこういうときってどうするんだっけ…。

 

と、俺は何の考えも無しに、小さく震えるレフィーヤの頭を撫でてみる。

 

「男が女の子を守るのは当然らしいぞ。リヴェリアもそう言ってた」

 

「…っ、あ、あの…。っ!信じてくれて、ありがとうございます。助けてくれて、ありがとうございます。…ぁぅ、ふ、ふふ、…なんか、恥ずかしいですね……」

 

笑うと結構可愛い魔女っ子レフィーヤ。

なんだよ、あんまりドギマギさせんなよ。

これはアレだ。

吊り橋効果って奴。

俺の動悸が激しいのも絶対その効果だ。

 

なんとなく、照れながらもレフィーヤの頭を撫で続けていると、先ほどのダイナマイトで道を塞いでいた岩がズレたのか、アイズとティオナが遮断されていた18層へと続く階段から、慌てた様子でこちらへと走り寄ってきた。

 

「レフィーヤ!カズマ!だ、大丈夫なの!?」

 

「ティオナさん…。はい、なんとか大丈夫です」

 

「良かったぁぁ〜っ!」

 

安心したのか、ティオナは涙目で俺とレフィーヤの肩を同時に抱く。

あ、良いにおい。

こんなぺったんこでもやっぱり女なんだな。

 

「…ゴライアス、2人で倒したの?」

 

と、訝しげな視線で何か聞きたそうに訴えかけるアイズ。

 

でもまぁ、今はあんまり追求しないでくれると助かるよ。

さすがにあれだけの恐怖と緊張に晒されれば、体力だって底が見えてくるっての…。

 

そうやって、気を抜いた瞬間に足がガクっと折れるように支えを失った。

目も、開けていることが億劫になる。

あぁ、思っていた以上に疲れてたんだな、俺。

 

そして、俺の意識は暗転するように落ちていった。

 

 

  .

    .

     .

    .

    .

  .

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   .

     .

      ☆

 

 

 

「で、俺は結局また死んだのか?」

 

意識が戻るや、そこはつい数日前に女神と会合した暗い空間。

やはりそこには女神も居て、偉そうにふんぞり返ってるわけで。

 

「死んでないわよ。ちょっと気を失ってるだけみたい」

 

「は?なら俺はなんでココに…、って、そうだクソ女神!!」

 

「ひぃ!」

 

「あの金貨はなんだよ!エリス金貨だかなんだか知らんが、オラリオじゃコボルトの魔石分にすらならねぇヘボ金貨だって言われたぞ!」

 

「し、仕方がない事なの!あれは…、そ、そう、エリスって女神がポカして」

 

額に汗を溜めるアクアを睨みつけながら、俺は尚もまくし立てる。

 

「誠意を見せて!俺を窮地に追い込んだ謝礼を寄越せ!!」

 

「うっ、で、でも、もうカズマさんには1度願いを叶えてあげちゃったから…」

 

「叶えられてねえだろぉぉ!!」

 

「わ、わかったわよ!怒鳴らないで!!…で、でも、もうカズマはオラリオの人達に存在が知られちゃってるでしょ?」

 

「まぁ…、それが何だよ?」

 

「今は気を失ってるだけだから、目を覚ましたら直ぐにあっちの世界に戻るわ。その時、急にカズマがお金持ちになってたら辻褄が合わなくなっちゃう…」

 

「た、確かに…」

 

ぐぬぬぬ、と。

2人揃って頭を悩ませる。

銀行なんかがあれば適当に定額ずつ振り込んでもらえるのに、あっちの世界でそんな気の利いたシステムは無いし。

 

「ねえねえ、カズマさん」

 

「あ?」

 

「お金は無理だけど、()なら渡せると思うの」

 

「つまりはスキルなり魔法なりって事か…」

 

オラリオでは金を稼ぐためには一定以上の力が必要になってくる。

ダンジョンなどという危ない橋を渡るには、ステイタスの高さやスキルの有能さに頼る所が大きいと言うのも確かだ。

 

「ふふん。実は私、もうカズマさんに打って付けなスキルを考えておいたの!」

 

「おおう!なんだよアクア、偶には役に立つじゃないか!それで?どんなスキルなんだよ?」

 

「えへへ、カズマさんの前世はナメクジでしょ?だから、敵にくっ付いて、不快な思いをさせるようなスキル…」

 

「ちょっと待て。俺の前世ってナメクジなの?まずはそこから詳しく教えて?」

 

と、アクアの話を遮った時。

途端に俺の身体を強い光が包み込んだ。

 

コレには覚えがある。

 

あの時、俺がオラリオに転生させられた時の光だ。

 

 

「ちょ!このタイミング!?」

 

「あぁー!?か、カズマ!それじゃあ例のスキルは渡しておくわよ!?」

 

「え!な、ナメクジから連想されたスキルを!?」

 

「スキルの名前はーーーーー」

 

 

………

……

.

.

 

 

アクアの声が寸前で途切れる。

 

そして、意識を取り戻すと同時に重たい瞼を開けると、そこには陽の光に照らされた部屋の天井が。

 

…そうか、気を失ってたんだっけ。

 

「…んぅ。か、身体が固まってる。誰かバンテリン…」

 

「ん。目覚めたようだね」

 

「…フィン」

 

おい。

普通ならそこに居るのは可愛い系ヒロインだろ。

可愛い系勇者様はお呼びじゃねえぞ。

 

「…そ、その目はなんだい?」

 

「いや。フィンか…って思ってな」

 

「ちょ、僕は団長だよ?もっと敬ってくれてもいいと思うんだけど」

 

「はいはい。それで?俺はどれくらい気を失ってたんだ?2日?3日?」

 

「いや、3時間くらいかな」

 

「それだけかよ!!」

 

「初めての長い冒険で疲れてしまったんだろうね」

 

「子供じゃねえか。…はぁ、それよか、ステイタスの更新がしたい。ロキに頼んでおいてくれないか?」

 

と、俺の言葉を聞き、フィンはその大きくて丸っとした目を細めながら、うんうんと頷いた。

 

「わかった。あぁ、レフィーヤから聞いたよ。2人でゴライアスを倒したんだってね?」

 

「おう。あの勇姿を見せてやりたかったぜ。レフィーヤを庇いつつ戦う俺の勇姿を」

 

「…ヒューマンは謙虚さを美徳とするって聞くけど、どうやらカズマには当てはまらないようだ」

 

本当の事を言ったまでである。

レフィーヤのやつ、あれだけ守ってやったんだからお見舞いくらい来い。

それで胸の一つでも揉ませろ。

 

ふと、呆れた様子のフィンは、どこか愚痴を零すように小さな声で喋り出す。

 

「でも、本当に生きていてくれて良かった」

 

「悪運に感謝だな」

 

「どちらかと言うと、ゴライアスを呼び寄せた原因にも思えるけどね」

 

「む!?」

 

「おっと。あんまり病み上がりの者に話すような事でも無かったね。それじゃあカズマ、僕はそろそろ行くよ」

 

「あいよ」

 

フィンは腰掛けていた丸椅子からピョイっと飛び降り、室内を軽く見渡しながら出ていこうとする。

一瞬、俺の愛読本を隠した本棚の隠しギミックに目を向けた時は焦ったが、特に何を言うわけでもなく部屋の扉を閉めた。

 

それとすれ違うように、遠慮気味に扉を開ける訪問者が1人。

 

エルフの少女はチラリと顔だけを出し、部屋の中の様子をキョロキョロと確認する。

 

「レフィーヤ!!おまえコラ!!」

 

「っ!?」

 

俺の声に、レフィーヤはびくんと身体を跳ねさせた。

観念したように、とてとてと部屋に入るや、先程までフィンが座っていた椅子にチョコンと座る。

 

「なんでおまえじゃなくてフィンなんだよ!!普通は俺に助けられた恩義でおまえがベッド横の椅子に座ってるはずだろうが!油断すんな!!」

 

「は、はい!!ご、ごめんなさい…、あの、でも本当に、さっきまでは看病してたんですよ?」

 

「まったく…。これだからロリっ娘は…」

 

「な、なんでそんなに怒られなきゃいけないんですか!?そもそも大した怪我もしてないじゃないですか!!」

 

ぱたぱたと小さな手で優しく俺の肩を叩く。

 

「…ぅぅ、一応、ほんのちょっぴり心配してたんですから」

 

なんて、顔を赤くして言うから、なんとなく俺も目をそらしつつ

 

「お、おう。レフィーヤは…、怪我とか無いのか?」

 

「はい。おかげさまで…。はい…」

 

「そっか……」

 

「はい……」

 

……甘酸っぱい。

なにこの空気。

 

ふと、なぜだかお互いに目を合わせられない状況だが、俺は歳上として口を開く。

 

「あ、あー、じゃ、ジャージ!ジャージがまたボロボロになっちゃったな…」

 

「…そう、ですね。もう、カズマさんも冒険者なんですから、やっぱり装備は必要ですね」

 

「装備な、装備。そうだ、明日買いに行こうかな。レフィーヤ、付き合ってくれよ」

 

「え、い、良いですけど…。でも、カズマさんお金…」

 

「ふふ…。金ならある」

 

俺はニヤリと笑いながら、ダイナマイトを入れていたリュックを開ける。

 

「…っ!!ま、魔石がこんなに!いつのまに拾ってたんですか!?」

 

「歩きながらチョチョイとな。あの戦闘狂共は魔石に見向きもしなかったし」

 

「うわぁ、せこいですね」

 

「何とでも言え!これを換金すれば初心者用の装備くらい買えるだろ?」

 

「……初心者用なら買えます。でも…」

 

ちょんと、レフィーヤはそっと俺の手に触れたと思うと、何か決心したかのように、両手で俺の手を握り直した。

 

お、女の子に手を握られるの初めてだ…。

は、初体験だっ!

 

「でも、カズマさんはきっと直ぐに強くなります。間違いなく、初心者用の装備なんかじゃ身の丈に合わなくなるでしょう」

 

「お、おう…、そうか?」

 

「そうです!だから、中層でも通用する装備を買うべきです!」

 

「中層かぁ…、でも、それだとやっぱり値が張るだろ?さすがにこの魔石分じゃ…」

 

「これもあります!」

 

トン、と、レフィーヤがポケットから灰褐色の大きな魔石を取り出した。

 

「ゴライアスの魔石です」

 

「こ、これは…、2人の共同作業で得た宝じゃないか…」

 

「そ、その言い方はやめてください」

 

俺はその灰褐色の魔石を手に持ち、なんとなく透明に輝くソレを覗く。

淡く渦巻く光を持った魔石は、覗いた俺を反射させ、逆さまになって鏡と化した。

 

「でも、本当に貰っちゃって良いのか?」

 

「はい。私1人じゃ間違いなく死んでましたし。…それに、カズマさんにはこれからも……、守っ……っ、が、頑張ってもらわなくちゃですし!!」

 

レフィーヤはちっちゃい身体で精一杯に胸を張る。

握られた手から伝わる体温が少し上がったような。

 

「ん。わかった。それなら頂くよ。ありがとな、レフィーヤ」

 

「はい!」

 

レフィーヤの嬉しそうな微笑みが、甘い風と共に俺の心を擽った。

小憎たらしいとさえ思ったその顔は、どこか可愛らしく、大人っぽく。

失われたものとばかり思っていた俺の青春を蘇らせる。

冒険と青春。

その二つを掛け合わせた時に、一つの答えが俺の頭に浮かんだ。

 

 

「ロリっ娘もエルフなら合法…か…」

 

 

 






エピローグ編

ーー完ーー

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